裁縫師ロジーは奇跡の一糸を信じない ~地位も名誉も失ったけれど、狂犬王女と幼女師匠の助けを借りて国一番を目指します~

雨色銀水

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0.裁縫学校『マイツェン学院』

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 午後の日差しが、穏やかに教室内を照らしている。

 いくつも並べられた長机の上で、布を広げた学生たちは、熱心に作業へと取り組んでいる。チャコペンで印をつけ、裁ちばさみを滑らせ布を断ち――彼ら彼女らが行っているのは、いわゆる『裁縫』というやつだった。

 僕は教壇の上から学生たちの作業を眺めていた。入学当初こそ拙さが目立った裁縫技術も、数か月が過ぎればそれぞれに上達していくのが面白い。

「ロジー先生! 質問があるんですが……この場所の縫い方は、普通に返し縫がいいでしょうか?」
「ああ、その部分は内側に隠れるからそれで構わないよ。もっときれいにしたければ……」

 綺麗にまかれた布の端が風に揺れる。壁際には独創的な衣装が飾られ、マネキンは空色の美しいドレスをまとっている。これらはすべて学生たちが作り上げたもので、彼ら彼女らの成長は僕自身の誇りでもあった。

 この場所は、裁縫師を目指すものが集う学校『マイツェン学院』。
 王都アルティジエ下層に存在する誰にでも開かれた学校だ。僕はここで裁縫師を育成する教師として働いている。

「先生! ロジー先生!」
「せんせー! 教えてください!」

 皆、きらきらと輝く笑顔で教えを乞うてくれる。僕がこの学校を始めた時には思いもよらなかった光景に、自然と笑みがこぼれた。

 僕の名前はロジックス・マイツェン。しがない『裁縫師』だ。
 この物語は、家も財産も名誉も失い底辺に落ちた僕が、いかにして這い上がり、裁縫師として名声と希望を手に入れるかを描いた――そんな、どこにでもある再起の物語。

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