上 下
12 / 86
第二部「あなたに贈るシフソフィラ」編

1:罪の源泉

しおりを挟む
 魔法使いは『孤独』なものなのだと、師は泣いていた彼に何度も言い聞かせた。

 それが何を意味しているのか、その時の彼にはわからなかった。
 だが、彼が家族と引き離され、師と暮らすことになったのは——泣いても迎えにきてくれないのは、その『孤独』が理由なのだと。涙に濡れたまぶたが乾く頃、彼はやっと理解した。

 大きな手のひらが頭を撫でると、彼はいつも唇を尖らせていた。子供扱いするなと言えば、その人は笑ってさらに強く頭を撫でるのだ。

 それは彼にとって不本意なことだったが、確かにその瞬間は満たされていた。ただそれだけの刹那がこの先も続いていくのだと、信じて疑うこともなかった。

『——さよなら』

 だから彼は、その手が離れていく光景を夢だと思うことにした。短い別れの言葉を、なかったことにした。

 ——ねえ、いつまで待てば、また会えますか?

 窓辺に咲いた小さな白い花だけが、その拙い願いを聞いていた。いつまでも待ち続ける。それがどれほど虚しい願いかも知ることなく。

 ——そうやって誤魔化し続けることでしか、彼は想い出を守ることができなかった。

 それでも、いとおしい面影が記憶から薄れていく。遠ざかっていく想い出を掻き抱き、必死に『かつて』を繋ぎとめようとしても、こぼれ落ちてしまったものは戻らない。

 枯れ果てた目で泣く彼に、師は再び告げた。

『魔法使いは、孤独なものなのだ』

 師は笑っていた。優しげに穏やかに、そして虚しいほどに空っぽに。
 あまりにも空虚な笑顔だった。虚ろな瞳が彼を捉えた瞬間、彼の体は耐え難い震えに襲われた。

 そう、魔法使いが孤独なのではない。が魔法使いを作るのだ。大切なものから引き離され、心を寄せるものも得られない孤独が使

 あまりにも残酷な真実を前にして、彼は呻きながら目をそらした。だがその刹那、もう自分がと悟った。



 ——暗い窓に映った表情。それは師と同じように空虚な形をしていた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

時計

SF / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

詩「夕立」

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

ありふれた優しさでは太刀打ちできない

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

しかし、眠い。

SF / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

災禍使いのモンスターテイマー

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

ノルン〜暗殺者として育てられた身代わり王子、死んだ事にして好きに生きる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

処理中です...