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第七章 紅白さまのお札

(四)南京錠

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百学も、鈴々も、千石も、才蔵も、きょとんとなった。
間があった。
ひらっと阿国の両手に扇子がある。そして、雪降るなかを進む。
「ひととはね」
拍子をつけた。
「ひととは、問うものさ」
えっと、みなの目が丸くなった。宝鶴は目をきゅっと細めた。
「問うもの」
百学と、鈴々がぽつりという。
雪が降る。
ひら、ひらと扇子が舞う。雪が舞った。
「問うて、問うてゆく・・」
阿国は唄う。
「なぜに・・生きてゆくに、辛いのか・・なぜに苦しきことばかり・・なぜに悲しきことばかり・・問うて、問うて、問うてゆく・・」
とんと、拍子に阿国は舞って、扇子が舞う。
雪がひらひら舞い踊る。
「かほどの、幸はいりませぬ・・かほどの、富もいりませぬ・・爪の先ほどの、心安き日々をと願うのに・・つまずき・・ころび・・ひしがれる」
唄い、舞い、雪が降る。
「ね、姉さんの、巫女踊りか」
才蔵が息を呑む。
「きれい。でも、とっても悲しい」
鈴々の瞳がうるむ。
その、伏し目がちな横顔は、あたかも雪のように清らかで、儚げだった。
「なぜに産まれた・・なぜに生きる・・生きてゆく・・問うてみても・・世のものは・・なにひとつ・・いいわけ・・ごまかし・・たぶらかし・・
ならばと・・神に問うて・・答えたか・・仏に問うて・・答えたか・・それでも・・問わずにおれぬ・・問うて・・問うて・・問うてゆく・・ひととは・・なにか・・」
と、阿国の眉が跳ねた。
そして、ひたと、扇子の先が宝鶴に向けられた。
「ゆえに、おぞましき、ぶちりなんぞで血にまみれ、仏の仇となるも覚悟のうえで」
ぱんと、扇子が鳴った。
「古の聖とやらに、問うてみたかったか、宝鶴」
ぶるぶるっと、宝鶴は震える。
「そも、聖なんぞではない、おのれにこそ、問えっ」
宝鶴が、いま一度、口がひくりとなった。
「おのれに・・だと・・おのれで、答えよ・・というか」
「それが、悟り、だろ」
ぐいっと、宝鶴がにらみつける。
やがて、にたりと笑った。
「然り」
がたりと、金具が外れ、南京錠はぼとりと落ちた。みるみる冷えがなくなってゆく、雪も氷柱もまるで消えてしまった。
うそっと、鈴々がぽかんとなった。あたかも、時が歩きはじめた。ふうっと、千石が息を吐いた。ぺたんと百学が座り込む。
「錠前がはずれた。これで、抜けられる」
才蔵がとっとと戸に手をやった。そこへ、どこからか低い声がする。
「・・ま、またれよ・・」
うわっと百学がきょろきょろする。
「また、付喪神か。どこにいる」
才蔵がいらっとなった。まってと、鈴々が耳を澄ます。
「この声、おぼえがある」
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