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第六章 百地のからくり
(六)がらがら寺
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「まさか。えっ、明海は」
鈴々はどぎまぎとなった。
「もう、どうでもいい。つまりは、ここでぶっつぶす」
才蔵は跳ねようとする。そこへ、くっくと嘲り笑い。枯れた指が阿国の後ろを指す。煙る先から千石と百学がなにかわめいている。
なにっとなったとき、早や姿は消えていた。
くそっと、才蔵は追おうとするも阿国がおやめといった。
「追っかけてるうちに、二人がやられちまう」
白煙がようやく消える。
そこに、転げる百学に手槍を突いて廻る千石。そして赤い目玉の黒蛇が隙あらば噛みつかんとしている。
すぐさま才蔵が手裏剣を放った。一つ、二つと、三つめが黒蛇をかすめた。すると蛇は不意に百学へ跳ぶ。それを千石の槍の穂先がとらえた。
だめっと、鈴々の悲鳴が上がる。
ぐさりと黒蛇を貫いた。と、ぼうっと黒煙となって、百学にからみつく。すると煙はすっと消えた。ぱらりと額のお札がはがれる。あの、縄の痣が浮かんだ。
「あっ、しまった」
才蔵が青ざめた。
だしぬけに千石が百学の胸元を肌けた。そして、ぴしゃりと貼る。それは紅白からの、唐のお札であった。
「あっ、あにさま」
みるみる痣は消えて、こんどは千石に黒縄の痣が浮かぶ。くうっと口元が歪み、ひざを落とした。
「な、なんてことを」
へらっと千石は笑ってみせる。百学はあっけにとられた。
「すべはないかい」
阿国のひとことで、はっとなった鈴々は手に巻く鈴の数珠を千石の首にかけた。
「お札ほどではありませんが、呪いを抑えます」
ぽおっとほおに赤みが差したところで、ぱきりと鈴のひとつにひびが入った。
「鈴がすべて割れるまでに手を打たないと」
「さもなくば、呪いにやられるか、しのかみに喰われるか」
才蔵のつぶやきに百学が乱れた。服を肌けて札をはがそうとする。その手を千石がはっしと掴む。
「千切れる。二人ともお陀仏よ」
百学はぼろぼろと泣いた。
阿国が百学の肩に手をやって、千石の肩にも手をやった。
「ともあれ、やつを追うにもどこへいったやら。なら仕切り直し。奥の院へゆくか」
「奥の院」
鈴々がはてとなった。
「そうか、やつも沼はおっかない。ひと息つける」
才蔵がことさら明るく笑う。阿国もにっと笑う。
「打つ手をひねるかね。また、本堂をいまいちどみれば、どこかに呪いを弱める清めの塩とかもあるかも」
「なら、とっととゆくか」
もう才蔵は千石と歩いてゆく。鈴々は百学を励まして歩く。阿国はちらりとやつが消えた辺りを見やった。
心につぶやいた。
ここからは鈴々を取られるか、取られまいか。なに、追っかけることもない。どうせ、向こうからくる。
鈴々はどぎまぎとなった。
「もう、どうでもいい。つまりは、ここでぶっつぶす」
才蔵は跳ねようとする。そこへ、くっくと嘲り笑い。枯れた指が阿国の後ろを指す。煙る先から千石と百学がなにかわめいている。
なにっとなったとき、早や姿は消えていた。
くそっと、才蔵は追おうとするも阿国がおやめといった。
「追っかけてるうちに、二人がやられちまう」
白煙がようやく消える。
そこに、転げる百学に手槍を突いて廻る千石。そして赤い目玉の黒蛇が隙あらば噛みつかんとしている。
すぐさま才蔵が手裏剣を放った。一つ、二つと、三つめが黒蛇をかすめた。すると蛇は不意に百学へ跳ぶ。それを千石の槍の穂先がとらえた。
だめっと、鈴々の悲鳴が上がる。
ぐさりと黒蛇を貫いた。と、ぼうっと黒煙となって、百学にからみつく。すると煙はすっと消えた。ぱらりと額のお札がはがれる。あの、縄の痣が浮かんだ。
「あっ、しまった」
才蔵が青ざめた。
だしぬけに千石が百学の胸元を肌けた。そして、ぴしゃりと貼る。それは紅白からの、唐のお札であった。
「あっ、あにさま」
みるみる痣は消えて、こんどは千石に黒縄の痣が浮かぶ。くうっと口元が歪み、ひざを落とした。
「な、なんてことを」
へらっと千石は笑ってみせる。百学はあっけにとられた。
「すべはないかい」
阿国のひとことで、はっとなった鈴々は手に巻く鈴の数珠を千石の首にかけた。
「お札ほどではありませんが、呪いを抑えます」
ぽおっとほおに赤みが差したところで、ぱきりと鈴のひとつにひびが入った。
「鈴がすべて割れるまでに手を打たないと」
「さもなくば、呪いにやられるか、しのかみに喰われるか」
才蔵のつぶやきに百学が乱れた。服を肌けて札をはがそうとする。その手を千石がはっしと掴む。
「千切れる。二人ともお陀仏よ」
百学はぼろぼろと泣いた。
阿国が百学の肩に手をやって、千石の肩にも手をやった。
「ともあれ、やつを追うにもどこへいったやら。なら仕切り直し。奥の院へゆくか」
「奥の院」
鈴々がはてとなった。
「そうか、やつも沼はおっかない。ひと息つける」
才蔵がことさら明るく笑う。阿国もにっと笑う。
「打つ手をひねるかね。また、本堂をいまいちどみれば、どこかに呪いを弱める清めの塩とかもあるかも」
「なら、とっととゆくか」
もう才蔵は千石と歩いてゆく。鈴々は百学を励まして歩く。阿国はちらりとやつが消えた辺りを見やった。
心につぶやいた。
ここからは鈴々を取られるか、取られまいか。なに、追っかけることもない。どうせ、向こうからくる。
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