呪われた騎士と関西人

ゆ吉

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2章

28.「救援を求め」

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 フォルク以外の二人にも軽く声を掛け、エルフの里から馴染み深い西の輜重兵しちょうへいがおる陣へ向かう事にしたものの、一旦、荷馬車に寄り道する為に来た道を引き返した。
 目的としてはクレーさんに【身体活性化】を施し、待って貰ってる状態なんで簡単に事情説明しとかなあかんやろって感じやった。
 便利な【俊足】を最大限に生かして早々と舞い戻り、残ってたメンバーにエルフの里の現状とウィプキングさんら含めて両方の救助と援助を求めにつてを頼って行って来る旨を伝える。
 すると、レーヴェさんが申し訳ないと同行の意思を示してくれたんやけど、一応なんかあった場合を考慮して残って貰う運びとなり予定通り一人で陣へと向かった。

 門前に到着すると見覚えのあるフィデリオ青年と見知らぬ『緑の民』らしき少し小柄な青年騎士が二人で立ってる。
 イーゴンさんはどうしたんやろ?ニコイチなイメージがあったんやけど、今日は休みかな?
 疑問に思いつつもフィデリオ青年が気がついて応対してくれた。

「あれ?ダイチさんじゃないですか。どうされたんです?確か昨日、旅に出られたと…まるで想い人と別れたような哀愁感漂うアイスナー隊長がおっしゃってましたけど。」

 エーベルさーん!?寂しがってくれてたんかと感動しつつも、相変わらずってか天然かと思いきや明らかに狙ったような発言するようになってるフィデリオ青年に驚く。

「…お久しぶり、フィデリオくん。今日も調子良さそうやね?それがな…問題が発生しまして…めっちゃ申し訳ないんですけど、エーベルさんまだ陣内にいらっしゃいます?」

「アイスナー隊長でしたら上からの指示で休暇の延長をされて、ご自宅に戻られておりますよ。」

 隣で話を聞いてた青年騎士が詳しく答えてくれたが、初対面やからつい質問とは別に首を傾げてまう。

「えーと、どちら様で?」

「あ、これは大変失礼致しました。イマヌエル・キアーと申します。フィデリオさんと組んでいらっしゃったイーゴンさんが戦線に復帰されましたので、代わりに配属されました。どうぞ、お見知り置きを。」

 めっちゃ真面目な態度で答えてから胸元に手を当てて会釈された。正統派の騎士って感じでイーゴンさんが自分の事、荒くれ者って言ってたんはこういう態度の人と比べてたんかな?
 個人的にはどっちも好感持てるから、気にせんでええんやけどって俺も自己紹介せなな!

「丁寧にありがとうございます。ダイチ・ヤマグチ言います。フォルクハルト・ヴルカーン緑赤騎士と友人で、エーべル・アイスナー緑青騎士には大変お世話になってる旅人です。」

 一応、不審がられんように立ち位置含めて告げると呆気に取られたような表情で凝視された。

「それは…その、また豪華な方々とお知り合いなのですね。恐れ入ります!」

 さっきより角度のついた綺麗なお辞儀されて目上に対するように畏まられたんやけど、別に俺は一般ピープルやからね?安心おし!

「いやいや、俺自体は普通?なんで…そんなせんといて下さい。それより、エーベルさんに何とか連絡って取れません?かなり重要で急ぐ案件なんですけど。」

 話を戻すと横で様子を楽しんで見てたフィデリオ青年が一拍考える素振りを見せてから、満面の笑みで頷いてくれた。

「任せて下さい。取り継ぎは僕の得意分野ですから。」

 そう言えばそうやった。
 此処に初めて来た時もエーベルさんと直ぐに繋ぎを取ってくれたのを思い出しながら、どうするんかと思えば軍用の伝書鳥がおるとかで陣内の天幕の一つに案内してくれる。
 白い鳥が首に下げてる銀の首輪に緑の宝石みたいなんが嵌め込まれた伝言用の魔道具に素早く短いメッセージ入れて飛ばしてくれた。
 内容はなんや暗号化されてて、単語の意味自体は分かるんやけど、示す意図が分からんと言うまさかのスキルの隙をここで発見してまう。
 でも確かに言葉理解できても微妙なニュアンスとか経験則に基づくモンやもんなとか妙に納得できた。
 後、まだ詳細伝えてないが大丈夫かって問いには、アイスナー隊長ならすっ飛んでくる魔法の言葉を入れましたからと意味深に微笑まれた。

 それから天幕で簡易の椅子に腰掛けながら待ってる間、退屈せんよう話し相手になってくれたんやけど…鳥は皇帝様直々に躾けたとか、何故か理由は教えてくれへんかったけどフィデリオ青年は皇帝様と個人的に親しくて情報系の一端任されてるとか、目立たんけど何げに凄い人やと発覚した。
 てか、皇帝様…趣味と実益をまさか兼ねてはるとは…相変わらず恐ろしい子!と、思ったら更に末恐ろしい子の発言がある。

