呪われた騎士と関西人

ゆ吉

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1章

13.「空の旅」

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 脱いで邪魔になった洋服を預かり、エーベルさんがそれごと俺を腕に抱き抱えて大空へと舞い上がった。
 気遣ってくれたんか上昇はゆっくりで、重力にヌグーと歯を食いしばる場面もなく無事に高度を取ってくれる。
 ちょい高い所は苦手なんで首裏に利き腕を回させてもろて安定を確保して、落ち着いた所で見下ろした『緑の国』の全容はめっちゃ綺麗やった。
 眼下に広がる樹木の爽やかな緑色や黄色が一望出来て、遠くの方は空気と光の屈折なんか、淡く発光してて何とも言えん絶景や。
 でも所々、森の各所が木漏れ日みたいに光ってるのは何やろか?川か湖でもあんのか…それにしては小さい気もする。水たまりかな?

「アイスナーさん。あの光ってんの、なんですかね?」

「光…ああ、妖精達だろう。地上から捜索すると分からぬが、空中からだと意外に直ぐに見つけられる。只、警戒心が強いから近づくと逃げるぞ。」

 おおん。折角、妖精は発見できるんやと思ても、やっぱ接近で苦戦するか…人懐こい妖精でもおったらええんやけど。

「もう良いか?進むぞ。まず、目指すのは帝都の治療院だ。早かったり苦しければ遠慮なく言え。」

 景色堪能するの待っててくれたエーベルさんは、そう言って進み出した。
 確かに速度はさっきよりも速かったんやけど、伊達に頑丈な体してないんで、案外平気や。
 余裕も出て来たし、暫く流れる景色や遠くを飛んでる鳥らしき生物、時折見かける小さな町や集落、吹き付ける風なんかを楽しんでて無言が続く。
 いつも大概、人とおる時は俺が騒いでる方やから、このまま静かに行くんかな~と、のんびり思ってたら不意にエーベルさんが話かけて来た。

「先程は、本当にすまなかった…。」

 気にしてたみたいやけど、まさかの黒歴史再誕!させてたまるか!って、感じで俺は首を小刻みに高速でブンブン振った。

「いや、悪気はなかったんでしょう?気にせんといて下さい。」

「…悪気はなかったが、邪推はしていた…。」

 あ?なんやて?邪推?

「俺、なんやしましたかね…?」

 苦笑いになってまう。正直、エーベルさんに対しては疚しい事だらけやからな!

「ダイチが何かと言う訳ではない…その、フォルクと寝ていたのではないかと思ってな。」

 …ええと、野宿の時は一緒に寄り添って、うつらうつら寝てますってボケはいらん…と。
 寝るってようは、俺とフォルクがにゃんにゃんにゃんて事やな!
 あかん、何も想像できん…だってムシュフシュの姿しか知らんし、ムシュフシュとヤったら物理、即死!

「いや、それはほんま邪推も邪推ですね。なんでそんな極論にぶっ飛んだんです?」

 エーベルさんはビックリ箱な所あるからな。
 なんや考えてる事知りたい気もして好奇心から質問した。

「俺から見たフォルクは、民を常に思い、家族も友人も騎士も誰とでも分け隔てなく接していた。多少の好感の差異はあるかも知れんが、基本的に博愛精神の男だったのだ。良く言えば皆を愛し、悪く言えば特別、執着する者を持たない。」

 後半はともかく、前半は物語の勇者みたいな性格やでな。俺的には寂しがり屋で感情表現豊かな可愛い人やけど。

「だから、事情はあったとは言え、幼い頃より面倒を見続け、遠く離れようとも文通を交わし続けるような間柄で、おまけに魔獣が跋扈する中、お前は危険よりフォルクの安否に心を砕いて遠路を厭わずにやって来た。その上、フォルクのように死ぬかもしれないのに、意思を継ぐとまで言う。余程の何かがあるのかと思ったのだ。」

 うん!美談に聞こえるけど、全部嘘やからね!
 只、客観的に聞いたら大分想い合ってる感じはするなぁ…。

「いやでも、それがなんで…肉体関係になるんです?」

「言い方が悪かった、恋人かと思ったのだ。」

 恋人!?親友飛び越して恋人て!?どんな思考回路やねん!

「いや、そもそも男同士なんですけど!」

「騎士団や傭兵の間では、間々ある事だ。然程、珍しくもない。」

 軍の男同士が的なあれか…!?
 確か、元の世界でも実際あるしな…友人の一人が情事を目撃して戦慄したとか嘆いてた…。
 て、待てよ。と、言う事は…エーベルさんもそっちは嗜んでおられる???

「ちょっ、え…?アイスナーさんもですか?」

「俺か…?ふっ、想像に任せよう。」

 なんかめっちゃ、意地悪く鼻で笑われた!
 これが…大人の余裕か…勉強になるわ。
 俺は心のメモ用紙にサラサラとメモった。只、これを使うには威厳とか渋さが必要かなと注意も記載しとく。

「まあ、全て誤解だったのだ。清い友人関係を邪推してしまって申し訳ない。」

「いや…はい、誤解って分かって貰ったんやったら良かったです。」

 一応、無事に解決(?)したらしい。
 只、登ってはいけない階段を一つ登ったような、見てはいけない世界をチラ見したような妙な気分になった。

「さて、もう直ぐ着くぞ。」

 そんな事考えてたら帝都が見えて来てた。
 なんや、白亜の城と色とりどりの花が街のあちこちに咲いてるのが見える。
 感動してエーベルさんを見上げたら、視線が合った。

「歓迎しよう、グリューンバルト帝国首都、キルシュブリューテへようこそ。」
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