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第五章 白鈴の文

(七)正体は、さとり

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「おっ、おっ」
もみ手の千石が卓へ、抜き足、差し足。
「ひっ、百学さん。そこのあかんたれ、なんとかする」
「あら、きれい、可愛い」
小雪がゆらゆらする小ぶりな花柄の紙玉に、手を伸ばす。
「これっ、紐は引っ張らない」
ぷうっと小雪。
「こ、これは天竜玉という」
「怖いの」
「はいな。これを木なぞに吊るして紐を引けば、たちどころにぱんと破裂する。そして火の玉が天に伸びてゆき、どどんと炎の華を咲かせる」
「それ、花火」
「狼煙にもなる。白き煙がゆらりと、夜でもくっきり」
ふうんと阿国がぷらぷら歩く。と、じゃらじゃらと千石が宝石をあさっていた。
「どれも、くすみやら、傷やら、いい石はねえのか」
すると宝石に埋もれるように、きらりと丸いもの。
「あっいゃあ~だめ」
「あはっ。お宝、みっけ」
千石がぐいと引き抜き、ぎょっとなった。ぴかぴかの黄金色の頭蓋骨。
「うひ」
「それ、盃ね。どこやらの将のもの。恨みいっぱいだから、さわらない」
「さ、先にいえ」
やれやれと王鈴はきょろ、きょろ。
「はて、清めの塩壺がどっか」
「王鈴や」
阿国が棚のところで朱の色も鮮やかな札を、手でぴらぴら。
「これ、ぴりぴりする」
「あひゃあっ」
その足で鎧につまずき、引っくり返った。
「なんだい、なんだい」
「それ、戻す、戻すっ」
はてなと阿国。
「めのっ、目の玉が飛ぶほど、値が張る。なかなか手に入らないもの」
「この赤札の束」
「護符ね。呪術がたっぷり、ゆえにぴりっとする」
「ほう」
「それ一枚で、小粒金の袋が一つ」
「あら、あいゃあ~」
「あいゃあ~じゃない。あの僵尸きょんしーをも封じれる。ほれ、血文字の呪文」
阿国は恐々と札を戻した。
「まったくもう。困ったひとたち。どうして、じっとしてないかね、百学さん」
「あの、王鈴さん。この人形、髪の毛が指にからむ」
「あぎゃああ」
「なんだよ、こんどは」
小雪に、壺ごと塩をぶっかけられた千石がしかめっつら。
「そ、その髪は死人から抜いたもの。呪術人形」
「ひいっ」
ぼそぼそと、手燭の火で髪を焼いて離した。
千石がげっそりとする。
「なんだ。おっかなくて、売るに売れないものばっかか」
「ですね」
百学は苦笑い。
阿国がぱんぱんと手を叩いた。
「はいはい。夜店の出しものとやらは、もういいね。たっぷり楽しんだ。さて、王鈴や。その唐の武具でなにか、あるかい」
お任せあれと、王鈴は冷や汗をぬぐうとさっそくごそごそと始めた。がっちゃ、がっちゃと鎧を見比べては、刀や槍とにらめっこ。
それをながめて、ふと、小雪はまた首を傾げていた。
これでもない、あれでもない。なんだかんだと武具をてんこ盛りにしたあと、ようやく王鈴は床に並べた。龍の飾りのある槍に、虎の彫りのある剣に鎧、さらに鉤爪や鎖鎌のようなもの。
「さあ、さあ、ごろうじろ」
王鈴が満面の笑みで両手を広げた。
「その前に」
めずらしく、小雪がまったとなった。
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