「ダイチさんにはイーゴンさんの件で恩がありますしね、誰かの弱みを握りたい時は言って下さい。」

「…え?弱み?」

 個人的には君と皇帝様の弱みを押さえとけば安泰な気もするが、弱みをチラつかせて失敗した場合の制裁がモザイクもんやと思うと背筋がごっつ寒い。触らぬ神に祟りなしやなと話を切り替える。

「えーと…それにしても、イーゴンさんと随分親しいんですね?」

「一方的にですけど、でも…彼の事は昔から大好きなので感謝しています。」

 それはもう穏やかに微笑まれた。こうしてると生粋の『緑の民』って感じやな。
 たわいない話と一応、何があったかの説明してたらエーベルさんが到着して天幕に入って来てくれた。
 空を飛んで来てくれはったんか…例の目のやり場が!ってなる衣装と忙しない息遣いに満面の笑顔、今日も相変わらず眩しいです!

「ダイチ!」

「エーベルさん、なんかもう色々すいません。でも、来てくれて嬉しいです、ありがとうございます。」

「気にするな、お前が『会いたい』と言うならば何処へでも駆けつける。」

「へ?」

 フィデリオ青年の方みたらニヤリと悪辣な笑顔向けられた…まあ、皇帝様のご友人ってか類友かな!?してやられたわ!!!
 感激してくれてるエーベルさんにこれから大量の仕事を手渡す羽目になるやろと思うと目が虚ろになった。







 気を取り直し、『緑の国』から出た後の余計な部分は省きつつも詳細に事情を話して聞かせた。
 休暇真っ最中のエーベルさんは最初、プライベートモードやったんで緩んだ表情してたけど、話を進めると真剣な顔つきになって聞いてくれる。
 話し終えた所でフィデリオ青年に荷馬車を残ってるエーベル隊含め、足の速い馬を揃えて迎えに行ってここに連れて来るように指示を出し、更にエーベルさん自身はエルフの里に近い北の陣に救援の話をつけに行ってくれる事になった。
 通訳の関係とか、フォルクとの鉢合わせも考慮して俺も一緒に連れて行って欲しい旨を伝えたら快諾してくれる。
 そして、各自仕事に取り掛かりってか…抱えられて運ばれるだけの簡単なお仕事をこなしつつ、西から北へと快適な空の旅となった。

 無事に北の陣へ到着すると前線隊長の権力、現場の最前線を統括する為に設けられた大隊長クラスの権限で北を統括してる中隊長さんに話を通し、防衛の部隊を残しながらも直ぐに救援の部隊を編成して貰える運びとなる。
 大森林の状態も安定してる様子から緑の騎士が多い輜重兵も動員して物資の搬送を行い、俺は案内役として共にエルフの里に戻る事になった。
 エーベルさんも武装して着いて来てくれたんやけど、状況確認と大まかな指示を出すと後は中隊長さんに任せて西の陣でウィプキングさんらを迎える為に戻る事になる。

「途中ですまないな。あちらも俺が話を通した方が早いだろうから、一度戻って来る。」

「いや、当たり前ですし寧ろありがとうございます。気をつけて、いってらっしゃい。」

 昨日は俺が見送りして貰ったしと今日は見送り返せば居を突かれたような反応して…ぬあああああ!て、エーベルさんが去った後に両目押さえて地面に膝を着くような笑顔を向けられた。
 謎の精神攻撃(?)を受けつつも一度、エルフのおにーさんが眠ってる様子確認してから救援の部隊に混じって手伝おうとしたら、やっぱり言葉が通じんてなってライゼと二人、通訳に抜擢されてその仕事に就くことになる。
 簡単な応答は何度も話してる内に隊員の人も覚え、と言うかメモ取ったりと熱心で有難かった。
 長い会話とかは流石に無理やから積極的に通訳しつつ、食料の支援と看病を進め、里内や家の中も荒れてたんで清掃活動、死者、生存者共に名前と数をそれぞれ確認してから腐敗の進んでた亡骸から順番に地面に深く穴を掘って埋めて行く。

 担当の人に火葬ではないんですか?と質問したら『緑の国』の風習では地に戻せさえすれば、やがて肉体は吸収されて消えるらしいとか。痕跡は跡形も無くなるが何もせず放置してたらアンデッド系になるから、それよりは遥かに良いと基本的に土葬が多いらしい。
 各国で弔い方も変わってくるんで知らんでも不思議やないと思われたらしく、安心しつつ手を合わせて見送りながら埋葬が一通り終わる頃には日はすっかり落ちて、松明の明かりが里を照らしてた。

 人心地着いたんで姿の見えんフォルクは隠れてるんかな~?と探す気満々で墓地になった一角から森の中へ行こうとしたら、後頭部に固いもんがクリティカルヒットして来て地面に撃沈する。
 一瞬、気を失ったんやけど痛みに直ぐ気がついて後頭部抑えながら悶絶した。

