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2章
39.「家族」
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西の陣を出て暫く経った頃、俺はある事に早速頭を抱えてた。
出発前、どの荷馬車に乗るかは好きにしてええって言われてたのと【索敵】の関係で前列か中央付近かなと思って悩み、結局先頭のレーヴェさんの隣が都合が良いかと行きかけて止めた。
何故かってニ番目の御者台に座って準備してたヴィーダーさんと視線が合った気がしたら物凄く睨まれて、微動だにできんかったってか『あ?前に乗る気か?」』て、視線で訴えられたんやもん!
いつの間にテレパスィーを使えるようになったんですか?て、意識を逸らしながら隣の席に座らせて頂いたら幾分、剣呑な雰囲気は和らいだんやけど…出発して一時間も経ってない頃やったと思う、バッサリ斬り込まれた。
「あの男とはどういう関係なんだ?」
『あの男』か…なんか、デジャブ。
確か昨夜もこんなやり取りした気がするー…て、そのまま意識を地平線の彼方に飛ばしたかったんやけどムリなんで真剣に思考を働かせる。
「『あの男』って、エーベルさんですよね?どういう関係って言われましてもお世話になった方で…」
話を続けようとして困った。事実上、告白されて断った相手、でも肉体関係を微妙に持った相手…て、世間では一体なんて表現するんや?
そして、それをバカ正直に伝えたら果たして人はなんて思う?ぶっちゃけ客観的に考えたら告白断ったのに流されてしちゃったの?ビッチなの?
瞬時にアンサーが出てきたのと質問相手がヴィーダーさんと言う難易度の高さにオワタ!て、顔文字が頭に浮かんで消え…んなや!助けろー!て、心の中で叫んだらナイスな言い訳思いついた!
「ええと、兄みたいなもんなんです。エーベルさんの家族ぐるみでお世話になった関係で親しくなって、俺も家族ってか弟みたいに大事に思ってくれてて…クシェルちゃんとフェイて言う可愛い妹達もいるんです!」
よし!これでエーベルさんと異様に親しくてもなんとかなるやろ!只、兄と関係を持っちゃったみたいな背徳感が心の中に一瞬生まれたけど!
まぁ、ヴィーダーさんと正面切ってバトル(?)のを考えたら浅い傷やわ!納得してくれた!?て、横顔見たら難しい顔してはる。
「…家族か。家族だとあんなに近しい距離なのか?」
「あ…、そうですね。家族にもよりますが、仲が良ければそんな不思議な距離感ではないと思いますよ。」
しまった…すっかり自分の保身に走ってヴィーダーさんの経歴が頭からすっぽ抜けてた!
確か家族もおらんのやったっけ?てか、どんな幼少期過ごしたんや?気になったが、宴会の席で過去を聞いた後に調子悪そうにしてたし…無理に聞くのもなぁ。
「その…お前の本当の家族はどんな感じなんだ?いないのか?」
悩んでたら逆に質問してくれて助かった。こっちに興味持ってくれるのも嬉しいし、確かに血の繋がりのない相手と家族ってなったら血縁の方は?て、気になるなと思いつつ自分の家族を思い出して、可笑しくなる。
ゆっくり思い出すのも久しぶりやったんと、日常にあった些細な出来事とかも一緒に思い出して笑えてきて、それを横目で見てたヴィーダーさんも何処となく機嫌良さそうや。
「いますよ。しっかり者で明るいお母ちゃんと少しおっとりしてるお父ちゃん、世渡り上手で面倒見の良い兄ちゃんに優しくて厳しいじいちゃんとお喋り好きで料理上手のばあちゃん。後は愛犬の太郎ちゃんに俺に甘くて面白いおじちゃんですかね。」
