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1.卒業アルバム
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部屋の整理をしていて見つけた高校の卒業アルバム。
思わず開いてみると、明るい昼の日差しに照らされた緑の木々、青く澄んだ空、そして古めかしくも重厚な校舎が目に飛び込んできた。
ページをめくると懐かしい顔が幾人か見つかる。
「あ。カジ先生だ。元気かなぁ?」
卒業して五年? 六年?
高等部と大学は最寄りの駅が違ったから、卒業以来会っていない。
「黄菜子ちゃん! 元気かなぁ?」
懐かしい顔を見て出てくるのは、こんな言葉ばかり。
だけど面倒くさがりで、人にあまり興味のなかった私は、卒業後も連絡を取り合うような友人は数名しかいなかった。大体、それ以前に、中高六年間、下手すると大学まで入れて十年間一緒に通った子もいるのに、名前と顔が一致するのは両手の指の数に満たなかった。
中高一緒だった子のほとんどは大学も同じだったけど、大学生になると決まったクラスもなければ、人数も数倍に増えるから、過去覚えられなかった子は、やっぱり覚えられないままで……。
そんな、あの頃の自分を思い出して苦笑する。
「何見てんの?」
「ん? 卒業アルバム」
上から降ってきた言葉に、顔を上げて答えた。
彼は箱詰めしたダンボール箱を車に運んでくれていた。
力仕事任せっきりで勝手に休憩しちゃっててごめんねと言うと、本とかアルバムの整理は時間かかるよな、つい見ちゃうから、と笑って許してくれる。
それから、彼は私の卒業アルバムを見て目を輝かせた。
「おお、あこがれのK女学院の天使たち!」
彼の口調が半ば冗談だったから、私は笑いながら「はい、どうぞ」とアルバムを手渡す。
「え? いいの?」
「いいわよ。隠す事なんて、何もないもの」
彼は嬉しそうに、アルバムをめくる。
「さくらは、3年何組?」
「え? 忘れちゃったよぉ」
「マジ?」
「じゃあ、修一くんは覚えてるの?」
「いや」
「ほら~」
二人で顔を見合わせて笑い合う。
「お、いたいた」
彼はめざとく私の存在を見つけたらしい。
へえ、私、3年4組だったんだ。と、まるで他人事のように思う。
「なあ、さくら、なんでこんな仏頂面なの?」
「え? そんな変な顔してる?」
「変顔じゃないけど、まあ、なんてゆーか、やけにブスーっとしてるっつーか」
「……写真、苦手だったのよ」
写真も好きじゃなかったけど、そもそも、あの頃は、人間そのものにあまり興味が持てなかった。と言う事は、つまり、学校そのものにも愛着がないって事。
中学も高校も大学も、卒業式ではもちろんケロリとして、涙なんてカケラも流さなかった。大学以外は校舎が移るってだけで、基本メンバーは変わらないってのに、泣いてる子がほとんどで、逆に冷めた気持ちになったのを思い出す。
「なあ、お嬢様学校ってどんなとこ?」
「え? なに突然」
「昔っから気になってたんだよな」
「いい年したおじさんが、やめてよ」
「って、おじさんかよ」
彼の不満げな声に慌てて謝る。
「ごめんっ!」
彼が結構年上なのは重々承知。むしろ、一回り以上も年下な事を私の方が気にしてるくらいだ。
でも、悪気はないからって、うっかりおじさんなんて言うのはあまりに失礼よね?
でもさ、セーラー服着た自分の写真なんてものを見ていると、気持ちがあの頃に戻っちゃって、そうするとやっぱり、三十代後半ってのは、紛れもなくおじさんなんだ。だけど、それを言うなら、高校生的には私の二十代前半だって、もうおばさん!?
思わず複雑な顔をしていると、彼は私が何を考えてると思ったのか、こんな事を言い出した。
「別にいいよ。でも、お詫びに教えてよ。お嬢様学校がどんなとこか。俺はずっと公立だったし、想像もつかないんだよな」
「そんな、変わらないんじゃない?」
「そうかぁ?」
彼の疑わしそうな目つきには、からかうような色が紛れている。
ああ、そうですよ。どうせ私は世間知らずですよ。
「何が聞きたいの?」
ため息混じりにそう言うと、彼も首を傾げた。具体的に何かあった訳じゃないらしい。
女子高がどうかってより、お嬢様学校がどうかが聞きたいんだよね? 女子高ネタでありがちなのは、お姉さまごっこみたいなのとか、女の子同士の恋愛とかだけど……。そう言うのも実際あったし、面白いかもしれない。でも、お嬢様学校的なエピソードなんだよね?
