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1章
20.「花木の下で」
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祈りを捧げた後、名残惜しい気持ちもあって暫く村を二人で眺めてたが、いつまでもそうしてる訳にもいかず別れの挨拶をと意を決する。
「エーベルさん…!」
声が上擦ってもうて、名前呼んだ所で不自然に止まった俺を見てエーベルさんは眼を細めた。
「まあ、待てダイチ。まだ、付き合って欲しい所があるのだ…それにしても、そんな必死な顔をしなくても今生の別れでは無い、落ち着いたらいつでも遊びに来れば良い。」
冷静なご指摘にいつの間にか強ばってた表情が和らいだ。
そうか!遊びに来てもええんか!すっかり永遠の別れ気分で流石に能天気な俺も凹むわ…て、思ってた!
思い込みに恥ずかしさが湧いてきたのと、またエーベルさんやフェイ、クシェルちゃんにアデーレさん、クリストフさんとエトガーさんとラーレさんにも会えると思ったら嬉しくて天に両腕突き上げてた。
「そやでな!めっちゃ嬉しい!ありがとうな、エーベルさん!絶対また会いに来るから、待ってて!」
「ああ…だから、無事に戻ってくるのだぞ。」
勢いよく万歳した姿を見てビックリしつつも、エーベルさんは強く頷いて微笑んでくれた。
「さて、では行くか?」
「ん?何処にです?」
「付き合って欲しい所があると言っただろう?一度、家に戻って着替えてからになるがな。おいで、ダイチ。」
結局、目的地は教えてくれずと今日はなんやサプライズが多いんかな?て、首捻りながら、両腕少し左右に開いて抱っこ体勢待ちのエーベルさんの元にわーい状態で駆け寄った。
あれ?なんか最早慣れて来たけど…これ、慣れたらあかんやつやない?大人の男としてどうなん?そう思いながらも、俺はガッチリ抱えられてお宅に戻る事になった。
そして、いつぞや見た事のある濃い紺色の礼装に身を包んだエーベルさんに案内されたんは城やった。
何故にお城?いや、エーベルさんの職場になるやろうから職場見学ですか…て、そんな訳あるかい!
動揺しまくる精神を他所に手を取られ門番も顔パスで通過してどんどん先に進んで行く。
待って!事情説明して!このまま何処かに連れて行かれるなんて嫌ぁあああ!状態やってんけど、通りかかった中庭らしきが視界に映ると瞬間的にエーベルさんの手を逆に引き返して止まらせた。
「っ…どうした、ダイチ?」
「桜や…。」
桜並木言うてええ程の本数が植えられた広い庭。
見覚えがありすぎる薄いピンクの花弁がヒラヒラと地面に落ち、緑の中に混じって綺麗な絨毯を作ってる。
懐かしい。その気持ちだけで唯唯、呆然と眺めてしもてた。
「我が国花を気に入って頂けたようで嬉しいよ。」
呆然自失としてたら木の影から青年が現れた。
白地に緑の草の模様が袖や縁に装飾された聖職者が被るような帽子とフードの無いローブを纏い、肩から濃い緑の布、これも植物柄が金糸で刺繍されてたりと高価そうな一品を下げてるお人や。
髪はパっと見が短髪で、実際は背まである後ろ髪を一纏めに括ってる。やや癖があって緩いウェーブが掛かった深緑、光の加減によって黄緑や青緑にも見えて不思議な感じの髪色に瞳も濃い緑と若いのに老成してる印象があるけど、隠しきれへん好奇心みたいな正直どっか悪戯好きそうな印象を受けた。
「陛下、此方にいらしたのですか?今、彼をお連れする所でした。」
そう言うなり膝をついて臣下の礼を取り出したエーベルさんの言動に俺は固まった。
もしかせんでも、皇帝陛下やないやろか!?!?!?