「多いな…。」
そんなにおると思わんかったんか素直に驚いててなんや反応が可愛らしい。
暫く考え込むように前を見つめて感慨深げに呟かれた。
「そういう奴…家族に囲まれて育つとお前みたいになるんだな。眩しいつーのか…全然違う、オレもそんな中で過ごしてみたかった…と思う。」
言っててヴィーダーさん自身が戸惑ってるんか言葉が切れ切れになりつつも自分の意思を考えながら教えてくれる。
「今からでも、今は家族は近くにいませんけど、影響を受けた俺はいるやないですか?それでどうでしょう…?」
聞いてて何処か切なく感じて励ましたくなったんで、ついそう口走ったら口端上げたヴィーダーさんが静かに頷いた。
「悪くない…。」
こっちも悪くない気分や。本当の家族にはもう会われへんけど、新しく作って行ったらええんやな…。
今まで別の事に目を向けて気づかんフリしてたけど、どこかに寂しさや悲しさはあって話したお陰で前向きになれた気がする。
そうして、心も洗われたんで後は和やかに何気ない雑談をしたり休憩を挟みながら体感で何時間も進んでると、やっと国境線に近づき『緑の国』の街道がもう直ぐ切れる位置に来た。
そろそろかと考えてたら見知った影というか打ち合わせ通りにフォルクが森から出て来たのが見え、尻尾振りながら俺の乗ってる荷馬車の横を並走して来てくれたんでいつも通り全力でお出迎えする。
普通に接せられたのも気持ちが落ち着いてたお陰なんでこっそりヴィーダーさんに感謝した。
「おかえり、フォルク!無事に合流できて良かった。」
「タダイマ、ダイチ。俺モ無事ニ会エテ嬉シイ!」
走りながらピョンピョン跳ねると言う新技を披露されて顔もデレデレになる、くっ…相変わらずブレない可愛さやで!
一気に和んだってか、挨拶返してもろてからの『嬉しい』発言にもキュンとさえしてフォルクを毎日家で出迎えて、抱きしめながら頬っぺちゅーできたら天国やなって想像が勝手に働く。
前より妄想がレベルアップしてるような気がせんでもないけど、まあ考えるだけやったらセフセフと心の中に大事に置いとこか。
そんなこんなで暫くしたら国境線沿いにある官署に到着し、次の休憩をここでって前の休憩の時に決めてたんで皆荷馬車から降りて来る。
一応、【索敵】使って周囲に敵がおらん事を確認してから円になるようにして集合し、俺の前に位置するように来たウィプキングさんが大事な話があると口を開いた。
「ここらが人目もなく良いかと思っての、緑…カイ・クレーメンス・グリューンバルト皇帝から援助の他にも重要な話を伺って来た。できればお主ら全員に参加して欲しい案件なので伝えて置くぞ。」
真剣な顔つきで改まって話し出したんで自然と周囲の雰囲気も引き締まる。
『全員参加』て、部分でお願いした件かなと思いつつカイ様を情報源に見立ててどう纏めるんかと耳を傾けた。
因みにフォルクの名前は出してないけどウィプキングさんにはエリアボスを倒して呪いに掛かった者がいる事と俺が未熟ながらある程度『呪い』を治療できる事、その能力を上げる為にも修行の旅をしてる事や、後は『呪い』に掛からんと言っていい程の耐性があるのを話してた。
正直に話すのを迷わんかった訳やないけど…どうも嘘をつくには別案の説得力が足りんのと相手が相手やったんで、下手に嘘ついたら折角信じて貰えそうな雰囲気を台無しにしそうやったから概ね正直に話してたがどう使ってくるんやろね?
