呪われた騎士と関西人

ゆ吉

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2章

55.「エリアボスⅡ」

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 物凄い衝撃やった。
【無敵の盾】で今まで魔獣の攻撃を受けた事は何度かあったが、それとは比べ物にならん破壊力に壊れはせんかったが結界全体に衝撃波が走ったみたいになって目が眩んだ。
 ここで完全に怯んでたらスキルを無意識に解除してたかもしれんが、守る人達がおるのにそんな最悪の事はできん。
 なんとかビビりながらも踏ん張って繰り返される猛烈な攻撃に堪えてたらやがて攻撃が一旦止んだんでほんまに助かった。

「ダイチ!!!大丈夫カ!?」

「…っ大丈夫やけど、めちゃめちゃビックリしたわ…。」

 フォルクが見計らったように声を掛けてくれ少し冷静さを取り戻したら、体が小刻みに震えてるのに気がつく。
 でも、そんな事に気を取られてる場合やないんで砂塵で視界の悪くなった周囲を見渡すと気を利かせたライゼが【疾風はやて】て技で砂埃を吹き飛ばしてくれた。
 視界が開けると血走ったように瞳を真っ赤に染めて大口を開けた土竜もぐらがこっちを睨んでる。
 心なしか最初見た時より土色の鱗も溶岩みたいな色に淡く発光してて、あ、はい、お怒りMAXで爆発バースト状態てのが一目瞭然で怖いねん!!!!
 爆発バーストしたって事はダメージが入ってるって証明ではあると思うんやけどキレた相手ってのは見境が無くなるってのが万国共通の定番や。

「くっ…これはマズイかの…」

 案の定、ウィプキングさんが短く呻いたと思ったら空中で踠いてただけやった土竜もぐらが力任せにぐっと身を丸め、まるで幾つもの大砲から弾を発射するように岩の塊を【無敵の盾】に遠慮の欠片も無くぶつけてくる。
 シェーンさんの【岩破壊ロックブレイク】みたいな技なんやろうがボスだけあって威力が段違いやし攻撃が今度は一向に止まへん。
 しかも攻撃している間に抵抗レジストしてるようで徐々に高度が下がって行ってるし、ウィプキングさんの様子も苦しそうや。

「じじい!一旦、技を解除しろ!共倒れになってもしらんぞ!」

「っく……ふふ、そうじゃな。お主の言う通りだ…っ!」

 ヴィーダーさんの言葉に素直に従ったウィプキングさんが魔力の放出を瞬く間に止めたんで勢い良く空中から地面に落下する形になった土竜もぐらの攻撃も止んだと言うよりは外れ、猛烈な地響きと砂煙を立てて姿が砂漠へ沈んでいく。
 攻撃を受けるだけになってた俺としては正直助かったものの、再び砂の中に潜られたんでまた釣り上げるとなると一苦労ちゃうやろか。

「やっぱり、一筋縄では行きませんね…。」

「そうじゃな…攻撃は効いておるようだが、これだけの厄災を齎す存在の一部…と言った所か、全く…害虫を放って置くと録でもない。」

 呆れたようでもあり何処か自嘲気味でもあるような言い方をウィプキングさんがすると砂に潜ってた土竜もぐらが再び顔を出して口を開けたんやが発射口の周囲に属性色を帯びた魔法陣が浮かび上がる。
 ウィプキングさんの【重力操作グラビティプロセッション】の時と似たような現象にどう考えても大技が来るのが分かり、俺としては【無敵の盾】で防ぐしかないと身構えたんやけどフォルクが予想外の行動に出た。

「ダイチヲ頼ム!!!!」

 俺をヴィーダーさんに素早く預けというか、阿吽の呼吸で近づいて彼に後ろから捕獲させるなり一直線に敵の大口に向かって突っ込んで行く。
 フォルクの体力が無限なんは知ってたけど、そんな事は関係無くて、敵の強力な魔法が放たれようとする中を結界から飛び出して行くなんて無謀で危険な姿に衝撃が走った。

「フォルクーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

 片腕を必死に伸ばして止めようと、ヴィーダーさんを振り切ろうともしたんやがしっかりと抱え込まれてて動けんし、振り切った所で追いつけるスピードでも無くてフォルクがそのまま魔法の光の中へと消えて行く。
 突然の事態について行けず愕然としながらも目だけは閉じることが出来んくて、彼が攻撃を受ける姿を只々無力に見つめ………る事は無かった。
 敵が攻撃を炸裂させる前にトレラントさんの時の爆発を超える大炎の華が視界を真っ赤に覆い、夕日みたいに一瞬で世界を染め上げたんでポカンと口を開ける羽目になった。
 轟々と激しく燃えるのは勿論、フォルクじゃなくて土竜もぐらの方でして、上手に焼けま…以下略。

「ちょ…ぇえええええええ!?!?!?フォルクーーーーーーーー!?!?!?」

「…キレたら一番厄介なのはあいつじゃねーのか…?」

 さっきから周回遅ればりに展開について行けてない俺は全力で驚いたし、ヴィーダーさんも戸惑うというか呆れ混じりに感想を零してる。
 恐らく【火魔法】を遠慮なく使ったんやろうけど、威力が半端ないってか…なんか怒りすら感じられるレベルの攻撃なんですが…。
 兎に角、大ダメージなんとチャンスなのは確かで、下手したらフォルク一人でも倒し切ってしまいそうな勢いに今度は別の焦りが募る。

「ヴィーダーさん!俺も攻撃するんで近づいて下さい!敵が死んでもうたらフォルクが危ない!」

「…ああ、任せろ!」

 既に呪いが掛かってるのに更に上乗せされたら一体どうなるか想像しただけでも怖いのに、本人はそんな事すら気にしてない様子で攻撃を仕掛け続けてる。
 正義感が強すぎるってのも問題やし、強敵に一人で突っ走られるのはこっちの心臓に悪いって言わな気が収まらんとヴィーダーさんに頼んで八脚馬スレイプニルを飛ばして近づいて貰う。
 展開させてる【無敵の盾】の効果範囲ギリギリで一旦止まってくれたんやが、超近接戦闘で土竜もぐらの攻撃を高速で躱しながら移動し【火魔法】をガンガンにフォルクが叩き込んで行くんで距離があると下手に攻撃が入れられへん!
 冷静になれば何かもっと上手い策も思いついたんかも知らんが、こちとら一分一秒を争うねん!

「すいません、ヴィーダーさん!無理を承知で結界から出て攻撃に当たらんように飛びながら、俺が攻撃できるような位置取りで走って貰えませんか!?」

「あ?」

「俺が力量不足なんは百も承知で、ここから乱戦のフォルクを避けて攻撃を当てる自信がありません。結界出たら危ないんは分かってます、けど…彼を助けたいんです!!!!」

 無茶なお願いしてるのは分かってたが今、間違いなく頼れるヴィーダーさんに安直な考えで必死に叫ぶ。
 呆れられるか冷静なツッコミが入って止められるかとも思ったんやが、時が止まったように静止して直ぐに口端を上げると『彼』は不敵に微笑んだ。

「同感だ。大事な奴は命賭けて守ってやれ!」

 何かを吹っ切ったように言い切るなり迷いなく結界から飛び出してくれたんで俺も思わず笑顔になる。
 敵に向かうまでに他の皆は驚いてるやろうから後で謝らななとか、終わったら宴会したいなとか頭が先に浮かれて想像しながらも目の前でフォルクを襲っとる脅威に対し【武器召喚】を行った。
 接近してもろたお陰でフォルクに当たらん部位を正確に狙ってレーヴェさんの武器を模した大剣を空からヴィーダーさんの弾丸みたいな勢いで大量に投下する。
 尻尾で薙ぎ払われて外れた武器もあったが頭や背中に着弾した剣は次々と小爆発を起こしてくれる。

「トレラントさんの真似っこや!仰山あるから遠慮せずにたんと食べて行きー!」

『魔法剣』まで召喚できる【武器召喚】は相変わらずチートやなって感心しながらも使えるもんは立ってる親でも使うんじゃー!て、気持ちでどんどん武器を落としてたらフォルクが少しは我に返ってくれたんか土竜もぐらから距離を取って攻撃を緩めてくれたんで助かった。
 でも、フォルクからの攻撃が減った瞬間に今度はこっちに敵が標的を変えて特大【岩破壊ロックブレイク】らしきを撃ち出してくる。
 ヴィーダーさんが八脚馬スレイプニルを上手く操って避けてくれるんで心配せずに次の魔法を放てんのが救いやな。

「【土操作アースプロセッション】特大!!!!」

 次に使ったんはそう、忘れもしない自発的落とし穴!技名を付けるなら【墓穴】と命名しよう!
 自分で食らうのは絶対にお断りやけど敵ならなんの迷いもいらんて事で景気よく土竜もぐらの周囲にある砂をごっそり動かして砂漠の堀こと落とし穴を一瞬で作り上げる。
 フォルクは飛べるんで問題なく退避してくれ、翼の無い土竜もぐらは突然できた奈落に呆気なく落ちて行く。
 上下左右に千メートルぐらいは掘ったんでそう易々とは登って来られへんで~と落ちて行く姿を見送ってから、砂埃の舞う穴に接近して覗き込みに行った。

「今ので倒せてたらええんやけど…。」

「油断はするなよ。」

 少し気を抜きつつもヴィーダーさんの有難いお言葉で気を引き締め直した俺は状態を確認する為に【鑑定】を発動させる。
 安全の為にも初めにステータス確認してたら良かったんやけど、すっかり戦闘の勢いに飲まれてましたよね、はい、すいません!と、誰に謝っとんねんしながら表示された画面を確認しようとして出来んかった。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!」

 恐らくフォルクもよく使う【威嚇】やと思うんやけど、瞬間的に体が硬直して動かんくなり、更に落とし穴の底にいた筈の土竜もぐらが剣山みたいな足場を次々に作って飛び出して来た勢いのまま凶悪な尻尾を振って叩きつけてくる。
『マズイ』『殺られる』『ヴィーダ-さんが一緒におるのに』とか、脳裏を走馬灯のように思考が過ぎって魔力を瞬間的に練り上げた感覚と暴力的な衝撃と共に視界が暗転した。







「ーーーー…!ーー……!!!」

 遠くで誰かの呼ぶ声がした。
 今にも泣き出しそうな声に直ぐにでも反応したいんやけど体が上手く動かへんし、目も開けられへん…。
 でも、俺を呼ぶ人は無事そうで良かった…と安心してた。

 だってさ…いつも、生き急いでるみたいで…心配やってん…。

 一人で迷子になって、大事な人達に気づけず、ずっと彷徨ってるんかとか想像したら怖いやん。
 ちゃんと、帰れたらええな…ううん、帰したるから、泣かんでええんよ…。

「………ぅ、ヴィー…ダー…さ…ん…っも、泣いたり…するんです…ね?」

「…っ!バカ野郎!!!!」

 笑わせようと軽口頑張って叩いてみたんやけど、ダメやったかーといつもの調子の罵声を浴びながらも安心して笑ってまう。
 どうなったかは分からんけど、一応二人共生きてるみたいやな。

「状…きょう…は?どう、なりました…?」

「ダイチの結界で直撃は免れたが、その後は衝撃波で随分吹き飛ばされた。敵はまだ生きてやがるが…それよりも先に自分の傷を治せ!」

 どうやら俺らの周囲に再展開した【無敵の盾】が間に合ったようやが、意識が吹っ飛んだせいで解除されたんか完璧にガードが出来んかったらしい。
 冷静に分析してるとヴィーダーさんの指摘に薄いながらも体中に痛みと何故か冷たい感覚がある事に気づいた。
 傷つき難いし体力無限といっても攻撃によっては負傷するんかとか、体が冷たいんはなんでやとか、偉い吹っ飛んだ割には痛み少なくて良かったとか色々思う所はあるけど、ヴィーダ-さんの慌てっぷりに直ぐに【癒しの光】を使った。
 回復したら目も開けられるようになって、目の前で俺を抱えて覗き込んでるヴィーダ-さんもあちこち怪我して血が出てるし、八脚馬スレイプニルの高度もかなり低くて動きもおかしいように感じたんで範囲を広げてもう一度スキルを発動させる。