皇帝陛下と思しき青年は立ち尽くしたままの俺に何を言う訳でもなく、寧ろ礼を取ったエーベルさんに対して溜息をついた。
「相変わらず硬いね、エーベルは。今は公用ではないのだ、礼は止めろ。」
「そうですね、では本日はお言葉に甘えさせて頂きます。」
「…は?あの仕事中毒のエーベルが素直に言う事を聞いた…。明日は氷の雨か?何か悪いものでも食したのかい?」
「悪いものではないですが…寧ろ食べ損ねました。」
ちょおおおおお!なんや意味深すぎる発言に聞こえるのは俺だけか!?
皇帝さんの手前ツッコミも出来んし、さっきから脳内で焦りまくって訳わからんくなって来てて、どうしたもんかとオロオロするばかりや。
「と、待たせてすまないね、ダイチ。話があったので無理を言ってエーベルに呼ばせたのだ。茶の席を設けているから、こちらへ。」
そんな様子に気づいてくれたんか、皇帝さんが話を促して助けてくれた。
流石、民を率いる存在!今なら何処にでも着いて行きます!
そんなこんなで後について歩き、整えられてはいるけど草花の生い茂る一角に敷かれた敷物の上に3人で腰を下ろす事になった。
「風情があって、なかなか良い景色だろう?キルシュブリューテの花の下で飲む茶は格別なのだ。」
「桜やなくて、キルシュブリューテって言うんですか?」
「ダイチの国ではそう呼ぶのかい?ここでは、キルシュブリューテ。国の花であり、帝都の名でもあるのだよ。」
教えてもろて思い出した。
そう言えばエーベルさんが帝都の名前をそう呼んでたわ。
「はい、俺の国でも親しまれてる花とよう似てます…。なんや、懐かしくて感動しました。」
「そうか、それは本当に此処にして良かった。」
感傷的になりつつ見上げる満開の花と淹れてもろた茶の色は緑で、菓子こそ和菓子ではなく洋菓子っぽいけど、なんやほんまに日本に帰って来てお花見してるみたいやった。
「ダイチ、緑の国を代表し、カイ・クレーメンス・グリューンバルトがこの度の民の治療に心からの感謝を。」
暫く、花を眺めるのを見守ってくれてた皇帝さんは間を見て、片手を胸に添えると礼をしてくれた。
エーベルさんにも礼は言われたけど、やっぱ慌てる。俺も頭を下げ、そのまま急いで礼を返した。
「いえ、こちらこそ皇帝陛下とエーベルさんには大変良くして頂き、有難うございました。」
「カイと呼んでくれ。エーベルは役に立っただろうか?困らせたりはしなかった?」
「いや、それは流石に…カイ陛下とか、どうです?困らされたりは…ないです。凄く世話になって助かりました。」
困ると言うか悩んだ事はあったけど、全体的に世話になった印象が強かったんで素直に答えた。
「では、間を取ってカイ様と呼んでくれ。役に立ったのならば良かった。」
おお?何故かいつの間にかナチュラル(?)に呼び名が決定してた。
まあ、間と言えば間な呼び名に頷き掛けたのを、空気を呼んで黙ってたエーベルさんの一言に踏み留まった。
「陛下、趣味を出すのは止めて下さい。見苦しいです。」
「私に毒を吐くとは随分、出世をしたようだね、エーベル?なんだ、素直に『エーベル様』とダイチに呼んで欲しいと言えば良い。」
「止めて頂きたい。ダイチに誤解されたらどうするのです。」
仲は悪くなさそうやけど、やり取りが心臓に悪いっちゅーねん!
そして、様付けのハードルをガン上げすんのはやめてくれ!2人共いっそ、ちゃん付けにすんぞ!
ますます、ヒートアップしそうな会話に早々と釘を刺すことにした。
「落ち着いて下さい、話は治療の件だけですか?」
「ああ、そうだね…他にはフォルクの事だよ。まさか、私に秘密で愛人を作っているだなんて酷い男だ。」
もう、どっからツッコんだら良い?
カイちゃんとフォルクは夫婦関係なんかって所?それとも、俺が愛人枠な所?若しくは、暫定亡くなってる筈のフォルクの話にしては、ふざけ過ぎな所!?
