呪われた騎士と関西人

ゆ吉

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2章

42.「前途多難な治療」

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 マハトさん、ウィプキングさん、俺、ヴィーダーさんの順番で治療院に入ると広めのエントランスがあり、正面に二階へ続く階段、左右に病室が並んでるって感じやった。
 左手の一番玄関に近い部屋が職員用の仕事部屋でって説明をマハトさんがしてくれてたんやけど、その部屋からはかなり離れたと言うか左奥にある病室から怒鳴り合う声が聞こえて来てビックリする。

「ああ、また…ですか。」

「どないしたんです?」

「四肢、一部欠損の冒険者が時たま憂さ晴らしに暴れるんです。面倒なんで、追い出したい…んですが、そうも行かないんで腕力に訴えてきます…。」

 日常茶飯事なんか確定事項みたいにマハトさんが物騒な事言い出したんで、慌て近づいてローブの袖を掴んだら振り向いて止まってくれたんやけど何故か両脇に獣手を入れられて持ち上げられた。

「うわおああ!?」

 突然やったんで変な声出しながら高い高いされたんやが、ガチで高いです!
 天井も高いんで頭は打たんで済んだものの目算三メートル超えはハンパないと持ち上げてる逞しい両腕を掴んで体を支え、足をブラーンとさせながら下を見たら楽しそうなマハトさんが視界に映り、恐らく助けようとしてくれたヴィーダーさんがウィプキングさんに手で制されてた。

「ヴィーダーよ、落ち着け。持ち上げてしまわれては仕方ない、マハトは機嫌を損ねると後が面倒臭いんじゃ。下心なんぞないから今は大人しくしとれ。」

「むっ…面倒臭くなど、ありません。」

「面倒臭いわ!ふて寝通り越して冬眠するくせに!お主が過去それをして、どれだけ仕事が滞ったか!?」

 ウィプキングさんが眉を吊り上げ若干、涙目で訴えるんでそんな大変やったんかと同情してたらまた奥から怒鳴り声が聞こえた。
 あ、一瞬忘れてましたと全員の視線がそっちに向いたら何故か俺以外が舌打ちする。

「え?」

「至福の時を邪魔するとは…。」

「少々、癇に障るの…仕置きが必要か。」

「このクソ、イライラしてる時に…喚いてんじゃねぇよ。」

 全員が何故かヒート状態で怒鳴ってる冒険者さんをロックオンしたから不味い!

「ちょっ、落ち付ぃいいいい!!!!」

 止めようとしたけど、間髪入れずに俵担ぎにされて軽々と肩に乗せられたまま凄い速さで一番奥の病室まで運ばれ、バァン!て、扉吹き飛ばしそうな音ってか、振り向いたら吹き飛んでたー!?
 そして、その扉が騒いでた冒険者らしきの一人に一直線に当たったんか撃沈してる。

「院内では静かに。」

 マハトさーん!?説得力が一ミリもありません!!!!
 心の中でツッコミつつ病室内の冒険者兼、患者さんを睨み付けてるんか威圧しながら入って行く。

「…な、何しや…ヒッ!」

 恐らく一緒に騒いでた一人が興奮冷めやらぬまま文句言い掛けたんやけど、後から入って来たウィプキングさんが喉元に仕込み杖から抜いた剣の刃を当てて止める。

「静かにしてくれんかの?年寄りに大声は堪える。」

 んで、更に体格の良い冒険者のおっちゃんが置いてた斧みたいな武器を片手で持ったんやけど『バァアアン!!!』て、音したと思ったら粉々になって床に落ちた。

「怪我人が武器なんて持ってないで、大人しく寝てろよ。それとも、遊んでくれんのか?」

 言わずもがなヴィーダーさんやったんやけど、超絶狂暴そうな笑顔頂きました!
 さあさ、皆さん!良い子にして、寝て!俺と他の患者さんの平穏の為にもお願いします!て、肩でジタバタしながら祈ったら祈りが通じたんか部屋におる冒険者さん達は静かになった、青い顔しながら…。

