呪われた騎士と関西人

ゆ吉

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2章

59.「解呪」

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 若干一名を除き、城の中庭で皆に暖かく見送られて『青の国』へ出発したんやけど、俺は空を飛ぶフォルクの背中で項垂れてた。
 いや、だってまさか別れの挨拶も出来ず終いで姿をくらまされるとは思ってもなくて流石にショックやったってか、【索敵】でも見つからんて一体どんだけ本気出して消えとんねん!
 反応が無さ過ぎてほんまにあの人は存在してたんか不安になってくるレベルやねんけど、状況が状況なだけにずっと探す訳にもいかん…と、滅茶苦茶モヤモヤしつつの出発になって溜息が出まくった。
 若干一名を除き、城の中庭で皆に暖かく見送られて『青の国』へ出発したんやけど、俺は空を飛ぶフォルクの背中で項垂れてた。
 いや、だってまさか別れの挨拶も出来ず終いで姿をくらまされるとは思ってもなくて流石にショックやったってか、【索敵】でも見つからんて一体どんだけ本気出して消えとんねん!
 反応が無さ過ぎてほんまにあの人は存在してたんか不安になってくるレベルやねんけど、状況が状況なだけにずっと探す訳にもいかん…と、滅茶苦茶モヤモヤしつつの出発になって溜息が出まくった。

「ダイチ…」

「あ、ごめん!フォルク!ぼーとしてる場合やないのにな!国境超える前に良い場所探して【解呪】しよか!」

 弱々しいフォルクの声聞いて漸く少しは正気に戻れたんで、慌てて周囲を見回すと相変わらず綺麗な景色が広がってて幾分心が慰められる。
 別れはきっちり出来んかったけども、この国に結果はちゃんと残せたと思う。
 何を思って消えたんかは分からんものの他の皆が特に騒いで無かったんで無事ではおるんやろう。
 気持ちを切り替えるように大きく深呼吸してから【遠見】を発動させると身を隠すのに良さげな森林地帯を見つけたんでフォルクに声を掛けて下りて貰った。
 一応【索敵】と目視で周囲に魔獣や人がいないのも確認すると俺は素早くフォルクの背中から地面に降り立つ。

「よっしゃ!ここで【解呪】しようか。フォルク、心の準備は出来てる?」

 事前に話し合ってはいたけど戸惑いがあるんやったら気持ちを落ち着かせる時間は取ろうかと思ってたら、こっちを真っ直ぐ見つめ返してくれたフォルクが直ぐに頷いてくれる。

「大丈夫ダ。今、迷イハナイ…寧ロ、早ク戻リタイト思ッテイル。」

 心配は不要やったようで、決意を感じさせる言葉に安心して【解呪】のスキルを使う事が出来る。
 まだレベルが足りんのは重々承知してるけど、少しでも呪いが解けるようにと気持ちを強く持ちながら力を発動させフォルクの方へと向けた。
 すると、彼自身と周囲が淡く発光し出したんはいつも通りやったものの、閃光弾ばりの光を最後に放ってくれたんで目がめっちゃ眩む。
 衝撃に目が~と暫く瞼を閉じて目元を手で押さえてたら不意に頭に触れる『手の感触』に驚いて弾かれたように目を開けた。

「………フォルク、やでな…?」

「……アア…ソウダ…。」

 余りにも姿が変わってたんで思わず尋ねながらも見覚えしかない緑色の優しい瞳をじっと見つめてまう。
 白目の部分が黒く変化してるのは不思議な感じやったけど、正直まだ『不完全な人の姿』には滅茶苦茶似合ってて格好良いとしか言えん。

 顔は人の輪郭を取り戻しながらも細やかな赤黒い鱗が覆ってて、尖り気味の耳に、額には二本の細身の赤い角が前髪の隙間から覗いてて種族としては竜人と鬼人が合わさったみたいなって表現したらええかな。
 喋った時に白く鋭い牙がちらりと見えたんで笑ってくれたらめっちゃ可愛い事になるんやないやろうか。

 髪は聞いてた通りの赤髪で長髪やねんけどウルフカットって言うんか、襟足は腰ぐらいまで長くて上の方は少し跳ね遊んでる感じでお洒落さんや。
 俺の頭に触れてた手を取って見たら深みのある赤い尖った爪に肌は黒味の強い赤い鱗に覆われてる。
 関節部分とか外側と内側なんかで大きさが違いはあるものの基本的に全身を滑らかに包んでる鱗の感じは一緒みたいで手触りがすべすべしてて気持ちええ。

 竜みたいな翼は健在で蠍みたいな尻尾も残ってるけど明らかに大きさが人型サイズになってるんで呪いが軽減されたんやろう。
 只、足元は鳥足ってか、がっしりしてるから若干恐竜っぽい感じで鋭い赤い爪があってと個人的には好みでグッジョブやが、靴はまだ履けそうにないな。
 問題ないかな~と全身くまなくチェックしてたんやけど…途中で、大分見回してしまってから急に思い出した様に恥ずかしさが湧いて来たってか、思いっきり裸体やんかって唐突に意識したらめっちゃバツが悪くなった!

