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26話 バイク屋にて

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梅ヶ丘団地への配達を終え、配達依頼が来やすい繁華街エリアに戻る私。
背中は濡れています。
上り坂を立ち漕ぎし、さらに階段で5階。
あの部屋に届けた後はいつも汗だくです。

赤信号で止まると、道路の向こう側のバイク屋が目に入ります。

(バイクかぁ)

昨日のことを思い出します。
先輩のマンションでいろんなことを。

あっ、税金について教えてもらった方ですよ。
昼間から公道であんなこと思い出したんじゃなくて。

先輩と一緒に帳簿をエクセルで作ってみた時のことを。
車両費とかガソリン代とかタイヤ交換とか。

バイクを買ったら坂道も楽そう。

配達依頼が少ない時間帯なので、配達アプリをオフラインにしてバイク屋に入ります。

「いらっしゃいませ~」

あぁぁ涼しいぃぃぃ~

店の中にはいろんなバイクが並んでいます。
あれ、ハーレーっていうんでしょうか。

私の免許で乗ることができるのは50ccまで。
小さなスクーターが並んでいるエリアに向かう私に、

「叶音さん!」

声がする方を見ると先輩がテーブル席でコーヒーを飲んでいます。

「えっ、先輩? どうしてここに」
「オイル交換をやってもらっているの」

整備場を見ると先輩の赤いスクーターがあります。

「叶音さんはどうしたの?」
「バイクもいいなぁって思って」
「買いたくなったの?」
「はい」

先輩はコーヒーを飲み干して立ち上がります。

「いいわねぇ、バイクデビュー」

私の隣に立ち、

「どんなのがいいの」
「あんまり考えてないですけど。乗れるのは原付なんで」

なんとなくスクーターが並んでいるコーナーに来たけど、何がいいかはまったく分かってないです。
シュっとしたデザインのスクーターもあれば、大きな前カゴが付いたスクーターも。
気になるのは丸っこくて可愛いこれかな。

「ジョルノいいよねぇ」

車体にはGIORNOと書かれています。
ジョルノって読むのですね。

「うん、これが可愛いかなって。先輩のバイクと似てますね」
「そうね。姉妹シリーズ・・・? だからね」
「でも、脚のところにペダルは無いですね」
「シフトペダルのこと? それはジョルカブくらいしか無いわね。スクーターには」
「ジョルカブ?」
「私の、あれ」

先輩の赤いスクーター、ジョルカブっていうんですね。

「あとは、昔のベスパはマニュアルだけど。ギア操作するスクーターはもう売ってないよ」
「そうなんですか」

やっぱり、先輩が脚でやってるのはギア操作だったんですね。

「先輩の・・・ ジョルカブはもう売ってないんですか」
「ちょっと昔のバイクだからねぇ」
「ギア操作やるのカッコいいなって思って。ガチャッ、ガチャッって」
「じゃあ、スーパーカブはどう?」

先輩が指さすのは郵便配達の人が乗っているバイクです。
それじゃないんですよね。
おじさんっぽいし。

「じゃあ、こういうのは?」

いかにもバイクって感じのバイクを先輩は指さします。
サイズも小さくて私にも乗れそうです。
でも、こういうのじゃなくて、もっと可愛いのが・・・

「マニュアル車は難しいけどね」
「ギア操作なら自転車にもありますけど」

私が乗っている自転車は3段変速です。
ハンドルのところを回すと1速、2速って切り替えができます。

「クラッチ操作もあるよ」
「クラッチ・・・?」
「ギアをニュートラルにするとエンジンとタイヤは切り離されるの。この状態でエンジンを始動するんだけど、ギアを1速にしていきなりエンジンとタイヤがつながるとエンスト。タイヤは止まっているからね。だからクラッチレバーを引いてエンジンを切り離した状態で1速にして、クラッチレバーをゆっくり戻して半クラにして発進。2速に上げる時もクラッチを切るの。慣れるまで大変だと思うけど」

思ったより大変そうです。

「先輩のバイク、そんなに難しいんですね」
「ジョルカブは簡単だよ。クラッチは自動だから。脚で変速操作するだけ」
「それ、いいですね」
「スーパーカブも同じよ」
「うーん・・・」

ガチャッって変速やってみたいけど。
でもスーパーカブは・・・ね。

「ところで、叶音さんは免許は何持ってるの?」
「普通車免許です。あっ、オートマ限定だとマニュアル車は乗れないですね」
「免許的には乗れるよ。原付にオートマ限定の制度は無いから」

でも・・・ 無理そうです。
普通のスクーターがいいかな。

一番可愛いジョルノの横に立ち、値札を見ます。
209,000円かぁ。
やっぱり高いですね。

「いかがですか。こちらは女性の方に人気ですよ」
男性店員に声をかけられます。

「いいなって思うんですけど。20万円は持ってなくて」

ウーバーの仕事頑張って買おうかな。

「では、中古車はいかがですか」

店員さんに案内されると中古バイクが5台並んでいます。
その中に色違いのジョルノも。
ピンク色でけっこう綺麗です。

「走行距離2万キロで12万円。いかがでしょう」
「うーん・・・」

銀行には貯金が10万円くらい。
頑張れば、なんとか買えないこともないけど。

「叶音さんがバイク買ったらツーリング行きたいね」
「先輩とツーリング! あぁ、行きたいですぅ」

でも、買えば貯金全部なくなってしまいます。

「もっと安いのはありますか」
店員に尋ねると、
「うちにある中古車はこの5台のみですけど、ちょっと他の店にないか探してみましょう」

店員さんはパソコンで調べてくれます。

「あんまり安いと修理代が高くつくよ」
先輩はそう言いながら、ジョルノの前で腰を下ろし、後輪を眺めています。

「そうですね。先輩はこのバイク、どう思いますか」
「うーん。見ただけじゃ分からないけど」

反対側も、後輪部分を見上げる体勢でチェックしてくれて、
「12万円なら悪くはないんじゃないかな」

先輩、バイクについて詳しいのかな。
先輩が大丈夫って言ってくれるなら・・・

「それに」
先輩は立ち上がりながら
「自転車よりバイクの方が稼げるよ」
「やっぱり、そうですか」
「バイクの方が配達依頼は多いし、件数もこなせるし、何より疲れないし」
「そうですね・・・」

バイクを買えば収入も増えるし。
それに、先輩とツーリングも。

壁には東京湾アクアラインのポスターがあります。
ここを走ったら気持ちいいでしょうね。
先輩と一緒に・・・

私は店員さんに、
「ちょっと考えますね」

私の貯金だけじゃ足りないです。
お金貯めるか、親に借りるか。

借りれるかな。
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