1 / 2
0.裁縫学校『マイツェン学院』
しおりを挟む
午後の日差しが、穏やかに教室内を照らしている。
いくつも並べられた長机の上で、布を広げた学生たちは、熱心に作業へと取り組んでいる。チャコペンで印をつけ、裁ちばさみを滑らせ布を断ち――彼ら彼女らが行っているのは、いわゆる『裁縫』というやつだった。
僕は教壇の上から学生たちの作業を眺めていた。入学当初こそ拙さが目立った裁縫技術も、数か月が過ぎればそれぞれに上達していくのが面白い。
「ロジー先生! 質問があるんですが……この場所の縫い方は、普通に返し縫がいいでしょうか?」
「ああ、その部分は内側に隠れるからそれで構わないよ。もっときれいにしたければ……」
綺麗にまかれた布の端が風に揺れる。壁際には独創的な衣装が飾られ、マネキンは空色の美しいドレスをまとっている。これらはすべて学生たちが作り上げたもので、彼ら彼女らの成長は僕自身の誇りでもあった。
この場所は、裁縫師を目指すものが集う学校『マイツェン学院』。
王都アルティジエ下層に存在する誰にでも開かれた学校だ。僕はここで裁縫師を育成する教師として働いている。
「先生! ロジー先生!」
「せんせー! 教えてください!」
皆、きらきらと輝く笑顔で教えを乞うてくれる。僕がこの学校を始めた時には思いもよらなかった光景に、自然と笑みがこぼれた。
僕の名前はロジックス・マイツェン。しがない『裁縫師』だ。
この物語は、家も財産も名誉も失い底辺に落ちた僕が、いかにして這い上がり、裁縫師として名声と希望を手に入れるかを描いた――そんな、どこにでもある再起の物語。
いくつも並べられた長机の上で、布を広げた学生たちは、熱心に作業へと取り組んでいる。チャコペンで印をつけ、裁ちばさみを滑らせ布を断ち――彼ら彼女らが行っているのは、いわゆる『裁縫』というやつだった。
僕は教壇の上から学生たちの作業を眺めていた。入学当初こそ拙さが目立った裁縫技術も、数か月が過ぎればそれぞれに上達していくのが面白い。
「ロジー先生! 質問があるんですが……この場所の縫い方は、普通に返し縫がいいでしょうか?」
「ああ、その部分は内側に隠れるからそれで構わないよ。もっときれいにしたければ……」
綺麗にまかれた布の端が風に揺れる。壁際には独創的な衣装が飾られ、マネキンは空色の美しいドレスをまとっている。これらはすべて学生たちが作り上げたもので、彼ら彼女らの成長は僕自身の誇りでもあった。
この場所は、裁縫師を目指すものが集う学校『マイツェン学院』。
王都アルティジエ下層に存在する誰にでも開かれた学校だ。僕はここで裁縫師を育成する教師として働いている。
「先生! ロジー先生!」
「せんせー! 教えてください!」
皆、きらきらと輝く笑顔で教えを乞うてくれる。僕がこの学校を始めた時には思いもよらなかった光景に、自然と笑みがこぼれた。
僕の名前はロジックス・マイツェン。しがない『裁縫師』だ。
この物語は、家も財産も名誉も失い底辺に落ちた僕が、いかにして這い上がり、裁縫師として名声と希望を手に入れるかを描いた――そんな、どこにでもある再起の物語。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる