呪われた騎士と関西人

ゆ吉

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2章

60.「武器」

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 フォルクは俺の選んだ首輪やったら付けてもええの?とは、流石に聞き返せる訳もなく、ヴィーダーさんの全く押し殺し切れてない笑い声をBGMに一先ずフォルクを落ち着かせる為、問題の物へともう一度視線を向けた。
 服の付属品にしてはやたらと存在を主張してる細身ながらも黒の頑丈そうな立派な皮で出来た首輪が三つ。
 上の二本は何とかベルトって感じでまあまあまあアクセサリーかなと流せなくもないんやが、何故か一番下の首輪の留め具が銀のリングで、そこに短い鎖がだらりと繋がれてての胸元に垂れた先端にまたリングが一つ。
 ……うん、リード付けたら完璧ですね!って、アホかー!作為的にも程があるし、なんかこっちも犯人の顔がチラつくけども魔道具なんやったら下手に一部を破壊してええんかが分からん。
 最後の真面目な見解の所だけを伝えつつ、流石に可哀想過ぎるんで神様に相談でも何でもして解決するから少し我慢して欲しい旨を小声で何度も伝えた。

「……アア、分カッタ……。」

 物凄い悲壮感を漂わせ、屈辱的な表情と消え入りそうな声で了承されたんで犯人に罰当たれー!!!!と、全力で届けこの思いをして、慰めになればと屈んで貰いよしよしと頭を何度も撫でといた。

 一応の落ち着きらしきを取り戻したフォルクと毒気を抜かれたヴィーダーさん…なんかまだ可笑しそうやけどを見つつ、一先ず『青の国』へ向かう話へと軌道修正する。

「次の国へ向かいたいんですが、ヴィーダーさん…まさかの徒歩ですか?」

「いや、馬は連れて来てる。少し待ってろ。」

 見るからに軽装やったんで一応聞いて見たら何故か空の彼方を見つめて暫く黙り込んだんで俺とフォルクもそれに習う。
 綺麗な青空にピクニックとかしたら気持ちええやろな~って、暢気に構えてたら遠くの方から見覚えのある姿が猛然と駆けてくる。
 馬用の銀鎧に身を包み、靡く鬣は日の光を受けてキラキラと白銀に輝く八足の白馬。
 物語にも出てきそうな八脚馬スレイプニルは上空まで来ると鮮やか且つ、力強くヴィーダーさんの前に降り立った。

「話ハ終ワッタカ?」

「喋った!?」

「ああ、待たせたな。従魔にしたんで会話が出来るようになった、名はシュトルツ…ルツって呼んでる。」

 従魔にすると喋れるんかってか、てっきり喋れる魔獣を従魔にしてるんかなって思ってたんで初めて知った情報に冷汗掻きつつ、表面上はなんや~て感じで相槌打って誤魔化す。
 すると、何かを感じ…取った訳では無い様子のルツが俺に向かって頭を軽く下げた。

「ダイチ殿、アノ時ハ助カッタ。」

「…あの時?」

土竜もぐら退治の時に一緒に吹き飛ばされたのがルツだ。怪我を治してやっただろ?」

「ああ!それもそうか、その流れで従魔契約したんですね?気にせんでええよ、ルツ。無事で良かった。」

 確かに今更別の八脚馬スレイプニルと契約ってよりかは一緒に戦ってた八脚馬スレイプニルとの方がイメージ的にもし易そう。
 それに、エーベルさんとシュティにしても歪ではあったけど信頼関係みたいなんが見えたし、ヴィーダーさんとルツにも戦いの中で芽生えるもんがあったんやろうな。
 納得した所でヴィーダーさんがルツの左右に下げてる大きめの革製アイテム袋を一つ開けてフォルクに俺がベルトに下げてるような個人サイズの袋を渡してくれる。
 中身は非常食の干し肉と水筒、短剣と最低限の物が入ってるんやけど食事出来るようになったか確認してないのと主武器が無い事に気が付いた。
 知恵が回るウィプキングさんなら抜かりなくその辺も準備してそうなんで不思議に思いながらも武器ならプレゼント出来るなと嬉しくなる。

「フォルク、武器はどんなんがええ?やっぱり剣とか?」

「ソウダナ、使イ慣レテイルノハ長剣ダ。炎ヲ纏ワセテ使ッタリモシテイタノデ、耐久ガ高イモノカ、若シクハ何本カ予備ガアルト有難イ。」

 意見を聞きながらどんな剣を出すか少し悩む。
 魔力を使った炎を纏わせるなら普通の剣より魔法剣の方が耐久は高いんやないやろうか?
 使って貰わな分からん所もあるけど、火の魔法剣は確定で、トレラントさんの例から属性の相性が良さそうな風の魔法剣を予備に出す事にした。
 レーヴェさんの大剣とかも頑丈そうで良いかなって思うんやけど…背負うには翼も有るし装備するのが大変か…。
 一応の結論が出ると【武器召喚】で長剣型の魔法剣を二本喚び出す。
 一本目は金の柄で鍔の中心部分に赤い魔石が嵌ってる火の魔法剣、二本目が銀の柄で鍔の部分に透明の魔石が嵌ってる風の魔法剣が出てきたんで黒い鞘の部分を持ってフォルクに差し出す。

