上 下
21 / 51
第二章

2

しおりを挟む

 『うん。ほら、足に力を入れて。』

 グイッと引き寄せ、立ち上がらせるとざっと観察する。目立った外傷もないし大丈夫だろう、と他の3人に目を向けた。

 『大丈夫そうだね。』

 「あ、ありがとう。あなた方は一体…。」

 『人に聞く前に先ずは自分からじゃない?』

 そう言うと、彼は「失礼しました」と頭を下げる。別に気にして無いよ、と言えばホッとしたように眉を下げた。

 『話は後だ。エル、ベル君手伝って。彼等を弔ってやろう。』

 刀を抜き、ススキを根元から刈る。皆、軽装備でスコップなど持ち合わせていないし、私も流石に言霊を使う事は隠しておきたいので墓を掘る事は出来ない。だが、そのまま捨て置くよりはマシだろう。10人くらい寝かすスペースを作ると、4人の男達と手分けして綺麗に並べた。その上に刈って束にしたススキをかけて行く。

 最後に手を合わせると「ありがとう。」と啜り泣く声が聞こえてきた。あたりがオレンジ色に染まり出す。離れた場所でエルとベル君を連れて見守っていると、だいぶマシになった面持ちで彼等が近づいてきた。

 「少し北に行くと小さな街があるんだ。そこで何かお礼をさせてくれないだろうか。」

 『ほぅ…いいだろう。私達も北に用があるんだ。』

 「ギルドの街、か?」

 『そ。…日が暮れれば魔物も強くなるんだろ?厄介だから早く案内してくれないかな。』

 私の言葉に彼等は歩き出す。背を向けたのを確認すると、言霊を使った。

 『行こう。』

 待機していた2人に声をかけると歩き出す。7人を見送るようにススキの上、一面に供えられた花々から、花びらが数枚風に乗って舞っていた。



 道中、中々魔物に遭遇しないなと思っていると、魔除けの札を持っているからだと教えてくれた。悪魔クラスの強い奴には効かないが、この辺の魔物には効くらしい。

 エルとベル君は魔除けがされている事に初めから気付いていたという。なんと。何故言わないんだ。いつもと違って守る奴らが増えているから、全力で気を張っていたというのに。本当に痒い所に手が届か無い魔王様達である。

 「俺らは南にあるアルタイルって国の弱小ギルドに所属してるんだ。」

 『弱小?』

 「あぁ。金もない貧しい出の寄せ集めばかりのギルドで、皆、この通り最低装備しかしてない。」

 言われてみれば身に付けている服がツギハギだらけだ。武器も上等の剣とは言えない。

 「俺らは退魔師エクソシストが独立して立ち上げたギルドと違って魔力を持つ奴はいない。だから魔女を倒して賞金を稼ぐ事もできない。」

 それでもこのままでは食って行けず、のたれ死んでしまう。だから比較的に低ランクな悪魔の退治依頼を引き受けたんだと彼は言った。

 『私は身に付けているものが全てじゃないと思うけどね…君達は何の努力もしていないだろう?自分の手を見てごらん。』

 痩せていて筋肉のきの字もない手だ。剣ダコすらない。

 『君達は、食べ物が持てなくなるくらいその剣を振った事があるかい?』

 そう言うとハッと息を飲む音が聞こえ、彼等の足が止まる。

 『…なんてね。冗談だよ。クランプスの討伐者の座を譲ってあげる。私達はもっと名のある奴を獲物にするからさ。』

 辺りがすっかり暗くなる頃、開かれた門の入り口が見えてきた。

 『ほら、止まって無いで。行こ?勿論奢ってくれるんだろ?』

 ニヤリと口角を上げると、彼等はまた足を進め出す。もう弱々しい目では無い。何かに気がついたように、強い光を宿していた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...