「お金持ちの子が多いかとか、そういうの?」
「そうそう!」
「うちは、割と普通の家の子が多かったよ」
「まさか」
「……普通の中では、少しだけ裕福な家って感じ?」
「さくらの中で、少しだけ裕福な家って感じたエピソードとか教えてよ」
彼の言葉が私の記憶の扉をそっと開いた。
私は遠い目をして、懐かしいあの頃の思い出を探り出した。
思わず開いてみると、明るい昼の日差しに照らされた緑の木々、青く澄んだ空、そして古めかしくも重厚な校舎が目に飛び込んできた。
ページをめくると懐かしい顔が幾人か見つかる。
「あ。カジ先生だ。元気かなぁ?」
卒業して五年? 六年?
高等部と大学は最寄りの駅が違ったから、卒業以来会っていない。
「黄菜子ちゃん! 元気かなぁ?」
懐かしい顔を見て出てくるのは、こんな言葉ばかり。
だけど面倒くさがりで、人にあまり興味のなかった私は、卒業後も連絡を取り合うような友人は数名しかいなかった。大体、それ以前に、中高六年間、下手すると大学まで入れて十年間一緒に通った子もいるのに、名前と顔が一致するのは両手の指の数に満たなかった。
中高一緒だった子のほとんどは大学も同じだったけど、大学生になると決まったクラスもなければ、人数も数倍に増えるから、過去覚えられなかった子は、やっぱり覚えられないままで……。
そんな、あの頃の自分を思い出して苦笑する。
「何見てんの?」
「ん? 卒業アルバム」
上から降ってきた言葉に、顔を上げて答えた。
彼は箱詰めしたダンボール箱を車に運んでくれていた。
力仕事任せっきりで勝手に休憩しちゃっててごめんねと言うと、本とかアルバムの整理は時間かかるよな、つい見ちゃうから、と笑って許してくれる。
それから、彼は私の卒業アルバムを見て目を輝かせた。
「おお、あこがれのK女学院の天使たち!」
彼の口調が半ば冗談だったから、私は笑いながら「はい、どうぞ」とアルバムを手渡す。
「え? いいの?」
「いいわよ。隠す事なんて、何もないもの」
彼は嬉しそうに、アルバムをめくる。
「さくらは、3年何組?」
「え? 忘れちゃったよぉ」
「マジ?」
「じゃあ、修一くんは覚えてるの?」
「いや」
「ほら~」
二人で顔を見合わせて笑い合う。
「お、いたいた」
彼はめざとく私の存在を見つけたらしい。
へえ、私、3年4組だったんだ。と、まるで他人事のように思う。
「なあ、さくら、なんでこんな仏頂面なの?」
「え? そんな変な顔してる?」
「変顔じゃないけど、まあ、なんてゆーか、やけにブスーっとしてるっつーか」
「……写真、苦手だったのよ」
写真も好きじゃなかったけど、そもそも、あの頃は、人間そのものにあまり興味が持てなかった。と言う事は、つまり、学校そのものにも愛着がないって事。
中学も高校も大学も、卒業式ではもちろんケロリとして、涙なんてカケラも流さなかった。大学以外は校舎が移るってだけで、基本メンバーは変わらないってのに、泣いてる子がほとんどで、逆に冷めた気持ちになったのを思い出す。
「なあ、お嬢様学校ってどんなとこ?」
「え? なに突然」
「昔っから気になってたんだよな」
「いい年したおじさんが、やめてよ」
「って、おじさんかよ」
彼の不満げな声に慌てて謝る。
「ごめんっ!」
彼が結構年上なのは重々承知。むしろ、一回り以上も年下な事を私の方が気にしてるくらいだ。
でも、悪気はないからって、うっかりおじさんなんて言うのはあまりに失礼よね?
でもさ、セーラー服着た自分の写真なんてものを見ていると、気持ちがあの頃に戻っちゃって、そうするとやっぱり、三十代後半ってのは、紛れもなくおじさんなんだ。だけど、それを言うなら、高校生的には私の二十代前半だって、もうおばさん!?
思わず複雑な顔をしていると、彼は私が何を考えてると思ったのか、こんな事を言い出した。
「別にいいよ。でも、お詫びに教えてよ。お嬢様学校がどんなとこか。俺はずっと公立だったし、想像もつかないんだよな」
「そんな、変わらないんじゃない?」
「そうかぁ?」
彼の疑わしそうな目つきには、からかうような色が紛れている。
ああ、そうですよ。どうせ私は世間知らずですよ。
「何が聞きたいの?」
ため息混じりにそう言うと、彼も首を傾げた。具体的に何かあった訳じゃないらしい。
女子高がどうかってより、お嬢様学校がどうかが聞きたいんだよね? 女子高ネタでありがちなのは、お姉さまごっこみたいなのとか、女の子同士の恋愛とかだけど……。そう言うのも実際あったし、面白いかもしれない。でも、お嬢様学校的なエピソードなんだよね?
「お金持ちの子が多いかとか、そういうの?」
「そうそう!」
「うちは、割と普通の家の子が多かったよ」
「まさか」
「……普通の中では、少しだけ裕福な家って感じ?」
「さくらの中で、少しだけ裕福な家って感じたエピソードとか教えてよ」
彼の言葉が私の記憶の扉をそっと開いた。
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