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第五章 白鈴の文
(八)天竜玉
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とたんに、貼りついていた札がばらばらとはがれゆく。ついで黒い毛もぼろぼろと抜け落ちる。あとに、半裸の小太りのものがいた。
しばし、才蔵は呆けたように座りこむ。鈴々が後ろからひしと抱きしめた。
「や、やれたの」
「きっと」
「よかった」
鈴々は泣いていた。
ふいに、ぐふっと小太りがうめいた。
そのつらは、歪み、眉もひげも老人のように真っ白。どこの誰かもわからない。けれど、その、ひゃはっと嫌みな笑いは、ましらであった。
「ひゃはっ・・小僧に、やられるか・・だが、お頭は、止められまい。釜の底でも抜けたら・・また・・あおう」
「な、なんだと」
にたりと笑って、ましらの息が消えた。
さわっと風が吹き抜ける。
「釜の底が抜ける」
その問いに、鈴々は首をひねるしかない。
才蔵は、ああっと、髪をぐちゃぐちゃにした。
「さっきからまるでわからない。なにが、どうなって、玉が、紅い札があるの」
鈴々はふっと苦笑い。
「その謎はとけた」
「どんな、からくり」
鈴々は白鈴の文を広げた。才蔵はさらりと読む。
「おっとそれで、鈴々はみょうに力んでたのか。でも、あれ、花火あったっけ。それに、白鈴のお姉はどこ」
「こない」
「えっ」
「あの玉もにせもの。ほら、中味は護符でいっぱい」
才蔵は一枚のお札を拾う。
「もしや、王鈴の護符のお札か。あのひと喰いも封じられるというやつ」
「こんなに山盛り。そりゃあ、あの猿もなすすべはない。きっと大赤字ね」
そこで才蔵は首をひねった。
「なんで、そんな玉をおのれで、くらったの」
鈴々は腕を組む。
「そもそもは、まだ香ってる猿のまたたび」
「ふむ、百学さんか、いや、阿国姉さんなのか、やつは猛りがたまらないってな」
ところがと、鈴々は渋くなる。
「なぐさみものにしようとしたけれど、あたしが小娘と知ると、小娘ではなぐさみにならぬって」
ぽんと才蔵が手を打った。
「さては、白鈴お姉を呼ぼうとしたのか」
「心がのぞけるから」
と、いうことはと、才蔵。
ぷっと笑う鈴々が文を、ひらひら。
「この文こそ、罠なの」
才蔵が垂れ幕を仰いだ。
「やってくれる。そうか、おいらでも、百学さんでもなく、鈴々に策を渡したか」
「あたしを出汁にしたの」
もう一度、才蔵は文を見る。
「文字が泣いてら。おおかた、ごり押しされて、泣く泣く筆をとったろう」
「眼に浮かぶ」
二人の笑いが弾けた。
しばし、才蔵は呆けたように座りこむ。鈴々が後ろからひしと抱きしめた。
「や、やれたの」
「きっと」
「よかった」
鈴々は泣いていた。
ふいに、ぐふっと小太りがうめいた。
そのつらは、歪み、眉もひげも老人のように真っ白。どこの誰かもわからない。けれど、その、ひゃはっと嫌みな笑いは、ましらであった。
「ひゃはっ・・小僧に、やられるか・・だが、お頭は、止められまい。釜の底でも抜けたら・・また・・あおう」
「な、なんだと」
にたりと笑って、ましらの息が消えた。
さわっと風が吹き抜ける。
「釜の底が抜ける」
その問いに、鈴々は首をひねるしかない。
才蔵は、ああっと、髪をぐちゃぐちゃにした。
「さっきからまるでわからない。なにが、どうなって、玉が、紅い札があるの」
鈴々はふっと苦笑い。
「その謎はとけた」
「どんな、からくり」
鈴々は白鈴の文を広げた。才蔵はさらりと読む。
「おっとそれで、鈴々はみょうに力んでたのか。でも、あれ、花火あったっけ。それに、白鈴のお姉はどこ」
「こない」
「えっ」
「あの玉もにせもの。ほら、中味は護符でいっぱい」
才蔵は一枚のお札を拾う。
「もしや、王鈴の護符のお札か。あのひと喰いも封じられるというやつ」
「こんなに山盛り。そりゃあ、あの猿もなすすべはない。きっと大赤字ね」
そこで才蔵は首をひねった。
「なんで、そんな玉をおのれで、くらったの」
鈴々は腕を組む。
「そもそもは、まだ香ってる猿のまたたび」
「ふむ、百学さんか、いや、阿国姉さんなのか、やつは猛りがたまらないってな」
ところがと、鈴々は渋くなる。
「なぐさみものにしようとしたけれど、あたしが小娘と知ると、小娘ではなぐさみにならぬって」
ぽんと才蔵が手を打った。
「さては、白鈴お姉を呼ぼうとしたのか」
「心がのぞけるから」
と、いうことはと、才蔵。
ぷっと笑う鈴々が文を、ひらひら。
「この文こそ、罠なの」
才蔵が垂れ幕を仰いだ。
「やってくれる。そうか、おいらでも、百学さんでもなく、鈴々に策を渡したか」
「あたしを出汁にしたの」
もう一度、才蔵は文を見る。
「文字が泣いてら。おおかた、ごり押しされて、泣く泣く筆をとったろう」
「眼に浮かぶ」
二人の笑いが弾けた。
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