呪われた騎士と関西人

ゆ吉

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2章

44.「治療院再び」

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 突然やが質問です。
 最近、上司からセクハラ発言を受けたんですがどうしたら良いでしょうか?
 上司と俺と相棒の小さい会社で、世界の救済を掲げてるちょっと怪しいかもしれない会社なんですが、ついさっきまでなんだかんだと仲良くやってたと思うんです。
 でも、急に好きな子いるの?色んな子と仲良くしてるよね?しかも、この前ある人とイイ事してたの天井裏からバッチリ見て衝撃だったよ、ぐふふ。的なやらしい目で見られてたみたいで…もうどうしたら良いか分かりません!

「…とりあえず、ボコる?」

「ダイチ、本当ニドウシタ?誰ト戦ウ気ナンダ…。」

 脳内でお悩み相談を脚色して遊びながら冷静になろうとしてたら、うっかり俺の凶暴な面が口からポロリしてもうてフォルクが心配そうに声を掛けてくれる。
 んもう!相棒はめちゃめちゃええ会社やのに上司ぃいいいい!て、日本でもたまに聞く話やったかと変な所で落ち着いたんで、凭れ掛かるようにフォルクのお腹に体重を預けて後頭部をスリスリする。

「いや、戦うとか大袈裟な話ではないんよ?ちょっと神様に往復ビンタでもしようかなぐらいで…。」

「神ニ手ヲ上ゲル時点デ大事ダト思ウゾ…デモ、ダイチナラ出来ソウナノガ不思議ダナ。」

 俺もなんか出来そうで不思議やなと思いつつも、やっぱ世話にもなってるし、万が一反撃されたらヤバイのとフォルクも一蓮托生やから自重しようかと結論に至った。

「まあ、それは冗談として置いて…心配かけてごめん。なんか神様、限度を知らんみたいで…今までの行動全部見てたみたいやったから驚いてん。」

 一応、説明したらフォルクも驚いたんかピンと尻尾が逆立って『グルグル』唸り出す。

「ソレハ…問題ダナ…。」

 フォルクは霊獣の姿で常にかわええし、言う程、問題ではない気がするがやっぱり見られたくない事もあるよなと物凄く共感は出来た。

「一応、少しは遠慮するようには言ったんで…マシになるとは思う。やっぱ、フォルクも無防備な所とか見られたくない場面はあるよな?」

「…アア、ソウダナ。」

 日常生活でも着替えたり、風呂入ったりって…おうふ、全裸で鼻歌歌ってたのもバッチリ見られてたんかな。
 兎に角、一方的に見られるのは落ち着かんし…性的な事してる時とか…もおおおお!どう考えても恥ずかし過ぎるやろ!

「とりあえず、フォルク…耳と尻尾触らせて?」

「唐突ダナ?勿論、構ワナイ。」

 癒しが必要やねんもーんと強請ったら了承が貰えたんで暫く尖ってる耳をムニムニして、尻尾にも戯れさせて貰って癒されてから随分予定より遅れたが食事処に戻る事にした。

 いい汗(?)かいて戻ったら皆はすっかり食事終えてて、落ち込んでたシェーンさんもお腹が膨れたら落ち着いたんかのんびり気味でマハトさんと話してるんやけど何故かマハトさんの膝の上にレオニーちゃんが乗っかってて、謎の癒しスポットが出来上がってるんで羨ま…和んだ。

「花は見つかったのか?」

 ほんわかしてたらヴィーダーさんがこっち振り向いて聞いて来たんで、やっぱり隠語過ぎて通じんかったかと反省しつつ首を振る。

「本物の花は見つかりませんでしたけど、花に変わるモンは見つけて来たんで大丈夫ですよ。」

 そう言えば用事が済みましたよって意味が伝わったんか納得して頷くと俺の分の食事を指で示してから何か小さく呟いて前を向いた。

「…?何か言いました?」

「いや、さっさと食って…治療院に戻るんだろ?」

「そうですね。」

 大分、時間も押してるかと慌てて食べ終えてから治療院に再び向かう事になり、ウィプキングさんも来るんかなって思ってたら『儂もお花を摘んでくるぞ。』て、クレーさんとレーヴェさん連れて倉庫の方に向かって行くんで、あ…武器積んだままにしてたなと静かに背中を見送った。
 残るメンバーのシェーンさん、レオニーちゃんは体力と疲れも考慮して先に休み、ライゼとトレラントさんは明日の出発に問題がないか確認してくるって言うんで別れ、俺、ヴィーダーさん、マハトさんで治療院に戻る事になった。

