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1章
19.「明ける空」
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エーベルさんの事情やフェイとの邂逅、フォルクに癒されてと盛り沢山な一夜が明けて変化があった。
何故か朝食の席に顔を出さんかったエーベルさんとフェイを不思議に思いながら、残りの皆で先に食事を食べ終え、部屋に戻って本日も頑張ろか!と気合いを入れてたらエーベルさんが再び訪ねて来た。
今日は昨夜の長上着の黒版や、でも…移動と昨日の半裸を考慮してか、背中がガッツリ空いてて腕と肩の布が無く、首元で止めるタイプの形の服やねんけど、綺麗な鎖骨と筋肉が見えて寧ろ微妙に隠した事による色気が半端ない上!甘い笑顔を向けてくるから瞬殺されるかと思った。
咄嗟に目を瞑った俺を不思議そうに心配してくれたんやけど、エーベルさんに悩殺される所でした!とは言えず「朝日が目にシミシミで…。」て、言ったらカーテン閉めてくれた。あざっす!
若干、視線の置き場に戸惑いつつも暗くなった室内のお陰でなんとかエーベルさんと向き合った所、フェイから話を聞いたと教えてくれた。
朝、寝室に入って来たフェイがいきなり滑らかな二足歩行を始めて驚いてたら、話しかけてきて妖精猫やと気づいたらしい。
妖精の伝承については騎士学校で習うとかで、思わぬ所で役に立ったと笑ってはった。
で、話を聞いたらエーベルさんの『理』に干渉できる力を持ってる事、只、範囲は家族や友人までと言う事、今まで黙ってたのは何故力を持ってるかや、エーベルさんの事情を知ってた事に関して理由を話せず、信じて貰えるか不安やったと切々と訴えられたらしい。
半信半疑やったらしいねんけど、信じて貰えるまで何度でも伝える。悪意があって話せない事がある訳やないとそれはもう必死に訴えられ、絶対に結果を見せるから皆と離れる必要はない!って言われてストンと胸に落ちたらしい。
エーベルさん自身もやっぱ、皆と離れて一人で生きる未来が受け入れられへんかったねんな。それやなかったら、ズルズル家に置いたりせんやろうけど。
んで、その後に何故俺の所に来たかと言うと、フェイが昨夜、俺に気に病むなって言った手前、いつまでも隠しててエーベルさんが一人ぼっちになったら最悪やって思って言ったらしい。
踏ん切り着いたとかで感謝してて、エーベルさん的にも喜ばしすぎる現状に辛抱出来ずに来たんやと。だから、いつもより笑顔が糖度高めやったんやな!
それにしても…色々とフェイはやるなぁ。『理』に干渉する力をもぎ取って来たり、正攻法で正面から話してきっちり納得させる事と言い…エーベルさんの性格もあるんやろうけど、流石や。
関心してたら、右手を取られて何故か指先軽く握られた。なんやと視線落として上げたら「好きな者達を自由に思えると言うのは、素晴らしいな。」と、うっとりした顔で微笑まれた。
最初の仏頂面は何処に旅立った?エーベルさんの笑顔は殺傷力高いんやで?と目眩がした事を責める奴は俺と場所交代な!
