呪われた騎士と関西人

ゆ吉

文字の大きさ
上 下
11 / 93
1章

11.「ちょっと待った!」

しおりを挟む
 俺はそのままエーベルさんのポッケに入れられ、自宅にお持ち帰り…される訳にいくかーい!!!!

 いやいやいやいや、エーベルさん幾らなんでも強引過ぎるやろ!?
 包容力うんねんの前に相手の意思を聞こうやってか…思いっきり誤解させたんはこっちやけどね!自業自得!人を呪わば穴二つー!?
 でも、生活出来んとは一言も微塵も言ってないからセーフでお願いします!!!

「待って下さい、アイスナーさん!」

 俺は叫んだ!演技なんか忘れて、それはもう人生ベスト3に入る必死の形相でアピった!
 流石にそれにはエーベルさんも驚いて直ぐに注目してくれる。

「突然どうした、ダイチ?」

「それはこっちの台詞です!別に生活の援助を求めてわざわざ来たんやないんですよ!?フォルクの安否確認して、万が一の場合は俺にもちゃんと考えがあったんで、先に話聞いて下さい!」

 素が出まくってる気もするけど、こっちには帰りを待ってくれてる人がおるねん!ここは全力で主張しとかなあかん!

「そうなのか…それは悪い事を言った。…悪気はなかった故、許して貰えるか?それから、考えとはなんだ?」

 食い気味な意思を感じ取ってくれたんか、エーベルさんは冷静に対応してくれる。
 その態度に、少しは落ち着けた。

「ええと、俺はある理由が原因でフォルクに匿って貰ってたんです。けど、フォルクがいなくなったと知った今、彼の意思を少しでも継ぎたい。民を守る事が何よりの生きがいやったフォルクの為にも俺の能力で人々を助けて回りたいんです。それが、今まで世話になった礼にもなると思うんですよ。」

「なるほど…素晴らしい精神だな。だが、君の能力とは?」

「その件を相談したいんですが、俺は治癒と状態異常回復を複数行えるんです。それが珍しいのは自覚があって、騒ぎになるのが嫌で今まで隠れ住んでたんです。けど、使えば苦しんでる人らを仰山ぎょうさん、助けられる。それで、これから世界を旅しながら治療するつもりなんですが、出来れば余り目立たず、迅速に行きたいんです。しがらみがあったら動き難くもなりますしね?無理は承知で、もし可能なら…この国ではアイスナーさんにその辺を協力して欲しいんです。どうでしょう?」

 説明を続けるにつれ、エーベルさんの眉間に更に皺が寄る。
 信じられへんやろうし、信じたとしてもどうするか悩んでるんやろうか?
 一先ず俺は手を伸ばし、横抱き状態で届く範囲にある彼の眉間の皺に指先を添えて軽く撫でた。
 その途端、大きい体がビクリと震え、鋭い眼が驚きに見開かれる。してやったり気分やな。

「そんな難しい顔せんといて下さい?能力信じられへんのやったら見せますし、都合良い事言ってる自覚はあるんで、無理なら無理って言って下さい。只、出来れば今も国内に状態異常の人や、怪我人がいたら場所を大まかにでも良いんで教えて欲しいんです。」

 そう言った途端、眉間の皺が消え、エーベルさんが眼を細めて微かに口端を上げ微笑した。
 その破壊力に一瞬硬直してまう。
 ちょっ…笑みの方が破壊力高いんちゃう!?仏頂面の方が俺は耐えれる自信あると思うってぐらいには麗しかった。

「そこまで言われては、協力せぬ訳にはいくまいよ。そうだな、まず能力がどの程度か知りたい。この陣内にいる怪我人と薬を飲ませて様子を見ている状態異常者を治して貰えるか?勿論、箝口令かんこうれいは引く。その上で有用と見なせば、皇帝に話を通して後ろ盾を作り、他にも治療の必要な者の場所へ案内させて貰おう。その際にも追求を受けないよう配慮する。それでどうだろうか?不備があれば言ってくれ。」

 充分過ぎた。
 一時はほんまにどうなるかと心底思ったけど結果オーライで良かったぁあああ!
 これで胸を張ってフォルクに報告ができるとホクホク状態で思わず顔がほころんで、ご機嫌満々な笑顔になった。

「大丈夫です!ありがとうございます!いやぁ、偉い安心しました。」

「……いや…ああ、…その、それは良かった…。」

 何故かエーベルさんは俺から視線を外し、天幕の壁にあたる部分の布を凝視した。また、顔に皺も寄っとる。
 なんや、誰かおるんかいな?と、振り向こうとして続いた言葉に静止させられた。

「…やはり、連れて帰りたいのだが…。」

 ちょおおおおおおおおい!!!!やめてぇえええええええ!!!!なんでその結論に至るの!?!?

「全力でお断りしますっっっっっ!!!!!」

 力強く絶叫した俺にエーベルさんは、苦虫を噛み潰したような顔になった。なんでやねーん!







「フォルクー!会いたかったー!!!ただいま~!!!!」

「ダイチ…ッ!?無事ニモドッタンダナ…良カッタ、俺モ凄ク会イタカッタ…オカエリ…。」

 待ち合わせ場所の森に戻って来た俺は、即効で【索敵】を使ってフォルクを見つけ、前足に全力で飛びついた。
 ああ…落ち着く。ほんの数日、連れ添っただけやけど彼の傍にいる安心感ハンパない。
 やっぱ、信頼関係って大切やねんな!