「まず、ダイチの事だが…なぜ『緑の国』の『要人』と親しいか謎であったろう?」
「確かに、能力は逸脱しているが…特別な地位に就いてるようには見えないしな。」
ウィプキングさんのこっちから見て右横におるレーヴェさんが同意して頷く。
まあ、俺自身が偉いようには見えへんやろうし…寧ろ不審者感しかない気が…いやいや兎に角、別の国の一般市民が一国の隊長格さんと知り合い通り越してかなり親しいって普通になんでってなるわな。
「そうじゃろ?だが、その能力を見初められて彼はグリューンバルト皇帝に呼ばれ、警護にあのアイスナー殿が抜擢されたらしい。それで知り合ったと聞いたが相違ないな?」
「はい、そこから凄くお世話にもなりました。」
確認てより真実味を増す為の演技なんか視線で肯定を促されたんで、軽い補足を入れつつ素直に頷いとく。
ま、警護もして貰ってたしお世話になったのも嘘やないからそこはほんまに問題ない。
「能力ってやっぱり治癒系かしら?」
レーヴェさんの更に横におるシェーンさんが顎に指を添えながら思案げに質問するとウィプキングさんは首を振る。
「それもないとは言わんが…一番の目的は『呪い』に掛かった者の救済じゃった。」
「呪い?」
今度は俺の右隣に立ってるヴィーダーさんが不可思議そうに首を傾げた。
「そうだ…『緑の国』は平和であったろう?それは、魔獣を根本的に減らす方法が『呪い』を代償にたまたま発見されたからだ。」
「本当ですか!?」
確信に触れるとシェーンさんの横におったレオニーちゃんが驚きながらも隠しきれへん歓喜を含ませた声音で叫んだ。ちょっとビックリしたけど、本人も正気に返って恥ずかしかったんか「すいません…。」て、頭を軽く下げてなんとか平静を取り戻す。
「うむ、事実…国に存在した最も強い敵を倒した兵が『呪い』に掛かったが、その後現象が明らかに落ち着いて今の状態まで持ち込めたそうだ。証拠は見たのならば分かるじゃろうて?」
ウィプキングさん的には茶目っ気なんか主に疑り深いヴィーダーさんに視線を向けて言ったんやけど、空気が鋭くなったんで挑発はやめたげて下さい!
ヒヤヒヤしつつもヴィーダーさんの反応を楽しんでご満悦なんか話に直ぐ戻ってくれた。
「それでじゃ、ダイチは『呪い』の治療が発展途上ながらも出来るので招かれたが力及ばず、それならば力を上げようと旅を始めた上に『呪い』に対する耐性が高いので『土の国』の親玉にも挑もうとしていてくれたらしい。だが、そもそも我が国に巣食う害獣だ。少なくとも退治を手伝いたいのだが…協力してくれるか?勿論、依頼料もそれなりに弾もう。」
「もちろんですよ!」
レオニーちゃんが挙手しそうな勢いで間髪入れずに同意したのを皮切りに他のメンバー全員が力強く頷いてくれる。
そして、レーヴェさんが続くように鋭い牙を見せて笑った。
「頼まれずともこの国を守る為ならば尽力しよう。」
次いでレオニーちゃんの横におったライゼが嬉しそうに頷いて呟く。
「ああ…私も全力で協力しよう。やっと、この国も先が見えるのだな…。」
「本当に…っ!」
シェーンさんは歓喜で涙ぐんでるんか何度も頷いては目元を擦る。
「もう、傷つく奴や悲しむ奴らを見なくて済むのか…。」
ウィプキングさんの横におるクレーさんの更に左横におるトレラントさんが静かに拳を握りながら感動に打ち震えてて、気持ちがこっちまで伝わって来るぐらいや。
「それで、ダイチさんを…との事だったのですね。微力ながら全力で手伝わせて頂きます。」
深く納得したように呟いたクレーさんも力貸してくれるんかと心強さも増した所で、フードの上から頭に手を置かれた。
「…無茶はするな。」
短い言葉やったけど心配してくれてるんかなと思って見上げながら頷くと外套の裾を左横からクイクイ引っ張られたんで視線が下がった。
「俺モイル。何ガアッテモ、ダイチヲ守ル。」
今までも守って貰ってたけど真剣な眼差しで改めて言われると胸に来るもんがある。でも、それだけでは満足できんなと悪戯っぽく口端を上げる。
「それはこっちもやで、フォルク。俺にも守らせてや。」
そう返されるとは思って無かったんか、守る事が当たり前過ぎて守られるって何やと思ったのか、驚いた顔してから嬉しそうに牙を見せてくれて尻尾が揺れた。
「アア、オ願イスル。」
喜んでお願いされますって気持ちで頷いたんやけど、予想以上に自分自身も頼られて嬉しいってか…湧き上がってくるもんがある。
意見が纏まった所で最後に無闇にボスに突っ込んで行って犠牲を増やさん為にも話を内密にする事をウィプキングさんが注意して今後の経路や予定を見直し、後は俺が個人的に試したかった事を検証し、魔獣に対する作戦を伝えてから先を急ぐ事になった。
出発前、どの荷馬車に乗るかは好きにしてええって言われてたのと【索敵】の関係で前列か中央付近かなと思って悩み、結局先頭のレーヴェさんの隣が都合が良いかと行きかけて止めた。
何故かってニ番目の御者台に座って準備してたヴィーダーさんと視線が合った気がしたら物凄く睨まれて、微動だにできんかったってか『あ?前に乗る気か?」』て、視線で訴えられたんやもん!
