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第四章 才蔵のしくじり

(二)闇招き

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「ひ、ひねりといえば、ぶちりという厄祓いは、まさしくひねられてる。それを、解かないと」
「ひねられてるか」
ふむと千石。
「そういや百学よ、ぶちりを耳にしてあれこれ調べてたな。なにかあったか」
「あったというか、そもそもは二年に一度のただの厄祓い。それがある年に、ふいにお陀仏となるものが、ちらほら」
ぶちりの始まりかと、千石はつぶやく。
「ならば、みなの衆から文句が出たろ。祓うどころか、もらってる」
「それはもう。ところが、寺は開き直った」
「あら」
阿国は目を丸くする。
「あやつらは、ごくつぶしゆえに厄である。その厄を祓ったまで」
「うそぶくね」
「ものどもが、ごくつぶしは本当みたいです。ただ寺は表ではこういってる。むしろ、ごくつぶしこそ荒行に挑め、厄を祓え。しからば、もはや厄介者にあらず、運も開ける」
「あらあら」
「ひねるねえ」
千石も首をひねる。
「とたん、方々の村々や町からお布施がくるわくるわ」
阿国の眉がぴくり。
「銭があふれてぶちりは賑わうも、おかげで、ろくでなしやら、半端もの、のけものやらが、集められるようになったとか」
けっと千石。
「とどのつまりが、厄介者の厄介払いとなったか。それがぶちりでもあるのか」
「ひねるというより、ひん曲がってる」
苦い笑いの阿国。いかにもと千石。
「それにしても、唐かぶれの坊主はなんの魂胆かね。もの好きな厄祓いにしては、ひと癖も、ふた癖もあるような」
「まったく。こりゃ、早く連れ戻さないと、とんでもないめにあうな」
千石はいらっと船縁を叩いた。
「えい、のろくないか。なにを蔵に積んでる。どうせ、がらくたのくせに」
なっと王鈴が目をむいた。
「それっ、大切な荷を降ろせなかったね。小唐への船を急いだから」
「大切な荷とやらは」
「唐のお札に、数珠やら、薬酒、薬草、それに鐘。目玉が飛ぶ値のものある」
「お宝じゃないか」
王鈴はえっへん。
「なあ、百学」
千石はにたり。
「船底の蔵だ。あとでこっそり売っ払う。おっと、太い錠前があるな」
「そ、それなら、火だと叫べば、慌てて荷を外へ運ぶでしょう」
「そこで、ぽかりとやれば。いい、おつむのひねり」
こりゃあっ、王鈴が牛刀をぎらり抜く。
「いいかげんにするある。もう、へなちょこ旦那は、鮫の餌ね」
追う王鈴、逃げる千石、舌をちょろりと百学。
からっと笑い、濁酒を呑む阿国。
その視線が流れた。
そこに、端からそばにいて、ひとことも語らない白鈴がいた。
虚ろに、ただ虚ろに海を見ていた。
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