呪われた騎士と関西人

ゆ吉

文字の大きさ
上 下
22 / 93
1章

22.「旅立ちの前に」

しおりを挟む
 肉体が変わってから切れた事のない息が上がってた。
 ぜぇぜぇと上がる呼吸音を聞きながら【俊足】を使ってひたすらフォルクの元へと急ぐ。
 街道を途中から森の中へと入り【索敵】を使って姿を探すも見つからへん。
 冷静に考えれば待ち合わせ場所の近くで待っててくれてるから、そこを目指せばええのに、この時の俺はそれを欠いてたと思う。

「フォルクっ…どこや?どこにおるん?」

 前にもこんな事があった気がする。どこを探しても見つからん、誰か。
 あれは誰やったんやろうか?なんで思い出されへんのやろうか?そして、なんでこんなに悲しい気分なんやろうか?疑問ばかりが浮かんで消えて行く。

「フォルクーーーー!!!!」

 混乱したまま森に叫んで、叫んでから少し冷静になって居た堪れなさにしゃがみ込んだ。

「何やってんや、俺?アホか…はぁ、格好悪~。」

 何故かエーベルさんの『負けるな』って言葉に嫌な事を思い出し掛けた気がする…。
 昔から嫌な事は忘れる!だって、笑顔が減るやん!が、癖やからなんやったか全然思い出されへんけど…大事な事やったんちゃうんかな?
 悶々と悩んでたら草木の揺れる音がしてビクついた。しまった、魔獣か…まだ、戦った事ないし、逃げるかと立ち上がり掛けて止めた。
 現れたんはフォルクやったから。遠くから高速で近づいて来て目の前で止まった彼は何故か鬣と尻尾がめっちゃ逆立ってる。

「大丈夫カ!ダイチ!?」

「フォルク…なんでここに?」

「声ガ聞コエタ、叫ンデイタダロウ?何カアッタノカ?怪我ハ?誰カニ何カサレタノカ!?」

 矢継ぎ早な質問と忙しなく安否を確認してくれる仕草が嬉しくて、波立ってた心が段々と落ち着いていくのを感じた。
 探るように近づいて来た鼻先を撫でて、額をつけてと更に癒されて息を吐く。

「心配掛けてごめん、なんや疲れてもうたんやと思う。大丈夫やで、いきなり叫んで呼んで…ビックリしたでな?」

「イヤ…呼バレタノハ嬉シカッタ。疲レテイルナラ休メバ良イ。森ノ奥ニ行コウ?背ニハ乗レルカ?」

「うん、乗れるで。フォルクの背中、久しぶりやから嬉しいなぁ。」

 へらっと力の抜けた笑いを向ければ逆立ってたフォルクの毛と尻尾が下がって、更に尻尾は緩やかに振られる。
 フォルクも落ち着いたみたいで良かった。
 それから、屈んでもろて背に乗った俺は一旦森の奥へと向かった。

 小一時間した頃、フォルクに『緑の国』での治療が無事に完了したと伝える。
 そして、皇帝さんから頼まれてた伝言もする事にした。

「『お前の騎士席は残してある、いつでも良いから帰って来い。と…後は、この大馬鹿者!』って、もし会えたら言ってくれって言われた。多分、相当心配してるみたいやったで。」

「ソウカ…アイツラシイ…。昔カラ、何モカモ見透カシテイルヨウナ所ガアッタノダガ…、敵ワナイナ。」

「正体、カイ様に伝えて行こか?まだ、戻ろうと思えば戻れる距離やで?」

「イヤ…、大丈夫ダロウ。ソレニ、踏ン切リガツイテイナイノガバレテイル…、ソノ為ノ『大馬鹿者!』ダ。」

 凄いな、子供の頃から一緒らしいから全部言わんでも分かり合ってる。
 うーん、正直羨ましい。俺よりフォルクの事分かってるんか…皇帝さんとは気が合いそうやけど、ライバルでもあるな!
 一人闘争心メラメラさせてたら、フォルクが何故か「グルグル」唸ってた。