「まあ、冗談は置いておこうか。ダイチ、フォルクと友人だと言うのは本当か?」
おっと、エーベルさんにもツッコまれへんかった所をズバリや。
なるほど、皇帝さんは色々と疑ってはるんやな。でも、友人なんは事実なんでしっかり瞳見返して頷けるで。
「ええ、カイ様程かはわかりませんが、負けんぐらいフォルクの事は大事な友人やと思ってます。」
「そうか…、疑うような事を言って悪かったね。それでは、もう一つ。」
一応、謝罪してくれたけど追求は続くようで内心嫌な汗がダラダラやった。
「なんですか?」
「君はフォルクが死んだと本当に思っているのか?」
「…っ!」
まさかの質問やった。
正直、ここで隠し事がバレてるんかとも思ったけど、動揺を押し殺して質問返すぐらいは意地でなんとか出来た。
「どういう意味ですか?」
「どういう意味も何もない。諸々の状況、他の者の意見を全て無視して構わない。君自身は彼が死んだと思っているのか?私はそれが聞きたいだけだ。」
「いや、俺は…。」
「どうした、答えられないのか?」
試すような何処か愉快げな視線に困惑しつつも、この人に下手に嘘つくのは得策でないのは分かった。
「…正直、死んではないと思います。どっかで生き延びて、でも何か理由があって出てこれんのやと…個人的に思ってます。」
フォルク、ごめん。できれば正体、隠して置きたいって雰囲気やったから俺もそれを守ってたんやけど…。
それを聞いた皇帝さんは満足げに頷いてから、息を吐いた。
「ほらな、エーベル。ダイチとは気が合う。私がどれだけフォルクが生きていると言っても周囲が諦め出していて、苛立たしかったのだ。久しぶりに良い気分にさせて貰ったよ。」
「はい?それが聞きたい理由だったんですか?」
「それ以外に何がある?」
おどけた様な仕草をしてから、距離を詰めた皇帝さんはエーベルさんに聞こえん程度の小声で「それ以外を話したいなら聞くが。」と、付け加えて来た。
どうやら、食えん人柄らしい。てか、ほんま『緑の民』の印象が!いや、大多数はフォルクの言う感じの人が多いんやけど、たまになんや毛色の違う人らが紛れてるって感じか。
「さて、では後はこれを受け取って欲しいのと、お願いがある。」
差し出された薄緑の小箱と『お願い』発言に首を傾げた。
「ダイチはこれから旅をするのだろう?もし、『赤の国』に立ち寄る事があれば、フォルクの母君に顔を見せてやってはくれないか?」
「フォルクのお母さんですか?」
「ああ、フォルクの生存を信じてはいるが…最近、どうもかなり参っているようなのだ。出来れば、少し話し相手にでもなってやってくれ。多少は元気も出るだろう。これを見せれば屋敷にも入れるだろうし、何か困った事があった時も使いなさい。」
マジか、それはかなり心配やなと思って承諾の返事しようと思ったら小箱を開けて中身を見せてくれた。
艶のある濃い緑の布の中に収められてたんは、エーベルさんが使ってた『紋印』と同じや。
初めて真正面から見たら、国花、キルシュブリューテが刻まれてるのに気づいた。
俺にとっても思い出深い印に暫く見入ってから恭しくも有り難く受け取る。
「ありがとうございます。大事に使わせて頂きます。」
「ああ、宜しくお願いするよ。さて、それで私の用事は終わりだ。後は花と茶を楽しんで行きなさい。」
そうして、三人で暫く懐かしくも穏やかな茶会を楽しんだ。
なんや、俺の座る位置はフォルクがおるべき場所やなと雰囲気がそうさせるんか、感慨深くも思う。
皇帝さんがそろそろ執務に戻らなあかん、面倒くさ~状態で立ち上がった頃、去り際に振り返った。
「最後にダイチ。もし、フォルクに会うことがあれば伝えてくれ。お前の騎士席は残してある、いつでも良いから帰って来い。と…後は、この大馬鹿者!と、罵って置いてくれ。」
最後の方に素が出てた気もするけど、心配と愛情深い気持ちが伝わって来て、嬉しくなった。
「エーベルさん…!」
声が上擦ってもうて、名前呼んだ所で不自然に止まった俺を見てエーベルさんは眼を細めた。
「まあ、待てダイチ。まだ、付き合って欲しい所があるのだ…それにしても、そんな必死な顔をしなくても今生の別れでは無い、落ち着いたらいつでも遊びに来れば良い。」
冷静なご指摘にいつの間にか強ばってた表情が和らいだ。
そうか!遊びに来てもええんか!すっかり永遠の別れ気分で流石に能天気な俺も凹むわ…て、思ってた!
