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30話 指摘事項 車両費
しおりを挟む【車両費】
先輩はページをめくり、車両費の一覧を見ながら、
「頭金2万円?」
「バイクを買ったときの分です」
「ローンで買ったって言っていたわね。その返済が毎月1万円?」
「はい。12回払いです」」
「バイクは全部でいくらだったの?」
「諸経費込みで13万円でした」
「払うのは頭金2万円と、返済が12回で12万円、全部で14万円かな」
「そうです。1万円は利息で・・・ 利息高いかなと思ったけど、早く欲しくて」
親からは「貯金して買いなさい」って言われました。
「仕事道具を買うための借金は悪いことじゃないよ。売上を増やすための投資だから」
と言いながら、先輩は売上の帳簿に戻り、
「って、売上は増えてないね」
「バイクに乗るの楽しくて。あちこち走っていました」
「そう・・・ まぁいいわ。でも、頭金とローンの返済は車両費じゃないわね」
「えっ、経費にならないんですか」
「経費にはなるけど、払った金額がそのまま経費になるわけじゃないの。減価償却の話をしたのは覚えている?」
「10万円以上のバイクを買ったら、でしたっけ。でも、お金なくてローンで払うから・・・ 頭金は2万円で、ローンの返済は毎月1万円ですし」
「現金で買うかローンで買うかは関係無いの。13万円で買ったら、13万円の固定資産を取得したということで減価償却」
「3年かけて費用化でしたっけ。あっ、青色申告だと全部経費にでいいんでしたっけ。30万円までなら」
「減価償却のやり方はあとで説明するわ。とりあえず、車両費からはマイナスね」
「でも、払うのは全部で14万円ですけど。利息の1万円は経費にできないんですか」
「もちろん、払うから経費になるよ。ローン支払いの明細はある?」
領収証はまとめて袋に入れて持ってきました。
その中にローンの書類もあります。
「うーん」
先輩はじっと書類を見ています。
「どうしたんですか」
「毎月の支払額1万円のうち、元本がいくらで、利息がいくらかは書いてないね」
「書いてないと、計算できないんですか」
「できるけど、自分で今年の利息額を計算しないといけないね」
「どうやるんですか」
先輩は紙に書いてくれます。
令和5年経費
利息1万円×3ヶ月÷12ヶ月=2,500円
令和6年経費
総額1万円-令和5年経費2,500円=7,500円
「バイク13万円のうち、頭金で2万円、ローンで11万円の支払い。ローンの返済は利息1万円を加え、12回で12万円ね」
「はい」
「バイクは10月に買った、つまり、10月に11万円借りているから、月割り計算で利息1万円のうち10月から12月の3ヶ月分を令和5年の経費にするの」
「ふむむぅ・・・」
「令和6年も同じように9ヶ月分。令和6年で返済は終わるから、利息1万円のうち経費にしていない残り7,500円を経費にします」
そう言いながら、先輩は帳簿の頭金とローン返済にバツ印をつけます。
「ところで、中村早苗さんという方は?」
「お母さんです。お母さんの自動車保険にファミリーバイク特約をつけてもらいました。増えた保険料は私に払えって言われて」
「家族でバイクに乗っているのは叶音さんだけ?」
「お兄さんもバイクに乗ってるけど、一人暮らししています」
「お兄さんが乗っているバイクは、ファミリーバイク特約の対象になる?」
「いえ、大きいバイクなので。ファミリーバイク特約は原付だけです」
「じゃあ、ファミリーバイク特約は叶音さんが乗っているバイク1台だけのために設定したのね」
「はい」
「だったら、大丈夫よ。もし、他の家族も対象になる原付に乗っていれば、保険料のうち何割が叶音さんの原付の分か考えないといけないところだったけど」
先輩はさらに帳簿を眺めながら、
「中村達也さんは?」
「それがお兄さんです」
「お兄さんにオイル交換をやってもらったの?」
「はい。実家に帰った時にやってもらいました、でも酷いんですよ。オイル代だけでなく作業代も払えって言われました」
「うーん。お兄さんは一人暮らしって言ったわね。もう就職してるの?」
「いえ、横浜の大学に通っています」
「お父さんお母さんは、お兄さんに仕送りしてる?」
「してるって言ってましたけど」
「じゃあ、お兄さんに払った作業代は経費にできないわね」
「えっ、どうしてですか」
「家族・・・ 専門的な言い方をすれば、生計を一にする親族に対価を払っても経費にならないって、所得税法に書いているの」
「そういえば、そんなこと言ってましたね。でも、お兄さんは別の家に住んでますよ」
「お兄さんの生活費を、叶音さんの親が援助しているんだよね」
「そうですけど」
「そうなると、生計を一にする、ってことになるの」
「でも、仕送りしているのはお父さんですよ」
「叶音さんとお父さんは同じ家に住んでる?」
「同じ家です」
「この場合、お父さんを中心にして、叶音さんとお兄さんが生計を一にするって考えるの」
「うぅぅ・・・」
「叶音さんが経費にできるのは、お兄さんがオイル交換するためにかかった経費、つまりオイル代1,300円だけ」
「それ、ひどくないですか」
「そのかわり、お兄さんの所得税の計算では、叶音さんから受け取った2,300円とオイル代1,300円は無かったことになるわ」
オイル交換の作業代1,000円にもバツ印がつけられます。
「この×印が車両費にならない分ね」
「はい・・・」
「あとは車両費になるんだけど、バイクはプライベートにも使ってるよね」
「です・・・ね」
あぁ、また経費を減らされる予感!
「あちこちツーリングしてるんだっけ」
「はい・・」
「じゃあ、仕事で使ってるのは何割くらいかな」
「えっとぉ・・・ 計算したことなくて」
「こういうのは、だいたいでいいから」
「・・・じゃあ、8割で」
「プライベートが2割ね。2割マイナスっと」
あれっ?
あっさり認められました。
「本当に2割でいいんですか」
「私に聞かれてもねぇ。本人じゃないと分からないから」
「もし間違ってたら・・・?」
「税務調査で、本当はプライベートに3割使ってるだろって言われて、修正申告を要求されます」
「修正申告?」
「最初に提出した確定申告が間違ってました、正しく計算し直したら税額もっと多かったです、って申告」
「自分で書かないといけないんですか」
「税務署の人が言うことに納得したら、修正申告書を書いて提出。納得しなかったら、修正申告しなくていいわ」
「えっ、いいんですか」
「義務じゃないからね。修正申告が無かったら、税務署は更正処分します。正しい税額はいくらだから、差額を払えって」
「じゃあ、同じですね」
「更正処分に納得できなかったら税務署に『再調査の請求』か、国税不服審判所に『審査請求』って制度もあるよ。更正処分が覆ることも時々あるわ」
「覆らなかったら?」
「その時は裁判。地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所まで行って戦って決着をつけるの」
なんか、大変そうです。
「やっぱり、プライベート3割にします」
「3割ね~」
先輩はマイナス30%と書き直します。
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