呪われた騎士と関西人

ゆ吉

文字の大きさ
上 下
45 / 93
2章

45.「王都を目指し」

しおりを挟む
 小さい頃の夢を見てた。
 お母ちゃんの布団に潜り込んだり、お父ちゃんの昼寝にお邪魔したり、兄ちゃんとくっついて寝たり、野球中継見てるじいちゃんの隣でごろごろしたり、ばあちゃんと寝る時に歌ったり、太郎ちゃんと一緒に布団被ったり、しゃあなしでおじちゃんに添い寝したりと…なんか夢の中で寝てばっかやなと思って目を開けたら目の前に人がおってビックリした。

 多分、人肌や体温を感じてそんな夢見たんかと寝呆け半分の頭で納得しつつ周囲の状況を確認したんやが、左側にヴィーダーさん、右側にマハトさんが寝てて軽く混乱する。
 確か昨日は治療の後に話してて…途中で珍しく寝落ちてもうたんかと思い出し、その後が全く分からんてか…そもそもここは何処やねん!?

 しっかりした造りの木組みと、やけに天井も高くて幅も大きい部屋やし寝てるベッドもキングサイズは余裕であって『宿屋』にしては違和感があるなと体起こそうとしたら両サイドからガシッと腕や腰を掴まれた。

「ぬあっ!?」

 ニ人共息ピッタリ過ぎるし起きてるんかなと思ったらどっちもまだ寝息立ててるんで、野生の感ですか…そうですか…と空恐ろしさを感じる。
 仕方ないんでゆっくりしよか…と思って窓から差し込む日の光りを見たら、すっかり明るくなって来てる事に戦慄した。

「やばい!!!ニ人共起きて下さい!今日、朝には出発するんやないですか!?」

 時間は詳しく聞いて無かったけど、どう考えても昼に出発とかは無いと思うし、急いだ方がええと思ってニ人の腕に両腕伸ばして揺さぶったら起きてくれた。

「もう…朝…ですか?」

「…飲みすぎた…。」

「飲んでたんですか!?と言うかここ何処です?宿屋に戻らんと…。」

 よくよく見れば酒瓶が転がってるなと観察しつつ、体起こしたマハトさんが獣手で目をクシクシしてから嬉しそうに笑う。

「自分の家です。ヴィーダーがダイチをお持ち帰りすると言い出したので、自分がニ人を持ち帰りました。」

「わりぃ、逃げ切れなかったんで…いっそ楽しんだ。」

 …え?まて…待て待て待てーい!ニ人共言葉に語弊がありまくる!
 つまり『宿屋』にヴィーダーさんが連れ帰ろうとしてくれたけど、マハトさんが嫌がったかなんかで追い駆けっこして、俺を抱えてたせいか捕獲されて家まで連れて来られたんやでな!?
 そして、お酒でも出されてまぁまぁと懐柔されたかなんかでヴィーダーさんは楽しく飲んだと!?
 決して、あはんうふんな事にはなってないよね!?て、フル回転で理解したものの不安になって体のチェックしてもうた…大丈夫やったけど、なんか…なんかさあ…!

「…ええと…とりあえず、皆と合流しましょうか?」

 謎の脱力感に襲われながらも主張したらニ人も納得して出かける準備始めてくれたんで、俺も外套とかマスク、ベストや靴、手荷物なんかと寝るのに邪魔で外してくれたモンを回収して装備を整え、風呂がわりに【浄化】を皆に手早く掛けてから宿屋に急いで戻った。

 宿屋前が見えて来ると既に荷馬車と皆が揃ってて出発準備万端の態勢に慌てて近づくとウィプキングさんが一番に出迎えてくれる。

「おお!戻って来たな!」

「すいません!…なんか、気づいたらマハトさんの家で寝てて…。」

「良い良い。若いんじゃから夜遊びぐらいしなさい。」

 夜遊びになるんか謎やけど、器が大きいってか叱られるどころか笑顔で推奨されるとは思わんかったから呆けてまう。

「…ありがとうございます、て、もう出発ですよね?」

「そうじゃ、迎えに行こうとしておった所でな…その前にお主にはこれと…マハトにも渡すモンがある。」

 黒のベストの内側からニ枚の紙を取り出すと俺とマハトさんにそれぞれ渡してくれたんで、受け取って中身を見たら武器の目録が細めの綺麗な筆跡で記されてた。

「昨夜、突貫で調べてクレーに作って貰っての…料金は後でこっそり渡すのと…今後も分かっておるじゃろ?」

 目立たんようにか小声で話掛けつつ、紙の下の方を指で示すと目録の字とは違い太めの達筆な字で『次の街で追加も宜しくの!』て書かれててクスッとなる。

「分かりました、任せて下さい。」

「頼んだぞ。」

「また…事後承諾ですか…。」

 了承したらマハトさんの呆れた声が聞こえたんで振り返ったら紙をヴィーダーさんと一緒に見つつ、紙持ってない方の片手を口元に当てながらぬぬって表情してはった。
『また』って事は過去に何かやらかし…あ、そう言えば人攫いして来たとかなんとか言ってたし間違いなく何度かやらかしてるんかな?