「…ありがとう、助かった。」

「どう致しまして。」

 以前に教えた礼の言葉を返されて思わず和んだんやが、ぼんやりしてる場合やない。
 こっちで【無敵の盾】を使ったし意識も吹っ飛んだんで完全に皆の防御が無くなってて危険な上にフォルクがそのまま戦ってるかもしれへん。

「戻りましょう!ヴィーダ-さん!」

「ああ!」

 復活した八脚馬スレイプニルを急いで方向転換させて貰って敵と戦ってた場所目指して駆け出す。
 恐らく、数百メートルは飛ばされたんかかなり距離があって【遠見】で様子を先に見ながら急いで距離を詰めてるんやが、やっぱりフォルクは最初の勢い取り戻して近接戦闘してるし、おまけにウィプキングさんがそれに参戦してた。
 八脚馬スレイプニルを上手く操りながら城で見たサーベルに自分の魔法を付与してるんか細身の刀身からは想像つかん重たい一撃を何度も食らわせてる。
 しかも、『獅子の咆哮』の皆まで魔法や打撃を隙あらば入れてて、確実に土竜もぐらは瀕死に近づいてるけど、それやからこそあかんのに誰一人として手を止めへん。

「皆、攻撃を止めてくれーーーーーー!!!!!!!!!!」

 今になって皆が皆、決意を固めてたんかと知ることになって、同時にそんな皆を守れてない不甲斐なさに涙が出そうになる。
 どんどんと距離が近づく中、どうしたら敵を確実に倒して危ない状態の仲間を助けられるんやと考え、霧散し、それでも考えて思い出す。
 こんな時にって思うような出来事とこんな時やからって思う出来事と、出会いに、感謝した。

「俺にはそんな趣味ないって先に言っときますね!」

「ダイチ?」

 魔法はイメージが大切!カイ様、ベツァオさん!二人の趣味がまさかこんな所で役に立つと思ってませんでした!
 脳内で失礼な事を想像しながらも【緑魔法】を意識して、土竜もぐらへと向ける。
 発動したのは命名すれば【緑の緊縛グリーンボンデージ】かな!
 言葉通り、頑丈な蔓が魔法によって幾つも生成され、ベツァオさんが使う鞭のような滑らかな動きで巨体を瞬く間に縛り上げて行く。
 突然の出来事に皆は驚きつつも俺が復活して魔法を使ってるって気づいてくれたんか、攻撃が止み、弱りながらも抜け出そうとする土竜もぐらを的確に拘束した後は更にイメージを広げる。

 想像したのはウィプキングさんとヴィーダ-さん。

「これで終いや!」

 ウィプキングさんは滅び行く国を嘆いてた、ヴィーダーさんは教えてくれた。

『本当はもっと色んな花がこの国にはあった。』

 その言葉が脳裏に浮かび、俺は全力でイメージが実現するように魔力を放出する。
 すると、敵を中心に砂に浮かび上がる緑の魔法陣。
 その範囲はどこまでもどこまでも広がり続け、叶うならば『土の国』全域を覆ってしまえばええな。
 そんな夢想をしながらも確実に狙うは敵の存在。
 創造した魔法の効力でHPを吸い上げ、溢れてくる黒い呪いは片っ端から【浄化】して行く。
 上手く行くかは全く分からんけど、これが自分らしい戦い方の一つやないかと思いつつ淡い光に包まれるまま敵の最期を願って見送った。
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