そんな、スーパーご機嫌タイムで色気ダダ漏れのエーベルさんに抱えられての空の旅は精神を鍛えた。行く行くは大魔法使いになれるかなと思いながら、帝都の次に大きいってか副首都扱いで勢力の拮抗してる三都市、『ペオーニエ』『ヴァサーリー』『プフィルズィヒ』て、順々に治療院を周った。
基本的に帝都でやった治療と変わらず、規模や患者数が個々によって多少違うかってぐらいなのと、エーベルさんが行った事ない所は先に院長勤めてる方に、皇帝陛下の『紋印』見せてから事情説明と俺への詮索はNGでってのを話した上で、治療をさせて貰った。
なんや、『紋印』は皇帝陛下の勅令扱いで、逆らうモンは無知か愚か者扱いらしい。せやけど、見た人は怯えるとかではなく敬意を示す人ばっかやったから、めっちゃ好感度と認知度の高い国民的アイドルのお願いを公衆の面前で断るとか正気か!?お前が断るなら俺が受ける!俺も俺も!て、感じかな。
で、副首都を周り終えた後は更に周辺の街。
首都から離れるにつれて治療院が治療所って感じで規模が小さくなり、患者数も極端に減って来る。
ささっと見周れるし、なんやったらついでに街全体で調子の悪い人いませんかー?て、聞いて集まってもろた程の所もあった。
余談やけど、クシェルちゃんとフェイの強い要望とエーベルさんも本当は休暇やったから、お宅を拠点に数日掛けて昼間は各街を巡回し、朝と夜は一家と団欒、夜中はフォルクの様子伺いと中々に忙しく充実した日々を送ってた。
でも、いつか終わりは見えて来るもんや。
大森林に近い村落に治療箇所が移るに連れて別れを意識し始め、やがて最後の見回りになった。
最後の日はエーベルさんが何故か真っ白な花束と俺を抱えて村まで飛ぶことになった。
一応、花束にツッコミは入れたんやけど、着いてから話すって事で深くは聞かず、でも、村に着いたら直ぐに分かった。
澱んだ気配と木製の墓標の数々に崩れた民家。かつては村やったと思しき場所が、墓場になってた。
「ここは…?」
「クシェル、クリストフ、アデーレ、エトガー、ラーレの故郷だ。」
「…魔獣に、襲われたんですか?」
「ああ、四年程前…最初に襲われたのが此処だった。」
沈痛な表情で眼を閉じたエーベルさんは過去を思い出すように話し始めてくれた。
「元々予兆があった為、大森林の周囲を偵察していた俺とフォルクの部隊が気づいて即座に出動した。シュティを筆頭に足の速い馬が多かった俺の部隊が先行し、逃げて生き延びていた5人を救出できたが…残りは間に合わなかった。」
「そうですか…。」
「この事を期にフォルクが奮起し、皇帝陛下に嘆願して本格的な討伐が開始されたのだ。俺も誘われて勿論、加わった。」
瞳を開けたエーベルさんは遠くを見つめるように空を見上げる。
そして、墓標に近づくと優しい手つきで木の表面を撫でながら話を続ける。
「一方で、生き残った五人が気に掛かり、合間に何度も治療院を訪れた。そして、話を聞く内に…両親と妻を亡くし、自分も大怪我を負ってまだ赤子のクシェルを抱えて途方に暮れるクリストフ。有名な木工大工であったエトガーは効き腕を失い、命からがらエトガーを背負い、ラーレを連れて逃げたアデーレも高齢の二人を一人で支えて行けるか不安がっていた。」
「それで、皆、家に連れて帰ったんですか?」
「ああ、父もいつかまた、家族ができるようにと願って遺してくれた家だったのだ。少しでも良いから夢が見たかった…。」
なんや、話を聞くにつれて視界が滲んできた。今日は天気もええのになんでやろか?不思議やな…。
「クシェルは、クリストフを手伝って育ててくれているアデーレの事を本当の母だと思っているし、先に拾っていたフェイを姉だとも思っている。エトガーとラーレは祖父と祖母で、俺は…兄だと言ってくれた。」
ああもう、誤魔化そうとしたのに泣けて来た。ボロボロと涙腺崩壊しだして情けない気もするけど、止める気にもならんかった。
「俺だけがいない家族だと、眺めるだけでも心の救いだと思っていた。でも、もう違うのだ…。」
顔を向けて来たエーベルさんが俺が泣いてるのに気づいて和やかに笑った。
「ダイチは…泣き虫だな。だが、俺の代わりに泣いてくれて…ありがとう。」
「…っ、エーベルさん…。」
「名を呼んでくれるようになって、ありがとう。」
「やめて下さい…俺は…っ。」
「笑えるようにしてくれて、本当に…ありがとう…。」
そう言ったエーベルさんの瞳から透明な涙が一筋、流れ落ちた。
そんなに力にはなれんかったと思う、でも、エーベルさんの中にあったモンが少しでも溶けたんやったら嬉しかった。
そうして暫く泣き腫らした後、落ち着いてから【浄化】のスキルを使って澱みを吹き飛ばし、エーベルさんと花を供えて祈った。
安らかな眠りと、もしあるのならば…俺みたいに新しい生を。
何故か朝食の席に顔を出さんかったエーベルさんとフェイを不思議に思いながら、残りの皆で先に食事を食べ終え、部屋に戻って本日も頑張ろか!と気合いを入れてたらエーベルさんが再び訪ねて来た。
今日は昨夜の長上着の黒版や、でも…移動と昨日の半裸を考慮してか、背中がガッツリ空いてて腕と肩の布が無く、首元で止めるタイプの形の服やねんけど、綺麗な鎖骨と筋肉が見えて寧ろ微妙に隠した事による色気が半端ない上!甘い笑顔を向けてくるから瞬殺されるかと思った。
咄嗟に目を瞑った俺を不思議そうに心配してくれたんやけど、エーベルさんに悩殺される所でした!とは言えず「朝日が目にシミシミで…。」て、言ったらカーテン閉めてくれた。あざっす!