思い込みに恥ずかしさが湧いてきたのと、またエーベルさんやフェイ、クシェルちゃんにアデーレさん、クリストフさんとエトガーさんとラーレさんにも会えると思ったら嬉しくて天に両腕突き上げてた。
「そやでな!めっちゃ嬉しい!ありがとうな、エーベルさん!絶対また会いに来るから、待ってて!」
「ああ…だから、無事に戻ってくるのだぞ。」
勢いよく万歳した姿を見てビックリしつつも、エーベルさんは強く頷いて微笑んでくれた。
「さて、では行くか?」
「ん?何処にです?」
「付き合って欲しい所があると言っただろう?一度、家に戻って着替えてからになるがな。おいで、ダイチ。」
結局、目的地は教えてくれずと今日はなんやサプライズが多いんかな?て、首捻りながら、両腕少し左右に開いて抱っこ体勢待ちのエーベルさんの元にわーい状態で駆け寄った。
あれ?なんか最早慣れて来たけど…これ、慣れたらあかんやつやない?大人の男としてどうなん?そう思いながらも、俺はガッチリ抱えられてお宅に戻る事になった。
そして、いつぞや見た事のある濃い紺色の礼装に身を包んだエーベルさんに案内されたんは城やった。
何故にお城?いや、エーベルさんの職場になるやろうから職場見学ですか…て、そんな訳あるかい!
動揺しまくる精神を他所に手を取られ門番も顔パスで通過してどんどん先に進んで行く。
待って!事情説明して!このまま何処かに連れて行かれるなんて嫌ぁあああ!状態やってんけど、通りかかった中庭らしきが視界に映ると瞬間的にエーベルさんの手を逆に引き返して止まらせた。
「っ…どうした、ダイチ?」
「桜や…。」
桜並木言うてええ程の本数が植えられた広い庭。
見覚えがありすぎる薄いピンクの花弁がヒラヒラと地面に落ち、緑の中に混じって綺麗な絨毯を作ってる。
懐かしい。その気持ちだけで唯唯、呆然と眺めてしもてた。
「我が国花を気に入って頂けたようで嬉しいよ。」
呆然自失としてたら木の影から青年が現れた。
白地に緑の草の模様が袖や縁に装飾された聖職者が被るような帽子とフードの無いローブを纏い、肩から濃い緑の布、これも植物柄が金糸で刺繍されてたりと高価そうな一品を下げてるお人や。
髪はパっと見が短髪で、実際は背まである後ろ髪を一纏めに括ってる。やや癖があって緩いウェーブが掛かった深緑、光の加減によって黄緑や青緑にも見えて不思議な感じの髪色に瞳も濃い緑と若いのに老成してる印象があるけど、隠しきれへん好奇心みたいな正直どっか悪戯好きそうな印象を受けた。
「陛下、此方にいらしたのですか?今、彼をお連れする所でした。」
そう言うなり膝をついて臣下の礼を取り出したエーベルさんの言動に俺は固まった。
もしかせんでも、皇帝陛下やないやろか!?!?!?
皇帝陛下と思しき青年は立ち尽くしたままの俺に何を言う訳でもなく、寧ろ礼を取ったエーベルさんに対して溜息をついた。
「相変わらず硬いね、エーベルは。今は公用ではないのだ、礼は止めろ。」
「そうですね、では本日はお言葉に甘えさせて頂きます。」
「…は?あの仕事中毒のエーベルが素直に言う事を聞いた…。明日は氷の雨か?何か悪いものでも食したのかい?」
「悪いものではないですが…寧ろ食べ損ねました。」
ちょおおおおお!なんや意味深すぎる発言に聞こえるのは俺だけか!?