 無事に治療院に戻るといざ!ニ階制覇!と、気分を引き締めつつ、まずは右側の『土の民』で一般の方々がおる方を聞いて、そっちの治療を開始する。
 決してビビってる訳やなく…手堅く行った方がええやん?
 と、誰かに言い訳しながらも夜も更けて来てるんで魔道具の明かりで淡く照らされた病室を手早く静かに回って行く。

 見た限り、冒険者や兵士ではないのに欠損系の人が多いなと思って尋ねたら、どうやら老若男女問わず魔獣と戦りあった農民の人らが仰山おってその分一般人にも怪我人が続出したらしい。
 原因としてはお国柄で、基本的にハングリー精神持ってる人らが多いらしく、逞しいんやが、重傷者や死者がかなり出てるんで引き際や逃げる事だけを考えた方がええとマハトさんが悔しそうに教えてくれた。

 話を聞きながら治療を進め、欠損と毒系の人は勿論問題無しに治療できて、衰弱と昏睡の人は比較的少なかったのもあって思ったより早く終わりそうで良かった。
 大凡、七十人程の『石化』以外の患者さんを診て回り、最後に両手が無いおばあちゃんを治した所で気になった疑問を横で治療見守ってるマハトさんに聞こうと口にする。

「そう言えば、なんで『土の民』の人らは『石化』は大丈夫やったんですか?」

「…ご存知ないのですか?天使様。」

 まさかのおばあちゃんから斜め上な呼称と返事が来て噴き出すってか驚き過ぎてツッコんだ。

「天使やなくて、ダイチです!そう呼んで貰えます?」

「はい、ダイチ様。宜しければ説明しますが…。」

「えーと…じゃあ、お願いします。」

「はい。『土の民』の多くは『石化』の耐性を持っております。希に『水』に対する耐性の者もいますが、多くは『石化耐性』だから無事だったのでしょう。」

「なるほど。」

 嬉しそうにしながらも簡潔に話してくれたんで理解し易かったのと、確か『緑の民』は『毒』に強いって聞いてたし、それと同じ話やねんなと思う。
 只、前にフォルクが解説してくれた事を思い出したら、もう一つ疑問が湧いたんで質問を続ける。

「因みに『石化耐性』と『水耐性』の『土の民』が両親の場合、子供はどうなるんですか?」

「その場合は…どちらか一方の耐性を受け継ぎます。何故か属性が違う親でないと耐性を多くは持てないのです。」

「へぇ、不思議な話ですね…。」

 また、変な縛りがあるなと考え込みながらも礼を言えばこちらこそ役に立てて大変嬉しいと、元に戻った両手でしっかり手を握られ『ありがとうございます。』と額をつけて感謝された。
 暫くそうしてたら、代わる代わる病室の他の人もやって来て感謝され、頃合を見計らって次の病室に行こうとしたら全員に手を振って見送られたんで気分良く『石化』の患者さんの所へ向かえた。

 神様から新しいスキルを貰ったんで大丈夫と自分を励ましつつ、緊張気味にニ階の左中央部の病室に入ったら手前の方に『青の民』らしき綺麗な長髪と目、色白で細身の女の人とベッドで一緒に寝てる同じ髪色の十歳ぐらいの男の子がおった。

「ご家族ですか?」

「ええ…貴方は…?」

 衰弱もしてるように見えたが女の人がベッドから起き上がろうとするんで、慌てて寝てるように近づいて制すると大人しく戻ってくれる。

「ダイチ言いまして、治療の為に来た術師です。」

「治療に…?…本当ですか?」

「…母…様?」

「ごめんなさい、…起こしてしまいましたね。」

 会話のせいか眠そうに子供が起き出して来て申し訳ないと思いながらも、俺とヴィーダーさんとマハトさんを見て体を起こすと頭を下げてお辞儀してくれた。

「こんばんは、くまの院長先生。それからお客様も。」

 挨拶もしてくれて礼儀正しいんかなってのと顔立ちと目元をパッと見た印象が賢そうで将来有望そうや。
 て、なんか横道に逸れそうなんで早速、治療始めるかと声を掛ける。

「因みに子供さんは怪我とか大丈夫ですか?」

「はい…状態異常は私だけなのですが…」

 お母さんが言いながら腕を伸ばして被ってる毛布を退けようとするんで慌てて手伝い、更に白い長袖のワンピースタイプの服裾を捲って見せてくれた足から太股の付け根辺りまでの患部は石像みたいになってた。