若干、視線の置き場に戸惑いつつも暗くなった室内のお陰でなんとかエーベルさんと向き合った所、フェイから話を聞いたと教えてくれた。
朝、寝室に入って来たフェイがいきなり滑らかな二足歩行を始めて驚いてたら、話しかけてきて妖精猫やと気づいたらしい。
妖精の伝承については騎士学校で習うとかで、思わぬ所で役に立ったと笑ってはった。
で、話を聞いたらエーベルさんの『理』に干渉できる力を持ってる事、只、範囲は家族や友人までと言う事、今まで黙ってたのは何故力を持ってるかや、エーベルさんの事情を知ってた事に関して理由を話せず、信じて貰えるか不安やったと切々と訴えられたらしい。
半信半疑やったらしいねんけど、信じて貰えるまで何度でも伝える。悪意があって話せない事がある訳やないとそれはもう必死に訴えられ、絶対に結果を見せるから皆と離れる必要はない!って言われてストンと胸に落ちたらしい。
エーベルさん自身もやっぱ、皆と離れて一人で生きる未来が受け入れられへんかったねんな。それやなかったら、ズルズル家に置いたりせんやろうけど。
んで、その後に何故俺の所に来たかと言うと、フェイが昨夜、俺に気に病むなって言った手前、いつまでも隠しててエーベルさんが一人ぼっちになったら最悪やって思って言ったらしい。
踏ん切り着いたとかで感謝してて、エーベルさん的にも喜ばしすぎる現状に辛抱出来ずに来たんやと。だから、いつもより笑顔が糖度高めやったんやな!
それにしても…色々とフェイはやるなぁ。『理』に干渉する力をもぎ取って来たり、正攻法で正面から話してきっちり納得させる事と言い…エーベルさんの性格もあるんやろうけど、流石や。
関心してたら、右手を取られて何故か指先軽く握られた。なんやと視線落として上げたら「好きな者達を自由に思えると言うのは、素晴らしいな。」と、うっとりした顔で微笑まれた。
最初の仏頂面は何処に旅立った?エーベルさんの笑顔は殺傷力高いんやで?と目眩がした事を責める奴は俺と場所交代な!