「どうしたん?フォルク?」

「イヤ…『カイ様』ト呼バサレタノカト…アイツ、趣味ヲ出スノハ止メロトアレホド…。」

 なあ、その趣味ってほんまになんなん?エーベルさんも言ってたけど、そんなに注意される趣味なん…?て、ムクムクと疑念が湧いてきた。

「他ハ何モサレナカッタカ?一応、魔法ヲ使ッテ『遊ブ』ノモ注意ハシテイルノダガ。」

「ええと、一応何もされんかったよ。てか、なんなん…その趣味って?」

「………俺ニハ理解シ難イシ、近シイ者シカ知ラナイノダガ…好ンダ者ヲ従属サセル趣向ガアルノダ。アイツノ魔法ハ植物ヲ自在ニ操リ、生ミ出セルノダガ…縛ッタリ、振ルッタリト…。」

 ああうん!何となくってか、それもろアレや!皇帝さんかと思いきや、ガチの皇帝様やねんな!

「被害者ハ揃ッテ、助ケルト言ッテモ話ヲ聞カナイ上、何故カ恍惚トスル者バカリデ…俺モ、エーベルモ頭ガ痛カッタ。」

 精神的にも調教済みしてそうやもんね!話したから何となく分かる!てか、聞いたらあかん系の趣味やったぁあああ!なんでそんな知識だけレベルアップして行くねん!?

 この世界、癒しも多いけど…地雷も多いな、気をつけよ。
 気をつけても踏んづけそうな悪寒に身震いしながらも俺は気を何重にも引き締めた。

 話が滅茶苦茶脱線したものの、今後の事についてと言うか先送りにしてた問題を片付ける事にする。

「フォルク、『土の国』に旅立つ前に神様と一回話とこうかと思うから、ちょっと待ってて貰える?」

「アア、分カッタ。」

 断りを入れてから、久しぶりの脳内【神話】に挑んだ。間が空いてるし、繋がるかな?
 もしも~し。神様、聞こえてます?聞きたい事があるんですけど~。

『お掛けになった電話番号は、現在使われておりません。番号をお確かめになって…』

 うん!バッチリ繋がってるよな!めっちゃ、神様の声ですやんか!何、ボケてはるんですか!?

『えー、違うよ。て、言うか連絡しなさ過ぎ!酷いよダイチ…手に入れたら途端に価値を見い出せなくなるクソ男みたいだ!神を弄ぶなんて最低!』

 こらー!俺の評判を貶めるだけの根も葉もないのに何かリアルなコメントは止めて!寧ろ、弄んでたのそっちやろー!!!!

『人聞きが悪いなぁ。僕は愛が溢れて飽和してる全ての子の父神だよ!?弄んだ事なんて一度もないからね!失敗しただけ!』

 なるほど、失敗か…偉い大きい失敗してそうですね!

『な…なんの事かな?それより聞きたい事って何?』

『失敗』に詳しくツッコミたい気もするけど、まず、ずっと気になってた事を聞こうか。
 なんで、『緑の国』はこんなに現象が緩和されてるんですか?神様、歪み緩和させる言うてそんな経ってないでしょ?

『ああ、その事。そこにいるフォルクがここのボスに当たる霊獣を倒したからさ。エリア最大の元凶を倒したんだ、それに応じて全体の意思が落ちたんだよ。』

 意思が落ちた?変な言い回しやな。聞き返そうとしたら神様が話を続ける。

『つまり、国のエリア毎にボス格の敵がいる。そいつを倒すと歪みは治せないけど、数十年、沈静化はできるんだ。只、大体呪いを持ってるから耐性が無い者が止めを刺すと…ご覧の通りだよ。流石に僕も一番の功労者がそれってどうかと思って、近くに降りて貰ったんだ。』

