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2章
49.「ベツァオの酒場」
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案内されるまま着いて行ったベツァオさんの店は酒場街の奥の方に位置してた。
てっきり賑わいそうな中心地付近にあるんかなって思ってたんやが、界隈の手前になる程小さい店、奥になる程大きい店って感じらしい。
んで、まぁ…安っぽい店ではないやろなって予想はしてたけど、門前からボーイ兼ボディガードみたいな黒のスーツ着た逞しい犬獣人さんが二人立ってて、ベツァオさん見るなり綺麗な礼を取った。
「これはベツァオ様、ようこそお越し下さいました。ご来訪の旨は承っておりませんでしたが…知らせて頂けましたら直ぐにお迎えに参りましたのに。お疲れではございませんか?」
向かって右側におった短毛種っぽい犬獣人さんが心配そうにベツァオさんを気遣いつつも、主人に会えたのが嬉しいって感じで背後で尻尾を揺らしてたら彼女は笑ってから首を振る。
「本当に急でしたし、大丈夫ですわ。余り可愛いらしい仕草を見せないで下さいな?ムラムラしてしまいます。」
ちょっと慣れて来たけどベツァオさんの通常運行に獣人のおにーさんの尻尾が更に左右に揺れて人の顔の部分に赤みが指すんで正直、俺も可愛いらしい人やなと思ってもうた。
「お戯れを…。」
「あらあら、戯れかどうか試してみます?」
機嫌がええんかクスクスと笑いながらベツァオさんが煽り出したんで、後は若い二人に任せてってした方がええかとヴィーダーさんの方見ようとしたら左側の長毛種っぽい犬獣人さんが咳払いした。
「ベツァオ様。お戯れも宜しいのですが、そちらの方々はお客人では?先にご案内をさせて頂いた方が宜しいかとお見受け致します。」
「あら、そうでしたわ。私利私欲に走ってしまい申し訳ありません。さ、一番良い席に案内致しますね、どうぞお入り下さいませ。」
我に返ったベツァオさんが促してくれた方のボーイさんに先導させながら黒塗りで立派な作りした両開きの扉を開いて入ったエントランスホールは豪華やった。
天井にはシャンデリアのような魔道具の照明器具が吊るされてて、それを中心に左右に半円形のお城にでもありそうな白い階段が設置され黒い質の良い絨毯が敷かれてる。
更に柱も昔の神殿にあるような少し凝ったデザインで観賞用に西洋風の甲冑鎧や絵画、花は飾られてないが色や模様で趣向を施した花瓶が台座にバランス良く配置されてた。
「一階の奥は一般のお客様に開放させて頂いておりまして、特別な方は二階席に上がって頂いておりますの。ですからどうぞ、二階の方にお進み下さい。」
一般は一般でもどの程度なんかな…と、脳内で目算しつつも後に続いて二階に上がると落ち着いた色合いの照明に派手過ぎない銀色の天井、壁はダークグレー系で木目のような模様が装飾されてて此処にも絵画や額に入った鏡が飾られてる。
テーブルは艶のある濃い茶色でソファーは革張りの黒が基本やねんけど奥にベールみたいな素材のカーテンで仕切られてる席は白いソファーにテーブル、壁には高そうな酒瓶がびっしり並んでてミニカウンターみたいなんもあってと特別感があった。
「もしかして、あの席ですか?」
「ええ、少し少女趣味かもしれませんがゆっくりと話も出来ますし、どうぞお入りになって下さいませ。」
少女趣味と言うより家具の形も格好良いんで洗練された大人のおねーさんて感じがするのは気のせいか?