そんな、スーパーご機嫌タイムで色気ダダ漏れのエーベルさんに抱えられての空の旅は精神を鍛えた。行く行くは大魔法使いになれるかなと思いながら、帝都の次に大きいってか副首都扱いで勢力の拮抗してる三都市、『ペオーニエ』『ヴァサーリー』『プフィルズィヒ』て、順々に治療院を周った。
基本的に帝都でやった治療と変わらず、規模や患者数が個々によって多少違うかってぐらいなのと、エーベルさんが行った事ない所は先に院長勤めてる方に、皇帝陛下の『紋印』見せてから事情説明と俺への詮索はNGでってのを話した上で、治療をさせて貰った。
なんや、『紋印』は皇帝陛下の勅令扱いで、逆らうモンは無知か愚か者扱いらしい。せやけど、見た人は怯えるとかではなく敬意を示す人ばっかやったから、めっちゃ好感度と認知度の高い国民的アイドルのお願いを公衆の面前で断るとか正気か!?お前が断るなら俺が受ける!俺も俺も!て、感じかな。
で、副首都を周り終えた後は更に周辺の街。
首都から離れるにつれて治療院が治療所って感じで規模が小さくなり、患者数も極端に減って来る。
ささっと見周れるし、なんやったらついでに街全体で調子の悪い人いませんかー?て、聞いて集まってもろた程の所もあった。
余談やけど、クシェルちゃんとフェイの強い要望とエーベルさんも本当は休暇やったから、お宅を拠点に数日掛けて昼間は各街を巡回し、朝と夜は一家と団欒、夜中はフォルクの様子伺いと中々に忙しく充実した日々を送ってた。
でも、いつか終わりは見えて来るもんや。
大森林に近い村落に治療箇所が移るに連れて別れを意識し始め、やがて最後の見回りになった。
最後の日はエーベルさんが何故か真っ白な花束と俺を抱えて村まで飛ぶことになった。
一応、花束にツッコミは入れたんやけど、着いてから話すって事で深くは聞かず、でも、村に着いたら直ぐに分かった。
澱んだ気配と木製の墓標の数々に崩れた民家。かつては村やったと思しき場所が、墓場になってた。
「ここは…?」
「クシェル、クリストフ、アデーレ、エトガー、ラーレの故郷だ。」
「…魔獣に、襲われたんですか?」
「ああ、四年程前…最初に襲われたのが此処だった。」
沈痛な表情で眼を閉じたエーベルさんは過去を思い出すように話し始めてくれた。
「元々予兆があった為、大森林の周囲を偵察していた俺とフォルクの部隊が気づいて即座に出動した。シュティを筆頭に足の速い馬が多かった俺の部隊が先行し、逃げて生き延びていた5人を救出できたが…残りは間に合わなかった。」
「そうですか…。」
「この事を期にフォルクが奮起し、皇帝陛下に嘆願して本格的な討伐が開始されたのだ。俺も誘われて勿論、加わった。」
瞳を開けたエーベルさんは遠くを見つめるように空を見上げる。
そして、墓標に近づくと優しい手つきで木の表面を撫でながら話を続ける。
「一方で、生き残った五人が気に掛かり、合間に何度も治療院を訪れた。そして、話を聞く内に…両親と妻を亡くし、自分も大怪我を負ってまだ赤子のクシェルを抱えて途方に暮れるクリストフ。有名な木工大工であったエトガーは効き腕を失い、命からがらエトガーを背負い、ラーレを連れて逃げたアデーレも高齢の二人を一人で支えて行けるか不安がっていた。」
「それで、皆、家に連れて帰ったんですか?」
「ああ、父もいつかまた、家族ができるようにと願って遺してくれた家だったのだ。少しでも良いから夢が見たかった…。」
なんや、話を聞くにつれて視界が滲んできた。今日は天気もええのになんでやろか?不思議やな…。
「クシェルは、クリストフを手伝って育ててくれているアデーレの事を本当の母だと思っているし、先に拾っていたフェイを姉だとも思っている。エトガーとラーレは祖父と祖母で、俺は…兄だと言ってくれた。」
ああもう、誤魔化そうとしたのに泣けて来た。ボロボロと涙腺崩壊しだして情けない気もするけど、止める気にもならんかった。
「俺だけがいない家族だと、眺めるだけでも心の救いだと思っていた。でも、もう違うのだ…。」
顔を向けて来たエーベルさんが俺が泣いてるのに気づいて和やかに笑った。
「ダイチは…泣き虫だな。だが、俺の代わりに泣いてくれて…ありがとう。」
「…っ、エーベルさん…。」
「名を呼んでくれるようになって、ありがとう。」
「やめて下さい…俺は…っ。」
「笑えるようにしてくれて、本当に…ありがとう…。」
そう言ったエーベルさんの瞳から透明な涙が一筋、流れ落ちた。
そんなに力にはなれんかったと思う、でも、エーベルさんの中にあったモンが少しでも溶けたんやったら嬉しかった。
そうして暫く泣き腫らした後、落ち着いてから【浄化】のスキルを使って澱みを吹き飛ばし、エーベルさんと花を供えて祈った。
安らかな眠りと、もしあるのならば…俺みたいに新しい生を。
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