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戻ってこいって言われても
しおりを挟む俺は自宅に戻っていた。
あのナイトブリッジ家で起きたことは夢だったのか。俺はベッドに横になり考えていた。
「なぁあんさん。なんか食べるものはあらへんの? 久しぶりに甘いもん食べたいわぁ」
とミヤビがプカプカ浮きながら言う。
俺は現実逃避をするようにミヤビを無視した。
「なぁ! なにいけずしてんの? あんたがうちを人間にしたんやないの。ちゃんと構ってくれんとあかんえ」
とミヤビが俺の顔を覗き込む。
俺はそれも無視する。
するとミヤビはプクッーーっと膨れる。
「そんなん無視するとかあかんやん! うち今まで一人やったんやで? それ分かってはる?折角お喋りしてくれる相手が見つかったと思ったらだんまりやなんて……もううち、どうしたらいいか分からへん!!」
と言ってミヤビは嘘泣きをしだした。着物の袖で涙を拭うミヤビ。
「ゴメン。ミヤビさん。俺いまいち事情が飲み込めなくて」
俺はムクリと起き上がる。
「うええええーーーーーんん!!!」
まだ嘘泣きをしているミヤビ。
もうどうしたらいいんだ。
「ミヤビさん。なんで泣いてるんだ」
「無視するからやないかー!!!」
泣くミヤビ。
「ゴメンもう無視しないよ」
俺はニコリと微笑みかける。
「ほな、頭ナデナデしてぇ」
ミヤビが甘えてくる。
「えっ? 頭ナデナデ……それは……」
俺は困惑する。
「うわああああ!!! ああ!!! 頭ナデナデしてくれへんかったら泣き止まへんもん!」
とミヤビが泣いている。いや、嘘泣きをしている。
「分かった。ほら」
俺はミヤビの頭をナデナデする。
ナデナデ……
「んふん……ふふ……」
ミヤビは泣き止んだ。
「先生……何やってるんですか? まさか浮気……?」
エリスが俺に言った。
「いやぁ! あのそういうのじゃなくって」
俺はミヤビの頭から手を離す。実はエリスもなぜか俺の家に来ていた。先生が心配です! 先生が自殺しないよう私がそばで見守ります! と言って家に押しかけてきたんだ。てか、浮気って付き合ってないぞ。俺はエリスと。
「うえええ!!!! えええ!!!!」
ミヤビが再び泣き出す。もうこれどうしたらいいんだ。
「もう! アーサー先生!」
エリスがよつん這いで俺に顔を近づけてきた。いや……顔が近いってエリス!!
「私の前で他の子とイチャイチャするのやめてください!! 欲求不満なら私の頭をナデナデしてください!!」
とエリスが顔を赤らめながら怒る。
えっ……どういうことなんだ。
「ほらっ! 私の頭撫でごたえがありますよ! 新年に私の頭ナデナデすると今年いっぱい無病息災で過ごせるそうですよ!」
とよく分からないことをエリスは言ってくる。
「分かった……」
俺はエリスの頭をナデナデする。
「ぐふっ……ふひっ……先生にナデナデされた……」
とエリスが奇妙な声であえいだ。
俺は右手でエリスの頭を撫でて左手でミヤビの頭を撫でる。なんだかターンテーブルを回すDJのようになっていた。
コンコン!! コンコン!!
俺の家のドアがノックされる。
「ごめん。出るね。はーーい」
俺はベッドから起き上がり玄関のドアまで行く。
「んもーー」
と言ってエリスはむくれた。
「はい! 今開けますからね」
カチャ! と俺は玄関のドアを開けるとそこにはレイモンドが泣きそうな顔をして立っていた。
「レイモンド……先生!」
俺は動揺する。
レイモンドは俺の肩に手を置いて言う。
「アーサー先生! 頼む! アルケイン魔法学校に戻ってきてくれ!」
レイモンドは泣きそうだ。
すると後ろから怖い男の声で
「それで謝ってんのか!! もっとちゃんと謝罪しろ!!」
という声が響く。
「ひいっ!」
レイモンドの顔が恐怖に引きつる。
「ロドリゴ! もっとそいつに恐怖を刻み込んで差し上げなさい!!」
と女性の声が聞こえる。
「フレデリカ?」
間違いない俺の教え子の現役の学生のフレデリカだった。
レイモンドの後ろに巨漢のロドリゴ、そしてレイモンドを睨むフレデリカが居た。
「いきなり押しかけて申し訳ありませんわ。先生。こちらは我がキュスティーヌ家の召使いロドリゴですわ。そしてこの惨めな悪漢が人間のクズのレイモンドですわ」
フレデリカがロドリゴとレイモンドを紹介してくれた。いやなんなんだこの状況は。
「先生! どうか! どうか! 学園に戻ってきてください!」
レイモンドがひざまずいて泣き叫ぶ。
俺がクビになってから二日しか経っていなかった。
「どうしたんですか? この二日になにがあったんですか?」
俺はレイモンドに尋ねる。
「先生のやっていた授業が高度過ぎて! でもそれを分かりやすく生徒に伝えてたみたいで、生徒からのクレームが凄いんですよ!! やれ分かりづらい! やれもっと高度なことを教えろ! って! 先生! 僕あれもう無理ですよ!!」
レイモンドが泣く。
あれがそんなに難しいものだったかな……ただ俺は生徒たちに卒業したあと困ってほしくなくて自分が教えられることの全てを教えただけだが……
「先生! おかしいじゃないですか!! 社会人失格ですよ!! なんでちゃんと引き継ぎしてから学校辞めなかったんですか? 先生のせいですよ! なんで俺が悪いみたいになってるんですか?!!」
とレイモンドは急に俺に逆ギレしだした。
は? なにを言ってるんだ! 引き継ぎもさせずに急に辞めさせたのはこいつの方じゃないか! なぜ自分の都合のいい方に過去を改変してるんだ。こいつ。
「先生……先生が今すぐこの学園から去れって言ったんですよね」
俺はレイモンドのあまりの態度に声が震える。
「だから! ちゃんと抵抗すれば良かったじゃないですか! 俺はこの学園に必要だって! そしたらこの俺の気も変わったかも知れないのに!! 先生が悪いんですよ!! 先生! 生徒たちに謝って下さい!!」
レイモンドが地面に手をついて泣き叫ぶ。
は? 俺はまるでこいつの言ってることが理解出来なかった。俺が悪い? そっち側がニナやアガサ学長と共謀してこっちをハメたのに? それで学園に貢献してきた俺を追放したのに? それで困ったら俺が悪い? は? なんなんだこいつは。どんな育てられ方をしたらこんな自分勝手になれるんだ。
すると
ボグン!! ロドリゴさんが玄関横の壁を殴った。
「ひぃ!」
「先生! お嬢がいつもお世話になっております。私召使いのロドリゴと申します。フレデリカ嬢から先生の噂を聞いております。とても優しく優秀な先生だそうで」
ロドリゴさんが言う。
「ど、どうも……」
「しかし、このレイモンドという男! その先生の優しさにつけ込んでいるように見えますね。こういう人間のクズは何人も見てきた。こいつは本来教師なんてやるタマじゃない。こういう人間は自分のことしか考えずなにか事が起こるたびに自分ではなく誰かのせい! 先生みたいな優しい人を見つけては子供みたいな無茶を言って無理難題を押し付ける。要するに甘えてるんですよ。善人に。こいつは! 吐き気のするようなクズでさぁ」
ロドリゴが怒る。
◇
まだまだ続きます。
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