首を傾げつつも促されて奥のソファーに腰を下ろすと右横にヴィーダーさん左横にベツァオさんが座って懐かしい両手に花状態になった気がする。
そして、酒の好みを聞かれたんで、なんでも基本飲めますよって言ったら雰囲気によらずお強いのですかと驚かれつつお勧めの飲み口がソフト…てか、なんか薄桃色の可愛いお酒をカクテルグラスみたいなんで出されて困惑した。
ツッコんだら好みの男性が可愛いお酒を飲んでますと胸がキュンキュンして呼吸が荒くなって幸せですのって言われたんで、『萌え』って言葉を伝授しといた。
んで、酒やら料理を運んで来てくれて一通り準備して立ち去ろうとした長毛の獣人のおにーさんに大人のお店ではチップを渡した方がええってウィプキング先生に教わってたんで、アイテム袋から日本円で一万ぐらいの価値がある金貨一枚出して渡したら両サイドの二人に色んな意味で驚かれつつも漸く落ち着けたんで気になってた話をする事にした。
「ベツァオさんて、なんでこんなに良くしてくれるんです?」
行動は斜め上な所があるけど総評して好意的に接してくれるんで不思議に思ってたら嬉しそうに目を細めて笑ってくれる。
「それはもう、ダイチ様に下心があるのも勿論ですが…恩人のウィプキング様を助けて頂いたと話を伺いましたのでお礼でもありますの。」
「…恩人?」
「ええ、恥ずかしながら私も幼い頃に奴隷のように扱われていた時期がございました。その時に助けて下さったのがウィプキング様で、色々と面倒を見て下さって今の私がございます。それを恩人と言わずになんと呼ぶのでしょうか。」
「ベツァオさんも助けられたって…もしかして、クレーさんの他にウィプキングさんが自分のとこに攫って来たのってベツァオさんなんですか?」
少し辻褄が合わん気もするが何か関係性がありそうで聞いた瞬間、ベツァオさんは目を見開いてから口元を緩やかに歪めると心底可笑しそうに笑い出した。
「うふふふふふ、宜しいですわ…ダイチ様。実に皮肉で滑稽な質問です。残念ながら手元、あの方の最も近くに呼ばれたのは私ではありません、本当に残念な事ではありますが…私にその資格はないのです。」
「資格…?」
「そうですわ、物事には決まりがあるのです…本当にバカバカしい限りなのですが…。」
笑ってはいるけど明らかに小馬鹿にしたような刺のある言い方をしてから、それ以上は話す気がないんか気分を切り替えるように両手を軽く打ち鳴らしたベツァオさんはこっちに身を乗り出して来た。
「さて、そんな事より私はヴィーダーとダイチ様が何処まで進展しているか聞きたいですわ。正直、今までダイチ様のようなタイプが相手というのは珍しいですし…不思議で仕方ありませんの。もしかして、ヴィーダーが頭でも強く打ったのか…もしくは、見かけに寄らずダイチ様のあっちの方が凄いのか興味津津ですわ!」
うん、頭を強く打ったのは俺の方やし、ヴィーダーさんみたいな手練を陥落するような必殺技は持ち合わせてないってか、んなもんあったら俺が知りたいわ!
てな、雑念は置いといて、とりあえヴィーダーさんが変わった経緯話して良いかって聞いたらめっちゃ渋い顔されたけど一先ず頷いてくれたんで教えて、そういう関係…肉体関係と技が無いことも一応申告しとく。
するとベツァオさんは途中から口ポカーンと開けて聞き入ってくれ、考え込むように胸の下で両腕組んで下を向いたと思ったら一度大きく頷いて顔を上げる。
「それは本当に喜ばしい事ですわ。ヴィーダーの所業は目に余る所がありましたし、それに…そうなれば…そういう事ですものね、ああ!これはもう辛抱堪らんですわ!」
「何がです!?」
急に鼻息荒く興奮し出した上に更にベツァオさんが俺の方に身を乗り出して体をくっつけて来たんでまた!あの我が儘ボディの攻撃を受けてまう!
本人は気にしてないみたいやけど男としてもちもちフニフニのお胸様の刺激は精神衛生上宜しくないってか、人生は最早コメディと思ってる能天気な俺の野生がぁあああ!!!!て、慌ててるのにベツァオさんが気づく訳もなくぐいぐいと話を進めて来る!
「ダイチ様とヴィーダーは恋人関係ではないのですよね!?」
「…ええまあ、そうですけど…それより、近い…」
「でしたら…どうでしょうか?私のような女は?」
「は?」
やんわりと離れてくれんかと両手で肩を押し返そうとしたら至近距離で縋るように見つめられて一瞬、言われた意味が分からず静止した。
「私と恋人になっては下さいませんか?」
畳み掛けるように続けられて漸く内容を理解したが余りにも突飛な話で言葉が出てこん。
つまり今、俺はベツァオさんに告白されてるんやでなってか…もう今後人生で告白なんてされると思わんかったってか、いやいや、なんでいきなりこんな流れになってるん?
少なくともそんな色っぽい空気やなかったと思うんやけど!?
「いや、待って下さい…俺ら出会って間もないですし、急過ぎるってかどうしたんですか!?」
「急で無ければ宜しいのですか?それでは、私もこれからの旅に同行して自分の事を知って頂き、ダイチ様の事をもっともっと知って行きますわ。それでどうでしょうか?」
どうでしょうかって…確かに傍におって接してる内に好きになる事もあるかもしれんが、何かが違うようなってか、今、俺は救済の旅の途中やし正直そんな艶っぽい方向にきゃっきゃうふふしててええんやろうか?
それにやっぱり何を置いてもフォルクの姿がチラついて…と、難しい顔しながら考え込んでたらベツァオさんが寂しそうに視線を下げた。
「やはり、こんな商売やあんな商売をしている女はお嫌いですか?何でしたら商売もたたんで、ダイチ様がお嫌でしたらあっちの趣味も出さないように致します…。」
『あんな商売』とか『あっちの趣味』に深くツッコむべきかとチラついたが俺の為(?)にベツァオさんの個性を潰すような事はあかんやろ!
「そこまでして貰わんでも良いです。けど…」
「では、少しは見込みがあるのでしょうか!?どうか、考えてみるだけでもお願い致します!」
「ええと、じゃあ…とりあえず…考え‥んぐっ」
断ろうとしたんやが余りに必死な姿に絆されたのもあって良い返事は出来ひんが、少し落ち着いて貰う為にも考えるだけ考えるかなと思って口を開きかけたらめっちゃ強い力で横手から口を塞がれた。
「やめろ…。」
静かやなとは思ってたが一言呟いたヴィーダーさんの声はそれはもう殺気に満ち満ちてて背筋がヒヤッとする。
それやのにベツァオさんが不快げに眉を寄せてヴィーダーさんを睨みつけた。
「なんですの、ヴィーダー?関係ないのだから邪魔しないで下さる?」
「………。」
言葉に詰まってるようで反論はしてないが睨み合ってるし、いつの間にか腰に腕が回ってて抱き寄せられる。
「ダイチ様の事は別に好きではないのでしょう?」
「…それは…」
「なんでも簡単に捨ててしまえる貴方が…人を心から思う事など結局は出来ないのよ。身の程を弁えたらどうですの?」
戸惑ってるヴィーダーさんを他所にベツァオさんが攻撃的な言葉を並べるんで困惑する。
この二人もなんだかんだ気心知れてて仲が良いんかと思ってたのに、なんでそんな風に言うんや?
「…違う…。」
「違いませんわ、貴方は気づいていないだけで沢山のモノを捨てているの。それがどれだけ周囲を傷つけているか…ダイチ様も結局いらなくなって捨てるんでしょう?ですから…私が貰って大切に…」
「やめろっ!!!!」
吠えるように叫んだヴィーダーさんは俺の体を更に強く抱き込んだんやが、指先に必要以上に力が入り小刻みに震えてて様子が明らかにおかしい。
「やめろ…オレは、捨てたかったんじゃ…ない…こいつも…捨て…ない…っ…」
絞り出すような声で告げられた言葉を聞いたベツァオさんは何処か悲しそうに、でも、満足そうに薄く笑ってから視線を下げると口元に手を当てて笑い出した。
「うふふ…まるで、子供みたいですわね?そんなに大事ならさっさと自分のモノにしてしまえば良いのに、お馬鹿なヴィーダー。」
顔を上げ妖艶に笑って言われた言葉は普段のベツァオさんらしくて、漸く喧嘩も終わったんかと安堵するばかりで、まさかその後、その言葉に悩まされる事になるとは思いもよらんかった。
あの後、微妙な空気になったんでそこそこに退席して帰路に着く事にした。
因みに料金はサービス出来んかったしとベツァオさんが持ってくれてチップ以外は無料なんで申し訳ないながらもヒヤヒヤさせられたんで甘えさせて貰った。
只、問題なんはヴィーダーさんの機嫌が明らかにおかしいってか道中ずっと手を握られて早歩きで先導されてと現在進行形で困ってる。
もう、フォルクも様子がおかしいし、レオも心配やし、不穏な話聞いたばっかでヴィーダーさんも心配やったのに…新たな問題を生み出すのはやめてくれー!