「これは、酷いですね…。」

「『石化』は一部でも受ければ徐々に進行…します。彼女も最初は足だけだったのですが、ここまで悪化しました。」

 初めて生で見て衝撃を受けてたら横で見守ってくれてたマハトさんが補足してくれ、半ば放心して頷いたら不安そうな顔した息子さんが外套の裾を引いて来た。

「大丈夫やで、なんとしても治すから。」

 安心させるように気を取り直して声に力込めて言ったら無意識の動作やったみたいで、ハッと顔上げて安心したように目を細めてから頭を下げてくれる。
 これは失敗できんなと気合も入れてスキルを発動させた。

「【石化解除】!」

 すると、患部が強い光に包まれ外装が剥がれるような感じで石の部分がボロボロと落ちて綺麗な素足が覗いて来る。
 感動して暫く見てたんやが、治るにつれ肌の部分が増え、スカートを大きく捲ってるからご婦人のあられもない姿に気がついて反射的に百八十度方向転換してヴィーダーさんの方を見た。
 なんだって顔されたけど状況見てたんで察してくれたんか、何も言わずに溜息零してからお母さんに声を掛けてくれる。

「悪いが…男ばっかだ。もう少し裾を下げてくれるか?」

「え?あ、すいません…!感動して配慮に欠けていました。」

「いや、奥さんは何も悪くないんですよ!」

 フォローしたら一拍あってから楽しそうにくすくす笑う声が聞こえ、スカートを戻すような衣擦れの音がしたんで向き直ると光も止んでた。

「凄い…動きます…。」

 そして、確認するように足の指を動かしたり、関節を曲げたり、布の上から肌の感触を確かめたかと思ったらベッドから素早く脚を下ろして立ち上がろうとするんで慌てた。

「きゃっ…!」

 止める間も無かったんで、危うく転倒しそうになったお母さんを俺と息子さん、俺の後ろからヴィーダーさんも支えてくれ、そして横上からマハトさんは服の襟首引っつかんでと全員で対処したんでなんとか助かった。

「母様!そんなに直ぐ歩いてはいけません!ずっと寝たきりだったのですよ?」

「ごめんなさい…嬉しすぎて忘れてしまって…。」

 実はドジっ子なんかと人妻にうっかり萌えつつも、ベッドに戻してから【癒しの光】と【身体活性化】も施したらより元気になって今にも駆け出しそうになったんでしっかりした息子さんにまた叱られてた。

 お母さんが落ち着いた所で話をしようとしてくれたんやが、他にも患者さんが残ってるんで待ってて貰う事にして向かったら結構、家族連れと言うか『青の民』の女性と子供さんが多くて驚いた。
 もしかして、何かあった…のは明白やろうから、『土の国』に来る理由があったんかと思いながら『石化』の症状を順調に治療して行く。

『青の民』の人らは体の一部の『石化』が多かったんで衰弱も少なくて済んだんやが、『緑の民』で以前から『土の国』に働きに出て来てた人らがほぼ全身石化に近くて危なかった。
 マハトさんから聞いた所によると完全に石化したら暫くは生きてるらしいが、体力…つまりHPが削れて無くなると死ぬらしいんで此処におる人らは間に合って良かったと心底思う。

 衰弱の処置もした後は下の階や、治療の終わった2階の右の部屋を看てくれてた職員さんを呼んで後を任せ、『石化』を最初に診たお母さんの病室へ戻ったらお子さんに支えられながら立つ練習してたんで一旦座って貰った。

「あんま無理せんといて下さいね?」

「はい…ですが、主人をかなり待たせておりますので一日も早くと。」

「ご主人ですか?」

「ええ、『緑の国』で緑青騎士をしています。まだ、旅をするにはこの子が幼かったので私は『青の国』の方で暮らしていたのですが、今代の竜王様の崩御が近いと噂が流れて来まして、それならばと安全になって来た『緑の国』へ移る事になったのですが…護衛も虚しく、道中襲われましてこの有様です。」

 ご主人は単身赴任みたいな感じやったんかと話を聞いてたら予想外の情報が入って来て目を丸くする。
『竜王』ってのも驚きやが崩御って亡くるって事やでな!?

