月光に煌めく彼女の名前を呼んで。

Kanonn

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月の光

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「それでは次のニュースで___」
いつも決まった時刻に流れる朝の番組。いつもの穏やかな女性アナウンサーの声。
「__させたとして、遠藤___」
「遅刻するわよ 起きなさい」
そう言って弟を起こしに行く母。コーヒーを飲みながら新聞をめくる父。何気ない毎日だ。
「酷い事件だよな…千春気をつけるんだぞ」
そう言って私に視線を送る父。たった今テレビから流れている話題について言っているのだろう。この事件については、隣町の中学校で起きたことであり、歳は自分と同じくらいだということしか頭に残っていない。三年ほど前のことなのだ、当時は話題になっていたとしても記憶に残されているのはほんの一部となっている。そんなことを考えながら、今日も履きなれた運動靴を履いてドアに手をかける。
「行ってきます」
何気ない毎日。
__彼女もこの時そう思っていたのだろうか


~~~~~三年と一か月前

「あーー暇だ」
そうため息混じりに呟く彼女は 伊田三崎。
私と同じ吹奏楽部に所属している中学三年生だ。ベランダの柵に肘を着いてグラウンドを見つめている。
「そんなのを言ってる暇があったら、早く練習しなよ。本番まであと1か月だよ?」
私は顔を顰めてやりたくないと言うように暴れる彼女に、音楽室から声をかけた。私たちは今放課後、1ヶ月後に迫った中学最後のコンクールに向けて自主練をしている。
「だってぇ、ソロなんて無理だよぉ 舞花は上手なんだからいいじゃんー」
「私だってまだ音がブレちゃうよ。まだまだ練習しないと」
「舞花は真面目だなぁ」
私と三崎は前に出て1人で演奏するソロを任されている。音が外れたらどうしようや、頭が真っ白になってしまったら?等の不安は勿論ある。だが、彼女の言う通り私はトランペットを担当しており、部の部長でもある。実際、仲間や顧問から「舞花がいちばん上手い」「舞花なら絶対できるよ」と大きな期待を寄せられている。だが、サックスを担当している彼女の腕も間違いないとは思うし、彼女がソロに選ばれたのも当然のことだと思う。
「暗くなってきたし今日はもう帰ろうか」
さっきまで黄金色だった夕焼けの空が、あっという間に月が主役となり、月光による夜空のグラデーションが目立つ空となっている。
肌寒くなってきた空気を感じ、少し血色が悪くなった手を擦り合わせた。
「1ヶ月後のコンクール頑張ろうね!」
そう言って無邪気に笑う彼女の長い髪が月の光に照らされてキラキラと煌めいている。
私は少し微笑んで、スキップをして行く彼女の少し後ろを歩き出した。



__二話へ続く


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