とりあえず、ベツァオさんの告白は丁寧に腹いせに断って来たってか「そうですか、フラれてしまいましたわ~よよよ。」と、ノーダメージっぽかったんでこっちがダメージ食らった…なんなんほんま、弄られただけなんか?とか、物思いに耽ってたらいつの間にか人通りのない路地裏に入っててヴィーダーさんが止まってこっちを見てた。
「どうしたんです?」
「…ベツァオは、断って良かったのか?」
「あ、さっきの話ですか。正直な所、今はそれどころやないし…ベツァオさんをそういう風に見て無かったのと…それになんか、遊ばれたような気が全力でするんですよね。」
「遊ばれた?」
「ベツァオさんてもっとこう…狙った獲物は確実に罠に誘導するってか、余りにも急すぎるし…様子も変かなって。」
「そういえば…そうだな。少し、あいつは狸じじいと似てる所があるし…。」
なるほど。確かにウィプキングさんを慕ってるし、面倒も見て貰ってたって事は何かしらの影響は受けてるよなと納得してたらヴィーダーさんが一歩距離を詰めて来てた。
「どうしました、ヴィーダーさん?」
「…なぁ、なんでお前は人に好かれるんだ?」
「…えと、そんな好かれてるかは分かりませんが、少なくとも俺は人とか動物…生き物は好きなんで、好きやから好いて貰えてたら嬉しいとは思いますよ。」
人に好まれるかはあくまで客観的やし自分では分かり難いなぁと首を傾げつつ、自分がどうかと問われれば敵意とか悪意向けられん限りは基本的に生物は好ましいなと思って告げたら眉間に皺を寄せながらもヴィーダーさんが呟く。
「好きだから…好かれるか…。」
「多分ですけど、嫌ってたら態度に出ますし、好きになって貰える確率は低くなるんやないですかね?好きになって欲しいなら好きですよってアピールした方が早いと思います。」
まぁ、アピールするにも距離感とかタイミング、方法とか細かい所も大事やからヴィーダーさんはその辺も理解した方がええやろうかと考え、補足しようとして見上げたらじっと見つめ返されてて、その眼差しが随分優しく感じられるんで出会った時とは偉い違いやなと目を細めた。
「ヴィーダーさん…本当に変わりましたよね。今、めっちゃ良い顔してますよ。」
「お前のせいでな、…ダイチ…。」
笑って言ったら薄く笑い返されて不意に名前を呼ばれたんで驚いた。
だって今まで『お前』呼びが殆どやったんで下手したら別れるまでこのままかなと思ってたらいきなり呼び捨てとか不意打ち過ぎるやろ!
「…めっちゃ、ビックリしました。初めてですよね?名前呼んでくれたの…。」
「そうだな…呼びたくなった。不思議だが、お前の名前は好ましいと思う…。」
「ヴィーダーさん…ヴィーダーシュプルフもええ名前やと思いますよ。」
「そうか…ダイチが言うならそうなんだろうな。」
嬉しそうに同意してくれてこそばいなと思ってたらヴィーダーさんが表情を引き締めて溜息のような一呼吸の後に両肩を掴んで来る。
なんやと思った瞬間に背中が建物の壁に押し付けられてて、 痛くはないけど、なんか雰囲気が怒ってるような戸惑ってるようなで瞳も揺れて見えて落ち着かん。
「ヴィーダーさん、大丈夫ですか…?」
「ダイチ…教えて欲しい…。」
「…何をです?」
辛そうな表情に教えられる事やったら答えようと訪ねたんやが、ヴィーダーさんは何か言葉にしようとして止めてを数回繰り返してから薄く口元を引き上げた。
