呪われた騎士と関西人

ゆ吉

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1章

14.「いざ、治療院へ!」

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 帝都に入る前に準備するとの事で一キロ程手前の草原に降り立ち、俺はエーベルさんが翼を戻して上着を着込むのを待ってから、差し出されたアイマスクを受け取った。
 ベネチアンマスク風のシンプル版言うんかな?白地ベースに金色の細かいつたが縁を一周するように装飾されてて、リボンに使われるような手触りの良い黒の紐で頭に固定するらしい。

「どうしたんです、これ?」

「気休めだが、顔を隠すのにどうかと思ってな。『認識阻害』が付与された魔道具だ。皇帝陛下に事情を話しに行った際、持って行くよう手渡された。」

 認識阻害とかもあんねんな!でも、なんや貴重そうで畏まってまう。まあ、貸してくれる言うんやったら有り難く使わせて貰うけど。

「それは偉いええもんを、ありがとうございます。恐縮ですが、使わせて頂きます。」

「ああ、是非使え。お前は『黒の民』でありながら、属性上、使えない筈の治癒を使い、あまつさえ状態異常回復も複数使えると完全に『理』の外…見方によれば神にも匹敵する存在だ。あまり不用意に正体を明かすべきではないと思う。用心するのだぞ。」

 おうふ。有難いお言葉と鋭い洞察をありがとうございます。
 神様に匹敵はないやろけど、狙って創られた新しい体やし、非常識過ぎるんやでな。てか、逆に『理』言う縛りの方が面倒くさい気もするけど…なんや神様なりの理由はあるんやろな。
 若干、悩んだせいで頭の痛い中、俺はマスクを装着し、外套のフードもしっかり被り直した。
 準備完了した所で、俺達は帝都の外門に向かって歩き出したんやった。

 十分程歩いて門前に到着し、入場の列が見えて来たんでそこに並ぶんかな~と最後尾に足を向け掛けたら右手を取られた。

「そちらではない、こちらだ。」

 なんやなんやと混乱してる内に列を通り過ぎて、詰所らしきがある方に一直線に連れて行かれる。
 到着するなり責任者っぽい緑の騎士さんにエーベルさんが声を掛けた。

「エーベル・アイスナー緑青騎士だ。皇帝陛下の命令を受け、特別任務を任されている。これが証明の『紋印』だ、確認と入場の許可を頼む。」

 簡潔に説明したエーベルさんは手の平サイズで金色に輝く正方形型の何かを差し出した。
 それを見た門番は、驚いてから紋章が刻まれた道具に重ね合わせて確認を取り、恭しげに返してビシッと敬礼した。

「は!確認、完了致しました。『紋印』に間違いはなく、手続きはこちらで済ませますので、どうぞお通り下さい。」

「ああ、助かった。頼む。」

 そして、あっさり入場イベントが終了した。早っ!
 んで、迷子にならんように状態で手を引かれたまま街の中に入った俺が見たのは、なんや可愛らしい木製の民家が並ぶ光景やった。
 基本的に白地の壁、時々パステルカラーって言うんか淡い彩色の壁と木の枠組みが見えてて、屋根や窓際、ベランダ、玄関には草花が植えられてる。
 葉っぱやキノコの形した階段があったり、街灯が鈴蘭すずらんみたいな形してたりと、住んでるのは普通サイズの人やろうけど、小人の家みたいなんを彷彿とさせて、兎に角メルヘンかつ楽しい!
 そんな景色に視線奪われてキョロキョロしてたら、少し先行して引っ張ってくれてたエーベルさんが足を止めた。

「珍しいか?赤の国とは随分、趣が違うからな。だが、よそ見をして転ぶなよ?」

 からかい半分の注意を受けてなんや恥ずかしくなった。成人してるけど、子供みたいな反応してもた…いや、あんま普段と変わらんか!よし!はしゃご!
 開き直りが速い奴とは俺の事やと自分で納得しながら、誘導を再開してくれたエーベルさんに体の操縦を任せて観察を続けた。

 市場に差し掛かると日よけの下に色とりどりの野菜や果物が並んだり、木の実やキノコが吊るされてたりとこれまた、目に鮮やかで人通りもそれなりにある。
 笑顔の人が多く、時々広場や街角から生演奏なんか歌や音楽が流れて来てて賑やかで穏やかな雰囲気。
 たまに閉まってる店とかはあるけど、道端に人が倒れてるとかも無く、想像してたよりかなり平和そうで安心した。