いつの間にテレパスィーを使えるようになったんですか?て、意識を逸らしながら隣の席に座らせて頂いたら幾分、剣呑な雰囲気は和らいだんやけど…出発して一時間も経ってない頃やったと思う、バッサリ斬り込まれた。
「あの男とはどういう関係なんだ?」
『あの男』か…なんか、デジャブ。
確か昨夜もこんなやり取りした気がするー…て、そのまま意識を地平線の彼方に飛ばしたかったんやけどムリなんで真剣に思考を働かせる。
「『あの男』って、エーベルさんですよね?どういう関係って言われましてもお世話になった方で…」
話を続けようとして困った。事実上、告白されて断った相手、でも肉体関係を微妙に持った相手…て、世間では一体なんて表現するんや?
そして、それをバカ正直に伝えたら果たして人はなんて思う?ぶっちゃけ客観的に考えたら告白断ったのに流されてしちゃったの?ビッチなの?
瞬時にアンサーが出てきたのと質問相手がヴィーダーさんと言う難易度の高さにオワタ!て、顔文字が頭に浮かんで消え…んなや!助けろー!て、心の中で叫んだらナイスな言い訳思いついた!
「ええと、兄みたいなもんなんです。エーベルさんの家族ぐるみでお世話になった関係で親しくなって、俺も家族ってか弟みたいに大事に思ってくれてて…クシェルちゃんとフェイて言う可愛い妹達もいるんです!」
よし!これでエーベルさんと異様に親しくてもなんとかなるやろ!只、兄と関係を持っちゃったみたいな背徳感が心の中に一瞬生まれたけど!
まぁ、ヴィーダーさんと正面切ってバトル(?)のを考えたら浅い傷やわ!納得してくれた!?て、横顔見たら難しい顔してはる。
「…家族か。家族だとあんなに近しい距離なのか?」
「あ…、そうですね。家族にもよりますが、仲が良ければそんな不思議な距離感ではないと思いますよ。」
しまった…すっかり自分の保身に走ってヴィーダーさんの経歴が頭からすっぽ抜けてた!
確か家族もおらんのやったっけ?てか、どんな幼少期過ごしたんや?気になったが、宴会の席で過去を聞いた後に調子悪そうにしてたし…無理に聞くのもなぁ。
「その…お前の本当の家族はどんな感じなんだ?いないのか?」
悩んでたら逆に質問してくれて助かった。こっちに興味持ってくれるのも嬉しいし、確かに血の繋がりのない相手と家族ってなったら血縁の方は?て、気になるなと思いつつ自分の家族を思い出して、可笑しくなる。
ゆっくり思い出すのも久しぶりやったんと、日常にあった些細な出来事とかも一緒に思い出して笑えてきて、それを横目で見てたヴィーダーさんも何処となく機嫌良さそうや。
「いますよ。しっかり者で明るいお母ちゃんと少しおっとりしてるお父ちゃん、世渡り上手で面倒見の良い兄ちゃんに優しくて厳しいじいちゃんとお喋り好きで料理上手のばあちゃん。後は愛犬の太郎ちゃんに俺に甘くて面白いおじちゃんですかね。」
「多いな…。」
そんなにおると思わんかったんか素直に驚いててなんや反応が可愛らしい。
暫く考え込むように前を見つめて感慨深げに呟かれた。
「そういう奴…家族に囲まれて育つとお前みたいになるんだな。眩しいつーのか…全然違う、オレもそんな中で過ごしてみたかった…と思う。」