「ごめん!じろじろ見てもうて!これ着といて!」

 慌てて神様外套を肩から着せ掛けて上に二つ付いてる釦を留めて前を無理矢理に閉めたものの、めっちゃ心許ない。
 俺より背が頭一個分ぐらいは余裕で高いし、畳んでるとは言え翼と体格も良くて脚が長いから裾とか隙間から素足がちらちら見えてけしから…けしからーん!
【浄化】のスキルで服も綺麗になるし壊れへん便利機能も付いてて予備の服とか失念しとって、買っといたら良かったと今この瞬間ほんまに思った。

「どっかで服調達せなあかんな…とりあえず『青の国』の無事な街まで行って、フォルクには近場で隠れて貰ってる間に急いで買ってくるとかでええかな?」

「…スマナイ。ソウダナ…恐ラク、コノママ村ヤ街ニ入ルノハ難シイ。シカシ、ダイチノ安全ヲ考エルト余リ一人デ行動スルノハ良クモナイ…タダ…ドウニカハナルダロウガ……。」

「ん?なんか秘策でもあるん?」

「アア、ダイチノ安全ヲ優先シタイシ…出来ル…。」

 解決するんは素直に嬉しいものの表情が断然分かり易くなったフォルクが苦渋の顔をしてるんでなんか全く納得がし切れん。
 結果的に上手く行っても相棒が嫌々ってのは宜しくないと思うで!

「フォルク、なんか嫌な事があるんなら無理にせんでもええよ。なんやったら適当に理由つけてウィプキングさん所に空飛んで一緒に戻って服売って貰おう?」

「ダイチ…」

「な?そんな深刻にならんで大丈夫やから。幾らでも解決方法あるって!」

 自分で言ってて全くその通りやなと思う。
 出戻り記録を更新するだけやし、ウィプキングさんが駄目なら商人のベツァオさんもお金積んだら口硬そうやし、『獅子の咆哮』の皆も無理なお願いでも無い限りは快く協力してくれるんちゃうやろか。
 それでも駄目ならエーベルさんもおるし、更に駄目でも頼れる宛や方法はあるんで俄然大丈夫な気がして来てたらフォルクが困ったように微笑んでた。

「君ニハ…イツモ敵ワナイト思ウ。大丈夫ダ…ソノ、只ノ嫉妬ダ。ダイチニハ、ズット俺ダケヲ頼ッテ欲シイ、俺ダケニ守ラレレバ良イノニト…思ッテシマウンダ。」

「……………………。」

 切なげに言われた言葉が衝撃的過ぎて白昼夢かなんかかと一瞬考えて頬っぺたを思いっきり捻りたくなる。
 いや、友人同士でも嫉妬したりとかあるのは分かるし、俺もフォルクに頼って貰えたら嬉しいし、守りたいって気持ちも同じく持ってるから良いんやけど…なんか、良いように考えたら独占欲丸出しで告白されてるようにも聞こえて…もしそうなら、めちゃめちゃ嬉しいとか思う自分の沸いた頭がやばかった。

「ダイチッ!?」

 ほぼ無意識やってんけどガン!て効果音がしてもおかしく無い勢いで自分の横っ面に拳を一発入れてから現実に戻って来たんやけど、突飛過ぎる行動にフォルクを驚かせてまう。

「いや、ダイジョウブ、ダイジョウブ。ここは現実って分かってるし、ダイジョ…っ!」

「大丈夫ナ訳アルカ!!」

 全力で安心させようとしてたら殴りつけた頬を包み込むように肌触りの良い手の平で触れられて、更に具合を確認する為か顔が間近に近づいて来たんで一瞬にして固まった。
 フォルクって存在自体にすら弱いのに真剣な表情は精悍で男らしいし、人によってはあかん鱗の肌も好きでしかないし、なんやったら緑と黒の色彩の眼も色っぽくしか見えんくてやばいやばいやばい。
 心拍数が爆上がりで、フォルクの呪いが薄れたのはほんまに嬉しいけど、なんか俺に謎の大ダメージが入るー!!!!

「大丈夫やで!体、丈夫やし、もう痛くもないし…な!」

 だから適正な距離まで離れてくれんかなと雰囲気で必死に促したら、ぴたりと目線が合ったように見つめられて腰に腕を回されたと思ったら引き寄せられる。
 そうされる事で只でさえ心許ない外套が!て、ちょ!最早素肌とか体温が直に伝わって来て全然、全く、これっぽちも落ち着かん!!?