「そうじゃが、武器は必要な物じゃろ?管理と責任は丸投げじゃがお主なら問題なかろうて。」

「こういう正論とよいしょで世の中を渡る老人には注意して…下さい。魔獣より危険です。」

 どっかの注意書きみたいな助言されたが『お気遣い、ありがとうございます…。』て、マハトさんが頭下げたんで良い雰囲気や。
 ウィプキングさんも満足したんか一度頷いてから出発を促してくれる。

「さて、では行こうか…。」

「行ってしまわれる…のですね。」

 合図を出した途端、さっきまで何処か楽しそうやったマハトさんの表情が曇って耳と顔が垂れ下がる。
 寂しがってくれてこっちとしても寂しいような、でも嬉しいようなって…ちょっと不思議な感覚やなと思ってたらウィプキングさんが微苦笑して首を少し傾けた。

「離れがたいようじゃな…どうだ?マハト。今なら旅に着いて来ても責任を問わぬぞ。」

 思わぬ誘いに一瞬迷う素振りを見せたマハトさんやったが、揺れてた瞳に決意みたいなんを宿してから首を振る。

「…いえ、自分はここで自分にできる事をします。もう、子供ではないのですから…。」

「そうか、お主も…そうじゃな。では、ここを頼んだぞマハト。」

「はい、お任せ下さい。」

 少し寂しそうに呟いたウィプキングさんやったけど、最後は力強く言葉を発すると応えるようにマハトさんも力強く返答して頷いた。

 暫く別れを惜しんでから荷馬車に向かうと、食糧を下ろしたのとスピードアップの関係で馬車が三台に減ってた。
 先頭に御者のレーヴェさん、ウィプキングさんとクレーさんが変わらず乗り込み、次の御者にヴィーダーさんと俺、空けたスペースに後ろから移って来たレオニーちゃんを乗せ、最後尾にトレラントさんとライゼが御者を務めてシェーンさんが空いたスペースにと編成を新しくして出発する事になる。

 そして、いざ出発って時に獣人の門兵さん達やマハトさんは勿論、治療院の職員の人とまさかの職員さんに支えられてブラーゼさんとエア君、『天使』呼びのおばあちゃんと更に荒れてた冒険者の人や入院してた獣人さんが沢山見送りに来てくれて驚いた。

「皆、わざわざ来てくれたんですね…。」

「…そうみたいだな。」

 一緒に回ってたヴィーダーさんは理解しつつも驚き、説明してなかったフォルクは何事かとビックリしてから俺の方見て尻尾振り出したんで何か察してくれたんやなと安心してから周囲に手を振る。

「皆!見送りありがとうな!いってきます!」

 声掛けたら大きい歓声が上がって『こちらこそ、ありがとう!』『気をつけて!』『無事にまたお会いしましょう!』『天使様!』『ダイチ様!』『いってらっしゃいませ!』『魔獣に負けんなよ、いってこい!』と、色々言葉を返してもろて嬉しかった。

 大歓声の中でいよいよ別れるんかと…昨日来た所やのに既に街に愛着持ってもうて寂しい気持ちと共に『ユナカイト』を後にした。







『ユナカイト』を出発してから道中、相変わらず魔獣に襲われたものの反則技…もとい、効率的な方法で次々と敵をなぎ倒し、繰り返される戦闘で個人的にも少しは戦いに慣れて来たんやないかと思う。
 下積みも無くボス戦とか何それ無理ゲーにならんで良かったと胸を撫で下ろしつつ、途中でウィプキングさんからお小遣いってか武器の報酬も貰って経験的にも懐的にも余裕を醸し出せるようになって来たやろか、むふふ。

「ふふ…これで俺も少しはエーベルさんみたいに大人の余裕が身に付いた筈、計画通りやな…。」

「何バカなこと言ってんだ?」

「ダイチさんは余裕がない方が良いですよ、可愛いらしくて。」

 愉悦に浸ってたら間髪入れずに横と後ろからの師弟ツッコミが入って心のHPを容赦なく抉られる。
 いやいやほら、頑張りを褒めてあげようや?褒めて伸ばすと育つ系男子、俺!と、自分で自分を鼓舞しつつ一応反論してみた。

「レオニーちゃん、男は顔以外やったら包容力と経済力が物を言うんやで?戦闘にも慣れて強くなって来たんで余裕があり、お金も稼げるようになったんやから成長したと思わん?」

「うーん、確かに一理ありますし、そういう方面で魅力を発揮する方もいらっしゃいますが…ダイチさんはどちらかと言うとそういう人に囲われるタイプではないでしょうか?」

「え…。」

「なんなら僕でも養えそうです。それなりに貯蓄してありますし、ダイチさんならめいっぱい甘やかしますよ?」

 冗談なんやろうけど言ってる事がイケメン過ぎてキュンとして…る場合やない!
 なんか男として負けた感がハンパない気がするとがっくり肩を落としたら荷馬車に並走してたフォルクが声を掛けてくれる。

「ダイチハ頑張ッテイル。落チ込ム必要ナンテナイ、充分格好良イゾ。」

「フォルク…。」

 もう目から汁が出るかとってかうるうるしてもうて、思わず飛びつきそうになったのをヴィーダーさんが慣れた感じで掴まえてくれて戻したんで荷馬車から落下せずに済んだ、サンクス!

