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1章
18.「白猫のフェイ」
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俺を助け起こしてから部屋を去ったエーベルさんの背中を見送ってから、暫く重い気分にボーっとしてたらすっかり夜も更けてた。
フォルクに会いに行く為、椅子から立ち上がって靴を履き、ベストや外套を着込んだりと準備を素早く整える。
部屋の扉を開け、足音を潜ませながら静まり返った廊下を抜けて玄関ホールから庭へと出たところで、不意に背後から声を掛けられた。
「どこへ行くの?ダイチ。」
少女の声やったんで、一瞬クシェルちゃんかと思って振り返ったら、そこには白い毛が淡く発光してるように光り輝いてるフェイがちょこんと座ってた。
「フェイ…?」
いや、え?今、話しかけられへんかったか?
動揺する姿を楽しむようにフェイは眼を細め、フワフワの大きい尻尾を左右に揺らしながらゆったりと近づいて来る。
足元に到着し、見上げて来る綺麗な青い瞳が好奇心でキラキラしとるように見えた。
「ねぇ、ダイチ。こんな夜更けにどこへ行くの?逢引かしら?」
「ちょ、え?フェイが…喋ってるんか?」
「ええ、そうよ。他に誰がいるの?」
くすくすと笑い混じりの涼しげな声音が耳に響く。
エーベルさんの従魔のシュティが喋る所は見た事があるし、もしかしてフェイも?
「フェイ…従魔やったんか?」
「いいえ、私は従魔ではないわ。」
「じゃあ、一体…?」
従魔以外やとなんやおるんかな?えーと…また、神獣とか霊獣?でも、見た目は少し大きい猫やし、そんな感じせぇへん。
悩みだした俺を見兼ねたように、フェイが澄まして答えてくれる。
「人は私をこう呼ぶわ。ケット・シーと、若しくは…妖精猫かしら?」
「妖精!?ほんまに!」
「ええ、妖精は初めて?」
質問しながら俺の脚に前足を添えたかと思うとスッと立ち上がり、二足歩行でトタトタと後進しだした。
おまけに途中で立ち止まると、くるりと華麗に回り、今度は前進。
最後は逆立ちまでして、そのままこっちに戻って来ると地面に座り直した。
「どうかしら?他にも特技はあるけど少しは信じて貰えた?」
芸達者な猫って言えばそうかもやけど、普通の猫は喋らんしな!
まさかのこんな所で待望の妖精に会えるとは幸運過ぎるやろ!?
この期を逃してなるもんか!と、俺は勢い込んで地面にしゃがみ込んだ。
「話すのは初めてやし、信じる!いやぁ、良かった…実は頼みがあるねん。聞くだけ聞いて貰われへん?」
「いいけど…私の質問には答えてくれないの?」
催促するように尻尾の先端がパタリ、パタリと上下に小さく揺れる。
そういや、さっきからなんや聞かれてたような。
喜びと驚きで、すっかり脳内から吹き飛んどった。
「質問、なんやったっけ?」
「あなたは何処へ、何を求めて行くのかしら?」
「感じ変わってないか?」
こんな質問やったっけ?妙に哲学的や。
すると、楽しげな笑い声が上がる。
「うふふ、ダイチはからかい甲斐があるから、大好きよ。」
好かれ方の方向性、間違ってないやろか!?
毛糸玉みたいに手の平でコロコロ転がされてる気もするけど、可愛い猫ちゃんに弄ばれるなら本望です!
世の下僕達はこうやって増やされて行くんかと納得しながら質問に答える事にした。
「それは嬉しいなぁ。俺は森へ、友を求めて行くんやで。」
「あらあら、森にお友達がいるなんて素敵ね。私も森には沢山、お友達がいるわ。」
「そう、それや!お友達は元気にしてはる?」
思いがけず求めてた話の方向性に食いついた。
すると、こてんとフェイが小首を傾げる。やだ、可愛いらしい。
「もしかして、ダイチ。私のお友達まで治療してくれるつもりだったの?」
「出来ればやけどな。けど、なかなか間近に会えんくて…困ってたんや。」
「それはそうでしょうね。私のように気に入った人間の前にしか現れないし、それ以前に妖精によっては余り人には関わらないから。でも、心配しなくても大丈夫よ。」
「え?なんで?」
大丈夫て…神様の話やと妖精も治療して欲しいって感じやったけど、違うんかな?