「フォルク…っ!」

「コウヤッテ、ダイチニ触レテ見タカッタンダ…。」

 感無量って感じで呟かれたら俺の精神が保たんから離してくれへん?とは言えんくなった。
 でも、確かめるように両手が背中や肩甲骨、腕や首、頭にと順番に触れて来て擽ったさと気恥ずかしさと動悸息切れで訳が分からん。
 沸騰しまくってる頭で何とか堪えてたらフォルクが嬉しそうに目を細めたんで満足して解放されるんかなと思ったら次は頬に頬を擦り寄せられた。
 覚えのありまくる動作やから間違いなくスキンシップなんやとは思う!でも、今は止めてー!
 精神にガンガン負荷が掛かってるし、霊獣形態やないから可愛いより羞恥心が圧倒的割合を占め…あ、尻尾も脚にガッツリ絡んで来た……。

「あんな、フォルク…!」

「アア、ナンダ…?」

 やばさを訴えようと思って呼んだら顔上げてくれたけどなんかもう陶酔って言葉がぴったりのうっとりした幸せそうな顔してくれてるもんやから、声が喉に詰まりまくって全く何も出てこん。
 おまけに不思議そうに首を傾げる姿もいつも見てた姿と重なって愛くるしいし余計に無碍に突き放す事は言いたくなくて、逆に自意識過剰や、落ち着け俺!て、己を戒めまくる結果に終わった。

「…いや、なんでも…ないねん…。」

 根性で絞り出した言葉にフォルクがきょとんとしてから直ぐに可笑しそうに目を細める。
 どうしたんかと思って気を抜いたら鼻先にちょんと触れた硬質な感触に思考がまた綺麗に吹っ飛んで行った。

「ン…懐カシイナ、アノ時ハダイチガ口付ケテクレテ、トテモ嬉シカッタ。」

 吐息も艶めかし……いやいや、思い当たる記憶はバリバリにあるんやけど、今、なう、唇が、鼻に………っ!

「フォルクーーー!!?」

 叫んでもうたからまた驚かせたが、気にしてる場合じゃ無い。
 だって、なんかもう顔が南国ってか、不審が挙動ってか、元々フォルクに弱かったけど更に耐性が弱くなった気がするねんけど!
 生命の危機さえ感じて反射的に逃れようと腕に力込めたら慌てたように力強く掻き抱かれたけどね!だから、安易に死ぬって!

「ダイチ、怒ラナイデクレ!君ニ嫌ワレタラ俺ハ……ッ…」

「ちがっ、ちゃうちゃうちゃう!怒ってるんやなくて!恥ずかしいんやって!フォルク、人に近くなったし、服…ちゃんと着てなくて……。」

 あらぬ誤解に必死で答えたものの好意持ってて物理的に無防備な相手に抱き着かれて触られるって同性でも異性でも相当きついからな!
 色々、体に触れてるのとかもスルーしてたけど口にしたんやから察してくれー!

「恥ズカシイ…?」

 意思が通じて気が抜けたんかフォルクの腕の力が弱まって何故か暫く顔を見つめられたと思ったら、くしゃりと嬉しそうに破顔した。
 思ってた通り覗いた牙が超絶に可愛いです…でも、今は眩し過ぎて心の吐血が止まりまへん。
 辞世の句が読めるんやないかなって本気で思った辺りでやっと解放されて…助かった…?

「アリガトウ、ダイチ。オ陰デ自信ガ湧イタ、『青ノ国』ヘ向カオウ。」

「え?どう致しまして?やけど…ええの?」

「アア、今ノデ踏ン切リガツイタ。俺モ騎士ダ、負ケル気ハ無イ。」

 さっきの今で全く意味が分からんのやけどやる気満々なのは表情や雰囲気からも感じ取れる。
 此処でやっぱり王都へ戻ろうって言うのは野暮でしかないやろうな。

「分かった。フォルクが大丈夫って言うなら行こう!」

「アア、宜シク頼ム。」

 意見が纏まった所で移動は【俊足】使って走ってった方がええかなとか考えてたら背後で音がした気がして、振り返ったら人の姿があって目茶苦茶ビックリした。
 しかも、見覚えが有りすぎる姿に驚き通り越して困惑しか浮かんでこん。

「よお、話しは終わったか?」

「…………ヴィーダーさん?」

 いやもう、昼間に幽霊に出会したばりにぽかーんやねんけど。
 なんで此処におるんかも疑問やし、話し終わったかって問いは少なくとも今まで様子を見てたって事やでな?
 疑問と誤魔化すか正直に話すかで思考が高速フル回転し出して、でも答えが出る前に後ろから片手を握られて我に返る。

「フォルク…?」

「合流ハ、国境ダト聞イテイタガ?」

「そのつもりだったんだが、少し気になってな。」

 俺の横に並んだフォルクが不機嫌そうに、目の前のヴィーダーさんは不敵な感じで睨み合ってるのは気になる所ではあるんやが…なんか俺だけ完全に置いてきぼりにされてない?
 もしかせんでも、フォルクは事情知ってる雰囲気やしって…待って、なんか名探偵ばりに犯人の顔がピンと来そう!

「ウィプキングさんですか!?」

 閃いたまま名前を口にしたら二人共驚いたんか睨み合い止めて、こっちを凝視した後に素早く視線を横へ逸らした。
 その反応でもう充分や…黒幕の正体がはっきりした、あの人が真のラスボス…じゃなくて一体全体どうなっとんねん!?

