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言葉に詰まる

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あれからあっという間に1ヶ月がたち、本番が明日となった。今日もいつも通り放課後彼女と残り、月の光を感じれば最寄り駅へと向かう。この1ヶ月で私たちは誰よりも練習に取り組み、ここまでやってきたのだ。
「やっぱり私は塩顔派」
「えーソース顔の濃い感じがいいのにー!」
そんなくだらない話をしながら私たちは誰もいない電車に乗り、自宅へと向かう。
「……ねえ、舞花はさ私の事どう思う?」
「え?何 急に!笑」
しばらく黙り込んだと思ったら、彼女の口から告げられたものはまるで、好きな人に向ける問いだった。いつもの彼女のテンションに合わせて、「明るいし、元気だし、可愛いよ!」等と只率直に感じた彼女の第一印象を並べた。平行移動をしてゆく外の景色をしばらく見てから、彼女の方に視線を移した。普段へらへらとしている彼女の口はかたく閉じられていた。私の視線に気がついたのか、「ごめんごめん 急だよね笑いやー可愛いかー舞花に言われるなんて照れるなぁ」
さっきまでの様子とは180度変わり、パッと笑顔になってヒラヒラと手を体の前で遊ばせた。そんな彼女を不思議に思いながら、いつも通りの会話をし続けた。

彼女の家の最寄りの駅名が電車内に鳴り響いた時、手提げカバンを肩にかけて勢いよく立ち上がり、扉の前へと歩いていった。
「明日がんばろうね!」
「うん。楽しもうね」
「やばいなー今になって緊張してきた」
「三崎ならできるよ 三崎何でもできるんだから!」
私がそう告げた瞬間、彼女の目の色が変わった。驚いたような。どこか悲しいような。そんな瞳をした。
「私なんて全然出来ないよ 舞花は努力家だし、羨ましいよ 」
「……………」
彼女のその一言に何故か言葉が出なかった。自分でも何故だか分からない。ありがとう等と適当なことを言って流せばいいものの、言葉が詰まって何も出てこない。
「……じゃあ、また明日ね」
「うん またね」
扉が開き、駅のホームへと足を踏み出す彼女。カバンの中から白色の財布を取りだし、100円。10円と小銭を自動販売機へ入れ込む。彼女は好きなココアのボタンを押し、笑みを零した。受け取り口の蓋の中に手を入れ込み、ココアを取り出す。その一部始終を電車の窓越しから見ていた私は、気がつけば彼女の隣へと走っていった。
「舞花……?どうしたの??」
心臓がやけにうるさい。11月の冷たい空気に紅くなった耳の奥がどくんどくんとなっている。
___「まもなく1番線に通過電車が……」
何故か息が切れてきて、胸が上下する。拳を強く握りしめているせいか、爪が手のひらに食いこんで痛みを感じる。遠くの方に電車の音が聞こえてくる。様々な音が頭に響いてくるが、何故か心は落ち着いている。三崎の声。電車通過を知らせる聞きなれた音楽。片方に近づく足音。後ろへと後退る足音。乗っていた電車が発車する音。缶が落ちる音。腕を上げる音。布に手を当てる音。そして片方の荒い息つかい。そして片方の叫び声。
そして__________






「_____ドンッ」




__三話へ続く
















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