どうしたんかと首を傾けたら手早く顎先を指で掬われて少し上向かされる。
疑問を持つ前に顔が近づいて来て柔らかい感触とチクりと…髭が触れたんかなって思考が働いた所で、キスされてるんやと気がついた。
てっきり賑わいそうな中心地付近にあるんかなって思ってたんやが、界隈の手前になる程小さい店、奥になる程大きい店って感じらしい。
んで、まぁ…安っぽい店ではないやろなって予想はしてたけど、門前からボーイ兼ボディガードみたいな黒のスーツ着た逞しい犬獣人さんが二人立ってて、ベツァオさん見るなり綺麗な礼を取った。
「これはベツァオ様、ようこそお越し下さいました。ご来訪の旨は承っておりませんでしたが…知らせて頂けましたら直ぐにお迎えに参りましたのに。お疲れではございませんか?」
向かって右側におった短毛種っぽい犬獣人さんが心配そうにベツァオさんを気遣いつつも、主人に会えたのが嬉しいって感じで背後で尻尾を揺らしてたら彼女は笑ってから首を振る。
「本当に急でしたし、大丈夫ですわ。余り可愛いらしい仕草を見せないで下さいな?ムラムラしてしまいます。」
ちょっと慣れて来たけどベツァオさんの通常運行に獣人のおにーさんの尻尾が更に左右に揺れて人の顔の部分に赤みが指すんで正直、俺も可愛いらしい人やなと思ってもうた。
「お戯れを…。」
「あらあら、戯れかどうか試してみます?」
機嫌がええんかクスクスと笑いながらベツァオさんが煽り出したんで、後は若い二人に任せてってした方がええかとヴィーダーさんの方見ようとしたら左側の長毛種っぽい犬獣人さんが咳払いした。
「ベツァオ様。お戯れも宜しいのですが、そちらの方々はお客人では?先にご案内をさせて頂いた方が宜しいかとお見受け致します。」
「あら、そうでしたわ。私利私欲に走ってしまい申し訳ありません。さ、一番良い席に案内致しますね、どうぞお入り下さいませ。」
我に返ったベツァオさんが促してくれた方のボーイさんに先導させながら黒塗りで立派な作りした両開きの扉を開いて入ったエントランスホールは豪華やった。
天井にはシャンデリアのような魔道具の照明器具が吊るされてて、それを中心に左右に半円形のお城にでもありそうな白い階段が設置され黒い質の良い絨毯が敷かれてる。
更に柱も昔の神殿にあるような少し凝ったデザインで観賞用に西洋風の甲冑鎧や絵画、花は飾られてないが色や模様で趣向を施した花瓶が台座にバランス良く配置されてた。
「一階の奥は一般のお客様に開放させて頂いておりまして、特別な方は二階席に上がって頂いておりますの。ですからどうぞ、二階の方にお進み下さい。」
一般は一般でもどの程度なんかな…と、脳内で目算しつつも後に続いて二階に上がると落ち着いた色合いの照明に派手過ぎない銀色の天井、壁はダークグレー系で木目のような模様が装飾されてて此処にも絵画や額に入った鏡が飾られてる。
テーブルは艶のある濃い茶色でソファーは革張りの黒が基本やねんけど奥にベールみたいな素材のカーテンで仕切られてる席は白いソファーにテーブル、壁には高そうな酒瓶がびっしり並んでてミニカウンターみたいなんもあってと特別感があった。
「もしかして、あの席ですか?」
「ええ、少し少女趣味かもしれませんがゆっくりと話も出来ますし、どうぞお入りになって下さいませ。」
少女趣味と言うより家具の形も格好良いんで洗練された大人のおねーさんて感じがするのは気のせいか?