「あの…説明は貰えます?」

「仕事を任されて、オレも旅に同行するだけだ。」

「スマナイ、ダイチ。俺ノセイデモアル…。」

「いや、全然分からんから!もっと詳しく!」

「諦めろ。」

 ヴィーダーさんにはにべもなく一刀両断されるし、フォルクは沈痛な面持ちで沈黙を貫き出した。
 でも、何故か二人揃って果てしなく遠い目をしてて、これ以上下手に探り入れるのも怖いが確認しときたい事もある。

「拒否権とか、危険は無いんですか…?」

「両方無い。依頼内容自体に危険性は無いし、王命としての強制依頼になってるからダイチが拒否しても後を着いて行かねぇとオレの首が飛ぶ。尾行されるのが好きってなら拒否しても構わんが。」

「いや、普通に危険性が潜みまくってるやないですか!?拒否しませんから尾行とかも止めて下さい!ヴィーダーさん【索敵】に掛からんから怖いってか、なんで俺の全力スキルに掠りもせんのですかぁ!!?」

「あ?【隠密シークレシー】の能力値が高いからだろう。山奥で過ごしてた時期に鍛えられたみたいだな…後は【隠蔽ハイディング】とか【擬装カモフラージュ】って類似スキルも一応重ねて使っといたから流石に効いたんだろうよ。」

 地味に悔しかったんで声を荒らげた俺とは対照的に事も無げに答え教えてくれたけど…この人、相変わらず万能過ぎて戦慄を禁じえんわ!
 強いのに暗殺者みたいな事もできるんかって思って、でもヴィーダーさん面倒臭がって正面から普通に殴り込みそうやな…実際、さっさと合流して来たし…。

「ブレませんね…。」

「何がだ?」

 つい生暖かい目になってたら思い出したようにヴィーダーさんがジャケットの内側からペンダントみたいなもんを取り出してフォルクの方に投げ渡した。

「忘れてた。じじいと別れる時に預かって来た。必要になったら渡してやれって言われたんだが、案外早かったな。」

「コレハ…。」

 めちゃくちゃ複雑な顔してフォルクが銀色の細かい装飾ってか魔法陣みたいな細工が施された首飾りを見つめてから盛大に溜息零して肩を落とす。

「…どないしたん?」

「イヤ、複雑ナ気分デナ…準備シテクルノデ少シ待ッテイテ貰エルカ?」

 脱力しながらもこっちに笑い掛けて言うとフォルクは木々の間へと歩き出して奥に姿を消した。

「大丈夫なんか…?」

「心配しなくても直ぐに戻ってくるだろうよ。後、ついでに聞いてきたんだが…」

 哀愁を感じさせる相棒の後ろ姿に不安しか無かったんやけどヴィーダーさんが言い淀んだ感じで話し出したんで耳を傾ける。

「…何をです?」

「前に言ってただろ?名前の意味だ。」

「ああ!」

 確かに一緒に街の散策した時にウィプキングさんが名付け親やって教えて貰って、二人の仲が…主にヴィーダーさんのウィプキングさんに対する好感度が上がればええなと思って押しといた話やな。

「何て意味やったんですか?良い感じでした?」

「意味は『矛盾』らしい。」

「む…矛盾?」

 なんか思ってたのとちゃうってか予想外に微妙な…いや待て、深い思慮があっての事かもしれん。

「俺も今のダイチと同じ顔をしたんだが、相手が相手なんで食い下がってみたらこう言われた。矛盾とは実に『人間』らしい言葉だ。相反する気持ち、行動、割り切れない不完全な者で…けれどもそれが、あいつにとっては堪らなく愛おしく…オレに最も似合っているそうだ。」

「それって…ウィプキングさん、ヴィーダーさんの事…最も人間らしくて愛してるよって言いたかったんですかね…。」

 しかも、こっそり名前にするって聞いてて恥ずかしくなる程の愛情ってか最早、ある意味プロポーズの域やなとこっちが照れるわ。
 ヴィーダーさんも流石に感化される所があったんか目元を僅かに細めて頷く。

「今でも記憶は戻らないんだが…あいつの事を考えると最近は懐かしい気持ちになってた。大切だったような気がする……だが、行けと言われた。」

 やっぱり二人の間に何かしらの縁があったんかなと少し寂しそうに語る姿を見つめて考えてたら視線が絡んで強い眼差しで見つめられた。

「言われるまでもねぇが、ダイチの傍を離れる気になんかなれなかった。別れの言葉なんて聞きたく無いし、言ったらどうなるか分かってんだろうな?」

 途中まではしんみりした感じで思わず絆されるんやないかってぐらいの態度やってんけど、最後はギラついた野性味のある良い笑顔向けられて背筋がピーンと伸びる。
 怖い人が此処にいるんですけどーって距離を自然に詰めてくんのはどうかと思う!ほんまどうかと思うー!ってじりじり後ろに下がってたら背中に馴染んだ気配がしたんで振り返った。

「……フォルク?」

 間違いなく彼やってんけど俺の外套を片手に持った、騎士装備を纏ってるフォルクが佇んでて驚く。
 色々、疑問はあるもののサーコートって言うんか白地に緑のデザイン的な植物の蔦が描かれた裾が長くてスリットのある服に真っ白なマント、布の間からは銀色の鎧や肩当て、手甲に今の足の形に見合った鉄靴と炎を意識したような洒落た草摺が覗き、服を腰で止めてる黒いベルトにも植物の葉みたいな装飾が施されててと細部に拘りを感じるんやけど…。
 特に気になったのが下に着てるハイネックの濃い赤の服で…付属品やとは思うんやが妙に強調された…首元の…。