「火の魔法剣と風の魔法剣にしてみたんやけどどうかな?」

 微妙やったら召喚し直すつもりで反応を伺ったら暫く剣を眺めて一つ頷き、鞘から剣を抜き出すと剣身がそれぞれ魔石と同じ色をしてて驚く。
 トレラントさんの時はそもそも長剣では無かったんやけど剣身は普通の剣と変わらんかったし、外装が結構変わるもんなんかと思ってたらフォルクが少し距離を取った。

「【火炎剣】」

 言葉を口にした瞬間、両手に持った魔法剣全体に絡みつくように赤々とした炎が発生して包み込まれる。
 左右の威力が同じなんで魔法剣自体の力は発動してないやろうし、今までの戦いを知ってるから力は加減されてるんやろうが熱気と剣の周辺に圧縮された濃密な魔力の気配に思わず息を呑む。
 正直、あれで斬られたら頑丈が取り柄の俺の体でもすぱっていけそうやし、おまけでじゅわじゅわとお肉が美味しく焼け……うん、止めようか。
 自分がした想像に一瞬ヒヤッとしつつも、確かステータス確認した時に使えんくなってた相棒の力が戻った事を喜びたいと思う。
【火炎剣】の固有スキルを解除したフォルクは剣が無事か様子を確認してから戻って来た。

「大丈夫ソウダ、ダイチ。有難ウ。」

「良かった!それからスキルが使えるようになったんやな、おめでとう!」

 もしかしたら他にも使えるようになったスキルが有るかもしれんから確認せななと思いつつも先にお祝いしたら嬉しそうにフォルクが目を細める。
 やっぱり可愛ええ…じゃなくて、表情が分かり易いんで魅力にくらくらさせられるんやけど!
 然りげ無く視線と頭を逸らすと腕組んで仁王立ちしながらこっちを憮然と見てるヴィーダーさんの姿が見えて焦る。
 そう言えば何も考えずに【武器召喚】使ったからまた何か、おツッコミが!?

「…狡い。」

「え?」

「オレも欲しい。」

 言葉の意味を正しく理解するために暫く時間を要したと言って置こう。
 いや、普通にヴィーダーさんも武器が欲しいって意味やろうが、謎の衝撃を受けてもうて…。

「いっぱい持ってますよね…?」

 忘れもしないジャケットの裏にびっしり武器装備してる光景と全身仕込めるだけ凶器隠し持ってますよねと訴えかけてみたんやが全然通じんかった。
 寧ろ決意は固いとばかりにじーーーーーーーーーっと見つめられてと言うか射殺さんばかりに睨まれて困る。
 世話になってるし武器渡すのはええかなとも思わんでもないんやけど、ないんやけど…。

「ヴィーダー、余リダイチヲ困ラセルナ。」

 悩んでたらフォルクが助け舟を出してくれたんで諦めてくれるかなと思ったら、ふっと可笑しそうに口端を緩めただけで視線は逸らしてくれんかった。
 これは押し問答しても時間だけが過ぎるパティーンかと軽く天を仰いだら状況を楽しんでる神様に指さされて笑われてるような幻覚が見えた気がして決意が固まる。

「分かりました…どんな武器がええです…?」

「ミセリコルデ。」

「オイ、待テ。」

 間髪入れずに呪文みたいな武器名言ったヴィーダーさんの後に直ぐフォルクがツッコミを入れた。
 え?もしかして、なんか危ない武器なん?

「ドウイウツモリダ?」

「別に良いだろ。オレは主武器は必要じゃねぇし、殺傷力が高い方が好みだ。それとも、何か気に障ったか?」

「他意シカナイカラダロウガ!何故今、敢エテソノ武器ニスル必要ガアル!?」

 うん、良く分からんけど武器に何か問題があってフォルクが激おこやけどヴィーダーさん完全に遊んでない?
 表情は普通やねんけど楽しそうな雰囲気がぷんぷんやしってか我が家の相棒を弄ばないで!

「ヴィーダーさん、あんまフォルク虐めたら武器自体出しませんからね。」

「悪かった。冗談抜きでミセリコルデが良い。ナイフが使い慣れてるんだが、長さがもう少し欲しいのと…感覚的にダガーとかサーベルは何か違う。んで、消去法でって事だ…少しからかったが…。」

「そうらしいけど…どう?フォルク。」

「ハァ…余リ賛成ハ出来ナイガ、何トナク意図ハ分カルシ俺ガ注意スレバ良イ話ダ。」

 不本意そうではあるけどフォルクの了承と直ぐに反省してくれた事と一応理由も有るっぽいんで…召喚してみて明らかにやばい武器じゃなければ良いかと特徴を一応聞いて【武器召喚】してみた。