「痛い…めっちゃ痛ぃいいいい!…もう、一体なんや!?何してくれてんねん!?」

 怒りで起き上がって振り返るとヴィーダーさんが腰に手を当てて俺より憮然とした表情で立ってた。

「こっちの台詞だ。なんてもん気軽に渡してんだ、バカ野郎。」

 なんで怒ってるんや!?ビビリつつも転がってる水筒見て、思い出した。あ、これやらかしちゃう系男子の神様のやつやんて。

「いいか…無限に水が出るような非常識なモンを会って間もない他人に預けるとか頭がイカれてるのか?もう少し危機感か警戒心を持て。」

 イジメっ子登場!かと思いきや、めっちゃ常識的なお説教を炸裂された。いっそ理不尽だけやったら言い返せるのにぐうの音も出まへん!と、見せかけて水筒直撃はあかん!下手したら神様の元に戻ってまう!

「もっともな話ですけど…せめて、水満タンの水筒投げつけるのはやめ…あ、はい!誠にすいませんでしたー!」

 ギロリと睨まれて一蹴される。てか、めっちゃご機嫌斜めや!なんで!?俺の粗相がそんなに目に余りましたか!?

「あの、お言葉は有難いんですが…なんでヴィーダーさんがそんなに怒ってるんです?本人的には貶してるっぽいですけど、心配して忠告してくれてるようにも聞こえるんですが…何故に?」

 昼間も疑問に思ってたんで改めて質問すると低い声で唸られた。

「ああ?……知るか、思ったまま行動してるだけだ。別に心配もしてない…と言うか『心配』ってなんだ?よく分からん。お前こそ変で…気に触って、なんなんだ?」

 逆に質問返されたけど、『心配』がわからんてどういう事?気に障るのは俺の感情ちゃうし、説明できんのやけど!

「ええと、心配は気にかけるって意味ですよ。ほら、家族とか、友人とか、恋人、大事な人が危ない事してたら気になるでしょ?他人でも危険な姿みたら焦りません?そんな感じです。」

「…家族はいない。友人?て、なんだそれ食えんのか。恋人は…肌を合わせる奴なら何人かいるが、別に危険に晒されるのは自分の不注意だろ?どうしてオレが気にかける必要がある。他人は論外だ。」

「はい?」

 丁寧に答えてくれたけど内容に絶句した。家族はいなくて友人の意味もいまいち分かってない様子。おまけに肉体関係ある人…多分、ヴィーダーさんの中で最も深い関係におる人らの扱いも低すぎるし他人は意識にも掛かってない!?
 あまりの感覚の違いに戸惑う以外に何もできんのと、どんな人生歩んでたらこうなるねんて程に根の深さを感じた。

「ヴィーダーさん…今までどうやって人と接して生きて来たんですか?」

「人と接する?別に…用事があれば会話して、仕事を受けて…欲が溜まれば抱いてって普通にだ。」

 普通?普通がなんか一般的に言う『普通』と大幅にズレてる気がするのは、気のせいでないように思う。

「因みに複数の女性と関係を持つのに罪悪感はあります?」

「罪悪感?どうしてだ?何も悪くないだろ?」

 シェーンさんが碌でなしって言うから弄んでるかと思いきや、行為自体を客観的に理解してないんかも…。

「えーと、じゃあ…男性に冷たいのは?」

「男に情を求めてどうする?なんか意味あんのか?」

 おうふ、情にも色々あるやんか!?て、多分、理解してない…見る限り、かなりの重症!

「なんなんだ?さっきから…質問に答えろ。」

「いや、答えた所でわかりますかね…?多分、ヴィーダーさんは言葉より感情を理解する方がええと思います。」

「感情を理解…?」

 こいつ何言い出してるんやって顔されたけど、それはこっちも同じやからな!

「そうです、なんでも良いんです…俺が気に障るっていうならそれ考えてくれても良いですし、複数の女性と情を交わすのがシェーンさんにとって目につくのはなんでやとか?ヴィーダーさんが自分の感情に鈍い…幼いんですかね?だから、沢山の事がわからんのですよ。」

 そう言えば難しい顔しながら視線を下げて黙り込んだ。
 ああ、お礼言ってくれた時もこんなんやったなとか…誰も何も教えてくれへんかったんかとか、自分で考えるって事に気づける環境やなかったんかとか…子供見るような目線になってもうた。

「大丈夫ですよ。俺も『獅子の咆哮』のメンバーもいるやないですか?手助けするんで困ったりわからんかったら言って下さい。」

 あのメンバーやったら嫌な顔せんやろうし、事情が少し分かった身としても何か力になれれば良い…上手く行くかは本人次第やけど。
 戸惑ってるんか頼れるヴィーダーさんには珍しい揺れた眼で見返され、小さく頷くと気まずいんかその場を去って行った。
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