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動いた運命、王都までの道程

11話 鏡と異世界

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 俺、鏡勇斗かがみゆうとは通っている高校の創立記念日の午前中を彼女の家で過ごした帰り道、異世界へと喚び出された。現在は不馴れな魔法の行使で倒れた柳葉瑠やなぎばりゅう君の為にコールンへと急いでいる、その最中だ。

 山を1つ超えた俺たちは夜も遅いからと野宿をすることになった。案内をしてくれるというトイルが仕切り、寝る場所はそれぞれが山を超える時に乗っていたマナオオカミのそばに寝ること、見張りは2時間毎に2人(この2人もマナオオカミに乗っていたペアだ)を交代していくことなどを決めた。

 そして今、気を失ったままの柳葉君と、コウト君と共に彼の様子を見に行った、同じ転移者である七篠ななしのさんを除いた3人で火を囲みながらトイルの質問に答えていた。
 ちなみにこの火は俺の魔法で薪を燃やしたものだ。

「なるほど……。では、この世界に喚び出されたあなた方にこれといった共通点はなく、それぞれの面識もないのですね」
「6人のうち、あたしたち4人が学生だということを除けばだけど」
「ちなみにこちらの世界へ来たときの状況をお聞きしても? 例えば、地球……でしたか? そこからこの世界、ドレッドへ来る直前のことについてです」

 ドレッド。この世界を彼らはそう呼んでいるらしい。俺らはトイルに地球のことを話す際に、知っていたほうが話しやすいだろうと、この世界の名称を教えてもらった。

「おいもういいだろ? 俺はここに来る前の何日かロクに寝れてなかったんだよ。もう寝かせてくれ」

 谷嶋は不機嫌さを隠そうともせずに言う。仮にも年長者だというのに本当にコイツは自分勝手なヤツだ。

「そうですね。確かに皆さんから話を聞くことに夢中になっていました。皆さんはそれぞれの寝床に戻ってもらって構いません」
「なぁ、酒とかあるか? 寝る前にな」
「ありますよ。自分で飲むために持ってきていたんです、よかったら一瓶持っていってください」

 谷嶋とトイルが話しているとコウト君と七篠さんが戻ってきた。

「柳葉君の様子はどうだった?」
「まだ目を覚まさない。心配だけど明日にはコールンの医師に診てもらえるだろうから……、それまでの辛抱だね」

 コウト君が答える。
 俺と彼は特別仲がいいというわけではないけど、あまりに心配そうな表情をするものだから、見ていられなくなって話を振った。

「俺たちはトイルさんからドレッドという名前を教えてもらった後、少し彼と話していたんだが、もう遅いからと解散したところなんだ。俺の時計も十二時をまわっているし」
「そうなの? じゃあ私も寝ようかな」
「七篠さんも寝るんですか? じゃああたしも寝よっと!」
「もうそんな時間なんだ。寝不足でまた偏頭痛起こしても嫌だし、僕も寝るかな」

 俺の意図を読んだのか、七篠さんも話に乗ってくれる。森立はわざとなのか偶然なのかわからないが、おかげでコウト君の気も紛れたようだった。ちなみに森立は転移してきたメンバーで唯一の同性だからだろうか、七篠さんに懐いているようだ。

 話していると谷嶋が酒瓶を片手に戻ってきた。

「おう、七篠さんも飲まないか」
「私はもう寝るので遠慮しますね」

 谷嶋の誘いをきっぱりと断ってから、じゃあおやすみ。と谷嶋には目もくれずに自分たちのマナオオカミのもとへ戻っていった。

「じゃあ僕たちも休もうか。見張りは2時間後だったよね」

 俺らも寝ているマナオオカミのところに戻るが、どうも目が冴えてしまっている。本来ならば極上の寝心地であるはずの、うつ伏せで寝ているモフモフクッションは気持ちの良い眠りを届けてはくれない。

 結局、眠りにつくことがないまま交代の時間が来てしまった。交代を知らせに来たトイルと共に眠っていたコウト君を起こしてから、焚き火のもとへ行く。
 途中ですれ違った谷嶋から臭っていた強い酒の匂いでコウト君の意識も完全に覚醒したようで、顔をしかめてむせていた。

 焚き火の側に腰を下ろした俺たち2人は地球にいた頃の思い出や友人達の事について話していたが、やがて話も尽きてしまう。コウト君が話を終わらせまいとしてくれる。

「……眠れた?」
「眠れなかった。体を預けている物の品質は最高なはずなんだが……。目が冴えてしまうんだ。寝ようとしても頭がこの世界とこれからのことについて考えてしまう。不安なんだ」

 彼は僕の答えに「そっかぁ」と目を細めながら言う。
 僕もなにか話題を振ろうと考えて、ふとサーク王国の城に召喚されたとき、彼が苦しそうに呻いていたことを思い出した。何があったのか聞いていなかったため、質問をする。

「あー、アレね。僕さ、偏頭痛持ちなんだ」
「偏頭痛?」
「学校で偏頭痛が来たから早退したんだけど、帰り道でこの世界に召喚されちゃって。召喚の時の強い光で頭痛が悪化しちゃったみたいで……」
「偏頭痛か。辛いだろうな」

 彼女が偏頭痛持ちで、辛そうにしている様子を見たことがあるからか、俺もその苦しみを少しだけ理解できる気がした。

「大丈夫?」

 コウト君が声をかけてくる。彼女のことを考えていたからだろうか、どうやら自分でも気づかないうちに表情が相当暗くなっていた。

 何でもないと伝えるが、彼は納得していない様子だ。

「……この世界って魔法が使えるよね」

 俺が返事をしたあとも何かを考えていた彼は、少ししてからそんなことを言った。

「使えるな。それがどうかしたのか?」
「技名とか考えてみない?」
「技名。」
「当て字とか英語とかで。気が紛れるかもよ。まずは竜が出てきたときに僕が使った風の魔法に名前をつけよう」

 少し強引に名付けが開始される。

「ウィンドホバーとかどう?」

「どうと言われても困るが、そうだな……似たような性質を持つ物の名前を使うといった方法もあるな」
「例えば?」
「例えば……っていや、なんだか恥ずかしいぞ。子供っぽいというか」

 考えようとするが、技名を考案したりそれを叫んだりすることへの羞恥心がとたんに襲って来る。
 そもそも気を紛らわせてくれようとしているのだろうが、何なのだこの提案は。もしや彼は中二病というものを患っているのだろうか。

「いいからいいから。周りに人はいないし、考えるだけだから」

 そこまで言うのならと考え始めてみたものの、2人であーでもないこーでもないと言っているうちに交代の時間になり、結局1つとして技名が決まることはなかった。
 というかコウト君は後半の一時間あたりから船を漕ぎだし、最後の30分は寝てしまっていた。この世界に来てから2日間寝ていたというのに、よく眠気がくるものだ。

「お疲れ様」
「まだ眠いー」

 眠ってしまっていたコウト君をなんとか立たせ、女子2人組と交代する。まだ寝たいとぼやいているのは森立だ。
 戻ると、うつ伏せだったマナオオカミの寝姿勢は一転、お腹を上に向けたいわゆる「へそ天」というものに変わっていた。……愛くるしさは半端じゃないが少しリラックスし過ぎではないだろうか。

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