「大人しくしてろ、もう直ぐ王都に到着するぞ。」

「マジですか!?いやぁ、思ったより早く着けそうですね。」

 実は『ユナカイト』を出発してから『コルネタイト』『ルベライト』とニつの都市を経由して今日で七日目になる。
 普通は魔獣のおる中、『ユナカイト』から順調に行ってニ週間ぐらいの道のりになるらしいんで早いなって訳や。
 理由としては反則技と荷物の随時軽量化、更に馬に【癒しの光】と【身体活性化】掛けてみたら物凄く元気に毎日駆けてくれたんでと言う訳や。

 何は兎も角、早く着きそうで良かったと安心してたら建物が徐々に見えて来た。
 城壁の規模は他の街と比べると倍程に高くて長く、王都ってだけあって大きいんやろうなってのが推測できる。
 感心してたらやっぱり城壁の上で監視してる人がおって、お馴染みのハンドサインと何故か後、ピーて口笛か指笛か高い音が鳴らされてから門が開き出したんで不思議に思った。

「なんです、今の音?」

「…バレたな。」

「ええ…間違いなくバレましたね。」

 ヴィーダーさんとレオニーちゃんが微妙な雰囲気と声で呟くもんやから何かあったんかと思ったけど、バレるもなにも荷馬車の通行は今までも直ぐバレてたし問題ない筈や。
 意味が分からんくて首傾げてたら隣におったフォルクが『ガルル』って唸り出したんで益々困惑する。

「オイ、ドウ言ウ事ダ?」

「心配するな、少なくともお前が思っているような被害はない。」

「信ジテ良イノカ?嘘ダッタラ、ダイチヲ連レテ逃ゲルカラナ。」

「ああ…。」

 ヴィーダーさんと険悪な雰囲気ってかニ人共軽く殺気飛ばしながら不穏なやり取りするもんで逃げ腰になりそうになったら、後ろからレオニーちゃんが肩を抱き込むようにしながらポンポンとあやすように胸を叩いてくれた。

「大丈夫ですよ。大人しくしていれば怖い事なんて何もありません。」

 つまり暴れれば何かあるんですねと考えつつも、ほんまにマズイ状態になったらフォルクがおるし大丈夫かと腹を括って王都の門の中へと入って行く。
 すると、盛大なお迎えってか全部荷馬車が入った瞬間に直ぐに門が閉められたと思ったら、どう見ても門番の獣人や人間の兵さん以外に『土の国』の騎士っぽい人らに周囲を取り囲まれた。
 手にはそれぞれ武器持ってるし、明らかに空気がピリピリしてて一歩間違えればここで戦闘かなとこっちも武器取り出す為に身構えたら周りの雰囲気を壊すようにゆっくりとした綺麗な声が響いた。

「皆様、お帰りをお待ちしておりましたわ。あの方はご無事でしょうか?」

 身を乗り出すようにして声の主を探したら垂れた濃い茶色のうさ耳にウェーブの掛かった長い同色の髪、胸元の大きく開いたドレスっぽい赤紫の衣装に腰元を黒のコルセットみたいなんで締めて体の見事な凹凸を見せつつ、腕と膝下の布は透けてるんでなんとも妖艶てか色気ムンムンのおねーさんが立ってる。
 ちょっとツッコミたい所とすれば腰元に巻いた赤い鞭みたいなんを下げてる所かなって思いながら、明らかに場違いな人なんでポカーンとしてたらウィプキングさんが前の荷馬車から降りて来て、その人の前に立つと周囲から歓声が上がって徐々に嗚咽も聞こえて来た。

「すまんすまん、心配を掛けたが無事じゃ。この分だと気付かれたのだろうが…儂はここに戻ったでな!安心せい!」

「申し訳ありません、ウィプキング様。力及ばずこのような事態に。」

「良い良い、元々時間の掛かる旅だったしの、勘付かれるのも想定済みじゃ。」

「そう言って下さると助かりますわ。それでは、遠慮なく…確保!全員、拘束しなさい!」

 一触即発から和やかな状態になるんかな~て思って油断してたら緩やかに喋ってたおねーさんからいきなり気合の入った号令が掛かり、さっきまでの緊迫した空気はないもののどう考えてもバーゲンセールの奥様方状態の喜々として獲物を狙う目になった騎士や兵さんらが押し寄せ、抵抗の間もなく鮮やかに捕獲されたんやった。
しおりを挟む

処理中です...