呪われた騎士と関西人

ゆ吉

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2章

33.「天幕」side.ヴィーダー。

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 あいつが慌てて天幕を出る背を見送り、オレは深い深い溜息をついて顔を手で覆った。
 なんだってこんな気分なんだろうか…無防備すぎるあのバカが悪いと思いたい。

 昨夜は嫌な気分で眠ったと思ったらいつの間にか温かい体温が傍にあって、目を覚ますと平和ボケしたような寝顔が間近にあった。
 最初は驚いたが『安心』って気持ちなのか…酷く落ち着いた気分で、手放し難く…眠ってるのをいい事に強く抱きしめては何度も存在を確認した。
 そうしたら、あいつは変な笑い顔になって頭を撫でて来て…一瞬起きてるのかと体を離したらむにゃむにゃと口を動かし何か食ってる夢でも見てんのかって噴き出しそうになった。
 変な奴、本当に変でいちいち感情を煽る奴。だから、気に障ると気づいたのはあいつに感情を理解しろと言われて暫く経ってからだった。

 気づいてからは余計に気に触るのが癪だがって…いつまで人の頭を撫でてるんだ?て、ぐらいに撫でられてた。いや、別に撫でるのは良いんだが…いや待て、良いのか?分からん…嫌ではない気がするがいつまでも撫でられてると何故か落ち着かなくなる。
 とりあえず、その後は衝動に動かされるまま手を掴まえ握り込みながら触れた手触りは綺麗だと柄にもなく思った。穢れてない、傷ついてないようなそんな感じで、自分とは違う生き物に触れてるような感覚だった。
 もし、この手が汚れたらどんな顔をするんだろうか?間抜けな顔が少しは引き締まるか?それとも、辛そうに歪めるか?…辛そうなのは胸糞悪い気もするから、却下だが。

 そんな自分にしては珍しい事を考えていたからか難しい表情をしていたら、あいつが起きて驚いたようにこっちを見た。
 …で、オレにとっては予想外な事を言って来るからまた感情が波立つ。
 なんだ『おはようございます。』って…いつぶりに聞いたか、いや言われた事があったか?
 大体、一緒に寝た奴より先に起きて身支度して出て行くから、挨拶なんてしない。どう返したら良いんだと悩んだが、似たように返せばいいのかと分かった。

「おはよう…。」

 ああ、また妙な気分になる。温かい…ぬるま湯にでも浸かってんのかって感じで…嫌な気分ではないがザワつく。
 そんな風に思ってたら手を握っているのに気づきやがった…気づくなよ、離さないといけなくなるだろうが。
 思わず舌打ちしたくなったが、仕方ないんで投げやりに離してやる、くそ。
 しかも、バカな事を言ったかと思えばさっさと起き出そうとしてやがる…待てこら、もう少しぐらい良いだろうが、まだ早い。

 返事はしたが起きる気は微塵もない。ついでにイラつきを頬抓ってぶつけてやる。ああもう、なんか手触り良くて余計にムカつく奴だな。
 どうにかして引き止めらんねぇかと思ったらシャツのボタンが目についた。適当な理由つけて服でも脱がせばもう少しはいてくれるかと外したが、抵抗も無しとかどれだけ無防備なんだ。
 お前、他の奴にもそうなのかと腹いせに触る気のなかった肌にも触れる。頬と同じで滑らかで、ふざけた奴なのになんでいちいち作りが細かい体してんだと疑問に思う。
 半ば夢中で感触を確かめてたら腕を掴まれたんで不機嫌に様子を見たが、感じてるのか?これだけで?て、思う程敏感で思わず驚いて声に出た。

 その後も抗議されたが抗議になってない。寧ろ煽ってんのかって思ってたら、また起きようとするから押し倒してみれば明後日な注意を受ける。
 呆れた、呆れたついでにさっき思ってた疑問を試した…少し意味は違うが、汚れたらどんな反応をするんだって。
 相手の手なんか普段は面白くもないし興味もないが、口づけて、舐めて、辿って、擽ったらいい反応が返って来る。
 どう見ても物慣れない態度で、下手したら誰とも肌を合わせてねぇのかと思うとすこぶる良い気分になった。
 楽しくて嬉しくて…後、反応が可愛いって言うのか…後から考えたら頭が沸いてたが、その時は煽られて…また触る予定のなかった胸に触れた。
 女みたいな柔らかさも膨らみもないが、乳首の先端を潰して摘むだけでゾクゾクとする。
 口に含んでも良かったが抵抗する気配を感じて脚を体重で抑え、自分の熱を押し当ててと段々加減ができなくなって来てた。

 そっち方面が鈍感そうなあいつも流石に気づいたのか焦ってやがるのが…またいい。
 焦らしつつ余裕があるように見せたが、正直本気になりかけてて…トレラントのバカ野郎が乱入してくるまでは目の前の獲物を逃す気はなかった。
 邪魔された上に本気で蒼白な顔してるあいつを見たら逃す気になったんだが、なんだろうな…この苛立ちは。

 もっといい顔できるだろうが…笑顔でも良い、照れてる顔とかは更にいいだろう…どうしたらそんな顔させられるんだ?

 後、やっぱヤりたかった…。
 最初は戸惑うんだろうが、段々溶けていって最後は自分から縋れば良い。
 中に挿れて掻き回して、もう無理って言っても一日中抱き潰して…なあ?なんだこの気持ち?
 オレはおかしくなったのか?男相手になんて事考えてるんだって自覚はある。
 でも、知りたい。お前に教えて欲しい。先に何があったとしても、後悔なんてしないから…。

 そんな事考えてたら朝飯をすっかり逃した。
 鬱々とした気分で昼頃、依頼主を出迎えに行ったら目の前であいつが他の男に抱きしめられそうになって引き寄せる。
 おいこら、オレ以外見てんじゃねぇよ…と、目の前の敵を殺す気でナイフを構えていた。
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