戸惑う俺にフェイは眼を細めて語り出した。
「既に、この地の妖精たちが回復の兆しを見せているのが大きな理由よ。私たちは環境によって存在を左右される事が大きいの。その地の力が弱れば深く眠り、満ちてくれば目覚めて行動する。世界が滅びたり、森を全て焼き払われたり、直接的に大きな力を加えられない限り簡単に消滅する事はないの。それに…。」
なんや、不自然な所で言葉が切られる。立ち上がったフェイが何故か俺の体の周囲を観察するようにゆっくり回り始めた。
「弱った妖精は『妖精の国』で眠りにつくのだけれど…私たちの国に長く留まると人族は妖精になってしまうの。ダイチは何故か人としての気配が薄いわ。治療に来たら、あっと言う間に妖精化して、こっちで普通に生活出来なくなるんじゃないかしら?人を辞めたいのならオススメするけど。」
なんやて!?いやもう、半分人間は辞めさせられてるんやけど!まさかのここでそれがネックになるんかい!?
一応、回復して来てる言うんやったら問題はないんやろうけど…えええー?な、展開に俺は脱力した。
「マジか…こっちで動けんと困るし、自然治癒に任せた方がええな。あ、後…妖精の他に小人やエルフはどんな感じか分かる?」
「小人は妖精の括りに入るから、彼らは問題ないと思うわ。エルフは分からないわね。私たち以上に引きこもっているから、見かけないのよ。大丈夫かしら?」
小人も安心やとは良かった!エルフはやっぱ、『土の国』のハーフエルフさんが頼りやな。てか、そんな引きこもりなんか…お母ちゃんも心配やで!
ふざけつつもめっちゃ貴重な情報提供に俺は頭が下がるばかりやった。
「ほんま、助かった!ありがとうな、フェイ!」
「いいのよ。家族を助けて貰ったし、久しぶりに皆で楽しい時間が過ごせたお礼よ。」
再び俺の正面に座ったフェイはご機嫌な感じで尻尾を左右に揺らす。
そやから、油断しとった。
「ねぇ、ダイチ?エーベルの事だけど…余り、気に病まないでね?」
「っ…、話、聞いてたんか?」
まさか、エーベルさんの話が来るとは思わず息を飲んだ。
フェイは暫く考えるようにして沈黙してから、首を振った。
「いいえ、貴方には話すだろうと思ったの。女の感、てやつかしら?」
固くなった空気を和ませるような口調と言葉にふと釣られて笑ってまう。
「フェイは、ええ女やしな。」
「まあ、嬉しいわ。ダイチも良い男よ。」
「まさかの両思い!?」
「まさかの勘違いね。」
あかん、ついノリがええんで脱線した。
フェイにあっさりフラれつつも話を戻す。
「気に病むな言うても…エーベルさんの事情、かなり深刻やろ。」
「そうね、そうだけど、希望がない訳じゃないの。」
「ほんまに!?」
「本当に。私はその為にここにいるの。エーベルがダイチ以外を恋愛対象として本気で好きになると流石に無理だけど、家族や友人なら守れるわ。その力を貰って来たの。」
貰って来た?一瞬、神様の顔が浮かんで消えた。
「一体、誰に?」
「内緒よ。諸々の秘密を代償にしたから。」
なんか副音声が聞こえたような。
腹黒くも陽気に話したフェイが、ふと慈愛深げに優しく笑った。
「だから、ダイチ。ここは私が守っているから、貴方は貴方の道を進んで。そしてそれが、きっと沢山の救いになるわ。」
そう言われたらなんも言えんくなる。
ほんまにええ猫やな。人間やったら口説いてそうや…ん?さっき口説いてフラれたか。
「わかった。正直、分からん事も多いけど、全力で進んで行くわ!ここは頼んだで、フェイ!」
「もちろんよ、ダイチ。」
そうして、一夜の不思議な語らいは終わった。
その後、話し込んでて時間が大分更け込んでる事に気づいて慌てて門を開けようとして失敗し、「開閉には登録が必要なのよ。」と、顔面をぶつけて地面に転がってる俺を見ながらソッと肉球を門扉に押し当てて開けてくれた優しいフェイ。
しかも、帰りが困るやろと一緒にフォルクの所まで同行してくれ、見事にムシュフシュ巨体のフォルクを手玉に取って遊び、俺もニャンコとフィルターで巨大ワンコが戯れる姿に癒されてから、エーベルさん宅に帰還となった。
フォルクに会いに行く為、椅子から立ち上がって靴を履き、ベストや外套を着込んだりと準備を素早く整える。
部屋の扉を開け、足音を潜ませながら静まり返った廊下を抜けて玄関ホールから庭へと出たところで、不意に背後から声を掛けられた。
「どこへ行くの?ダイチ。」
少女の声やったんで、一瞬クシェルちゃんかと思って振り返ったら、そこには白い毛が淡く発光してるように光り輝いてるフェイがちょこんと座ってた。
「フェイ…?」
いや、え?今、話しかけられへんかったか?