「ダイチ…頼ミガアルノダガ…ッ」

「お、おお…?」

「コノ装備ハ魔道具ニヨルモノナンダガ…ドウニカシテ、コノ三本ノ首輪ヲ外スカ、君ガ選ンダ物ニ付ケ替エテクレナイカ?」

 気迫さえ篭った眼差しで真剣にお願いされた内容の一部がぶっ飛んでて頭を抱えたのと背後で『ぶはっ』て、吹き出す声がしたのは同時やったと思う…。
「ダイチ…」

「あ、ごめん!フォルク!ぼーとしてる場合やないのにな!国境超える前に良い場所探して【解呪】しよか!」

 弱々しいフォルクの声聞いて漸く少しは正気に戻れたんで、慌てて周囲を見回すと相変わらず綺麗な景色が広がってて幾分心が慰められる。
 別れはきっちり出来んかったけども、この国に結果はちゃんと残せたと思う。
 何を思って消えたんかは分からんものの他の皆が特に騒いで無かったんで無事ではおるんやろう。
 気持ちを切り替えるように大きく深呼吸してから【遠見】を発動させると身を隠すのに良さげな森林地帯を見つけたんでフォルクに声を掛けて下りて貰った。
 一応【索敵】と目視で周囲に魔獣や人がいないのも確認すると俺は素早くフォルクの背中から地面に降り立つ。

「よっしゃ!ここで【解呪】しようか。フォルク、心の準備は出来てる?」

 事前に話し合ってはいたけど戸惑いがあるんやったら気持ちを落ち着かせる時間は取ろうかと思ってたら、こっちを真っ直ぐ見つめ返してくれたフォルクが直ぐに頷いてくれる。

「大丈夫ダ。今、迷イハナイ…寧ロ、早ク戻リタイト思ッテイル。」

 心配は不要やったようで、決意を感じさせる言葉に安心して【解呪】のスキルを使う事が出来る。
 まだレベルが足りんのは重々承知してるけど、少しでも呪いが解けるようにと気持ちを強く持ちながら力を発動させフォルクの方へと向けた。
 すると、彼自身と周囲が淡く発光し出したんはいつも通りやったものの、閃光弾ばりの光を最後に放ってくれたんで目がめっちゃ眩む。
 衝撃に目が~と暫く瞼を閉じて目元を手で押さえてたら不意に頭に触れる『手の感触』に驚いて弾かれたように目を開けた。

「………フォルク、やでな…?」

「……アア…ソウダ…。」

 余りにも姿が変わってたんで思わず尋ねながらも見覚えしかない緑色の優しい瞳をじっと見つめてまう。
 白目の部分が黒く変化してるのは不思議な感じやったけど、正直まだ『不完全な人の姿』には滅茶苦茶似合ってて格好良いとしか言えん。

 顔は人の輪郭を取り戻しながらも細やかな赤黒い鱗が覆ってて、尖り気味の耳に、額には二本の細身の赤い角が前髪の隙間から覗いてて種族としては竜人と鬼人が合わさったみたいなって表現したらええかな。
 喋った時に白く鋭い牙がちらりと見えたんで笑ってくれたらめっちゃ可愛い事になるんやないやろうか。

 髪は聞いてた通りの赤髪で長髪やねんけどウルフカットって言うんか、襟足は腰ぐらいまで長くて上の方は少し跳ね遊んでる感じでお洒落さんや。
 俺の頭に触れてた手を取って見たら深みのある赤い尖った爪に肌は黒味の強い赤い鱗に覆われてる。
 関節部分とか外側と内側なんかで大きさが違いはあるものの基本的に全身を滑らかに包んでる鱗の感じは一緒みたいで手触りがすべすべしてて気持ちええ。

 竜みたいな翼は健在で蠍みたいな尻尾も残ってるけど明らかに大きさが人型サイズになってるんで呪いが軽減されたんやろう。
 只、足元は鳥足ってか、がっしりしてるから若干恐竜っぽい感じで鋭い赤い爪があってと個人的には好みでグッジョブやが、靴はまだ履けそうにないな。
 問題ないかな~と全身くまなくチェックしてたんやけど…途中で、大分見回してしまってから急に思い出した様に恥ずかしさが湧いて来たってか、思いっきり裸体やんかって唐突に意識したらめっちゃバツが悪くなった!