 強制静寂の中、機嫌の回復したマハトさんに胸の前辺りで抱えられ、マハトさんの背後に若干落ち着きつつも腕組んで仁王立ちのヴィーダーさん、横手に観戦モードのウィプキングさんと謎の布陣で治療が開始された。
 流石に今のさっきで荒くれ者(?)の冒険者さん達も大人しくしてるんやが、めっちゃ挙動不審。

 うん、まぁ…言わんでもわかるよ!病室に入った時から何もかもがカオスやもんな!
 ツッコミ所いっぱいあるし、俺も実際色々言いたいんやけど…この面子に逆らって勝つ自信がないからお互い静かにしてようか!?

 テレパスィーを患者さんに念じつつ、【癒しの光】を使って欠損系の人らをサクサク円滑に治して行く。
 皆、無くなった手や腕や脚、抉れた傷口が治った事に驚いて感謝の視線を送って来たり、頭下げたり、手を合わせてくれたんやが…萎縮してるんかとにかく静か。
 サイレントな動作で感動を露にしてくれる人らを微笑ましく見守りながら病室内に居た人らの治療を終えると、斧で反撃しようとした厳つめのがっしりした体格のおっちゃんが近づいて来て頭を下げた。

「さっきは、すまんかった。片腕を失い…もう冒険者稼業もまともに続けられなくなって自暴自棄になってたんだ…。あんたと、あんたは…ヴィーダーだったか?二人のお陰で目が覚めた。」

 礼を言われ、何気にヴィーダーさんの名が知られてる事と武器壊されたのに礼言ってくる姿勢がさっきと全く違って驚く。

「根は良い奴らが多いんじゃ。…今は色々と荒れとるせいもあっての、どうか『土の民』を嫌わんでやってくれ。」

 戸惑ってたらウィプキングさんが眉を寄せ捕捉するように続けたんで、深く頷いた。

「嫌う訳ないやないですか。良い人いっぱいおるって、もう知ってますやん?」

「そうか…そうじゃの。」

 安心したんか心底嬉しそうに微笑んだウィプキングさんの表情は子供みたいに無邪気に見えた。

 騒動はあったものの最初の病室から順番に横へと治療を進め、一時間半程で職員さん用の部屋の所まで戻って来た。
 大体、五十人ぐらい一気に見たんやけど殆ど冒険者の人らを固めてたんで体力はあるし、症状としても欠損と毒経由の後遺症で難なく治療ができて一安心や。
 一息付きつつも気になってた事があったんで聞いてみよかってか、騒ぎが無ければ最初に聞かなあかんかったと思う。

「あの、『狂化』状態の人らっています?」

『緑の国』では中頃にその存在を教えて貰ったけど、症状としては重い筈やから後の人の治療に向かう前に先に治しといた方がええやろと声を掛けたが、途端に三人とも難しい顔になった。

「言難い話じゃが…『狂化』になった者はその時点で殺しておる。」

「え…。」

「暴れて手もつけらず…回復薬も『緑の国』程に充分な備蓄は、…ありません。特効薬も無いに等しいので…長く苦しむだけだと、切り捨てていたんです。」

 マハトさんが説明を次いでくれて内容に固まったけど、言ってる意味は理解できた。
 倫理観として抵抗がないかと言われれば嘘になるが、その時、その場におらんかった俺が何を言えるやろうか?
 そして、三人の雰囲気からも分かるように決してそれが良い事やったとは思ってなくて、後悔してるのが見て取れた。

「…分かりました、せやから…そんな顔せんといて下さい。俺らはこんな現状打破する為に戦ってるんでしょ?」

 励ますように静かに笑って言えば気落ちしてたウィプキングさんが顔を上げ、ヴィーダーさんは驚いたように眼を見開き、マハトさんが上から不思議そうに覗き込んで来たんでぐっと拳を握って上げ歯を見せて更に笑う。

