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第一章

似た物同士1(心が悲鳴をあげていた)

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 あの人、距離感を掴むのが下手なんだわきっと。何度目かのため息を吐きながら、私は額を撫でていた。


……遡る事数十分間前。


 「悪くない。」

 お互いの鼻が触れるギリギリでエルはそう言った。それからすぐに離れてくれたのだが、問題はその離れる直前の事である。何を思ったのか、軽く唇を額に落として来たのだ。

 「行くあてが無いのだろう?この部屋を使うが良い。」

 何も無かったかのように言う彼に『あ、うん。ありがと。』とだけしか言えなかった。私の頭をひと撫ですると「出かける」と言い残し、出て行く彼に手を振る。

 挨拶感覚よね。分かります分かります。私も慣れていますよ、みたいな感じであの場はやり過ごしたのだが、彼の姿が消えた瞬間、一気に力が抜けてその場に座り込んでいた。

 そして、今に至る。

 なんなんだ一体。調子が狂う。それに、知り合ったばかりだと言うのに1人にするとは。馬鹿なのか。それとも、信じてくれているのか。

 まさか。いくら優しかったとしても、彼は悪魔に違いないのだ。そんなに甘くは無いだろう。もしかしたら、何かで監視をしているのかもしれない。

 ほら、よくあるやつ。「泳がせておいただけよ。虫けらめ」みたいな。……うむ、例えが悪かった。

 まぁ、あれだ。ただの気まぐれかもしれないし、急に上がり込んだ奴が立派なベッドを使うのは申し訳ない。彼の良い匂いがするし、弱っていなければ絶対に寝ることができず寝不足ちゃんライフが待っているので遠慮させてもらう事にしよう。

 いつまでも座っているわけにはいかないので、この洞窟(屋敷内)の探索でもして時間を潰そうと立ち上がる。

 流石に長襦袢のままでは落ち着かないので、あたりを見渡し袴を探した。刀等は揃っているが服は無い。気の利く彼の事だ。赤く汚れてしまったので処分してくれたのかもしれない。

 折角エルが着付けてくれたのでたまには普通に着るのもいいか、と暗い緑色に桜の刺繍がされている小振袖を想像する。

 動き辛くないように下は紫色の袴にした。ただの紫では無く、下に向かって段々と暗い色になるように想像し、『変われ』と念じると一瞬でイメージ通りの姿になっていた。

 鏡が無いので全体像は分からないけど。袖とか袴を見る感じ、変ではない。刀を帯に差し、短刀を懐に仕舞う。最後に簪で髪を纏めれば完成だ。

 『よし。探検探検!』

 勝手に徘徊してごめんなさい、なんて思ってあげないんだから。恨むなら自由に1人にさせてる私を恨むんだな!ふっふっふ、と悪役っぽく心の中で彼に言う。

 ソファのある部屋に移動すると遠慮なく、気になる物は手に取り見て回った。勿論、丁寧に元の位置に戻している。

 絵画や時計、宝石、武器、上等な着物に分厚い書物等…高価そうな物がごちゃごちゃと彼方此方に飾ってあるのだが、全く汚く見えない。統一感があるからか綺麗な部屋にみえる。

 開くわけないかと思いながら、角の方にあった大きな宝箱に手をかけた瞬間、ハハッと笑ってしまった。

 『…ほんと、不用心だなぁ。』

 開いてしまったのだ。鍵をかけないタイプの人かぁ。やっぱり彼は変わってる。

 中身を拝見させていただくと、私はピシリと固まった。

 『まじか…。』

 ギッシリと金貨が入っていたのだ。魔が差しそうになるくらいキラキラと光っている。無一文になった事だし少しくらい懐に入れとこうかなぁ、なんて。

 言霊があればお金には困らないだろって?まさか。言霊はチートだけどチートじゃない。人を生き返らせる事はできないし、金を作る事も出来ない。分かるだろ?禁忌と言うやつだ。

 暫くジィーッと見つめていると、エルの気配がした。洞窟の入り口まで帰って来たようだ。ふぅ、と一つ深く息を吐くと、宝箱の蓋を閉じる。入って来るであろう、あの大きな扉の近くまで行くと彼を待った。

 『お帰りなさい。』

 扉が開くと同時にそう言うと、彼は少し驚いた顔をし、息を呑む。

 『…エル?』

 私がもう一度声をかけると「あぁ。」と短く返される。大きな手が私の頭を撫でた。心地良くて目を細めて受け入れていると、彼はフッと口角をあげた。

 「よく分かったな。褒美をやろう。」

 先程まで私が見ていた宝箱の前に行き、彼は開ける。…気づかれた?まぁ、でも、取ってないしぃー。出方を待っていると、金貨をひと掴みし、近くにあった布の小袋に入れていた。

 「ほら。受け取れ、褒美だ。…リゼの事だ。くすねて無いのだろう?」

 手を取られ持たされた袋はズシリと重い。これだけあれば何もしていなくても数年は生きていく事ができる。

 『エル…これは貰えないよ。…嬉しいけど、ちょっと重い!減らすね!』

 悪いけれど私は遠慮しちゃうタイプの、かっわいー娘では無いので頂ける物はそれはもう、ありがたーく頂く。けれど、重たくて戦闘時に邪魔になる、なんて事にはなりたく無いので半分くらい減らさせて貰った。

 そんな様子を見て、彼は「幼気イタイケな奴め」と笑った。
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