「ごめん!じろじろ見てもうて!これ着といて!」

 慌てて神様外套を肩から着せ掛けて上に二つ付いてる釦を留めて前を無理矢理に閉めたものの、めっちゃ心許ない。
 俺より背が頭一個分ぐらいは余裕で高いし、畳んでるとは言え翼と体格も良くて脚が長いから裾とか隙間から素足がちらちら見えてけしから…けしからーん!
【浄化】のスキルで服も綺麗になるし壊れへん便利機能も付いてて予備の服とか失念しとって、買っといたら良かったと今この瞬間ほんまに思った。

「どっかで服調達せなあかんな…とりあえず『青の国』の無事な街まで行って、フォルクには近場で隠れて貰ってる間に急いで買ってくるとかでええかな?」

「…スマナイ。ソウダナ…恐ラク、コノママ村ヤ街ニ入ルノハ難シイ。シカシ、ダイチノ安全ヲ考エルト余リ一人デ行動スルノハ良クモナイ…タダ…ドウニカハナルダロウガ……。」

「ん?なんか秘策でもあるん?」

「アア、ダイチノ安全ヲ優先シタイシ…出来ル…。」

 解決するんは素直に嬉しいものの表情が断然分かり易くなったフォルクが苦渋の顔をしてるんでなんか全く納得がし切れん。
 結果的に上手く行っても相棒が嫌々ってのは宜しくないと思うで!

「フォルク、なんか嫌な事があるんなら無理にせんでもええよ。なんやったら適当に理由つけてウィプキングさん所に空飛んで一緒に戻って服売って貰おう?」

「ダイチ…」

「な?そんな深刻にならんで大丈夫やから。幾らでも解決方法あるって!」

 自分で言ってて全くその通りやなと思う。
 出戻り記録を更新するだけやし、ウィプキングさんが駄目なら商人のベツァオさんもお金積んだら口硬そうやし、『獅子の咆哮』の皆も無理なお願いでも無い限りは快く協力してくれるんちゃうやろか。
 それでも駄目ならエーベルさんもおるし、更に駄目でも頼れる宛や方法はあるんで俄然大丈夫な気がして来てたらフォルクが困ったように微笑んでた。

「君ニハ…イツモ敵ワナイト思ウ。大丈夫ダ…ソノ、只ノ嫉妬ダ。ダイチニハ、ズット俺ダケヲ頼ッテ欲シイ、俺ダケニ守ラレレバ良イノニト…思ッテシマウンダ。」

「……………………。」

 切なげに言われた言葉が衝撃的過ぎて白昼夢かなんかかと一瞬考えて頬っぺたを思いっきり捻りたくなる。
 いや、友人同士でも嫉妬したりとかあるのは分かるし、俺もフォルクに頼って貰えたら嬉しいし、守りたいって気持ちも同じく持ってるから良いんやけど…なんか、良いように考えたら独占欲丸出しで告白されてるようにも聞こえて…もしそうなら、めちゃめちゃ嬉しいとか思う自分の沸いた頭がやばかった。

「ダイチッ!?」

 ほぼ無意識やってんけどガン!て効果音がしてもおかしく無い勢いで自分の横っ面に拳を一発入れてから現実に戻って来たんやけど、突飛過ぎる行動にフォルクを驚かせてまう。

「いや、ダイジョウブ、ダイジョウブ。ここは現実って分かってるし、ダイジョ…っ!」

「大丈夫ナ訳アルカ!!」

 全力で安心させようとしてたら殴りつけた頬を包み込むように肌触りの良い手の平で触れられて、更に具合を確認する為か顔が間近に近づいて来たんで一瞬にして固まった。
 フォルクって存在自体にすら弱いのに真剣な表情は精悍で男らしいし、人によってはあかん鱗の肌も好きでしかないし、なんやったら緑と黒の色彩の眼も色っぽくしか見えんくてやばいやばいやばい。
 心拍数が爆上がりで、フォルクの呪いが薄れたのはほんまに嬉しいけど、なんか俺に謎の大ダメージが入るー!!!!

「大丈夫やで!体、丈夫やし、もう痛くもないし…な!」

 だから適正な距離まで離れてくれんかなと雰囲気で必死に促したら、ぴたりと目線が合ったように見つめられて腰に腕を回されたと思ったら引き寄せられる。
 そうされる事で只でさえ心許ない外套が!て、ちょ!最早素肌とか体温が直に伝わって来て全然、全く、これっぽちも落ち着かん!!?

「フォルク…っ!」

「コウヤッテ、ダイチニ触レテ見タカッタンダ…。」

 感無量って感じで呟かれたら俺の精神が保たんから離してくれへん?とは言えんくなった。
 でも、確かめるように両手が背中や肩甲骨、腕や首、頭にと順番に触れて来て擽ったさと気恥ずかしさと動悸息切れで訳が分からん。
 沸騰しまくってる頭で何とか堪えてたらフォルクが嬉しそうに目を細めたんで満足して解放されるんかなと思ったら次は頬に頬を擦り寄せられた。
 覚えのありまくる動作やから間違いなくスキンシップなんやとは思う!でも、今は止めてー!
 精神にガンガン付加が掛かってるし、霊獣形態やないから可愛いより羞恥心が圧倒的割合を占め…あ、尻尾も脚にガッツリ絡んで来た……。

「あんな、フォルク…!」

「アア、ナンダ…?」

 やばさを訴えようと思って呼んだら顔上げてくれたけどなんかもう陶酔って言葉がぴったりのうっとりした幸せそうな顔してくれてるもんやから、声が喉に詰まりまくって全く何も出てこん。
 おまけに不思議そうに首を傾げる姿もいつも見てた姿と重なって愛くるしいし余計に無碍に突き放す事は言いたくなくて、逆に自意識過剰や、落ち着け俺!て、己を戒めまくる結果に終わった。

「…いや、なんでも…ないねん…。」

 根性で絞り出した言葉にフォルクがきょとんとしてから直ぐに可笑しそうに目を細める。
 どうしたんかと思って気を抜いたら鼻先にちょんと触れた硬質な感触に思考がまた綺麗に吹っ飛んで行った。

「ン…懐カシイナ、アノ時ハダイチガ口付ケテクレテ、トテモ嬉シカッタ。」

 吐息も艶めかし……いやいや、思い当たる記憶はバリバリにあるんやけど、今、なう、唇が、鼻に………っ!