「怪我…状態異常とか病気なんですか?」

「…詳しくは分からないのですが、以前からお体の具合が宜しくないようなのです。」

 マジか…この非常時に王様がいなくなったら更に混乱しそうやな、間に合ってなんとか出来るんやったら助けたいけど今は『土の国』を見捨てて行く訳にもいかんし…。

「大丈夫かな…。」

「王が死んでも、あの国は竜人族が多いから簡単には潰れんだろ。」

「ですね…寧ろ、竜王の具合が悪いのであればもう既に側近や後継が動いていると…思います。只…」

 心配してたらヴィーダーさんとマハトさんが補足してくれたんで安心し掛かったが、考え込むようにマハトさんが下を向く。

「どうしたんです?」

「いえ、竜人族は病に強い種族の筈、なんですが…それが伏したと言うのは不自然な話だなと…。」

「きな臭い話やって事ですか?」

「そうとも言い切れ…ませんが、何せ何処も非常事態ですし…。」

 おうふ。裏があるかもしれんし、『歪み』のせいかもしらんし、ほんまに病気かもしれんて事か…行って調べてみな答えは分からんかな。
 難儀な話やと思いつつも悩んで答えが出る部類では無いんで、一先ず『竜王』さんの話は置いて、お母さん…名前聞いたらブラーゼさんに『緑の国』から食糧や物資輸送に騎士さんがこの街に来るんで一緒に連れて帰って貰えんか交渉してみるのはどうかと提案しといた。
 首長のマハトさんも話聞いてくれてるし、エーベルさんも部隊率いて来てくれる時があるって言ってたから本人に直談判しても正直なんとかなると思うと補足し、仕事また増やしてすいませんと拝んでたら、ブラーゼさん以外の親子の人らも話に加わって来たんでマハトさんが正式に申し込んで見るって所で話が纏まった。

 別れ際にお礼を言われ、ブラーゼさんの息子さんのエア君にもめちゃくちゃ感謝されてから別れた後、職員さん用の部屋の奥、マハトさんが仕事に使ってる部屋に通されソファーにヴィーダーさんと並んで座ると深い溜息が出た。

「はぁ…つっかれた…、濃い一日やったわ。」

 何したかなって思い出すのも大変やなと背凭れにだらーんとしてからヴィーダーさんの肩によいしょと頭預けた。
 ちょっとビックリされたけど文句が飛んでこうへんのでええかぁと緩んだ思考のまま対面のマハトさんを見つめたら自然と言葉が出てくる。

「マハトさんて…ウィプキングさんと前から知り合いなんですよね?」

「ええ、そう…ですね。前はクレーとレーヴェがしている事を自分が任されていたんですが、思う所があって辞めた…んです。」

「…思う所?」

 クレーさんは頭脳労働でレーヴェさんは肉体労働って感じかなと過ぎったが、別の事が気になったんでそっちを聞いてみたら眉間を寄せられる。

「…なんと言うか、自分じゃ無いとでも言うんですか…誰かの代わりにされるような?…そんなのは虚しいでしょう?」

「代わり…?それはそうですね、誰かにしつこくして嫌われたとか言ってましたし…もしかして、適任の人がおったんかな…。ヴィーダーさんはなんか知ってます?」

「いや、知らないな。狸じじいとは依頼でしか会わねぇし…そう言った話も聞かない。本当にそんな奴がいたのか?」

「さあ?感覚でいたのかなって感じですので…証拠はありません。」

 確証は無いんかと軽く頷き、先を考えようとしたんやがどうにも頭が回らん。
 精神の疲労かなと思いつつも瞼が自然に落ちて来て気持ち良さに結局、『誰か』を特定出来ずに眠りの中に落ちて行った。
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