「パッと暗雲を吹き飛ばして来ますからね!だから、マハトさんも出来る限りで良いんで患者さんの事…看といて下さい。」

 抽象的かなと思ったけど野生の感なんか、何かを感じ取ってくれたマハトさんが牙を見せて笑って頷いてくれる。
 おまけにスリスリと顎を頭に擦り付けられて擽ったいが嬉しいな~て、きゃっきゃうふふしてたらヴィーダーさんが姿勢を僅かに屈めてナイフ今から取り出しますよ~て、感じになってたらウィプキングさんがボソッと呟いた。

「独占欲が強過ぎて…しつこい男は嫌われる。儂の経験談じゃ。」

 哀愁感のあるリアルな経験談にピタリとヴィーダーさんの動きが止まったんでその場の緊迫し掛かった空気は落ち着いたかに見えたんやけど…、ヴィーダーさんの足元の床が鉄みたいな金属素材でコーティングされ出して焦る。
 これは治療院とセットで懐かしいエーベルさん現象!?て、ワタワタしてたら溜息ついたマハトさんがヴィーダーさんに俺をそっと差し出した。

「貸そう…。」

 いやいやいや!マハトさんの玩具ものやないんやから!て、ツッコみつつもヴィーダーさんが素直に受け取って、しかも軽々片腕に乗せるようにして抱いてから見上げてくる。

「……。」

 沈黙してるけど視線が物言いたげで、怒ってるような悲しんでるような焦れてるようなで居た堪れんのですけど!?

「なんか、すいません…。」

「…別に。」

 フイッと視線が横に逸れてから素っ気ない口調で言われたんやが、何故か治療院出てこうとするから慌てた!

「ちょ、ヴィーダーさん!言動が一致してないです!早めに済ませますから、戻って下さい!」

「ちっ…。」

 舌打ちされ渋る姿に世話の焼ける大人がおる…と、ジト目になったものの他の家のワンコに構い過ぎて機嫌を損ねた自宅のワンコ…ヴィーダーさんは虎イメージやったかな?
 兎に角、そんな感じかと考え直し、帽子を奪ってから頭部を腕で抱き込んで髪をよしゃよしゃよしゃ~と撫でた。

「おい!?」

「機嫌直して下さいよ。まだ、旅は続くんですから…後で一緒に遊んだらええやないですか?」

「…お前な…、その言葉忘れるなよ…。」

 宥めるように後頭部軽くポンポンと叩いて腕解いたら、幾分、機嫌が回復したんか何とか戻ってくれたんで助かったと帽子も返したが、そのまま次の病室に行こうとするんで暴れたわ!
 マハトさんの時は外見が熊やからまだ何とか耐えれたけど、ヴィーダーさんやったら流石に色々とアウトー!て、半泣きになりつつも完全に離れると不機嫌丸出しになるんで外套の裾を掴んで後から着いて来て貰うと言う謎のRPGスタイルで落ち着いた…解せぬ。

 ま、さっきより遥かに自由度が上がったんで出来るだけ気にせずに右側の病室に入ったら…そこはパラダイスやった!
 なんせ獣人の人らを集めてるんか何処を見渡してもモフモフの耳と尻尾!
 たまにフルフェイスの獣人さんもおるんやけど、全体数から見ると少ない気がするな。
 後、マハトさんみたいに全身獣って言うのはおらんくて…フルフェイスより数が少ないんかって印象やった。

 そして、湧き上がる衝動に突き動かされそうになりつつも紐で繋がれたワンコの如く裾を引く力が強まったんで、あくまで表面上は落ち着いて治療に当たる事にする。
 正直、お預け状態で妙なフラストレーションが溜まってるから後でフォルクを撫で回すかと心に強く誓ってはいた。