皇帝さんの手前ツッコミも出来んし、さっきから脳内で焦りまくって訳わからんくなって来てて、どうしたもんかとオロオロするばかりや。
「と、待たせてすまないね、ダイチ。話があったので無理を言ってエーベルに呼ばせたのだ。茶の席を設けているから、こちらへ。」
そんな様子に気づいてくれたんか、皇帝さんが話を促して助けてくれた。
流石、民を率いる存在!今なら何処にでも着いて行きます!
そんなこんなで後について歩き、整えられてはいるけど草花の生い茂る一角に敷かれた敷物の上に3人で腰を下ろす事になった。
「風情があって、なかなか良い景色だろう?キルシュブリューテの花の下で飲む茶は格別なのだ。」
「桜やなくて、キルシュブリューテって言うんですか?」
「ダイチの国ではそう呼ぶのかい?ここでは、キルシュブリューテ。国の花であり、帝都の名でもあるのだよ。」
教えてもろて思い出した。
そう言えばエーベルさんが帝都の名前をそう呼んでたわ。
「はい、俺の国でも親しまれてる花とよう似てます…。なんや、懐かしくて感動しました。」
「そうか、それは本当に此処にして良かった。」
感傷的になりつつ見上げる満開の花と淹れてもろた茶の色は緑で、菓子こそ和菓子ではなく洋菓子っぽいけど、なんやほんまに日本に帰って来てお花見してるみたいやった。
「ダイチ、緑の国を代表し、カイ・クレーメンス・グリューンバルトがこの度の民の治療に心からの感謝を。」
暫く、花を眺めるのを見守ってくれてた皇帝さんは間を見て、片手を胸に添えると礼をしてくれた。
エーベルさんにも礼は言われたけど、やっぱ慌てる。俺も頭を下げ、そのまま急いで礼を返した。
「いえ、こちらこそ皇帝陛下とエーベルさんには大変良くして頂き、有難うございました。」
「カイと呼んでくれ。エーベルは役に立っただろうか?困らせたりはしなかった?」
「いや、それは流石に…カイ陛下とか、どうです?困らされたりは…ないです。凄く世話になって助かりました。」
困ると言うか悩んだ事はあったけど、全体的に世話になった印象が強かったんで素直に答えた。
「では、間を取ってカイ様と呼んでくれ。役に立ったのならば良かった。」
おお?何故かいつの間にかナチュラル(?)に呼び名が決定してた。
まあ、間と言えば間な呼び名に頷き掛けたのを、空気を呼んで黙ってたエーベルさんの一言に踏み留まった。
「陛下、趣味を出すのは止めて下さい。見苦しいです。」
「私に毒を吐くとは随分、出世をしたようだね、エーベル?なんだ、素直に『エーベル様』とダイチに呼んで欲しいと言えば良い。」
「止めて頂きたい。ダイチに誤解されたらどうするのです。」
仲は悪くなさそうやけど、やり取りが心臓に悪いっちゅーねん!
そして、様付けのハードルをガン上げすんのはやめてくれ!2人共いっそ、ちゃん付けにすんぞ!
ますます、ヒートアップしそうな会話に早々と釘を刺すことにした。
「落ち着いて下さい、話は治療の件だけですか?」
「ああ、そうだね…他にはフォルクの事だよ。まさか、私に秘密で愛人を作っているだなんて酷い男だ。」
もう、どっからツッコんだら良い?
カイちゃんとフォルクは夫婦関係なんかって所?それとも、俺が愛人枠な所?若しくは、暫定亡くなってる筈のフォルクの話にしては、ふざけ過ぎな所!?