動揺する姿を楽しむようにフェイは眼を細め、フワフワの大きい尻尾を左右に揺らしながらゆったりと近づいて来る。
足元に到着し、見上げて来る綺麗な青い瞳が好奇心でキラキラしとるように見えた。
「ねぇ、ダイチ。こんな夜更けにどこへ行くの?逢引かしら?」
「ちょ、え?フェイが…喋ってるんか?」
「ええ、そうよ。他に誰がいるの?」
くすくすと笑い混じりの涼しげな声音が耳に響く。
エーベルさんの従魔のシュティが喋る所は見た事があるし、もしかしてフェイも?
「フェイ…従魔やったんか?」
「いいえ、私は従魔ではないわ。」
「じゃあ、一体…?」
従魔以外やとなんやおるんかな?えーと…また、神獣とか霊獣?でも、見た目は少し大きい猫やし、そんな感じせぇへん。
悩みだした俺を見兼ねたように、フェイが澄まして答えてくれる。
「人は私をこう呼ぶわ。ケット・シーと、若しくは…妖精猫かしら?」
「妖精!?ほんまに!」
「ええ、妖精は初めて?」
質問しながら俺の脚に前足を添えたかと思うとスッと立ち上がり、二足歩行でトタトタと後進しだした。
おまけに途中で立ち止まると、くるりと華麗に回り、今度は前進。
最後は逆立ちまでして、そのままこっちに戻って来ると地面に座り直した。
「どうかしら?他にも特技はあるけど少しは信じて貰えた?」
芸達者な猫って言えばそうかもやけど、普通の猫は喋らんしな!
まさかのこんな所で待望の妖精に会えるとは幸運過ぎるやろ!?
この期を逃してなるもんか!と、俺は勢い込んで地面にしゃがみ込んだ。
「話すのは初めてやし、信じる!いやぁ、良かった…実は頼みがあるねん。聞くだけ聞いて貰われへん?」
「いいけど…私の質問には答えてくれないの?」
催促するように尻尾の先端がパタリ、パタリと上下に小さく揺れる。
そういや、さっきからなんや聞かれてたような。
喜びと驚きで、すっかり脳内から吹き飛んどった。
「質問、なんやったっけ?」
「あなたは何処へ、何を求めて行くのかしら?」
「感じ変わってないか?」
こんな質問やったっけ?妙に哲学的や。
すると、楽しげな笑い声が上がる。
「うふふ、ダイチはからかい甲斐があるから、大好きよ。」
好かれ方の方向性、間違ってないやろか!?
毛糸玉みたいに手の平でコロコロ転がされてる気もするけど、可愛い猫ちゃんに弄ばれるなら本望です!
世の下僕達はこうやって増やされて行くんかと納得しながら質問に答える事にした。
「それは嬉しいなぁ。俺は森へ、友を求めて行くんやで。」
「あらあら、森にお友達がいるなんて素敵ね。私も森には沢山、お友達がいるわ。」
「そう、それや!お友達は元気にしてはる?」
思いがけず求めてた話の方向性に食いついた。
すると、こてんとフェイが小首を傾げる。やだ、可愛いらしい。
「もしかして、ダイチ。私のお友達まで治療してくれるつもりだったの?」
「出来ればやけどな。けど、なかなか間近に会えんくて…困ってたんや。」
「それはそうでしょうね。私のように気に入った人間の前にしか現れないし、それ以前に妖精によっては余り人には関わらないから。でも、心配しなくても大丈夫よ。」
「え?なんで?」
大丈夫て…神様の話やと妖精も治療して欲しいって感じやったけど、違うんかな?