首を傾げつつも促されて奥のソファーに腰を下ろすと右横にヴィーダーさん左横にベツァオさんが座って懐かしい両手に花状態になった気がする。
そして、酒の好みを聞かれたんで、なんでも基本飲めますよって言ったら雰囲気によらずお強いのですかと驚かれつつお勧めの飲み口がソフト…てか、なんか薄桃色の可愛いお酒をカクテルグラスみたいなんで出されて困惑した。
ツッコんだら好みの男性が可愛いお酒を飲んでますと胸がキュンキュンして呼吸が荒くなって幸せですのって言われたんで、『萌え』って言葉を伝授しといた。
んで、酒やら料理を運んで来てくれて一通り準備して立ち去ろうとした長毛の獣人のおにーさんに大人のお店ではチップを渡した方がええってウィプキング先生に教わってたんで、アイテム袋から日本円で一万ぐらいの価値がある金貨一枚出して渡したら両サイドの二人に色んな意味で驚かれつつも漸く落ち着けたんで気になってた話をする事にした。
「ベツァオさんて、なんでこんなに良くしてくれるんです?」
行動は斜め上な所があるけど総評して好意的に接してくれるんで不思議に思ってたら嬉しそうに目を細めて笑ってくれる。
「それはもう、ダイチ様に下心があるのも勿論ですが…恩人のウィプキング様を助けて頂いたと話を伺いましたのでお礼でもありますの。」
「…恩人?」
「ええ、恥ずかしながら私も幼い頃に奴隷のように扱われていた時期がございました。その時に助けて下さったのがウィプキング様で、色々と面倒を見て下さって今の私がございます。それを恩人と言わずになんと呼ぶのでしょうか。」
「ベツァオさんも助けられたって…もしかして、クレーさんの他にウィプキングさんが自分のとこに攫って来たのってベツァオさんなんですか?」
少し辻褄が合わん気もするが何か関係性がありそうで聞いた瞬間、ベツァオさんは目を見開いてから口元を緩やかに歪めると心底可笑しそうに笑い出した。
「うふふふふふ、宜しいですわ…ダイチ様。実に皮肉で滑稽な質問です。残念ながら手元、あの方の最も近くに呼ばれたのは私ではありません、本当に残念な事ではありますが…私にその資格はないのです。」
「資格…?」
「そうですわ、物事には決まりがあるのです…本当にバカバカしい限りなのですが…。」
笑ってはいるけど明らかに小馬鹿にしたような刺のある言い方をしてから、それ以上は話す気がないんか気分を切り替えるように両手を軽く打ち鳴らしたベツァオさんはこっちに身を乗り出して来た。
「さて、そんな事より私はヴィーダーとダイチ様が何処まで進展しているか聞きたいですわ。正直、今までダイチ様のようなタイプが相手というのは珍しいですし…不思議で仕方ありませんの。もしかして、ヴィーダーが頭でも強く打ったのか…もしくは、見かけに寄らずダイチ様のあっちの方が凄いのか興味津津ですわ!」
うん、頭を強く打ったのは俺の方やし、ヴィーダーさんみたいな手練を陥落するような必殺技は持ち合わせてないってか、んなもんあったら俺が知りたいわ!
てな、雑念は置いといて、とりあえヴィーダーさんが変わった経緯話して良いかって聞いたらめっちゃ渋い顔されたけど一先ず頷いてくれたんで教えて、そういう関係…肉体関係と技が無いことも一応申告しとく。
するとベツァオさんは途中から口ポカーンと開けて聞き入ってくれ、考え込むように胸の下で両腕組んで下を向いたと思ったら一度大きく頷いて顔を上げる。
「それは本当に喜ばしい事ですわ。ヴィーダーの所業は目に余る所がありましたし、それに…そうなれば…そういう事ですものね、ああ!これはもう辛抱堪らんですわ!」
「何がです!?」
急に鼻息荒く興奮し出した上に更にベツァオさんが俺の方に身を乗り出して体をくっつけて来たんでまた!あの我が儘ボディの攻撃を受けてまう!
本人は気にしてないみたいやけど男としてもちもちフニフニのお胸様の刺激は精神衛生上宜しくないってか、人生は最早コメディと思ってる能天気な俺の野生がぁあああ!!!!て、慌ててるのにベツァオさんが気づく訳もなくぐいぐいと話を進めて来る!
「ダイチ様とヴィーダーは恋人関係ではないのですよね!?」
「…ええまあ、そうですけど…それより、近い…」
「でしたら…どうでしょうか?私のような女は?」
「は?」
やんわりと離れてくれんかと両手で肩を押し返そうとしたら至近距離で縋るように見つめられて一瞬、言われた意味が分からず静止した。
「私と恋人になっては下さいませんか?」
畳み掛けるように続けられて漸く内容を理解したが余りにも突飛な話で言葉が出てこん。
つまり今、俺はベツァオさんに告白されてるんやでなってか…もう今後人生で告白なんてされると思わんかったってか、いやいや、なんでいきなりこんな流れになってるん?
少なくともそんな色っぽい空気やなかったと思うんやけど!?
