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動いた運命、王都までの道程

19話 休息

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「ね。そうでしょう?」
「おぉ、これはこれはコウト殿にカガミ殿。お待ちしておりました」

 ユーリに手を惹かれて2階から降りてきたブレイグは2人にハグをかます。驚くコウトと苦笑いを浮かべている鏡。見かねた様子のミーラが「あなた、そのくらいにして」と細い声で呆れ混じりに言う。

「ささ、2階へ。私達の宿屋は1階が酒場、2階から上が宿泊用の部屋となっているんです」
「おいブレイグ、その2人があんたらを助けてくれたっていう騎士様か?」
「…………」

 ブレイグは酔ってしまっている様子の男たちの声を無視して2階に上がる。コウト達が来ているのに、酔っ払いを相手している暇はないといった感じだ。

「騎士様ってなんです?」
「この人ったら、あなた方のことをどこかの国の、それも相当くらいが高い騎士様だと言って聞かなくて。お店に来たお客さん達に話して回っていたんです」

 部屋へ案内される途中、コウトが聞いた問いにミーラが答える。

「ところであの、お連れだったもう1人のお方の具合はもうよろしいのですか?」

 ついでというわけでもないだろうが、ミーラがおずおずと尋ねた。もう1人のお方とは柳葉のことだろう。

「彼は騎士団の施設に預けてきました。2日もすれば良くなるそうです」

 彼女は鏡の答えに安堵したようだ。柳葉と同じマナオオカミに乗っていたから気になっていたのだろう。

「お二方、今日はお食事をご用意させていただこうと考えているのですが、苦手なものなどは?」
「苦手なもの……僕はオクラが――」

 コウトはそこまで言って言葉を詰まらせる。食材が元の世界と同じだたは限らない。すかさず鏡がフォローを入れた。

「すいません、この国の食べ物にはあまり詳しくなくて……出されたものは食べますのでお気になさらず」
「了解しました。時間は――」



 一通り話しも終わり、部屋の前まで案内された頃。それまで興味津々といった様子でコウトらの会話を聞いていたユーリが質問を投げかけてきた。

「あの! コウトさんやカガミさんはどこの国から来られたのですか?」
「!!」
「えっと……」

 コウトと鏡は答えに困ってしまう。2人はこの世界のことについて全くといっていいほど知らない。どこにどんな国があるのかすらも。だからといって異世界から召喚されてきました。などと答えるのは少し迂闊うかつだろう。

「私達の国の料理についてあまり詳しくないと仰っていたでしょう? 服装も珍しいし、貴族の男性が着ているものに似ているけどウォークじゃ見たことがないから」

 彼女の疑問は純粋な興味からのものだが、どう答えてよいものかわからず、2人は黙り込んでしまう。重く気まずい空気が漂い始める中、助け舟が出される。

「ユーリ、困っているだろう」
「お2人は疲れているのよ、早く休んでいただきましょう? ね?」

 少女は両親の言葉に慌てて「ごめんなさい」と謝罪する。謝られてしまったことで鏡はさらに気まずそうな顔をし、コウトは慌てて言葉を紡ぐ。

「そんな、あやまらないで。それに僕達がどこから来たかは言えないけど、エウレナさんや騎士の人達と知り合いなんだ。だからその、安心してほしい。悪いことをしたりはしない」

 この言葉はユーリの疑問への答えだけではなく、素性を明かせないコウトからブレイグ達への説明という意味を持っていた。

「すごい! エウレナ様とお知り合いなんて。やっぱりどこかの国の王様なのね!!」

 目を輝かせていうユーリ。誤解は更に深まった気がするが、コウトにはブレイグ達の笑顔もより柔らかくなったように思えた。



 ブレイグ達が戻った後、部屋に入ろうとしていたコウトを鏡が呼び止めた。

「七篠さん達の分の部屋を確保し忘れた」
「あー、そういえば」
「俺はそこまで疲れているのか……。部屋を空けておいてもらえるか聞いてくる」
「いいよ。僕が行く」

 なにやらショックを受けている鏡を休ませることにしてブレイグ達を探す。
 ブレイグは1階で男たちと話していた。

 後にくるであろう七篠達のことを説明し部屋を空けておいてもらう。その足でコールンまで来た七篠たちに居場所を教えるため門まで行き、騎士たちに伝言を頼む。

 トイルは騎士達にとってはなかなか有名なようで、彼と一緒に来るはずだと言うとすんなりと理解してもらえた。もっとも、騎士達の反応を見ると悪名のほうが知れ渡っているらしい。

「問題児とかだったのかな……」


 コウトは宿屋へと帰る途中、ユーリにどこの国から来たのか聞かれたときのことを思い出していた。

「にしても焦ったなー。次に聞かれたときのためになにか考えておかないとな……ん?」

 ふと通りにある露店で、銀色の髪をした、獣の耳を持ち、髪と同じく銀が綺麗な尻尾を揺らしている少年が果物を売っているのが見えた。

「売っているものは地球にあるようなものだな。ってそうじゃなくて、耳と尻尾がある人もいるのか。これが異世界……」

 コウトがカルチャーショックを受けていると少年と目が合った。が、すぐに目をそらされてしまう。

――独り言が気持ち悪かったのか……恥ずかしい。ていうかいつもより独り言が多くなってる気がするな。俺も疲れてるのか。

 少年に申し訳なくなりながら露店を通り過ぎる。今日は早く休もうと心に誓い帰路を進んだ。



――――――



 夕方。日も暮れて出されていた露店が店じまいの支度を終えた頃。

「全然売れなかったなぁ……」

 他の店よりも少し遅れて店じまいを終えた少年が、売れ残った果物を見ながら独り言ちている。

「ウォークは他の国よりも偏見とかは少ないけど、僕の店で買ってくれる人はいないな。それにあの変わった服のお兄さん、あの人はこの国の人じゃないよね……。僕の店をじっと見てたし」

 少年は果物がいっぱいに入ったカゴを軽々と背負う。カゴには売れ残ってしまった果物が入れられていて、普通の子供はまず持てない重さになっているはずだ。それでも彼は少し額に汗を浮かべるだけで、無理をしている様子もない。

「……これもやっぱり“獣人”だからなのかなぁ。姉ちゃんになんて言おう。朝早くからお店出してるのに。はぁ……」



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