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来る征戦の騎士、明かされる聖剣の未知
41話 作戦と勝利と……
しおりを挟む「おぉぉぉぉッッ!!」
レノンが怒号を上げて走り出す。それを見てコウトも動いた。
進む先には最初に戦ったときに渡された剣が落ちている。それを素早く拾い上げた。
制御を外れ、なおも存在し続ける怪人たち。彼らは皆一様に立ち止まり動かない。進路上で佇むそれらを切り裂きながら征戦騎士はコウトへと迫っていく。
「頼んだ、クレイリング!!」
隆起した地面がコウトを高く持ち上げる。もう一度高所からの一撃を叩き込むべくレノンの頭部めがけて狙いを定める。
「ハァァッ!!」
「舐めるな!」
陽の光を背に繰り出したコウトの攻撃は完全に防がれてしまった。
攻撃を受け止めたレノンはそのままコウトの襟を掴み引き倒す。
「がぁッ!!」
胸を強く打ち、肺から空気が漏れる。
打ち付けられたコウトの周りに金色のマナが漂い始める。見ると、レノンの持つ聖剣に集まっておりそれは美しい姿勢で振りかぶられたまま、今にも振り下ろされようとしていた。
「……終わりだ。異世界人」
「やめてくれ、レノン!! 彼が何をしたと言うんだ!!」
騎士を退けたエウレナはコウトの下へ走るが間に合わない。悔しそうに出された必死の叫びもレノンには聞こえない。彼はすでにコウトを討ち果たすことのみしか考えることができなくなってしまっていた。
彼は足元の青年に無慈悲に剣を突き立てる覚悟を決めた。
「聖剣よ……ッ!?」
言葉とともに剣が振るわれる、その間際。地に伏せるコウトに1つ、小さな影が落ちた。
レノンの眼前に1匹の毛に覆われた生き物が現れる。背中に輪と翼の模様があるその生き物は、たぬきだ。
「ダンザブロー……!!」
七篠が疑問と驚きが潜む声を上げた。コウトもいたずらが成功したかのように満足気な笑みを浮かべ、精一杯叫ぶ。
「いっけーー!! ダンザブローッ!!!」
ダンザブローは聖剣が振り抜かれるよりも早く、そしてレノンが始めて見たその生き物の存在を理解し終えるより早く、金色の光線を放つ。
大地を削り、巨大な衝撃を引き起こす光。それはレノンの意識を刈り取った。
――馬鹿な、私が負けるだと!? いや、それよりもこの光……!! 聖剣が放つものと……、同……じ……。
――――――
照射が終わり、ダンザブローがレーザーを撃たない普通のたぬきに戻った頃、コウトは強く打った場所を庇いながら起き上がった。
「クレイリングで作った岩柱の上にダンザブローも一緒に乗ってたんだ。時間差で降りてきてサーク王国跡地で見せたレーザーを撃ってくれと言ったんだけど……」
ちゃんと意思疎通できていたみたいでよかったと独り言を言って笑った。
「コウト! コウトぉっ」
エウレナがコウトに飛びつく。
「よくやったな! 怪我はないか? 痛いところは?」
抱きつく時に一旦背中に置いた手のひらで体をペタペタと触れてくる。やがて肩に手を置き、コウトをまっすぐと見つめてきた。
濡れていて以前より少し頼りないその瞳に、思わず彼女を抱き寄せてしまう。
「大丈夫ですよ。僕はここにいます」
「……あぁ」
コウトが心配をかけてしまったことへの謝罪と感謝の意味を込めて言うと、エウレナは涙声の短い返事を返す。コウトはこの様子だと1度死んだことは伝えられそうもないなと苦笑した。
七篠もコウトの近くで一仕事終えたダンザブローのじゃれつきに応じていた。夕日に照らされる金毛をワシャワシャと撫でながら抱き合っている2人を見る。
彼女は素で感情を表に出して表現するタイプではない。だが、このときばかりは少しだけ、ジェラシーが彼女の表情にも出てきていた。
そんな彼女はやはり、コウトがレノンを倒したことに心底安堵しつつもエウレナのように振る舞うというわけにはいかず、宿屋に戻ったあとで彼と思う存分過ごそうと決めた。もちろん、覚えた嫉妬心の分だけ上乗せして。
「ダンザブローもありがとうな。ナイス連携だった」
七篠の下へやってきたコウトがダンザブローを撫でる。両脇から2人に撫でられるダンザブローはすこし窮屈そうにしている。
そうだ、とコウトが視線を向けた先には地面に伸びているレノンの姿がある。彼は白目をむいて動かない。聖剣を持つものが死なないのだとしたら彼はいま死んだのではなく気絶しているのだろう。
「エウレナさん、このあとどうします? 彼のこととか――」
「申し訳ありませんが、彼の身柄はこちらが確保させていただきます」
コウトはレノンの処遇について尋ねようとした。しかしその声に別の、この場にいる誰のものでもない声が被さった。
声がしたのと同時に空から黒い羽根が降り注いでくる。
「羽根……?」
空からの幻想的な光景の中、気がつくとレノンの側に黒いドレスを着た女性がいた。その女性は倒れたレノンの側に座っており、彼の頭を自分の膝に載せている。いわゆる膝枕の体勢だ。
「……申し訳ありません。私の管理が甘かったせいで同盟国であるあなた方にご迷惑をおかけしてしまいました」
女性は消えてしまいそうなか細い声でそう言った。エウレナはそんな彼女に見覚えがあるようだ。
「エルン……そういえば今回、君の姿は見なかったな。いつもレノン殿のそばにいる貴方が、どうして?」
「此度のレノン様の行動は彼の独断によるもの。私どもは何も把握しておらず、また、我らの王の意志でもないのです」
エルンと呼ばれた女性の話にエウレナは合点がいったようだ。そしてコウトと七篠に向き直り、エルンを紹介した。
「彼女はエルンと言ってレノン殿の側近だ。儚げで美しい彼女だが、第2魔法の使い手だ。実力は侮れない」
「第2魔法?」
「そういえば魔法のことはちゃんと説明してなかったな。……まぁ、おいおい伝えるよ」
この世界の魔法についてなら鏡から教わったはずだが、まだ自分の知らないことがあるのだろうか。コウトは七篠を見るが、彼女も首を傾げてみせる。
「本当に、申し訳ございません……。後日正式な謝罪があると思います。しかし今はそのことよりも1つ……気になることが」
「気になること?」
エウレナが聞き返す。まだ知らない異世界の要素を飲み込みきれていない様子だったコウトと七篠もエルンの言葉を待っている。
「はい。西の街道につながる門の先、何やら怪しい動きを始めた男がいます」
エルンがそう言った時、街の方から咆哮がした。
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