 色々と脱線しながらも症状を見た所、欠損系から毒然り、衰弱してる人と昏睡してる人らも出て来たんで、衰弱には【癒しの光】と【身体活性化】を施して経過観察をお願いし、昏睡には【解呪】を掛けたんやが効かん人もおったんで【精神活性化】を施したら意識が戻った。
『昏睡』にはニパターンあるんやなと考え込みながら【癒しの光】と【身体活性化】を掛け、残りもかなり集中して治療を続けながら右側の最後の病室を周り終えた所で気を抜いて周囲を見渡すと回復した獣人さんらに囲まれててビックリする。

「え?え…?」

「皆、ダイチにお礼が言いたかったんだが…静かにしているようにとの事だったので終わるのを待って…いました。」

 マハトさんが説明してくれたんで事態は飲み込めたが、許可が出たと思った獣人さんらが口々に話し出して凄い騒ぎになる。

「ありがとうございます、ダイチ様!」

「まるで、神のような御業でした!感謝します!」

「凄いな、あんちゃん。何者かはしらねぇが、本当に助かった。ありがとう!」

「よ!世界一の術師様!」

 賛辞の嵐過ぎて照れ戸惑うけど元気になった人らの姿に嬉しくて口元緩んだまま軽くお辞儀する。

「こちらこそ!皆の元気になった姿見れて嬉しいです!」

 その態度がウケたんか更に『わー!』て感じで歓声が広がったんやが、他に患者さんも残ってるって事でマハトさんとウィプキングさんが事態の収束に当たってくれた。

 一段落した所でエントランスに戻り、残ってるニ階の患者さんの所に向かおうとしたが、ふと気になって後はどういう症状の人らが残ってるんか聞いてみる事にする。

「残り、ですか?…ニ階には一階と同じような症状の冒険者ではない人族の『土の民』と…後は、僅かですが他国の民で『石化』の症状の者を収容していますね。」

「石化…。」

 聞いといて良かったってか…今、高速で所持スキル思い出してるんやけど『石化』に効きそうなスキルが全く思い当たらん。
 いや【身体活性化】なら…とも思わんでもないが『麻痺』と『衰弱』を既にカバーしてる上に、やや補助的な色合いが強い気がして確固たる自信がない。
 最悪、石化した部分を切り落として【癒しの光】で…いや、それは最終手段やし、万が一全身『石化』とかやったら話にならん。
 考え込んでたらマハトさんが心配そうにこっちを見て来てて、首を傾げる。

「もしかして、石化の治療はでき…ませんか?」

「いや、出来ん事もないと…思うんですが、ええと今…結構時間経ってますよね?」

「はい、数時間は経ってると思いますが、どうかしましたか?」

「おお。そう言えば、外壁の修理もしてくれると言っておったんじゃ。日が暮れると不味いな。」

 時間稼ぎも含んでの発言やったんやが、ウィプキングさんが言いたい事を察してくれて話を引き継いでくれた。

「残りの治療は後にして、先にそっちを済ませたいんですが…良いですか?」

「ああ、構わないと言うか…そんな事もできるんですか…?」

「ええ、と言っても『獅子の咆哮』で土操作の得意なレオニーちゃんにバッチリ手伝って貰いますけどね。」

「なるほど。では、自分も着いて行きましょう。」

「え?マハトさんも土操作得意なんですか?」

 獣人の人って魔法っぽい事より物理的な方が得意そうなイメージがあって不思議そうにしてると否定するように首を振られる。

「いえ、でも着いて行った方が問題が少ない…と、思いますよ。」

「そうじゃな、マハトはこの街の首長でもあるからの。」

「は!?」

「兼業なんです…全く、折角左遷して貰えて田舎でのんびりと思ったら前より役職を増やされ…きっと誰かが裏で手を回したんでしょうね、怖い怖い。」

「自業自得じゃろうて。」

 遠い遠い眼差しをしながらも何処か可笑しそうに話すマハトさんと合いの手を入れるウィプキングさんに胡乱な眼差しを向けるヴィーダーさんをチラ見しながらも、さて、どのタイミングで神様スポンサーに連絡を取るかと頭を悩ませたんやった。
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