上 下
41 / 47
来る征戦の騎士、明かされる聖剣の未知

41話 作戦と勝利と……

しおりを挟む

「おぉぉぉぉッッ!!」

 レノンが怒号を上げて走り出す。それを見てコウトも動いた。
 進む先には最初に戦ったときに渡された剣が落ちている。それを素早く拾い上げた。

 制御を外れ、なおも存在し続ける怪人たち。彼らは皆一様に立ち止まり動かない。進路上で佇むそれらを切り裂きながら征戦騎士はコウトへと迫っていく。

「頼んだ、クレイリング!!」

 隆起した地面がコウトを高く持ち上げる。もう一度高所からの一撃を叩き込むべくレノンの頭部めがけて狙いを定める。

「ハァァッ!!」
「舐めるな!」

 陽の光を背に繰り出したコウトの攻撃は完全に防がれてしまった。
 攻撃を受け止めたレノンはそのままコウトの襟を掴み引き倒す。

「がぁッ!!」

 胸を強く打ち、肺から空気が漏れる。

 打ち付けられたコウトの周りに金色のマナが漂い始める。見ると、レノンの持つ聖剣に集まっておりそれは美しい姿勢で振りかぶられたまま、今にも振り下ろされようとしていた。

「……終わりだ。異世界人」
「やめてくれ、レノン!! 彼が何をしたと言うんだ!!」

 騎士を退けたエウレナはコウトの下へ走るが間に合わない。悔しそうに出された必死の叫びもレノンには聞こえない。彼はすでにコウトを討ち果たすことのみしか考えることができなくなってしまっていた。

 彼は足元の青年に無慈悲に剣を突き立てる覚悟を決めた。

「聖剣よ……ッ!?」

 言葉とともに剣が振るわれる、その間際。地に伏せるコウトに1つ、小さな影が落ちた。

 レノンの眼前に1匹の毛に覆われた生き物が現れる。背中に輪と翼の模様があるその生き物は、たぬきだ。

「ダンザブロー……!!」

 七篠が疑問と驚きが潜む声を上げた。コウトもいたずらが成功したかのように満足気な笑みを浮かべ、精一杯叫ぶ。

「いっけーー!! ダンザブローッ!!!」

 ダンザブローは聖剣が振り抜かれるよりも早く、そしてレノンが始めて見たその生き物の存在を理解し終えるより早く、金色の光線を放つ。

 大地を削り、巨大な衝撃を引き起こす光。それはレノンの意識を刈り取った。

――馬鹿な、私が負けるだと!? いや、それよりもこの光……!! 聖剣が放つものと……、同……じ……。 



――――――



 照射が終わり、ダンザブローがレーザーを撃たない普通のたぬきに戻った頃、コウトは強く打った場所を庇いながら起き上がった。

「クレイリングで作った岩柱の上にダンザブローも一緒に乗ってたんだ。時間差で降りてきてサーク王国跡地で見せたレーザーを撃ってくれと言ったんだけど……」

 ちゃんと意思疎通できていたみたいでよかったと独り言を言って笑った。

「コウト! コウトぉっ」

 エウレナがコウトに飛びつく。

「よくやったな! 怪我はないか? 痛いところは?」

 抱きつく時に一旦背中に置いた手のひらで体をペタペタと触れてくる。やがて肩に手を置き、コウトをまっすぐと見つめてきた。

 濡れていて以前より少し頼りないその瞳に、思わず彼女を抱き寄せてしまう。

「大丈夫ですよ。僕はここにいます」
「……あぁ」

 コウトが心配をかけてしまったことへの謝罪と感謝の意味を込めて言うと、エウレナは涙声の短い返事を返す。コウトはこの様子だと1度死んだことは伝えられそうもないなと苦笑した。

 七篠もコウトの近くで一仕事終えたダンザブローのじゃれつきに応じていた。夕日に照らされる金毛をワシャワシャと撫でながら抱き合っている2人を見る。

 彼女は素で感情を表に出して表現するタイプではない。だが、このときばかりは少しだけ、ジェラシーが彼女の表情にも出てきていた。

 そんな彼女はやはり、コウトがレノンを倒したことに心底安堵しつつもエウレナのように振る舞うというわけにはいかず、宿屋に戻ったあとで彼と思う存分過ごそうと決めた。もちろん、覚えた嫉妬心の分だけ上乗せして。

「ダンザブローもありがとうな。ナイス連携だった」

 七篠の下へやってきたコウトがダンザブローを撫でる。両脇から2人に撫でられるダンザブローはすこし窮屈そうにしている。

 そうだ、とコウトが視線を向けた先には地面に伸びているレノンの姿がある。彼は白目をむいて動かない。聖剣を持つものが死なないのだとしたら彼はいま死んだのではなく気絶しているのだろう。

「エウレナさん、このあとどうします? 彼のこととか――」
「申し訳ありませんが、彼の身柄はこちらが確保させていただきます」

 コウトはレノンの処遇について尋ねようとした。しかしその声に別の、この場にいる誰のものでもない声が被さった。

 声がしたのと同時に空から黒い羽根が降り注いでくる。

「羽根……?」

 空からの幻想的な光景の中、気がつくとレノンの側に黒いドレスを着た女性がいた。その女性は倒れたレノンの側に座っており、彼の頭を自分の膝に載せている。いわゆる膝枕の体勢だ。

「……申し訳ありません。私の管理が甘かったせいで同盟国であるあなた方にご迷惑をおかけしてしまいました」

 女性は消えてしまいそうなか細い声でそう言った。エウレナはそんな彼女に見覚えがあるようだ。

「エルン……そういえば今回、君の姿は見なかったな。いつもレノン殿のそばにいる貴方が、どうして?」
「此度のレノン様の行動は彼の独断によるもの。私どもは何も把握しておらず、また、我らの王の意志でもないのです」

 エルンと呼ばれた女性の話にエウレナは合点がいったようだ。そしてコウトと七篠に向き直り、エルンを紹介した。

「彼女はエルンと言ってレノン殿の側近だ。儚げで美しい彼女だが、第2魔法の使い手だ。実力は侮れない」
「第2魔法?」
「そういえば魔法のことはちゃんと説明してなかったな。……まぁ、おいおい伝えるよ」

 この世界の魔法についてなら鏡から教わったはずだが、まだ自分の知らないことがあるのだろうか。コウトは七篠を見るが、彼女も首を傾げてみせる。

「本当に、申し訳ございません……。後日正式な謝罪があると思います。しかし今はそのことよりも1つ……気になることが」
「気になること?」

 エウレナが聞き返す。まだ知らない異世界の要素を飲み込みきれていない様子だったコウトと七篠もエルンの言葉を待っている。

「はい。西の街道につながる門の先、何やら怪しい動きを始めた男がいます」

 エルンがそう言った時、街の方から咆哮がした。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

処理中です...