悪役令嬢は可愛いものがお好き

梓弓

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第一章

39

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「生地が出来ましたので、次は成形に移りましょう。」

「うん。でも上手く作れるかな……?」

「大丈夫ですよ。それ程難しく無い工程で作れますから。」

「そっか、それなら良かった。」

少し不安そうなカイト様に、私は自信を持ちながら答えます。
(初心者のカイト様が楽しく作れるように、なるべく簡単な工程で出来る方法にしますからね。)

「まずはこの軽量スプーンの小さじにすり切りに粘土を詰めます。それを五個作って下さい。あ、粘土は余り強くは押しつけないで下さいね。」

「うん。」

私が教えた通りにカイト様は軽量スプーンの小さじに粘土を詰めた物を五つ作ります。

「……出来たよ。これを次はどうするの?」

「次はこの五個の粘土を手のひらで丸めて玉の形にします。」

「分かった。」

カイト様はまた頷き、私の言った通りに粘土をコロコロと手のひらで転がして五つの粘土の球体を作りました。

「この位で良いかな?」

「はい、大丈夫です。それでは次の工程に進みますね。本格的にシュークリームの形にしていきます。」

「これがどうシュークリームになるんだろう?」

「ふふ、とりあえず見ていて下さいね。……まず五個の粘土の内の一つを粘土板に置いて、その周りに残りの四つを並べます。その周りの粘土を……ぎゅっ、と真ん中の粘土に押し付けます。」

「えっ」

「そしてこれを全体的に優しく馴染ませて…出来上がりです。」

「……シュークリームになってる。これなら僕にも何とか作れそうだよ。」

「良かったです。……さて、このシュークリームを積み上げるくらい作らないとですからね。頑張りましょう!」

「うん、頑張ろう!」

という訳で、私とカイト様によるプチシュークリームの量産が始まりました。
たまに雑談をしつつ、黙々とシュークリームを作り始めてから30分。粘土生地がすべて無くなったので

「生地も無くなったので、今日はここで一旦作業は終わりにしましょう。」

と、カイト様へ伝えました。

「あれ?もう今日は終わりなんだ?」

「はい。シュークリームは乾かさないと駄目なので、乾いた数日後に組み上げます。」

「そっか、分かった。」

「乾いてしまえばあとは組み上げて、飾り付けをすれば完成しますから、もう少し待って下さいね?」

「うん、とうとう完成か。楽しみだな。」

「そうですね。最初にカイト様からお話を聞いた時から意外に時間が経ってしまいましたが、何とか完成しそうで良かったです。」

「本当にシオンさんのおかげだよ。ありがとう。」

カイト様はぺこりと私に頭を下げます。急に頭を下げられた私は少し慌てて、

「いえいえ!私もカイト様と粘土細工をするのを楽しみにしているので、お気になさらず。」

と答えました。
(本当にカイト様とスイーツデコをするのは楽しいですし。)

「そう?なら良いんだけど……。」

「はい。あと、これからも気にせず私が得意な事だったらいつでも頼って下さいね。その代わり、カイト様の得意な事は頼らせて貰いますね?」

「……そうだね!僕の得意な事なら、幾らでも頼って欲しい。……所でシオンさん?」

「はい、なんですか?」

「そろそろお互いにもっと砕けた呼び方でも良いんじゃないかなって思うんだけど。」

「え?」
 
「シオンって呼んじゃ駄目かな?それと僕の事も様付けは無しで、」

「い、いえいえ駄目ですよ!私はともかく……。」

「って事は僕がシオンって呼ぶ分には良いのか?」

「はい、私は構いませんが、さすがにカイト様を呼び捨てには出来ませんよ。婚約者とはいえ、私はカイト様より下の身分なのですから……。」

「む……。」

カイト様は私の言葉に少ししょんぼりとしてしまいました。
私は何だか可哀想になって来たので、

「では……カイトさんとお呼びするのはどうですか?」

と、譲歩してみます。

「……さんづけかあ。」

「駄目ですか?」

「うーん。しょうがないけど当分はそれで良いよ。」

「はい。……って当分ですか?」

「まだまだ先だけどいずれは違う呼び方になるからな。」

と、カイト様はニッコリ笑って言いました。

「……それはええと、」

「うん。結婚した僕の事、旦那様って呼ぶだろうし。」

「だ、旦那様ですか。そうですね……。」

私はカイトの言葉に少し動揺しながら頷きました。

(確かに、結婚すればカイト様の事は旦那様とお呼びすると思いますがまさか今ここでそんなお話をする事になるなんて思いませんでした……。)

「って事で、これからも宜しく。シオン。」

「はい。こちらこそ改めて宜しくお願いしますね、カイトさん。」

という訳で計らずも、カイト様改めカイトさんとの距離が更に縮まった日となったのでした。
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