先輩! 青色申告とか教えてください 女子大生ウーバー配達員確定申告奮闘記 所得税編

菊池葵

文字の大きさ
上 下
30 / 34

30話 指摘事項 車両費

しおりを挟む






【車両費】

先輩はページをめくり、車両費の一覧を見ながら、
「頭金2万円?」
「バイクを買ったときの分です」
「ローンで買ったって言っていたわね。その返済が毎月1万円?」
「はい。12回払いです」」
「バイクは全部でいくらだったの?」
「諸経費込みで13万円でした」
「払うのは頭金2万円と、返済が12回で12万円、全部で14万円かな」
「そうです。1万円は利息で・・・ 利息高いかなと思ったけど、早く欲しくて」

親からは「貯金して買いなさい」って言われました。

「仕事道具を買うための借金は悪いことじゃないよ。売上を増やすための投資だから」
と言いながら、先輩は売上の帳簿に戻り、

「って、売上は増えてないね」
「バイクに乗るの楽しくて。あちこち走っていました」
「そう・・・ まぁいいわ。でも、頭金とローンの返済は車両費じゃないわね」

「えっ、経費にならないんですか」
「経費にはなるけど、払った金額がそのまま経費になるわけじゃないの。減価償却の話をしたのは覚えている?」
「10万円以上のバイクを買ったら、でしたっけ。でも、お金なくてローンで払うから・・・ 頭金は2万円で、ローンの返済は毎月1万円ですし」
「現金で買うかローンで買うかは関係無いの。13万円で買ったら、13万円の固定資産を取得したということで減価償却」
「3年かけて費用化でしたっけ。あっ、青色申告だと全部経費にでいいんでしたっけ。30万円までなら」
「減価償却のやり方はあとで説明するわ。とりあえず、車両費からはマイナスね」
「でも、払うのは全部で14万円ですけど。利息の1万円は経費にできないんですか」
「もちろん、払うから経費になるよ。ローン支払いの明細はある?」

領収証はまとめて袋に入れて持ってきました。
その中にローンの書類もあります。

「うーん」
先輩はじっと書類を見ています。

「どうしたんですか」
「毎月の支払額1万円のうち、元本がいくらで、利息がいくらかは書いてないね」
「書いてないと、計算できないんですか」
「できるけど、自分で今年の利息額を計算しないといけないね」
「どうやるんですか」

先輩は紙に書いてくれます。

令和5年経費
利息1万円×3ヶ月÷12ヶ月=2,500円

令和6年経費
総額1万円-令和5年経費2,500円=7,500円


「バイク13万円のうち、頭金で2万円、ローンで11万円の支払い。ローンの返済は利息1万円を加え、12回で12万円ね」
「はい」
「バイクは10月に買った、つまり、10月に11万円借りているから、月割り計算で利息1万円のうち10月から12月の3ヶ月分を令和5年の経費にするの」
「ふむむぅ・・・」
「令和6年も同じように9ヶ月分。令和6年で返済は終わるから、利息1万円のうち経費にしていない残り7,500円を経費にします」

そう言いながら、先輩は帳簿の頭金とローン返済にバツ印をつけます。

「ところで、中村早苗さんという方は?」
「お母さんです。お母さんの自動車保険にファミリーバイク特約をつけてもらいました。増えた保険料は私に払えって言われて」
「家族でバイクに乗っているのは叶音さんだけ?」
「お兄さんもバイクに乗ってるけど、一人暮らししています」
「お兄さんが乗っているバイクは、ファミリーバイク特約の対象になる?」
「いえ、大きいバイクなので。ファミリーバイク特約は原付だけです」
「じゃあ、ファミリーバイク特約は叶音さんが乗っているバイク1台だけのために設定したのね」
「はい」
「だったら、大丈夫よ。もし、他の家族も対象になる原付に乗っていれば、保険料のうち何割が叶音さんの原付の分か考えないといけないところだったけど」