言っててヴィーダーさん自身が戸惑ってるんか言葉が切れ切れになりつつも自分の意思を考えながら教えてくれる。
「今からでも、今は家族は近くにいませんけど、影響を受けた俺はいるやないですか?それでどうでしょう…?」
聞いてて何処か切なく感じて励ましたくなったんで、ついそう口走ったら口端上げたヴィーダーさんが静かに頷いた。
「悪くない…。」
こっちも悪くない気分や。本当の家族にはもう会われへんけど、新しく作って行ったらええんやな…。
今まで別の事に目を向けて気づかんフリしてたけど、どこかに寂しさや悲しさはあって話したお陰で前向きになれた気がする。
そうして、心も洗われたんで後は和やかに何気ない雑談をしたり休憩を挟みながら体感で何時間も進んでると、やっと国境線に近づき『緑の国』の街道がもう直ぐ切れる位置に来た。
そろそろかと考えてたら見知った影というか打ち合わせ通りにフォルクが森から出て来たのが見え、尻尾振りながら俺の乗ってる荷馬車の横を並走して来てくれたんでいつも通り全力でお出迎えする。
普通に接せられたのも気持ちが落ち着いてたお陰なんでこっそりヴィーダーさんに感謝した。
「おかえり、フォルク!無事に合流できて良かった。」
「タダイマ、ダイチ。俺モ無事ニ会エテ嬉シイ!」
走りながらピョンピョン跳ねると言う新技を披露されて顔もデレデレになる、くっ…相変わらずブレない可愛さやで!
一気に和んだってか、挨拶返してもろてからの『嬉しい』発言にもキュンとさえしてフォルクを毎日家で出迎えて、抱きしめながら頬っぺちゅーできたら天国やなって想像が勝手に働く。
前より妄想がレベルアップしてるような気がせんでもないけど、まあ考えるだけやったらセフセフと心の中に大事に置いとこか。
そんなこんなで暫くしたら国境線沿いにある官署に到着し、次の休憩をここでって前の休憩の時に決めてたんで皆荷馬車から降りて来る。
一応、【索敵】使って周囲に敵がおらん事を確認してから円になるようにして集合し、俺の前に位置するように来たウィプキングさんが大事な話があると口を開いた。
「ここらが人目もなく良いかと思っての、緑…カイ・クレーメンス・グリューンバルト皇帝から援助の他にも重要な話を伺って来た。できればお主ら全員に参加して欲しい案件なので伝えて置くぞ。」
真剣な顔つきで改まって話し出したんで自然と周囲の雰囲気も引き締まる。
『全員参加』て、部分でお願いした件かなと思いつつカイ様を情報源に見立ててどう纏めるんかと耳を傾けた。
因みにフォルクの名前は出してないけどウィプキングさんにはエリアボスを倒して呪いに掛かった者がいる事と俺が未熟ながらある程度『呪い』を治療できる事、その能力を上げる為にも修行の旅をしてる事や、後は『呪い』に掛からんと言っていい程の耐性があるのを話してた。
正直に話すのを迷わんかった訳やないけど…どうも嘘をつくには別案の説得力が足りんのと相手が相手やったんで、下手に嘘ついたら折角信じて貰えそうな雰囲気を台無しにしそうやったから概ね正直に話してたがどう使ってくるんやろね?