「まあ、冗談は置いておこうか。ダイチ、フォルクと友人だと言うのは本当か?」
おっと、エーベルさんにもツッコまれへんかった所をズバリや。
なるほど、皇帝さんは色々と疑ってはるんやな。でも、友人なんは事実なんでしっかり瞳見返して頷けるで。
「ええ、カイ様程かはわかりませんが、負けんぐらいフォルクの事は大事な友人やと思ってます。」
「そうか…、疑うような事を言って悪かったね。それでは、もう一つ。」
一応、謝罪してくれたけど追求は続くようで内心嫌な汗がダラダラやった。
「なんですか?」
「君はフォルクが死んだと本当に思っているのか?」
「…っ!」
まさかの質問やった。
正直、ここで隠し事がバレてるんかとも思ったけど、動揺を押し殺して質問返すぐらいは意地でなんとか出来た。
「どういう意味ですか?」
「どういう意味も何もない。諸々の状況、他の者の意見を全て無視して構わない。君自身は彼が死んだと思っているのか?私はそれが聞きたいだけだ。」
「いや、俺は…。」
「どうした、答えられないのか?」
試すような何処か愉快げな視線に困惑しつつも、この人に下手に嘘つくのは得策でないのは分かった。
「…正直、死んではないと思います。どっかで生き延びて、でも何か理由があって出てこれんのやと…個人的に思ってます。」
フォルク、ごめん。できれば正体、隠して置きたいって雰囲気やったから俺もそれを守ってたんやけど…。
それを聞いた皇帝さんは満足げに頷いてから、息を吐いた。
「ほらな、エーベル。ダイチとは気が合う。私がどれだけフォルクが生きていると言っても周囲が諦め出していて、苛立たしかったのだ。久しぶりに良い気分にさせて貰ったよ。」
「はい?それが聞きたい理由だったんですか?」
「それ以外に何がある?」
おどけた様な仕草をしてから、距離を詰めた皇帝さんはエーベルさんに聞こえん程度の小声で「それ以外を話したいなら聞くが。」と、付け加えて来た。
どうやら、食えん人柄らしい。てか、ほんま『緑の民』の印象が!いや、大多数はフォルクの言う感じの人が多いんやけど、たまになんや毛色の違う人らが紛れてるって感じか。
「さて、では後はこれを受け取って欲しいのと、お願いがある。」
差し出された薄緑の小箱と『お願い』発言に首を傾げた。
「ダイチはこれから旅をするのだろう?もし、『赤の国』に立ち寄る事があれば、フォルクの母君に顔を見せてやってはくれないか?」
「フォルクのお母さんですか?」
「ああ、フォルクの生存を信じてはいるが…最近、どうもかなり参っているようなのだ。出来れば、少し話し相手にでもなってやってくれ。多少は元気も出るだろう。これを見せれば屋敷にも入れるだろうし、何か困った事があった時も使いなさい。」
マジか、それはかなり心配やなと思って承諾の返事しようと思ったら小箱を開けて中身を見せてくれた。
艶のある濃い緑の布の中に収められてたんは、エーベルさんが使ってた『紋印』と同じや。
初めて真正面から見たら、国花、キルシュブリューテが刻まれてるのに気づいた。
俺にとっても思い出深い印に暫く見入ってから恭しくも有り難く受け取る。
「ありがとうございます。大事に使わせて頂きます。」
「ああ、宜しくお願いするよ。さて、それで私の用事は終わりだ。後は花と茶を楽しんで行きなさい。」
そうして、三人で暫く懐かしくも穏やかな茶会を楽しんだ。
なんや、俺の座る位置はフォルクがおるべき場所やなと雰囲気がそうさせるんか、感慨深くも思う。
皇帝さんがそろそろ執務に戻らなあかん、面倒くさ~状態で立ち上がった頃、去り際に振り返った。
「最後にダイチ。もし、フォルクに会うことがあれば伝えてくれ。お前の騎士席は残してある、いつでも良いから帰って来い。と…後は、この大馬鹿者!と、罵って置いてくれ。」
最後の方に素が出てた気もするけど、心配と愛情深い気持ちが伝わって来て、嬉しくなった。
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