「フォルクーーー!!?」

 叫んでもうたからまた驚かせたが、気にしてる場合じゃ無い。
 だって、なんかもう顔が南国ってか、不審が挙動ってか、元々フォルクに弱かったけど更に耐性が弱くなった気がするねんけど!
 生命の危機さえ感じて反射的に逃れようと腕に力込めたら慌てたように力強く掻き抱かれたけどね!だから、安易に死ぬって!

「ダイチ、怒ラナイデクレ!君ニ嫌ワレタラ俺ハ……ッ…」

「ちがっ、ちゃうちゃうちゃう!怒ってるんやなくて!恥ずかしいんやって!フォルク、人に近くなったし、服…ちゃんと着てなくて……。」

 あらぬ誤解に必死で答えたものの好意持ってて物理的に無防備な相手に抱き着かれて触られるって同性でも異性でも相当きついからな!
 色々、体に触れてるのとかもスルーしてたけど口にしたんやから察してくれー!

「恥ズカシイ…?」

 意思が通じて気が抜けたんかフォルクの腕の力が弱まって何故か暫く顔を見つめられたと思ったら、くしゃりと嬉しそうに破顔した。
 思ってた通り覗いた牙が超絶に可愛いです…でも、今は眩し過ぎて心の吐血が止まりまへん。
 辞世の句が読めるんやないかなって本気で思った辺りでやっと解放されて…助かった…?

「アリガトウ、ダイチ。オ陰デ自信ガ湧イタ、『青ノ国』ヘ向カオウ。」

「え?どう致しまして?やけど…ええの?」

「アア、今ノデ踏ン切リガツイタ。俺モ騎士ダ、負ケル気ハ無イ。」

 さっきの今で全く意味が分からんのやけどやる気満々なのは表情や雰囲気からも感じ取れる。
 此処でやっぱり王都へ戻ろうって言うのは野暮でしかないやろうな。

「分かった。フォルクが大丈夫って言うなら行こう!」

「アア、宜シク頼ム。」

 意見が纏まった所で移動は【俊足】使って走ってった方がええかなとか考えてたら背後で音がした気がして、振り返ったら人の姿があって目茶苦茶ビックリした。
 しかも、見覚えが有りすぎる姿に驚き通り越して困惑しか浮かんでこん。

「よお、話しは終わったか?」

「…………ヴィーダーさん?」

 いやもう、昼間に幽霊に出会したばりにぽかーんやねんけど。
 なんで此処におるんかも疑問やし、話し終わったかって問いは少なくとも今まで様子を見てたって事やでな?
 疑問と誤魔化すか正直に話すかで思考が高速フル回転し出して、でも答えが出る前に後ろから片手を握られて我に返る。

「フォルク…?」

「合流ハ、国境ダト聞イテイタガ?」

「そのつもりだったんだが、少し気になってな。」

 俺の横に並んだフォルクが不機嫌そうに、目の前のヴィーダーさんは不敵な感じで睨み合ってるのは気になる所ではあるんやが…なんか俺だけ完全に置いてきぼりにされてない?
 もしかせんでも、フォルクは事情知ってる雰囲気やしって…待って、なんか名探偵ばりに犯人の顔がピンと来そう!

「ウィプキングさんですか!?」

 閃いたまま名前を口にしたら二人共驚いたんか睨み合い止めて、こっちを凝視した後に素早く視線を横へ逸らした。
 その反応でもう充分や…黒幕の正体がはっきりした、あの人が真のラスボス…じゃなくて一体全体どうなっとんねん!?

「あの…説明は貰えます?」

「仕事を任されて、オレも旅に同行するだけだ。」

「スマナイ、ダイチ。俺ノセイデモアル…。」

「いや、全然分からんから!もっと詳しく!」

「諦めろ。」

 ヴィーダーさんにはにべもなく一刀両断されるし、フォルクは沈痛な面持ちで沈黙を貫き出した。
 でも、何故か二人揃って果てしなく遠い目をしてて、これ以上下手に探り入れるのも怖いが確認しときたい事もある。

「拒否権とか、危険は無いんですか…?」

「両方無い。依頼内容自体に危険性は無いし、王命としての強制依頼になってるからダイチが拒否しても後を着いて行かねぇとオレの首が飛ぶ。尾行されるのが好きってなら拒否しても構わんが。」

「いや、普通に危険性が潜みまくってるやないですか!?拒否しませんから尾行とかも止めて下さい!ヴィーダーさん【索敵】に掛からんから怖いってか、なんで俺の全力スキルに掠りもせんのですかぁ!!?」