「まず、ダイチの事だが…なぜ『緑の国』の『要人』と親しいか謎であったろう?」
「確かに、能力は逸脱しているが…特別な地位に就いてるようには見えないしな。」
ウィプキングさんのこっちから見て右横におるレーヴェさんが同意して頷く。
まあ、俺自身が偉いようには見えへんやろうし…寧ろ不審者感しかない気が…いやいや兎に角、別の国の一般市民が一国の隊長格さんと知り合い通り越してかなり親しいって普通になんでってなるわな。
「そうじゃろ?だが、その能力を見初められて彼はグリューンバルト皇帝に呼ばれ、警護にあのアイスナー殿が抜擢されたらしい。それで知り合ったと聞いたが相違ないな?」
「はい、そこから凄くお世話にもなりました。」
確認てより真実味を増す為の演技なんか視線で肯定を促されたんで、軽い補足を入れつつ素直に頷いとく。
ま、警護もして貰ってたしお世話になったのも嘘やないからそこはほんまに問題ない。
「能力ってやっぱり治癒系かしら?」
レーヴェさんの更に横におるシェーンさんが顎に指を添えながら思案げに質問するとウィプキングさんは首を振る。
「それもないとは言わんが…一番の目的は『呪い』に掛かった者の救済じゃった。」
「呪い?」
今度は俺の右隣に立ってるヴィーダーさんが不可思議そうに首を傾げた。
「そうだ…『緑の国』は平和であったろう?それは、魔獣を根本的に減らす方法が『呪い』を代償にたまたま発見されたからだ。」
「本当ですか!?」
確信に触れるとシェーンさんの横におったレオニーちゃんが驚きながらも隠しきれへん歓喜を含ませた声音で叫んだ。ちょっとビックリしたけど、本人も正気に返って恥ずかしかったんか「すいません…。」て、頭を軽く下げてなんとか平静を取り戻す。
「うむ、事実…国に存在した最も強い敵を倒した兵が『呪い』に掛かったが、その後現象が明らかに落ち着いて今の状態まで持ち込めたそうだ。証拠は見たのならば分かるじゃろうて?」
ウィプキングさん的には茶目っ気なんか主に疑り深いヴィーダーさんに視線を向けて言ったんやけど、空気が鋭くなったんで挑発はやめたげて下さい!
ヒヤヒヤしつつもヴィーダーさんの反応を楽しんでご満悦なんか話に直ぐ戻ってくれた。
「それでじゃ、ダイチは『呪い』の治療が発展途上ながらも出来るので招かれたが力及ばず、それならば力を上げようと旅を始めた上に『呪い』に対する耐性が高いので『土の国』の親玉にも挑もうとしていてくれたらしい。だが、そもそも我が国に巣食う害獣だ。少なくとも退治を手伝いたいのだが…協力してくれるか?勿論、依頼料もそれなりに弾もう。」
「もちろんですよ!」
レオニーちゃんが挙手しそうな勢いで間髪入れずに同意したのを皮切りに他のメンバー全員が力強く頷いてくれる。
そして、レーヴェさんが続くように鋭い牙を見せて笑った。
「頼まれずともこの国を守る為ならば尽力しよう。」
次いでレオニーちゃんの横におったライゼが嬉しそうに頷いて呟く。
「ああ…私も全力で協力しよう。やっと、この国も先が見えるのだな…。」
「本当に…っ!」
シェーンさんは歓喜で涙ぐんでるんか何度も頷いては目元を擦る。
「もう、傷つく奴や悲しむ奴らを見なくて済むのか…。」
ウィプキングさんの横におるクレーさんの更に左横におるトレラントさんが静かに拳を握りながら感動に打ち震えてて、気持ちがこっちまで伝わって来るぐらいや。
「それで、ダイチさんを…との事だったのですね。微力ながら全力で手伝わせて頂きます。」
深く納得したように呟いたクレーさんも力貸してくれるんかと心強さも増した所で、フードの上から頭に手を置かれた。
「…無茶はするな。」
短い言葉やったけど心配してくれてるんかなと思って見上げながら頷くと外套の裾を左横からクイクイ引っ張られたんで視線が下がった。
「俺モイル。何ガアッテモ、ダイチヲ守ル。」
今までも守って貰ってたけど真剣な眼差しで改めて言われると胸に来るもんがある。でも、それだけでは満足できんなと悪戯っぽく口端を上げる。
「それはこっちもやで、フォルク。俺にも守らせてや。」
そう返されるとは思って無かったんか、守る事が当たり前過ぎて守られるって何やと思ったのか、驚いた顔してから嬉しそうに牙を見せてくれて尻尾が揺れた。
「アア、オ願イスル。」
喜んでお願いされますって気持ちで頷いたんやけど、予想以上に自分自身も頼られて嬉しいってか…湧き上がってくるもんがある。
意見が纏まった所で最後に無闇にボスに突っ込んで行って犠牲を増やさん為にも話を内密にする事をウィプキングさんが注意して今後の経路や予定を見直し、後は俺が個人的に試したかった事を検証し、魔獣に対する作戦を伝えてから先を急ぐ事になった。
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