「いや、待って下さい…俺ら出会って間もないですし、急過ぎるってかどうしたんですか!?」
「急で無ければ宜しいのですか?それでは、私もこれからの旅に同行して自分の事を知って頂き、ダイチ様の事をもっともっと知って行きますわ。それでどうでしょうか?」
どうでしょうかって…確かに傍におって接してる内に好きになる事もあるかもしれんが、何かが違うようなってか、今、俺は救済の旅の途中やし正直そんな艶っぽい方向にきゃっきゃうふふしててええんやろうか?
それにやっぱり何を置いてもフォルクの姿がチラついて…と、難しい顔しながら考え込んでたらベツァオさんが寂しそうに視線を下げた。
「やはり、こんな商売やあんな商売をしている女はお嫌いですか?何でしたら商売もたたんで、ダイチ様がお嫌でしたらあっちの趣味も出さないように致します…。」
『あんな商売』とか『あっちの趣味』に深くツッコむべきかとチラついたが俺の為(?)にベツァオさんの個性を潰すような事はあかんやろ!
「そこまでして貰わんでも良いです。けど…」
「では、少しは見込みがあるのでしょうか!?どうか、考えてみるだけでもお願い致します!」
「ええと、じゃあ…とりあえず…考え‥んぐっ」
断ろうとしたんやが余りに必死な姿に絆されたのもあって良い返事は出来ひんが、少し落ち着いて貰う為にも考えるだけ考えるかなと思って口を開きかけたらめっちゃ強い力で横手から口を塞がれた。
「やめろ…。」
静かやなとは思ってたが一言呟いたヴィーダーさんの声はそれはもう殺気に満ち満ちてて背筋がヒヤッとする。
それやのにベツァオさんが不快げに眉を寄せてヴィーダーさんを睨みつけた。
「なんですの、ヴィーダー?関係ないのだから邪魔しないで下さる?」
「………。」
言葉に詰まってるようで反論はしてないが睨み合ってるし、いつの間にか腰に腕が回ってて抱き寄せられる。
「ダイチ様の事は別に好きではないのでしょう?」
「…それは…」
「なんでも簡単に捨ててしまえる貴方が…人を心から思う事など結局は出来ないのよ。身の程を弁えたらどうですの?」
戸惑ってるヴィーダーさんを他所にベツァオさんが攻撃的な言葉を並べるんで困惑する。
この二人もなんだかんだ気心知れてて仲が良いんかと思ってたのに、なんでそんな風に言うんや?
「…違う…。」
「違いませんわ、貴方は気づいていないだけで沢山のモノを捨てているの。それがどれだけ周囲を傷つけているか…ダイチ様も結局いらなくなって捨てるんでしょう?ですから…私が貰って大切に…」
「やめろっ!!!!」
吠えるように叫んだヴィーダーさんは俺の体を更に強く抱き込んだんやが、指先に必要以上に力が入り小刻みに震えてて様子が明らかにおかしい。
「やめろ…オレは、捨てたかったんじゃ…ない…こいつも…捨て…ない…っ…」
絞り出すような声で告げられた言葉を聞いたベツァオさんは何処か悲しそうに、でも、満足そうに薄く笑ってから視線を下げると口元に手を当てて笑い出した。
「うふふ…まるで、子供みたいですわね?そんなに大事ならさっさと自分のモノにしてしまえば良いのに、お馬鹿なヴィーダー。」
顔を上げ妖艶に笑って言われた言葉は普段のベツァオさんらしくて、漸く喧嘩も終わったんかと安堵するばかりで、まさかその後、その言葉に悩まされる事になるとは思いもよらんかった。
あの後、微妙な空気になったんでそこそこに退席して帰路に着く事にした。
因みに料金はサービス出来んかったしとベツァオさんが持ってくれてチップ以外は無料なんで申し訳ないながらもヒヤヒヤさせられたんで甘えさせて貰った。
只、問題なんはヴィーダーさんの機嫌が明らかにおかしいってか道中ずっと手を握られて早歩きで先導されてと現在進行形で困ってる。
もう、フォルクも様子がおかしいし、レオも心配やし、不穏な話聞いたばっかでヴィーダーさんも心配やったのに…新たな問題を生み出すのはやめてくれー!
