稲荷の森の古美術商

TERRA

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日常編

お花見日和

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桜の木々が満開に咲き誇る春の午後、天下茶屋とテンは町の桜並木へと足を運んでいた。
テンはその大好物である団子を楽しみに、朝から浮足立っている。

「天下茶屋、早くせんか!儂の団子が待っておるぞ!」
テンは尻尾をふりながら急かす。
天下茶屋は苦笑いを浮かべながら答える。
「テン、まずは場所を取らなければ。団子はその後です。」

広々とした公園に到着すると、ニ人は桜の木の下に敷物を広げた。
周りには子供たちが笑い声を上げ、大人たちはお弁当を囲んでいる。
テンも負けじと賑やかさに溶け込みながら、早速団子に手を伸ばした。

「ふむ、これが春の味だな!」
テンが満足げに頬張る中、天下茶屋は桜の木々を眺めながら静かな幸福感を味わっていた。

ふと、テンが耳をピクッと動かし、不思議そうに顔を上げた。
「おい、天下茶屋!あの木のあたり、誰か話しておるようだぞ。」
天下茶屋は少し眉をひそめる。
「誰もいないように見えますが……。気になるなら近づいてみましょう。」

桜の木の下には、ほんの小さな穴が掘られている。
その中には古びた箱が埋まっており、天下茶屋が慎重に手を伸ばして取り出した。
箱を開けると、中には一通の手紙と、一輪の枯れた桜の花が収められていた。

「なんだこれは?」
テンが首をかしげながら覗き込む。
天下茶屋は手紙を広げて読み始めた。
『私の命が尽きる時、この木の下に眠る。春にはまた桜の花が咲き、私の心が届くはず』

手紙に込められた言葉の重みに、ニ人は顔を見合わせる。
その静寂の中、桜の花びらがそっと舞い落ちた。

翌日、天下茶屋とテンは町の記録を調べるために役所へ向かった。
古い書物を紐解きながら、桜の木にまつわる伝説を探し出す。
そこには、桜の木の下に自らを捧げた人物が村を守る願掛けをしたという記録が残っていた。

「どうやら、この手紙を書いたのはその人物のようですね。」
天下茶屋が手を止めて言う。
テンは腕を組みながら考え込む。
「ふむ、それなら桜の木が特別な力を持っておる理由も分かるというものだ。」

その夜、ニ人は桜の木の下に戻り、手紙に記された言葉に従って祈りを捧げた。
すると、桜の木が風に揺れ、どこか不思議な光を放ち始める。
光の中から現れたのは、手紙を書いた人物の霊だった。

「ありがとう。私の思いを受け取ってくれて。桜の木が咲き続ける限り、人々に幸せを届けたいのです。」
霊は柔らかな微笑みとともに、静かに消えていく。

翌日の朝、天下茶屋とテンは再び桜の木の下に足を運び、お花見を楽しんでいた。
人々は桜の美しさに心を奪われ、ニ人は団子とお茶を囲みながら穏やかな時間を過ごす。

「天下茶屋、やはりこうして平和に楽しむのが一番だな!」
テンが嬉しそうに言う。
天下茶屋は微笑んでうなずく。
「ええ。この桜は本当に特別な木ですね。」

桜の下で過ごす幸せなひととき。
それは春の訪れとともに、ニ人の心に新たな喜びを刻んでいった。
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