戸惑う俺にフェイは眼を細めて語り出した。
「既に、この地の妖精たちが回復の兆しを見せているのが大きな理由よ。私たちは環境によって存在を左右される事が大きいの。その地の力が弱れば深く眠り、満ちてくれば目覚めて行動する。世界が滅びたり、森を全て焼き払われたり、直接的に大きな力を加えられない限り簡単に消滅する事はないの。それに…。」
なんや、不自然な所で言葉が切られる。立ち上がったフェイが何故か俺の体の周囲を観察するようにゆっくり回り始めた。
「弱った妖精は『妖精の国』で眠りにつくのだけれど…私たちの国に長く留まると人族は妖精になってしまうの。ダイチは何故か人としての気配が薄いわ。治療に来たら、あっと言う間に妖精化して、こっちで普通に生活出来なくなるんじゃないかしら?人を辞めたいのならオススメするけど。」
なんやて!?いやもう、半分人間は辞めさせられてるんやけど!まさかのここでそれがネックになるんかい!?
一応、回復して来てる言うんやったら問題はないんやろうけど…えええー?な、展開に俺は脱力した。
「マジか…こっちで動けんと困るし、自然治癒に任せた方がええな。あ、後…妖精の他に小人やエルフはどんな感じか分かる?」
「小人は妖精の括りに入るから、彼らは問題ないと思うわ。エルフは分からないわね。私たち以上に引きこもっているから、見かけないのよ。大丈夫かしら?」
小人も安心やとは良かった!エルフはやっぱ、『土の国』のハーフエルフさんが頼りやな。てか、そんな引きこもりなんか…お母ちゃんも心配やで!
ふざけつつもめっちゃ貴重な情報提供に俺は頭が下がるばかりやった。
「ほんま、助かった!ありがとうな、フェイ!」
「いいのよ。家族を助けて貰ったし、久しぶりに皆で楽しい時間が過ごせたお礼よ。」
再び俺の正面に座ったフェイはご機嫌な感じで尻尾を左右に揺らす。
そやから、油断しとった。
「ねぇ、ダイチ?エーベルの事だけど…余り、気に病まないでね?」
「っ…、話、聞いてたんか?」
まさか、エーベルさんの話が来るとは思わず息を飲んだ。
フェイは暫く考えるようにして沈黙してから、首を振った。
「いいえ、貴方には話すだろうと思ったの。女の感、てやつかしら?」
固くなった空気を和ませるような口調と言葉にふと釣られて笑ってまう。
「フェイは、ええ女やしな。」
「まあ、嬉しいわ。ダイチも良い男よ。」
「まさかの両思い!?」
「まさかの勘違いね。」
あかん、ついノリがええんで脱線した。
フェイにあっさりフラれつつも話を戻す。
「気に病むな言うても…エーベルさんの事情、かなり深刻やろ。」
「そうね、そうだけど、希望がない訳じゃないの。」
「ほんまに!?」
「本当に。私はその為にここにいるの。エーベルがダイチ以外を恋愛対象として本気で好きになると流石に無理だけど、家族や友人なら守れるわ。その力を貰って来たの。」
貰って来た?一瞬、神様の顔が浮かんで消えた。
「一体、誰に?」
「内緒よ。諸々の秘密を代償にしたから。」
なんか副音声が聞こえたような。
腹黒くも陽気に話したフェイが、ふと慈愛深げに優しく笑った。
「だから、ダイチ。ここは私が守っているから、貴方は貴方の道を進んで。そしてそれが、きっと沢山の救いになるわ。」
そう言われたらなんも言えんくなる。
ほんまにええ猫やな。人間やったら口説いてそうや…ん?さっき口説いてフラれたか。
「わかった。正直、分からん事も多いけど、全力で進んで行くわ!ここは頼んだで、フェイ!」
「もちろんよ、ダイチ。」
そうして、一夜の不思議な語らいは終わった。
その後、話し込んでて時間が大分更け込んでる事に気づいて慌てて門を開けようとして失敗し、「開閉には登録が必要なのよ。」と、顔面をぶつけて地面に転がってる俺を見ながらソッと肉球を門扉に押し当てて開けてくれた優しいフェイ。
しかも、帰りが困るやろと一緒にフォルクの所まで同行してくれ、見事にムシュフシュ巨体のフォルクを手玉に取って遊び、俺もニャンコとフィルターで巨大ワンコが戯れる姿に癒されてから、エーベルさん宅に帰還となった。
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