「ドウダッタ?上手クイッタカ?」

「ああ、途中失敗し掛かったけど、概ねバッチリやで!」

 一先ず、失敗談を含めながらも無事に協力を取り付けた経緯を話して聞かせた。
 エーベルさんの家で暮らす事になりかけた話をした時は、フォルクが唸り声を上げ始めて宥めるのが大変やったけどな…。
 一人置いてく訳ないやんかってか、俺もフォルクに置いてかれたら嫌やし!って力説したら安心してくれた。

 落ち着いた所で、陣内の兵を何人か回復させて来た話を始める。

 あの後、エーベルさんに連れられて陣の医務室になってる天幕に案内された。
 あ、勿論、腕から下ろしてもろてな?何故か抱えたまま行こうとするからまた一悶着あったのは余談やけど…あの人なんか言動が謎すぎて…そら、誤解もされるわな…。

 医務室に入った所、薬を処方しながら看病に当たってる『緑の民』の人らが数人おった。
 1人は優しげなおじいちゃん先生って感じで…なかなか心の琴線に触れるええ感じの老け方をしたおじいちゃんで、一緒にお茶しませんか…て、ちゃうちゃう!
 そうやなくて、薬師の先生と看護師さんて雰囲気の人らがいましたよって事な!
 基本的に重傷の人らは街の治療院に運ばれてるらしくて、残ってるのは薬で良くなるか、命に関わらん程度の人らばっかりやった。

 エーベルさんがそのおじいちゃん先生事、フロッケ・ハイス先生に俺を『治癒』と『毒』の異常を治せるて紹介してくれた。
 実質、必要やったのはそのスキルやったから情報を絞ってくれたらしい。
 それでも、ハイス先生は驚いてたけどな。治癒能力と併用して持ってる人も相当珍しいとか。

 んで、薬で治療はできる言うても直ぐに治せる訳やない。
 短時間で治せる方が患者さんも楽やしって事と、エーベルさんに証明もせなあかんから早速治療に当たった。
 効果範囲は極力最小限に自重したが、【解毒】に関してはチート状態やから問題なく医務室に運ばれてた『毒』の状態異常の人らは全快した。
 効きすぎて呆然としたり、苦しさ取れて涙ぐむ人もおって俺も嬉しくなった。

 状態異常に関しては問題なかったんやけど、怪我の治療に関しては俺もフォルクも不要で魔獣に使ってもなかったから思えばぶっつけ本番で、しまったー!て、この時はなったんやけど固有スキルの【癒しの光】使ってみたらこれもあっさり治った。
 大小問わず打ち身、切り傷は勿論、体力も回復するって分かったから患者さん全員に掛けて治療完了。
 その後、喜びからの感謝とか感動とかで場が騒然となりそうになったんやけど、エーベルさんがしっかり静めてくれた。
 漸くすると無理を言って来て貰ったから、騒ぐなと。騒いだり噂流したら今後治療を受けられる筈の人が受けられんくなるけど責任は取れるんかと大分脅してはった。なんや、室内の温度も何度か下がった気がした、ぶるり。

 これで能力も理解して認めて貰えたから、皇帝さんに早速、話し通してくれる運びとなった。
 なんや直接会って話して来てくれるらしく、明日の昼頃から街の治療院に案内してくれるとか。めっちゃ対応早くてビビった。

 ついでに天幕に泊まって行くかどうかも聞かれたんやけど、街で宿取るって言ってフォルクの元にとんぼ返り。
 野宿でもフォルクと一緒の方がええしな。体も丈夫やし、俺も飲み食いできんくないけど、飲食不要でも大丈夫っぽいから問題ない。

 けど帰り際、心残りやった女神…ことイーゴンさんに見送りに来てくれたエーベルさんと一緒に会って来た。
 まだ、心配しててくれて、胸が痛かってんけど…事情を大まかに話してから気になってた左目の傷、見せてもろた。

 目にした傷跡は深くて眼球ごと顔の半分上部が抉れてた。
 欠損状態には普通の治癒が効かんらしく、前線の戦いから退いて輜重兵隊で門番とか荷物運び手伝いながら働いてたらしい。
 怪我する前はフォルクの部隊に参加してたらしくて、余計に彼が死んだと聞いて悔しかったと、守りたかったと言ってた。
 そんな人を勿論、見捨てて行く筈もなくバッチリ眼球ごと傷も綺麗に再生して来た。
 もしかしたら行けるんちゃうかなって思ってただけやから、無事に治ってほんまに良かったわ。

 んで、本人よりフィデリオ青年が泣いて喜んだ事にはビックリしたけどな。
 イーゴンさんは怪我治ったの信じるのに時間掛かってて呆けてたから、フィデリオ青年に抱きつかれてバンバン背中叩かれて驚いてた。相変わらず容赦無い子やで。

 大体の報告を終えるとフォルクは神妙な様子で息吐いて、足元まで頭を下げて来た。

「…アリガトウ、ダイチ。君ニハ感謝シテモシキレナイ。イツカ、コノ恩ニ報イル日マデ、コレカラモ宜シク頼ム…。」

「おお、もちろんや!任せとき!」

 そうして俺はフォルクの鼻先をポンポンと軽快に叩いたんやった。
しおりを挟む

処理中です...