 なるほどってか…それってマズイんやない?他の国でボス倒した人がおったら呪いに掛かってるやろうし、耐性高い人が国におらんかったら…つまりは。

『耐性過多なダイチが止めを刺せば良い。だから、良い武器も入れて置いたのに…使ってないし。後、フォルクが一番最初にボスを倒したから後はまだ残ってるよ?』

 やっぱりかー!?そうやでな、フォルク強いからってずっと戦いをおんぶに抱っこはどうやねんやったけど、弱い魔獣ならいつか俺もって淡い期待をぶち抜いて、ボス格とやり合わなあかんのか!?
 幸いなんはまだ、他の国で倒されて被害者が出てない事やけど…おうふ、一気に精神的疲労感が。

『聞きたい事はそれだけ?じゃあ…』

 ちょっと、待った!後、『黒の民』の事や!神様どんな『理』課したんですか!?

『彼らは…ダイチ、今はその質問に答えたくないな。代わりに良い物あげるから今度にしない?』

 その話の逸らし方どうなん!?大人としてアウトーやろ!?

「良い子だから、聞き分けてよ。折角、頑張ったご褒美に【解呪】のスキルを上げるポイントを贈呈しようと思ったのに。いらないの?」

 いります!下さい!ツッコマんから頂戴!!!!

『素直だな…悪い人に騙されないか心配になるよ。うん、じゃあポイント贈呈とついでにそのまま、【解呪3】にして置くね。良いかい?』

 少ない気もするけど、お願いします!

『贅沢言わない方が良いよ?はい、上げたから【解呪】後で使って見て?後さ、【アイテムボックス】の中に大量の食料と水、毛布に薪とか旅道具も入ってるから…それも使ってよ?エーベルみたいに気が回らなかったけど…僕も色々、配慮したんだからね。』

 ちょっとムクれた声が聞こえて来た。
 うん、やっぱ悪い人ではないんやよな…たまにやらかすけど。

「全く失礼しちゃうな!でも…本当に悪意はないんだ、僕の浅慮が招いただけ…それで、沢山の子供達を傷つけたけど…。」

 神様も反省してるから動いてる訳で、俺がとやかく言うてもええ方に進まんかな。
 分かりました、神様を責めたい訳やないんで…只、知りたい思うのは許して下さい。

『うん、いずれ全てが分かるよ。…ダイチ、旅、頑張ってね。見守ってるから。』

 ありがとうございます!俺も失敗はするけど、やる気はあるんで心配せんといて下さい。
 こうして、俺と神様の久しぶりの会話は終了した。

 そして、終わるなり早々、横に座って待っててくれたフォルクに向き直る。

「フォルク、【解呪】のスキルレベル上げて貰えたで!早速、使うな?ちょっとは呪い解けるやろ。」

「本当カ!?」

「本当や!行くで【解呪】!」

 初めと同じように体と周囲が光に包まれ、そして晴れた。
 フォルクの姿が見えて来ると…どう見ても全長が十メートル程から三メートル程に縮んでる!

「よっしゃー!フォルク、体の大きさ縮んだで!これで一緒におっても『従魔』で通るんちゃう!?」

 黒歴史が初めて役立った(?)気がして余計に嬉しい。
 フォルクは確かめるように自分の手を見てニギニギしたり、俺と何度も体格を見比べて納得したんか嬉しそうに声を震わせた。

「ソウダナ…、コレデ…ダイチト…ダイチニ…ッ!」

 全部、話し終える前にフォルクが飛びついて来た。ちょっと重いけど、最初の頃と比べたら圧倒的に重量感が違うんで問題ない。
 体に擦り寄って来るフォルクを俺も全力で撫で返しながら鼻先と鼻先くっつけた。

「かぁわいいな~。」

「っ…!?」

 我慢できずに願望を叶えたら驚かれる。やっぱ引かれるかと思ったけど、フォルクは嬉しそうに応えてくれた。

「ソレハ、ダイチノ方ダ…。」

 ペロッと頬っぺ舐められて「ゴロゴロ」喉鳴らして擦りついてくる。
 ここが天国か状態で暫く戯れた後、俺はフォルクの背中に颯爽と飛び乗って次の国を目指した。
しおりを挟む

処理中です...