「良かった…思ってたより、皆元気なんですね。」

「重傷者以外は薬師や、数は少ないが一部の状態異常を回復できる術師のお陰で回復して来ている。最近では魔獣もかなり減ってきていて、民も随分安心しているのだ。数年前と比べれば良くなった。」

 それはほんまに良かった。あんまり酷かったらどうしよう思てたしな。
 いや、どうにかする気ではおったけど、心持ちの問題や。

「だが、まだ治療が必要な者がいるのも確かだ。緑の国は薬草と薬師が多かったのでこの程度で済んでいるが、他国はもっと酷いだろうし、この国をもってしても重傷者は手に負えていないのが現状だ。無茶はしなくて良いが、頼りに思っているぞ、ダイチ。」

「そう言われたらやる気上がりますわ。できる限りやらせて貰います。」

 一旦、足を止めて振り向いたエーベルさんにニカッと元気良く笑って返したら、エーベルさんも眼を細めた。
 なんや、昨夜から笑う顔よく見るようになった気がする。眉間に皺よりずっとええな。

 そんなこんなで、和みつつ歩いてたら目的の治療院へ到着した。
 結構、大きな建物で、全体的に白い外観をしてて民家よりはこざっぱりしてる印象や。
 んで、柵のついた門には治療院の関係者なんか若い青年が二人門番に立ってた。

「院長はいるだろうか?アイスナーが来たと伝えて貰えるか?」

「アイスナー様、お久しぶりでございます。お忙しいでしょうに、度々見舞って下さってありがとうございます。院長はおりますので、案内致しますね。お連れの方もどうぞ。」

 おお、エーベルさん何げに常連やねんな。流石。
 優しく笑いかけて案内を申し出てくれたおにーさんに先導されながら、感心しつつ後を着いて歩いた。

「あ、院長!病室の方にいらしてたんですね。アイスナー様とお連れの方が見えました。」

 道すがら聞いた所、院長室に案内する流れやったらしいねんけど、ちょうど病室らしきから出てきた院長先生と遭遇して立ち止まる事になった。
 白のローブを着込んでて、緑の髪と目の色素も白に近づいて来てるけど、それがまた老成して良い雰囲気の人や。
 あれ?てか、なんやどっかで見た顔やねんけど。初対面の筈やのに既視感があって俺は首を傾げた。

「おお、アイスナー様。見舞いに来て下さったのですか。いつもありがとうございます。」

「いや、今日は少し違う案件だ。」

「別のご用事ですか…?」

 不思議そうな反応の院長先生に見えるよう、俺を誘導したエーベルさんが両肩に軽く手を添えてくる。

「臨時だが、優秀な術師だ。患者の治療に当たらせたいのだが宜しいか?」

「誠ですか!?それは、勿論構いませんし、喜ばしい事ですが…。」

 不自然に言葉を切って視線を下げた院長先生。
 重傷者だらけやし、新参の怪しい術師が大丈夫やろかって事やろか?

「まあ、物は試しと一度やらせて貰えませんかね?」

 実際、見てもろた方が早いやろうし俺は提案してみた。
 すると、顔を上げて微笑んでくれる。

「そうですな、薬師たるもの初めから諦めるとはお恥ずかしい話です。そして名乗りもせず、失礼致しました。私はフロック・ハイスと申します。宜しくお願いします。」

 名前を聞いて雷に打たれたような衝撃を受けた。
 フロック・ハイスやて!?そうか!医務室のおじいちゃん先生に似てたんや!

「ダイチ・ヤマグチ言います、宜しくお願いします。あの、もしかしてフロッケ・ハイス先生のご家族の方ですか?」

「おや?弟をご存知で?はい、私が彼の兄にあたります。」

 やっぱりかー!兄弟でええ感じの雰囲気のおじいちゃんや!
 若干、テンションとジジコン感が上がった気もするけど、嬉しくなった。

「アイスナーさん所でお会いしまして、宜しければ今度三人でお茶でも…。」

「…ダイチ。」

 ナンパ溢れる誘い文句に何故か背後から冷気を感じた気がした。
 すいません!ふざけてたのが目につきましたよね!?
 俺は表情を引き締めた。マスクの効果で周囲に全く気づかれへんけど、引き締めた。

「ええと、早速、病室に案内してもろて宜しいでしょうか?」

「…勿論です!こちらへ。」

 背後のエーベルさんと俺を二度見したハイス院長は戸惑いながらも病室に案内してくれる。
 因みに、ここまで案内してくれたおにーさんは早々と門へ戻って行った。真面目さを見習わなあかんな!
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