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ゲーム開始前

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 目が覚めたらお城にいた。
 あー、これは夢?よくある転生もの?
 26歳のゲーマー会社員だった日本人の私は目覚めたら銀色の髪に蒼い目のちいさな女の子になっていました。
 周りの状況を確認する。
 リリアンヌ・シャテロール6歳、両親からはリリーと呼ばれてる。シャテロール公爵家の唯一の子供だ。うーん、どこかで聞いた名前なんだけどなあ。思い出せない。
 それを思い出したのは8歳の時に王宮に連れていかれた時だ。

 目の前の金髪碧眼の同い年の王太子は私の婚約者。
 ラファエル・モンパンシエ王太子。
 ああ、高校生の時にやった乙女ゲームの最難易度攻略対象のラフだ。
 天才で眉目秀麗、スポーツ万能、感情を見せない薄い笑顔のスチルしかない、うん、でもそれが私のドストライクタイプなんだけどね。

 ゲームの中のラフは薄ら笑いしてるスチルしかなかったのに、目の前にいる彼はよく笑う表情豊かなこどもだった。
 いつも一緒に王宮の庭園を走り回って遊んだ。
 ある時、馬小屋のそばにたくさんのシロツメクサが咲いているのを見つけた。私がラフに花冠を作ってあげたら、ラフも真似して作ろうとしたけど上手く出来なかった。
 ふふふん。お姉さんは前世でも作ってますから。
 数日後、ラフから我が家にシロツメクサの花冠が届いた。
 負けず嫌いなのね。
 私はお父様にフリーズドライにして残したい、押し花にして!などとわがままを言ってみたがそんな技術はないようで、でも、絵師を雇って絵にして残してくれた。
 すごく嬉しくって、お父様の頬にキスをした。

 10歳の時、アネット王妃が帝国の30番目の側室になることが決まった。
 ゲームには出てこなかったが、モンパンシエは帝国がくしゃみをしたら吹き飛ぶくらい小さな国らしい。請われたら王妃を差し出さなければいけないくらい。
「ママ、ママ・・・・・・」とラフのきれいな碧い瞳から大きな涙の粒が落ちてる。
 私はラフの震える拳を包み込んで温めてあげることくらいしか思いつかなかった。
 まだ小さいのに親がいなくなるなんて。
 一人娘で愛情たっぷりに育てられてる自分。もし母がいなくなったら。
 自然と私も涙が溢れてきた。
 私達は一緒に力いっぱい泣いた。

 一年後、アネット王妃は姦通罪で処刑された。
 お腹の赤ちゃんと共に。

  


SIDE-L(リリー)
 モンパンシエでは6歳から12歳までが初等教育、13歳から18歳までが高等教育を行っている。公爵令嬢である私は初等教育部分は家庭教師で補って、13歳から王立学園――小さいうちから働かなくてもいい子供=金待ち――へ通うことになっていた。
 ありがたいことに、主要な勉学科目、他国言語、これが何故か自然に読み書きできる。算数や数学は前世の小学校以下のレベル。マナーは公爵家、未来の王妃、ということで学校で学ぶよりめちゃくちゃしごかれた。学園に通っても歴史のような暗記科目しか学ぶことしかない。それも受験戦争経験者からするとちょちょいのちょいだ。それでも、学校に行ったら友達ができるかも、ってのが楽しみ。

 13歳の春、私とラフは王立学園に入園した。
 王太子とその婚約者として一躍有名人。
 楽ちんなはずのテストは・・・・・・ラフに負け続け不動の2番をキープしてます。やっぱり、ゲームの天才キャラだけあって、ラフは毎回満点をとっている。
 学年代表として生徒会補佐も一緒にやらされ続けてます。
 王太子の婚約者としてもてはやされ、家は公爵家で身分高くてお金持ち、前世の記憶のおかげで成績優秀、すっごく楽しい!

 学園はね、男子棟、共用棟、女子棟と分かれてるの。だから授業はラフとは別で、ラフとは生徒会の活動で共用棟にある生徒会室で会うくらいかな。
 あと月に一度の王宮での王妃教育の後の食事。そこで一ヶ月の近況報告をしてる感じ。いろいろ一方的に話してる。ラフはゲームのスチルさながらの薄い笑みを浮かべて聞いている。
 中味は26才のお姉さんだから、まだまだ子供のラフにときめくことはないんだけど、やっぱり彼は乙女ゲームの最難易度攻略対象。眉目秀麗で成績優秀でスポーツ万能、いろんな競技会なんかでもいつも決勝に残ってる。かっこいいなあ。訂正、年下くんにときめいてます。
 すごいなあ。あんな人が私の婚約者なんだ。
 今は。
 そう。
 最終学年の春になれば主人公が入園してくるのだ。
 私は私より身分の低い主人公を罵倒しまくらなきゃいけない。
 卒業パーティーで主人公とラフが結ばれて、私はどうなるんだろう。そこはゲームに書かれてなかった。

 この楽しい学園生活がどうなるのか、不安を抱えながら最上級生の6年生の春を迎える。




SIDE-R(ラフ)
 母を帝国にとられてから、父である国王との間に溝ができた。
 家庭教師達から「帝国は巨大な国家です。逆らえません。」と言われたが、それで納得できなかった。
 まるで海底に沈んでしまったかのような日々を送っていた。
 そんな中、唯一の楽しみは月に一度の王妃教育の日にリリーが来てくれることだ。彼女が唯一、外界そとの空気を持ってきてくれる。できればその声をずっと聞いていたい・・・・・・

 13歳から王立学園に入園する。リリーと毎日会えるんだと楽しみにしていたけど、男女で学び舎が別でなかなか会う機会をもてなかった。
 だが、王太子とその婚約者である私達は学年の代表として生徒会の活動を補佐することになった。その仕事がある時は彼女と会える。

 リリーは会う度にキレイになっていく。
 体は丸みを帯びてきて女の子から女性の身体つきに成長していっている。銀色の長い髪はサラサラで艶めいている。一つ一つの所作も指の先までキレイだ。服に香を焚きつめているのか、時々ふんわりと香る。いつも香るより品があって好きだ。学業もしっかり勉強していて、テストの度に今回こそ負けるんじゃないかとハラハラしている。とても励みになっている。学園でも目立つ存在でいつも友達に囲まれている。
 リリーを婚約者に選んでくれたことは感謝だ。

 今年は最上級生。
 何か、「リリ」と思い出が作れたらいいのになあ。
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