呪われた騎士と関西人

ゆ吉

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1章

3.「交渉と言う名の強制」

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 ヴルカーンさんが落ち着いてくれたんは、それから目算して三十分後やった。 
 因みに鱗でギタギタになったと思われた俺の体と旅装束ってか、外套すら無傷やったのには驚いた。 
 新しい体のデザイナー兼スポンサーの神様曰く。 

『体も服も簡単には傷つかないようにしているに決まってるだろ?いちいち修復してたらキリがないし。』 

 と、怖いような、安心出来るような、安定のお言葉を頂いた。 
 一応、感謝の念をビビッと飛ばしつつも今回の事には疑問があり過ぎて一石は投じさせて貰おうかと思う。 
 神様や、ヴルカーンさんの所にわざわざ俺を下ろしたって事はなんや腹積もりがあるんですかいな?と、考えが伝われば小さく笑われた。 

『ふふ、やっぱり気がついた?いやー、彼、凄く強いでしょ。』 

  強いってか最早バグの領域やろうと言いたくなるステータスは分かる。 

『だから、君の護衛にしようと思ってさ。呪いの救済も出来るし一石二鳥って言うのかな。』 

 護衛は兎も角、救済出来るって言葉に反応した。 
 ほんまに出来るんか!? 

『うん。呪いだから【解呪】のスキルと毒の範囲攻撃も【解毒】のスキルで治せるよ。』 

 マ・ジ・かー!流石、神様分かってるやないか! 
 これで飛びかかった後、気分的にぐったりした俺の姿を見て落ち込んだヴルカーンさんを元気づけられるやんか。 
 もう、さっきから地面に額ぐりぐり擦りつけて唸ってる可哀想な姿見らんで済む! 
 流石に人間に戻れたらヒャッハー!状態やろ。毎日がお祭り騒ぎやな。 

「ヴルカーンさん!そう落ち込まんで良いで、なんや呪い解けるらしいから元気出してーな!」 

 早速そう言った瞬間、勢い良く顔が上がった。なんか、デジャヴ。わかり易いお人やで。 
 心なしか緑色の綺麗な目もキラキラしてるしな~。 

「えーと、ほな【解呪】!おまけで【解毒】!」 

 俺は意気揚々と声高にスキルを唱えた。 
 パァっとヴルカーンさんの体が光に包まれ、周囲も淡く発光する。 
 生エフェクトに感動しつつ、人間に戻ったらどんな姿なんやろ?って呑気に構えてた。 
 そして、光が晴れて現れたんは…。 

「おいいいー!変わってない!一ミリも姿戻っとらんがな!!!」 

 ムシュフシュの巨体やった。 
 なんやの!流石に温厚な俺も憤慨するで。上げて落とすとか鬼か!
 ああでも…今までそんなんばっかりな気もする。 

『えー、変わったよ。毒の範囲効果は無くなったし、呪いも少し薄らいだよ?』 

「分からん!俺には分からんし、多分、ヴルカーンさんも分からんて!ごめんな、堪忍して!」 

 思わず反論を声に出して地団駄踏んでたら、ヴルカーンさんが口を動かした。 

「…何ヲ怒ッテ……ッ…話セル…?」 

「は?」 

  俺とヴルカーンさんは間抜けな顔になって、ポカーンとしたまま暫く見つめ合った。 

『ほらね。』 

 脳内に響く神様の声だけが得意げや。 

「話セル…?君、俺ノ言葉ガ分カルカ…?」 

 少しくぐもってて聞き取り難いけど、言ってる事は分かる。
 俺がヴルカーンさんに言葉が分かるかって最初聞いた時の逆パターンで、 何度も高速で相槌を打つ番やった。 

「本当…本当ニ…アア、モウ無理ダト思ッテイタノニ…感謝ス、ル……ッ…。」

 最後は感極まったように呟いたヴルカーンさんは暫く放心してた。
 喜んでくれたのは嬉しいんやけど、なんで呪いが完全に消えへんかったんか謎や…。
 神様、どういう事なん?ええ子やから洗いざらい吐いてーな。

『ダイチ、ちょっと怒ってる?単純に【解呪】のスキルレベルが足りてないだけだよ。使い続けて修練度を上げるか、状態異常を治療したり魔獣を討伐してくれたらポイントを進呈するからそれでレベルを上げて行ったらいつかは解けるよ。』

 おいおいおい、それってどんだけ時間掛かるねん。
 しかも、スキルレベルって…確か【毒耐性】は『10』あるとか言ってたのに、なんで【解呪】は足りてないの?おかしいやろ。

『そんなに全部、都合よく上げられないんだ。体に負担も掛かるしね。最低限必要なスキルやステータスを先に強化してあるから、後で良いものは抑えてるんだよ。』

 道理は通ってるように聞こえるし、それやと俺に都合の良い展開やねんけど…護衛にするってやっぱ本気やったんか?ヴルカーンさんに選択肢ははないんかい。

『ダイチ、悪いことをする訳じゃないし、結果的に全員に益があるんだ。分かるよね?』

 ああもう、この神様、案外性質悪い。
 自分だけやったら納得してるし良かってんけど、まぁ…この世界の人間代表して協力して貰おか。
 溜息ついてからヴルカーンさんに視線を向ける。
 ちょっとご立腹やったから声が低くなったのはご愛嬌で。

「ヴルカーンさん。俺と取引せぇへんか?」

「ン…取引?」

「今の俺のスキルレベルやと完全にあんたの呪いを解かれへんねん。只、修練を積んだり、この世界の異常を治したり、魔獣を討伐して行けばスキルレベルが上がる。それを手伝ってくれるって言うならヴルカーンさんの呪いを責任持って解除する。悪い話やないと思わん?」

 神様が俺に言わせたかったであろう言葉を伝えて悪戯っぽく笑って見る。
 すると、少しの間の後にヴルカーンさんは力強く頷いた。

「確カニ悪クナイ。喜ンデ、引キ受ケルヨ。」

「よっしゃ、契約成立やな。」

 こうして、呪いは俺とヴルカーンさんを繋ぐ鎖になった。
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