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第二章

光の魔法1(崖から可愛い我が子を落とすアレですか)

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 遠くから見た時は雪化粧を纏った山だとしか思わなかったが、実際目の前までやってくると、おどろおどろしさを感じ息を呑む。気候によって枯れているというよりは、もっと別の何かによって枯らされている印象を受ける山だ。

 そんな山を登るのではなく、越える為に作られた洞窟を進んで行かなければならないようで、私はその前で一歩、踏み出せずにいる。入り口から既にあちらこちらに人とも動物ともとれる骨が落ちているのだ。

 『な、なぁ。ここを通る奴っているのか?』

 「いや。私は言霊だが皆、移動魔法を使う。魔法が使えず、ここを進む力もない者が目指す街では無いからな。」

 『なるほど、理解した。』

 内心ここは避けるべきだと第六感が訴えていたが、左肩に乗るルイちゃんが行けと促してくるので一歩、踏み出す。松明たいまつを手に、入り口のしめ縄を潜ると生暖かい風が体に纏わりついてきた。これは…本来入るべき領域ではない気がする。

 ここに来るまでは16年鈍っていた体を動かし、昔のカンを取り戻す為に進んで徒歩という選択をして来たのだが。“可愛い子には旅をさせろ”だなんだ言うが、まさにそんな感じでルイちゃんから圧をかけられている。逃げるなよ、と。とりあえず皆に結界を張ろうと念じるとブゥっと鳴かれた。

 「リゼ様。魔法の練習です。」

 『ですよね。』

 「解放してみて下さい。それから、魔法陣を頭の中で浮かべます。」

 『…もしかして、魔法陣って技によって違ったりする?』

 「……長くなりそうですね。」

 あ、呆れられている。肩にいる彼女の表情は見えないが、むくれている気がした。仕方が無いじゃないか。この世界に来て魔力がある事を知らずに過ごしてきたのだし。エルの屋敷にあった書物の中に魔導書があった記憶もあるが、燃えてしまって手元には無い。中身を見ておけば良かったと後悔した。もっとも、魔王様が持っている魔導書が光属性に適している物なのかどうかは怪しいが。

 『お手本を見せてくれないかな。覚えようと思えば記憶力は良いんだ。』

 「それでは、ここからリゼ様の足元に出してみますね。その方が見やすいでしょうから。結界です。」

 ブゥとひと鳴きすると彼女は足元に金色に光る魔法陣を出してくれた。力を解放し、それを見様見真似でベル君の足元に出してみる。成功だった。

 「流石です。」

 ルイちゃんは何故か興奮しながら次々と魔法陣を教えてくれた。その間はエルとベル君が先陣をきってくれている。後はヒスイが守っていた。エルもベル君も攻撃系の魔法についてはアドバイスをくれるので、もしかしたら属性が違えど似ている部分もあるのかもしれない。

 途中、これまた大きめのサソリ達と遭遇する事もあったが構えていた分、案外簡単に武術と魔法で制圧する事ができた。そんな私達は今、二足歩行の牛みたいな魔物と睨めっこしている。そいつの頭には大きな角が2本生えており、背丈は私と同じくらいで鋭い牙と鋭い爪が印象的だ。全身をフサフサな毛が覆っている。

 『ミノタウロス?』

 ベル君達に聞かなくてもなんとなくそうだと思った。意外と可愛らしい顔をしている。そいつは片足で何度か地面を掻く様子を見せると、いきなり鋭い爪を光らせ飛びかかってきた。
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