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動いた運命、王都までの道程
24話 沈む月
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明かりのない部屋の中。柳葉が寝かされているテーブルとは別の卓。コウトと七篠が向かい合って椅子に座り鏡を待っている。ブレイグ達は空いている客室に移動していった。二人のうちどちらかが動かないかぎり音がしない、静かな夜。
「よく眠れた?」
「……そんなに眠れなかったです」
うつらうつらしていたコウトに声がかけられる。ぼんやりとしていた頭を急いで起こして回答するが、声は意図せず気だるげになってしまう。
「そっか」という返事のあと会話が途切れる。コウトは、自分が寝てしまわないようにと会話を続けた。
「街にはいつ頃着いたんですか?」
「んー、夜だったけど……時間はちょっとわからないな。でも、君は部屋で寝てたみたいでノックしても起きなかったよ」
「夕飯を食べたあと寝ちゃいました。ごめんなさい、気づけなくて」
「そんな、いいよ別に」
七篠が笑いながら答えた。彼女はこの宿に着いてからコウトの部屋を聞き、夕食をほどほどにとったあと彼の部屋を訪れていたのだ。コウトは寝ていてそれに気づくことができなかった。
少し間をおいて木張りの床と椅子がこすれる音がした。コウトの正面から動かされた椅子が右隣に置かれる。七篠が座るとフワリと花の匂いが漂ってきた。周りが暗いからだろうか、その匂いはいつもより長くコウトの意識に残る。
「私も晩ごはんご馳走になっちゃった。美味しかったね。それに夜だからかな、すごい人が多かったよ」
七篠は話しながらコウトの肩に頭を預けた。それに反応したピクンというわずかな揺れが彼女の頬を緩ませる。
「こうしてると、なんだか眠くなってきちゃうね」
「……そうですね」
遅れてきたコウトの返答。今度のそれは微睡みからか、それとも緊張からか。
「帰っちゃうの?」
「……まだわからないです。七篠さんは?」
「私は、どっちでもいいかなー」
「どちらでもいい」七篠の口から出たその言葉は本心だ。コウトがいるのならどっちでもいい。でも他にも一つ、コウトの決断が自分の回答に引っ張られてほしくないという思いもあった。
少し考えた後でコウトがゆっくりと話す。
「元の世界に戻ったとして、僕らの体はどうなるのか、使うことのできてしまう魔法は? ちゃんと元の生活に戻れるのかとか、わからないことが多くて……。それこそ、その時にならないと決断できないと思います」
ゆっくりと吐き出された言葉はまだ自分の中でまとめられていない考えを無理に話しているようだ。
ふと顔をあげるとこの街全体に共通して見ることのできるやや小さめの窓から、コールンの城壁に沈む月が見えた。
ガンッという音を立てまたもや乱暴に扉が開けられる。
「マナオオカミを二頭連れてきた! 日が昇る前に出発するぞ!」
鏡の後ろにマナオオカミが二頭座っていて、片方には微かにだが火傷の傷跡が見える。
「騎士団の寮舎横の房からかっぱらってきたんだ。ついでに谷嶋のことも人が死んでいるとだけ話しておいた。マナオオカミの盗難に気づいた騎士団が門の警備を完成させる前にこの街を出るぞ! 柳葉君をマナオオカミに載せるのは君がやってくれ」
「俺は動き回ってヘトヘトだからな!」と頼まれたコウトは柳葉をマナオオカミに載せる。意識のない人間は重く、運ぶのは体力を使う。
苦労して柳葉を載せ、鏡と柳葉、コウトと七篠という組み合わせでマナオオカミに跨った時、見送りのために宿屋からブレイグが出てきた。ユーリは未だ空き部屋で寝ていて、ミーラもその付き添いをしているため彼一人だ。
「皆さんは、己がするべきことをしに行くのでしょう。でしたら、どうか我々のことは気になさらないよう。ユーリも気が動転しているだけで、本心では感謝しているはずです」
「今回のことで、僕たちのせいでユーリさんの心には深い傷ができてしまったかもしれません」
コウトは彼をまっすぐ見つめる。
「貴方こそ僕たちのことは気にせずするべきことをしてください。もうじき騎士団が来るそうですから谷嶋のことも心配はいりません」
その言葉でブレイグは宿の中へと引き返していく。ユーリのいる部屋に向かったのだろう。
「目的地はサーク王国跡地だ」
鏡がこれからの行動について説明した。日の出前までにこの街を出て、マナオオカミで来た道を戻るようにして目的の場所を目指す。その後城に入り鏡の記憶を頼りに夢で見た部屋を探す。
「向こうにはまだ連合軍が残っているかもしれない。王国跡地に着いたら慎重になろう。では行こ――」
威勢よく吠えた鏡の声を彼自身の腹の音がかき消した。
「……おなかすいてるの?」
「いや、七篠さん。俺は大丈夫ですから行きましょう。日の出まで時間がない」
「そういえば俺もお腹すいたし、ブレイグさんになにかもらう?」