先輩はさらに帳簿を眺めながら、
「中村達也さんは?」
「それがお兄さんです」
「お兄さんにオイル交換をやってもらったの?」
「はい。実家に帰った時にやってもらいました、でも酷いんですよ。オイル代だけでなく作業代も払えって言われました」

「うーん。お兄さんは一人暮らしって言ったわね。もう就職してるの?」
「いえ、横浜の大学に通っています」
「お父さんお母さんは、お兄さんに仕送りしてる?」
「してるって言ってましたけど」
「じゃあ、お兄さんに払った作業代は経費にできないわね」
「えっ、どうしてですか」

「家族・・・ 専門的な言い方をすれば、生計を一にする親族に対価を払っても経費にならないって、所得税法に書いているの」
「そういえば、そんなこと言ってましたね。でも、お兄さんは別の家に住んでますよ」
「お兄さんの生活費を、叶音さんの親が援助しているんだよね」
「そうですけど」
「そうなると、生計を一にする、ってことになるの」
「でも、仕送りしているのはお父さんですよ」
「叶音さんとお父さんは同じ家に住んでる?」
「同じ家です」
「この場合、お父さんを中心にして、叶音さんとお兄さんが生計を一にするって考えるの」
「うぅぅ・・・」
「叶音さんが経費にできるのは、お兄さんがオイル交換するためにかかった経費、つまりオイル代1,300円だけ」
「それ、ひどくないですか」
「そのかわり、お兄さんの所得税の計算では、叶音さんから受け取った2,300円とオイル代1,300円は無かったことになるわ」


オイル交換の作業代1,000円にもバツ印がつけられます。

「この×印が車両費にならない分ね」
「はい・・・」
「あとは車両費になるんだけど、バイクはプライベートにも使ってるよね」
「です・・・ね」

あぁ、また経費を減らされる予感!

「あちこちツーリングしてるんだっけ」
「はい・・」
「じゃあ、仕事で使ってるのは何割くらいかな」
「えっとぉ・・・ 計算したことなくて」
「こういうのは、だいたいでいいから」
「・・・じゃあ、8割で」
「プライベートが2割ね。2割マイナスっと」

あれっ?
あっさり認められました。

「本当に2割でいいんですか」
「私に聞かれてもねぇ。本人じゃないと分からないから」
「もし間違ってたら・・・?」
「税務調査で、本当はプライベートに3割使ってるだろって言われて、修正申告を要求されます」
「修正申告?」
「最初に提出した確定申告が間違ってました、正しく計算し直したら税額もっと多かったです、って申告」
「自分で書かないといけないんですか」
「税務署の人が言うことに納得したら、修正申告書を書いて提出。納得しなかったら、修正申告しなくていいわ」
「えっ、いいんですか」
「義務じゃないからね。修正申告が無かったら、税務署は更正処分します。正しい税額はいくらだから、差額を払えって」
「じゃあ、同じですね」


「更正処分に納得できなかったら税務署に『再調査の請求』か、国税不服審判所に『審査請求』って制度もあるよ。更正処分が覆ることも時々あるわ」
「覆らなかったら?」
「その時は裁判。地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所まで行って戦って決着をつけるの」

なんか、大変そうです。
「やっぱり、プライベート3割にします」
「3割ね~」

先輩はマイナス30%と書き直します。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、娘の幼稚園の親子イベントで娘の友達と一緒にいた千春と出会う。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになると思うのでご安心ください。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

さくらと遥香(ショートストーリー)

youmery
恋愛
「さくらと遥香」46時間TV編で両想いになり、周りには内緒で付き合い始めたさくちゃんとかっきー。 その後のメインストーリーとはあまり関係してこない、単発で読めるショートストーリー集です。 ※さくちゃん目線です。 ※さくちゃんとかっきーは周りに内緒で付き合っています。メンバーにも事務所にも秘密にしています。 ※メインストーリーの長編「さくらと遥香」を未読でも楽しめますが、46時間TV編だけでも読んでからお読みいただくことをおすすめします。 ※ショートストーリーはpixivでもほぼ同内容で公開中です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...