「あ?【隠密シークレシー】の能力値が高いからだろう。山奥で過ごしてた時期に鍛えられたみたいだな…後は【隠蔽ハイディング】とか【擬装カモフラージュ】って類似スキルも一応重ねて使っといたから流石に効いたんだろうよ。」

 地味に悔しかったんで声を荒らげた俺とは対照的に事も無げに答え教えてくれたけど…この人、相変わらず万能過ぎて戦慄を禁じえんわ!
 強いのに暗殺者みたいな事もできるんかって思って、でもヴィーダーさん面倒臭がって正面から普通に殴り込みそうやな…実際、さっさと合流して来たし…。

「ブレませんね…。」

「何がだ?」

 つい生暖かい目になってたら思い出したようにヴィーダーさんがジャケットの内側からペンダントみたいなもんを取り出してフォルクの方に投げ渡した。

「忘れてた。じじいと別れる時に預かって来た。必要になったら渡してやれって言われたんだが、案外早かったな。」

「コレハ…。」

 めちゃくちゃ複雑な顔してフォルクが銀色の細かい装飾ってか魔法陣みたいな細工が施された首飾りを見つめてから盛大に溜息零して肩を落とす。

「…どないしたん?」

「イヤ、複雑ナ気分デナ…準備シテクルノデ少シ待ッテイテ貰エルカ?」

 脱力しながらもこっちに笑い掛けて言うとフォルクは木々の間へと歩き出して奥に姿を消した。

「大丈夫なんか…?」

「心配しなくても直ぐに戻ってくるだろうよ。後、ついでに聞いてきたんだが…」

 哀愁を感じさせる相棒の後ろ姿に不安しか無かったんやけどヴィーダーさんが言い淀んだ感じで話し出したんで耳を傾ける。

「…何をです?」

「前に言ってただろ?名前の意味だ。」

「ああ!」

 確かに一緒に街の散策した時にウィプキングさんが名付け親やって教えて貰って、二人の仲が…主にヴィーダーさんのウィプキングさんに対する好感度が上がればええなと思って押しといた話やな。

「何て意味やったんですか?良い感じでした?」

「意味は『矛盾』らしい。」

「む…矛盾?」

 なんか思ってたのとちゃうってか予想外に微妙な…いや待て、深い思慮があっての事かもしれん。

「俺も今のダイチと同じ顔をしたんだが、相手が相手なんで食い下がってみたらこう言われた。矛盾とは実に『人間』らしい言葉だ。相反する気持ち、行動、割り切れない不完全な者で…けれどもそれが、あいつにとっては堪らなく愛おしく…オレに最も似合っているそうだ。」

「それって…ウィプキングさん、ヴィーダーさんの事…最も人間らしくて愛してるよって言いたかったんですかね…。」

 しかも、こっそり名前にするって聞いてて恥ずかしくなる程の愛情ってか最早、ある意味プロポーズの域やなとこっちが照れるわ。
 ヴィーダーさんも流石に感化される所があったんか目元を僅かに細めて頷く。

「今でも記憶は戻らないんだが…あいつの事を考えると最近は懐かしい気持ちになってた。大切だったような気がする……だが、行けと言われた。」

 やっぱり二人の間に何かしらの縁があったんかなと少し寂しそうに語る姿を見つめて考えてたら視線が絡んで強い眼差しで見つめられた。

「言われるまでもねぇが、ダイチの傍を離れる気になんかなれなかった。別れの言葉なんて聞きたく無いし、言ったらどうなるか分かってんだろうな?」

 途中まではしんみりした感じで思わず絆されるんやないかってぐらいの態度やってんけど、最後はギラついた野性味のある良い笑顔向けられて背筋がピーンと伸びる。
 怖い人が此処にいるんですけどーって距離を自然に詰めてくんのはどうかと思う!ほんまどうかと思うー!ってじりじり後ろに下がってたら背中に馴染んだ気配がしたんで振り返った。

「……フォルク?」

 間違いなく彼やってんけど俺の外套を片手に持った、騎士装備を纏ってるフォルクが佇んでて驚く。
 色々、疑問はあるもののサーコートって言うんか白地に緑のデザイン的な植物の蔦が描かれた裾が長くてスリットのある服に真っ白なマント、布の間からは銀色の鎧や肩当て、手甲に今の足の形に見合った鉄靴と炎を意識したような洒落た草摺が覗き、服を腰で止めてる黒いベルトにも植物の葉みたいな装飾が施されててと細部に拘りを感じるんやけど…。
 特に気になったのが下に着てるハイネックの濃い赤の服で…付属品やとは思うんやが妙に強調された…首元の…。

「ダイチ…頼ミガアルノダガ…ッ」

「お、おお…?」

「コノ装備ハ魔道具ニヨルモノナンダガ…ドウニカシテ、コノ三本ノ首輪ヲ外スカ、君ガ選ンダ物ニ付ケ替エテクレナイカ?」

 気迫さえ篭った眼差しで真剣にお願いされた内容の一部がぶっ飛んでて頭を抱えたのと背後で『ぶはっ』て、吹き出す声がしたのは同時やったと思う…。
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