「いや、せっかく部屋に戻したのにそれは悪いだろう。そんなことより早く行こう」
鏡は頑なだ。まだ空は暗く日の出までは時間がありそうだというのに。
「……あれは」
コウトが視線を前に向けると、少し離れたところにちょうど露天の準備をしようとしている少年が見えた。その少年には耳と尻尾があった。
「よく眠れた?」
「……そんなに眠れなかったです」
うつらうつらしていたコウトに声がかけられる。ぼんやりとしていた頭を急いで起こして回答するが、声は意図せず気だるげになってしまう。
「そっか」という返事のあと会話が途切れる。コウトは、自分が寝てしまわないようにと会話を続けた。
「街にはいつ頃着いたんですか?」
「んー、夜だったけど……時間はちょっとわからないな。でも、君は部屋で寝てたみたいでノックしても起きなかったよ」
「夕飯を食べたあと寝ちゃいました。ごめんなさい、気づけなくて」
「そんな、いいよ別に」
七篠が笑いながら答えた。彼女はこの宿に着いてからコウトの部屋を聞き、夕食をほどほどにとったあと彼の部屋を訪れていたのだ。コウトは寝ていてそれに気づくことができなかった。
少し間をおいて木張りの床と椅子がこすれる音がした。コウトの正面から動かされた椅子が右隣に置かれる。七篠が座るとフワリと花の匂いが漂ってきた。周りが暗いからだろうか、その匂いはいつもより長くコウトの意識に残る。
「私も晩ごはんご馳走になっちゃった。美味しかったね。それに夜だからかな、すごい人が多かったよ」
七篠は話しながらコウトの肩に頭を預けた。それに反応したピクンというわずかな揺れが彼女の頬を緩ませる。
「こうしてると、なんだか眠くなってきちゃうね」
「……そうですね」
遅れてきたコウトの返答。今度のそれは微睡みからか、それとも緊張からか。
「帰っちゃうの?」
「……まだわからないです。七篠さんは?」
「私は、どっちでもいいかなー」
「どちらでもいい」七篠の口から出たその言葉は本心だ。コウトがいるのならどっちでもいい。でも他にも一つ、コウトの決断が自分の回答に引っ張られてほしくないという思いもあった。
少し考えた後でコウトがゆっくりと話す。
「元の世界に戻ったとして、僕らの体はどうなるのか、使うことのできてしまう魔法は? ちゃんと元の生活に戻れるのかとか、わからないことが多くて……。それこそ、その時にならないと決断できないと思います」
ゆっくりと吐き出された言葉はまだ自分の中でまとめられていない考えを無理に話しているようだ。
ふと顔をあげるとこの街全体に共通して見ることのできるやや小さめの窓から、コールンの城壁に沈む月が見えた。
ガンッという音を立てまたもや乱暴に扉が開けられる。
「マナオオカミを二頭連れてきた! 日が昇る前に出発するぞ!」
鏡の後ろにマナオオカミが二頭座っていて、片方には微かにだが火傷の傷跡が見える。
「騎士団の寮舎横の房からかっぱらってきたんだ。ついでに谷嶋のことも人が死んでいるとだけ話しておいた。マナオオカミの盗難に気づいた騎士団が門の警備を完成させる前にこの街を出るぞ! 柳葉君をマナオオカミに載せるのは君がやってくれ」
「俺は動き回ってヘトヘトだからな!」と頼まれたコウトは柳葉をマナオオカミに載せる。意識のない人間は重く、運ぶのは体力を使う。
苦労して柳葉を載せ、鏡と柳葉、コウトと七篠という組み合わせでマナオオカミに跨った時、見送りのために宿屋からブレイグが出てきた。ユーリは未だ空き部屋で寝ていて、ミーラもその付き添いをしているため彼一人だ。
「皆さんは、己がするべきことをしに行くのでしょう。でしたら、どうか我々のことは気になさらないよう。ユーリも気が動転しているだけで、本心では感謝しているはずです」
「今回のことで、僕たちのせいでユーリさんの心には深い傷ができてしまったかもしれません」
コウトは彼をまっすぐ見つめる。
「貴方こそ僕たちのことは気にせずするべきことをしてください。もうじき騎士団が来るそうですから谷嶋のことも心配はいりません」
その言葉でブレイグは宿の中へと引き返していく。ユーリのいる部屋に向かったのだろう。
「目的地はサーク王国跡地だ」
鏡がこれからの行動について説明した。日の出前までにこの街を出て、マナオオカミで来た道を戻るようにして目的の場所を目指す。その後城に入り鏡の記憶を頼りに夢で見た部屋を探す。
「向こうにはまだ連合軍が残っているかもしれない。王国跡地に着いたら慎重になろう。では行こ――」
威勢よく吠えた鏡の声を彼自身の腹の音がかき消した。
「……おなかすいてるの?」
「いや、七篠さん。俺は大丈夫ですから行きましょう。日の出まで時間がない」
「そういえば俺もお腹すいたし、ブレイグさんになにかもらう?」
「いや、せっかく部屋に戻したのにそれは悪いだろう。そんなことより早く行こう」
鏡は頑なだ。まだ空は暗く日の出までは時間がありそうだというのに。
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