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第二章
退魔師《エクソシスト》に御用心1(どこにでも善と悪があるものだ。)
しおりを挟むチェックアウトの時間になったので3人でフロントに鍵を返すと宿を出る。今日の空は少し曇っていて、雨が降りそうだ。
『せっかくだしカフェでご飯でも食べる?』
「リゼが出してくれるご飯美味しいし、別に街の外に出ても良いけど。」
「…それがリゼの息抜きになるのなら行こう。」
『そ。私の息抜き。言霊は自分が作った味付けになるからね。慣れているというか、新鮮味が無いというか、あんま美味しく感じないんだよね。』
エルの言葉に甘えカフェに行く事にした。看板を頼りにお店の扉を開けるとコーヒーの香りが広がる。自由に座っても良いと言うので、向かって左側の窓際にある席に腰掛けた。客層は様々で、普通の若い町娘もいれば武装している男もいる。
テーブルに置かれたメニュー表を手に取り、ドリンクの欄を見るとコーヒーの種類が一つしかない。後はジュースとミルクとココアくらいしか無かった。軽食はサンドイッチとスープくらいで、まだ時間が早いからかな、と思っていると、ベル君にこれが普通だと言われて驚く。
出てきたコーヒーの香りは良く、味も悪く無いのだが、前世で昔流行ったパフェ、パンケーキ、ワッフル等が無い事にショックを受けた。聞けばここにはSNSは無いようだし、見た目に力を入れた物が無いのかもしれない。
確かにあちらでもAI崩壊後、高いだけのお洒落な食べ物の人気は一気に廃れて消えたもんな、と考えていると、皿が割れる音が聞こえてきた。
「舐めてんのか?俺様は国家に使える退魔師12番隊隊士様だぞ?!」
「す、すみません。でも…!」
「黙って少しくらい相手してくれって言ってるだけだろうが。」
目をやると、水色の髪を持つ可愛らしい娘がいた。髪は肩で切り揃えられていて、瞳は澄んだ青色をしている。その瞳の視線の先を辿るとゴテゴテに武装している男がいた。僅かだが魔力を感じる。装備されている剣に目をやると、あの日私の元に来た奴らと同じ剣である事に気づく。なるほど。退魔師というのはハッタリでは無いようだ。
『やめなよ。嫌がってるだろ?みっともないな。』
私は立ち上がると彼女の腕を掴み引き寄せる。男は顔を真っ赤にして剣に手をかけた。正気か。コイツここで抜くつもりか?娘を背に隠し、体勢を低くする。こんな所で騒ぎを起こすのは御免だがあちらがやる気なら仕方がない。鋭く男を睨み付けるとフォルスターに手を伸ばした。
「抜くなよ。」
目の前の馬鹿が剣を抜く前に、カウンターに座っていた男性が声をあげる。ドスの効いた低い声だった。そいつはテーブルに立てかけていた剣を手に持ち立ち上がる。その剣も馬鹿と同じ物だった。
「っ隊長?!」
真っ赤にさせていた顔を今度は真っ青にさせて、僅かに震えている。
『隊長?』
全く魔力を感じないのに?疑問を抱きつつ、私は隊長と呼ばれた男性をじっくりと観察する。身長はエルと同じくらいだ。栗色の短い髪とターコイズのような瞳をしている。白いシャツのボタンを3つ外して着ているソイツはエルやベル君とはまた違ったタイプの整った顔立ちをしていた。
「ウチのが怖がらせて申し訳ない。」
彼は私と目が合うと少し驚いた顔をする。しかしそれは一瞬の事で、すぐに背後にいる娘に頭を下げた。
「いぇ…。」
彼女は私にありがとうと呟きペコリと頭を下げると、そそくさと会計を済ませ店から出て行った。
『エル、ベル君…私達も行こうか。』
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