「案外、普通ですね。寧ろ綺麗なぐらいやし…。」

 実は禍々しい魔剣やったらどうしようかと思ったんやが、現れたんは全長三十センチ程の十字架型の剣やった。
 デザイン的には洗練されたシンプルさがあって、銅と銀の混じった色合いは味と深みさえ感じさせる。

 ヴィーダーさんに鞘ごと手渡すと引き抜いて外装と同色の刃を眺めてから手近な木へ近づいて行ったんで何となく視線で追いかけたら次の瞬間、物凄い破壊力を感じさせる短音と共に武器が幹を貫通した…。
 衝撃派みたいな風をブワッと浴び、ザワザワザワーと舞い落ちる葉っぱを見つめ、瞬いて、瞬いて、瞬いてたら満足そうにヴィーダーさんが剣を木から引き抜いてこっちに戻って来る。

「良い感じだ、ありがとう。」

「どう…いたしまして…。」

「………………ハァ。」

 武器は結局、使い手によって性質を変えるんやないかなってか、あれで刺されんのもめっちゃ嫌やなって冷たい汗がたらりと背中を流れて行った。

 一通りの準備を済ませ、深呼吸を必要以上にしてから何故か揺さぶられまくった精神を落ち着かせてから出発となったんやが此処でまた問題が発生する。
 今までフォルクの背中にお世話になってたんやけど、四足歩行では無くなったんで当然お持ち運びの方法は変わる!
 エーベルさんで多少の耐性は付いてるものの、フォルクに抱えられての空の旅…全く大丈夫な気がせん。

「「ダイチ。」」

 悩んでたら二人から同時に声が掛かって三人同時に静止する。
 何となく互いに意図が分かったんか視線が行き交って、最終的に俺の方に二人分が止まって沈黙が流れた。
 気のせいかもしらんが、選択肢が見える気がして…待って、これ俺が選ぶ状況……?

「……ごめん、二人共。前々から考えててんけど俺も飛べた方が今後の戦いに有利やと思うねん。フォルクにお願いしたら両手塞がるし、ヴィーダーさんとは一緒に吹っ飛ばされた事もあるし、分散出来たらまた新しい戦術が生まれて何かあった時に安心やと思うねん。だから、ちょっと今から練習するんで待ってて貰えるかな?」

 悩んだ末、人生最大に真面目な顔をして一気に言い切り返事も待たずに踵を返させて貰う。
 卑怯やとも思ったがヒヨったんや…ぴよぴよと…ひよこ撫でたいな…。
 思考をぶっ飛ばしながらも強ちここで飛行の練習して行くのも悪く無いなと思える。
 ボス倒して安全やし、二人がいる前なら失敗して落下しても受け止めてはくれそうやしと開き直って【風魔法】で浮き上がるイメージから始め、途中からフォルクは飛んで来てくれて、ヴィーダーさんは八脚馬スレイプニルに乗って手伝ってくれて【飛行フライ】が使えるようになった。

 自分にしては本気と書いて『必死』と読む謎の勢いで練習して何とか昼過ぎぐらいには『青の国』へ向かって出発する事が出来て胸を撫で下ろす。
 でも、一人で飛び始めて冷静になったら高い所が地味に苦手やったなと思い出して、今まで誰かと一緒やったから大丈夫やったんかと胸が暖かくなって来る。
 和みながらも下は出来るだけ見ないよう前だけをしっかり見つめて安全重視で空を進んで行き、日が沈む少し前に一旦野営する事になった。
 野営の準備を一通り済ませ、焚き火を三人と一頭で囲んだ所で疑問が自然と口から出る。

「明日には『青の国』…そう言えば正式名称ってなんて言うん?」

「『シュターペルラオフ海王国』ト言ウ。竜人ガ古来ヨリ国ヲ治メテイテ、人族モ存在スルガ、リザードマン、人魚ト水ニ関連スル民ガ多ク住ム国ダ。」

「なるほどな、教えてくれてありがとう。」

 フォルク先生が簡潔に補足も加えて説明してくれたんでめっちゃ助かる。

「後、竜王様がどんな方かって分かる?なんか余り状態が良くないって聞いてて、出来れば治療に行きたいんやけど…。」

「竜王か…確かに噂が流れていたな。在位が百九十年ぐらいだったか…成竜だろうが、王竜は二千年から三千年は余裕で生きるからかなり若い。只、側近の者にしか姿を見せないらしいから紋印を使って直接王宮に殴り込んだ方が早いな。」

「…色々ツッコミ所があるんですが…分かりました、ありがとうございます。」

 ついでに聞いとこうと質問投げたらヴィーダーさんが丁寧かつ乱暴に教えてくれ、情報を踏まえると魔獣を倒しつつ今回も王都に向かった方がええかなと考えられた。
 勿論、出来る限り治療もしながらやけど規模がでかいんで出来るだけ多くの支援を取り付けた方が話が早い。
 上手く行くかはまだ分からんが竜王様を助けられたら少なくとも側近の人らは協力的になってくれるんやないやろうか?

 大まかな算段をつけられた事で明日からの希望が持てて、その日は交代で気分良く眠りに落ち…そして夢の中、遠くで悲しげに鳴く声が聞こえた気がした。
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