上 下
95 / 177
第五章 白鈴の文

(八)天竜玉

しおりを挟む
とたんに、貼りついていた札がばらばらとはがれゆく。ついで黒い毛もぼろぼろと抜け落ちる。あとに、半裸の小太りのものがいた。
しばし、才蔵は呆けたように座りこむ。鈴々が後ろからひしと抱きしめた。
「や、やれたの」
「きっと」
「よかった」
鈴々は泣いていた。
ふいに、ぐふっと小太りがうめいた。
そのつらは、歪み、眉もひげも老人のように真っ白。どこの誰かもわからない。けれど、その、ひゃはっと嫌みな笑いは、ましらであった。
「ひゃはっ・・小僧に、やられるか・・だが、お頭は、止められまい。釜の底でも抜けたら・・また・・あおう」
「な、なんだと」
にたりと笑って、ましらの息が消えた。
さわっと風が吹き抜ける。
「釜の底が抜ける」
その問いに、鈴々は首をひねるしかない。
才蔵は、ああっと、髪をぐちゃぐちゃにした。
「さっきからまるでわからない。なにが、どうなって、玉が、紅い札があるの」
鈴々はふっと苦笑い。
「その謎はとけた」
「どんな、からくり」
鈴々は白鈴の文を広げた。才蔵はさらりと読む。
「おっとそれで、鈴々はみょうに力んでたのか。でも、あれ、花火あったっけ。それに、白鈴のお姉はどこ」
「こない」
「えっ」
「あの玉もにせもの。ほら、中味は護符でいっぱい」
才蔵は一枚のお札を拾う。
「もしや、王鈴の護符のお札か。あのひと喰いも封じられるというやつ」
「こんなに山盛り。そりゃあ、あの猿もなすすべはない。きっと大赤字ね」
そこで才蔵は首をひねった。
「なんで、そんな玉をおのれで、くらったの」
鈴々は腕を組む。
「そもそもは、まだ香ってる猿のまたたび」
「ふむ、百学さんか、いや、阿国姉さんなのか、やつは猛りがたまらないってな」
ところがと、鈴々は渋くなる。
「なぐさみものにしようとしたけれど、あたしが小娘と知ると、小娘ではなぐさみにならぬって」
ぽんと才蔵が手を打った。
「さては、白鈴お姉を呼ぼうとしたのか」
「心がのぞけるから」
と、いうことはと、才蔵。
ぷっと笑う鈴々が文を、ひらひら。
「この文こそ、罠なの」
才蔵が垂れ幕を仰いだ。
「やってくれる。そうか、おいらでも、百学さんでもなく、鈴々に策を渡したか」
「あたしを出汁にしたの」
もう一度、才蔵は文を見る。
「文字が泣いてら。おおかた、ごり押しされて、泣く泣く筆をとったろう」
「眼に浮かぶ」
二人の笑いが弾けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

戦国九州三国志

谷鋭二
歴史・時代
戦国時代九州は、三つの勢力が覇権をかけて激しい争いを繰り返しました。南端の地薩摩(鹿児島)から興った鎌倉以来の名門島津氏、肥前(現在の長崎、佐賀)を基盤にした新興の龍造寺氏、そして島津同様鎌倉以来の名門で豊後(大分県)を中心とする大友家です。この物語ではこの三者の争いを主に大友家を中心に描いていきたいと思います。

【完結】奔波の先に~井上聞多と伊藤俊輔~幕末から維新の物語

瑞野明青
歴史・時代
「奔波の先に~聞多と俊輔~」は、幕末から明治初期にかけての日本の歴史を描いた小説です。物語は、山口湯田温泉で生まれた志道聞多(後の井上馨)と、彼の盟友である伊藤俊輔(後の伊藤博文)を中心に展開します。二人は、尊王攘夷の思想に共鳴し、高杉晋作や桂小五郎といった同志と共に、幕末の動乱を駆け抜けます。そして、新しい国造りに向けて走り続ける姿が描かれています。 小説は、聞多と俊輔の出会いから始まり、彼らが長州藩の若き志士として成長し、幕府の圧制に立ち向かい、明治維新へと導くための奔走を続ける様子が描かれています。友情と信念を深めながら、国の行く末をより良くしていくために奮闘する二人の姿が、読者に感動を与えます。 この小説は、歴史的事実に基づきつつも、登場人物たちの内面の葛藤や、時代の変革に伴う人々の生活の変化など、幕末から明治にかけての日本の姿をリアルに描き出しています。読者は、この小説を通じて、日本の歴史の一端を垣間見ることができるでしょう。 Copilotによる要約

天明奇聞 ~たとえば意知が死ななかったら~

ご隠居
歴史・時代
タイトル通りです。意知が暗殺されなかったら(助かったら)という架空小説です。

動乱と恋

オガワ ミツル
歴史・時代
昭和の初期に起こった日本中を揺るがす大事件が起こった。それを2.26事件という。 その頃、徳川幕府が滅亡し、新しい政府が出来た。 しかし、まだ日本は過渡期であり、多くの様々な問題を抱え、政治は熟成していない。 その為に多くの農村達は疲弊しており、それに見かねた皇道派に属する青年将校達は立ち上がり、 政府の要人達を殺害しようと試みていた。 政局は統制派と皇道派とで覇権を争っていた。 その中でも、将校と令嬢との儚い恋が芽生えたのである。 しかし……日増しに強くなってくる政情不安、青年将校の運命はどうなっていくのか……

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

忍びゆくっ!

那月
歴史・時代
時は戦国の世。 あぁ… どうして、生まれてくる時を、場所を選べないんだろう 病弱な彼は、考えていた。考えることが、仕事だった 忍の、それも一族の当主の家系に生まれたのに頭脳しか使えない ただ考えていることしかできない、彼の小さな世界 世界は本当はとても広い それに、彼は気づかされる 病弱を理由に目の前にある自分の世界しか見えていなかった 考えること以外にも、自分は色々できるのだと、気づく 恨みを持つ一族の襲撃。双子の弟の反逆。同盟を結ぶ一族との協力 井の中の蛙 大海を――知った 戦国の世に生きる双子の忍の物語。迫り来るその時までに、彼は使命を果たせるのか…? 因果の双子

御稜威の光  =天地に響け、無辜の咆吼=

城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
そこにある列強は、もはや列強ではなかった。大日本帝国という王道国家のみが覇権国など鼻で笑う王道を敷く形で存在し、多くの白人種はその罪を問われ、この世から放逐された。 いわゆる、「日月神判」である。 結果的にドイツ第三帝国やイタリア王国といった諸同盟国家――すなわち枢軸国欧州本部――の全てが、大日本帝国が戦勝国となる前に降伏してしまったから起きたことであるが、それは結果的に大日本帝国による平和――それはすなわち読者世界における偽りの差別撤廃ではなく、人種等の差別が本当に存在しない世界といえた――へ、すなわち白人種を断罪して世界を作り直す、否、世界を作り始める作業を完遂するために必須の条件であったと言える。 そして、大日本帝国はその作業を、決して覇権国などという驕慢な概念ではなく、王道を敷き、楽園を作り、五族協和の理念の元、本当に金城湯池をこの世に出現させるための、すなわち義務として行った。無論、その最大の障害は白人種と、それを支援していた亜細亜の裏切り者共であったが、それはもはや亡い。 人類史最大の総決算が終結した今、大日本帝国を筆頭国家とした金城湯池の遊星は遂に、その端緒に立った。 本日は、その「総決算」を大日本帝国が如何にして完遂し、諸民族に平和を振る舞ったかを記述したいと思う。 城闕崇華研究所所長

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...