悪役令嬢は可愛いものがお好き

梓弓

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第一章

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さて、宰相様の提案でカイト様と二人きりで話す事になったわけですがカイト様はというと……

「………。」

無言です。
これはこちらから話さないと駄目なようですね。

「……カイト様は、私との婚約話は知らなかったのですよね?」

「………ああ。さっき話していただろう。聞いていなかったのか。」

ジロリとこちらを見て、カイト様が答えました。

(なにも睨まなくても……)

と思いながら、またカイト様に話しかけます。

「聞いていました。……確かに急に我が家に連れてこられて更に私と婚約だなんて言われても、ですよね。」

「当たり前だろう。面識のない者と何も聞かされずに婚約などしたくない。それに、」

「それに?」

カイト様は言葉を一旦区切って、


「君みたいな地味な婚約者など、この僕に相応しくない。」


「………はい?」

(じ、地味って…!確かに否定はしませんけど……)


「僕は宰相である父様を継ぐんだ。その婚約者がこんな地味だなんて。」

(地味地味言い過ぎですよ!私はこれが気に入ってるんです!)

だんだん怒りが沸いてきました。

「カイト様。貴方は人を外見で判断するのですか?」

「外交に置いてはそれも一つの判断材料だろう?僕に意見するのか?」

「そうではありません。ただ、私はこの見た目を気に入ってるんです。」

「どうだか。本当は華やかな容姿の父上に似たかったのではないのか?」

カイト様は言い返されたのが気に入らなかったのか、嫌みっぽく返してきました。

ああ、私の我慢もそろそろ限界です。
要するに、この容姿に産んでくれたお母様も侮辱されているのと同じですよね。

「こんな視野の狭いお方に私のお母様が侮辱されるだなんて……ふふっ。あり得ないです。」

「……っ!?」

それまでとは比べ物にならない程の低い声と、冷笑でカイト様に言ってしまいました。
なんだか悪役令嬢の気分ですね……。

カイト様も驚いています。

「私は、確かに見た目は華やかではありません。でもだからといって貴方に下げて見られる言われもありません。」

「……っ。」

「もう少し広い視野をお持ちになって下さい。貴方は、次期の宰相になるのでしょう?」


カイト様は少し悔しそうな顔をしながらも、今度は何も言い返しませんでした。


「……カイト様。この婚約話は私達の仲がどうであろうと纏まる可能性が高いのです。」

「……。」

「だったら、少しでも歩み寄っては戴けないですか?」

穏やかな声で諭すように、カイト様に言いました。

するとカイト様は、

「……君は、本当に僕と同い年なのか?」

今日一番穏やかな顔で聞いてきました。

「は。はい。もちろんですよ?」

(や、やっぱり宰相様とは親子……)

「そう、か。……今日はすまなかった。色々言い過ぎた。」

「……!?」

「そこまで驚かなくても良いだろ。……面識のない令嬢のお祝いに無理やり連れて来られて、急に婚約者の話は出て、しかもその婚約者候補はすぐに父上に気に入られるしで、イライラしていたんだ。」

「…………。」

(確かに、私はカイト様を知っていますがカイト様私の事を知らなかったのですから気分を害するのも分からなくはないのですよね……。)

「容姿の事を悪く言えば君も嫌になると思ったから。でも、イライラもしていたから売り言葉に買い言葉になって……。」

「そうですか……。」

少し項垂れたカイト様。
なんだか可哀想になってきたのでカイト様の片手を取り、

「仲直りの握手です!」

「えっ!?」

と、急に片手を取られてビックリしているカイト様と握手しました。

「な、仲直り?」

「はい。ごめんなさいをちゃんとしてくれましたから、仲直りですよ!」

「……仲直り。」

握手をした手を見ながら、カイト様がポツリと言います。そして、

「シオンさん。」

「……!」
(はじめて名前を呼ばれました……。)

「良ければ僕の婚約者になってくれませんか?」

「!」

「僕はまだまだ未熟者だから、君に側で見ていて欲しいんだ。そして何か僕が間違えそうな時は君に正して欲しい。」

「カイト様……。」

「同い年の女の子にこんな事を言うなんてちょっと情けないけど…。」

真剣な表情でカイト様は言ってきました。

私も真摯に答えなくてはなりませんね。


「……はい。私で良ければ。」

自然と、笑顔で返事をしていました。

「っ!……あ、ありがとう。これから、よろしく。」

「はい。こちらこそ。」

返事をしたあと、カイト様が少ししどろもどろしてましたが何故でしょうね?

それはともかく、一時はどうなるかと思いましたが、カイト様と良好な関係が築けそうで何よりです。


行きとは違う表情で帰ってきたカイト様に宰相様は驚いていましたが、私に向かって

「息子を宜しくね。」

と優しく言って下さいました。

父は複雑そうな顔でしたが

「仲良くするんだよ。」

と言って私の頭を撫でました。

そんな和やかな雰囲気で私の誕生日パーティーは閉められたのでした。
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