とりあえず、ベツァオさんの告白は丁寧に腹いせに断って来たってか「そうですか、フラれてしまいましたわ~よよよ。」と、ノーダメージっぽかったんでこっちがダメージ食らった…なんなんほんま、弄られただけなんか?とか、物思いに耽ってたらいつの間にか人通りのない路地裏に入っててヴィーダーさんが止まってこっちを見てた。
「どうしたんです?」
「…ベツァオは、断って良かったのか?」
「あ、さっきの話ですか。正直な所、今はそれどころやないし…ベツァオさんをそういう風に見て無かったのと…それになんか、遊ばれたような気が全力でするんですよね。」
「遊ばれた?」
「ベツァオさんてもっとこう…狙った獲物は確実に罠に誘導するってか、余りにも急すぎるし…様子も変かなって。」
「そういえば…そうだな。少し、あいつは狸じじいと似てる所があるし…。」
なるほど。確かにウィプキングさんを慕ってるし、面倒も見て貰ってたって事は何かしらの影響は受けてるよなと納得してたらヴィーダーさんが一歩距離を詰めて来てた。
「どうしました、ヴィーダーさん?」
「…なぁ、なんでお前は人に好かれるんだ?」
「…えと、そんな好かれてるかは分かりませんが、少なくとも俺は人とか動物…生き物は好きなんで、好きやから好いて貰えてたら嬉しいとは思いますよ。」
人に好まれるかはあくまで客観的やし自分では分かり難いなぁと首を傾げつつ、自分がどうかと問われれば敵意とか悪意向けられん限りは基本的に生物は好ましいなと思って告げたら眉間に皺を寄せながらもヴィーダーさんが呟く。
「好きだから…好かれるか…。」
「多分ですけど、嫌ってたら態度に出ますし、好きになって貰える確率は低くなるんやないですかね?好きになって欲しいなら好きですよってアピールした方が早いと思います。」
まぁ、アピールするにも距離感とかタイミング、方法とか細かい所も大事やからヴィーダーさんはその辺も理解した方がええやろうかと考え、補足しようとして見上げたらじっと見つめ返されてて、その眼差しが随分優しく感じられるんで出会った時とは偉い違いやなと目を細めた。
「ヴィーダーさん…本当に変わりましたよね。今、めっちゃ良い顔してますよ。」
「お前のせいでな、…ダイチ…。」
笑って言ったら薄く笑い返されて不意に名前を呼ばれたんで驚いた。
だって今まで『お前』呼びが殆どやったんで下手したら別れるまでこのままかなと思ってたらいきなり呼び捨てとか不意打ち過ぎるやろ!
「…めっちゃ、ビックリしました。初めてですよね?名前呼んでくれたの…。」
「そうだな…呼びたくなった。不思議だが、お前の名前は好ましいと思う…。」
「ヴィーダーさん…ヴィーダーシュプルフもええ名前やと思いますよ。」
「そうか…ダイチが言うならそうなんだろうな。」
嬉しそうに同意してくれてこそばいなと思ってたらヴィーダーさんが表情を引き締めて溜息のような一呼吸の後に両肩を掴んで来る。
なんやと思った瞬間に背中が建物の壁に押し付けられてて、 痛くはないけど、なんか雰囲気が怒ってるような戸惑ってるようなで瞳も揺れて見えて落ち着かん。
「ヴィーダーさん、大丈夫ですか…?」
「ダイチ…教えて欲しい…。」
「…何をです?」
辛そうな表情に教えられる事やったら答えようと訪ねたんやが、ヴィーダーさんは何か言葉にしようとして止めてを数回繰り返してから薄く口元を引き上げた。
どうしたんかと首を傾けたら手早く顎先を指で掬われて少し上向かされる。
疑問を持つ前に顔が近づいて来て柔らかい感触とチクりと…髭が触れたんかなって思考が働いた所で、キスされてるんやと気がついた。
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新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
溺愛お義兄様を卒業しようと思ったら、、、
ShoTaro
BL
僕・テオドールは、6歳の時にロックス公爵家に引き取られた。
そこから始まった兄・レオナルドの溺愛。
元々貴族ではなく、ただの庶子であるテオドールは、15歳となり、成人まで残すところ一年。独り立ちする計画を立てていた。
兄からの卒業。
レオナルドはそんなことを許すはずもなく、、
全4話で1日1話更新します。
R-18も多少入りますが、最後の1話のみです。
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