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第二章
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しおりを挟む中に入ると香ばしい豆の香りが私達を迎える。ちらほらと席に座っているのは割と歳を重ねている男性だけだった。店員に案内され、ベル君とヒスイは私とエルの反対側に座る。ルイちゃんは私の膝の上に乗せた。小さなメニュー表を見ると言葉を失う。以前も思ったが、この世界のカフェは喫茶店かと突っ込みたくなるほど品数が少ない。
コーヒーとオレンジなどのフルーツジュースしかなかった。トーストすらないとは。この世界のカフェでは簡単な加熱調理系も出してはいけないという決まりがあるのだろうか。カペラのカフェにはサンドイッチなどの軽食があったからまだ栄えていたが、これでは若い子達は集まらない。人数分、コーヒーを注文すると溜息をついた。
「最初は驚くだろ。私はもう慣れたが。」
『そうか。ヒスイはこちら側だったね。』
「あぁ。AI崩壊後、派手な食べ物は減ったにしても、まだあちらの方が洒落ていた。ここには炭酸もない。」
『…そういえばメニューにないね。こちらに来て一滴も飲んでないし、忘れてたわ。』
テーブルの上に置かれたカップを手に取ると鼻を近づける。香りは悪くない。ふぅふぅと息を吹きかけてから口をつけると香ばしい香りが染み渡る。美味しいのに。
『カフェを併設しちゃおうかな。SNSが無いこの世界でどれだけ流行るか分からないけど。』
私は社交界デビューする直前に家を飛び出したので詳しくない。だが「そろそろお嬢様もお披露目用のドレスを選ばなくては」とメイドによく言われていた。聞けば、私と同じ16歳の令嬢は綺麗なドレスや可愛いアクセサリーに夢中なのだとか。今もサラシと袴に掛け下という毎日同じスタイルの私には理解できない世界だ。23歳+16歳の心が老いている女だから仕方がない。けれど可愛い物は好きだしセンスは悪くないと自負している。
「我らが接客するのか?」
『駄目?ジャンルは違うけど、みんな看板になるくらい整った顔をしてるから、流行りそうだけど。ルイちゃんはどっちでも可愛いし。』
無理強いはしないよ、と言うとエルは喉を鳴らした。
「我らを知る者にとっては驚愕する光景だろうな。」
『封印してる限り大丈夫だよ。貴方に傷をつけた人とか、他にも顔を知っている人が来ても、他人の空似って事でいける。』
続けて『最悪エルは美人だし女装でも…いや、冗談。ごめんて。みんなの記憶を消してやることもできるし、大丈夫』だと言えばエルは呆れた様に眉を顰め、ベル君は吹き出した。しぃーっと人差し指を唇の前で立てて、嗜める。ただでさえ客が少なくてシンとしているのだ。男にしては高めのその声は響く。
「今のはリゼが悪いんじゃん。」
『だから、ごめんて。』
頬を膨らますベル君と平謝りする私をヒスイは口角を上げて見ていた。
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