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第三章 鈴々の帝鐘
(三)ぶちりをぶちる
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ものどもの足どりも軽く、大瓦のもとへと山を降りてゆく。ちょうど崖下へきたところで茂みをみると、はたして首が折れた淡宝の骸があった。
弓月が狼煙を上げた。
ゆるりと煙が昇ってゆく。
「直に、奥の院のものがこよう。あとは任せればよい」
ひとつ念仏を唱えて、一本松へ足を向けた。
ちらと春竹が振り返った。
「さても、その鐘ですか。いや、たいしたものです」
鈴々は苦笑い。
「ひるませたかったの。まさか、まんま落っこちるなんて」
いや、ようやったとみな口々に褒めたたえた。
才蔵はふうんと腕組み。
雲が流れ、風に草木がなびく。
辺りは薄暗くなり、ちらほらと星も瞬いていた。
一本松では、あれがうそのように収まっていた。まるっきり憑きものが落ちたように、あの坊主どもは控えている。
そこへ松明を持つものがばらばら戻ってきた。
そのものの二言、三言で、またも、荒げた声が響いた。
大瓦の眉がぐいと跳ねる。
「えい、まだ覚めておらぬのか、卯月房。寺でものどもが、殺めおうておるとな。ほれ、霧は消えておる。そら、円海も法山も素面となった」
ばつがわるそうに、痣やらたんこぶの二人がうなずく。
「ぶちれたのよ。さきほど弓月房より知らせがあった」
卯月と呼ばれた若い坊主は冷や汗をぬぐう。
「その霧が失せてのちなのです。ともあれ宝林を呼びに寺にゆけば、なんと薄暗い中で、刀をふるうもの、組みつくもの、がぶりと喰らうものも、これは、ただごとならぬと肝をつぶしました」
「にわかに、呑み込めぬ」
と、円海がはっとなった。
「大瓦房、あ、あれを」
向こうの森で、めらめらと炎が燃えあがっている。
「なに、寺かっ」
うわっとなった。
そこへ、しずまれ、しずまれ、と声がかかった。
「おびえてはならぬ、つけ込まれる」
「おっ、弓月房に、春竹房」
どやどやと、弓月をはじめ、春竹や豊春そして才蔵に鈴々がものどもと戻ってきた。
大瓦がねぎらう。
「よくやった。よくぞ、ぶちりをぶちれたの」
「なんの、それより」
弓月が森の炎をみやる。春竹が眉をひそめた。
「まさに。どんぶり山のぶちりが、現れたやも」
みな、うむとなった。
もう、四の五のはなかった。そろって松明を灯すと、寺へと向かってゆく。
才蔵がちらっと鈴々にささやいた。
「しんどくはないか」
「あら、気づかい」
鈴々は喜ぶ。
「なら、いいや」
照れ笑いがあった。
「さて、いよいよか。ぶちりの本家かもな。でも、あの類いなら、おいらひとりでひねってやる。これで、小粒金やら褒美やら、いい土産になるな」
ほくほくの才蔵。
その笑みが、かえって鈴々には胸騒になった。
浜からの小道を抜けて、森へ入った。
そこですでに、息を呑む。
もうもうと黒煙が上がり、木々は赤々と燃え盛る炎に包まれている。辺りの石段にはどこもかしこも、血塗れの骸が転がっていた。
「これは、いったい」
他に、もののいいようがない。
ふと、低いうめきがあった。
大樹の幹に、血みどろのぼろ布のように、うずくまるものがゆらりと動く。
「もしや、太蝦蟇か」
大瓦が歩み寄った。その、かじられた跡のような、指のない手がふらりと上がる。
「お・・大瓦」
「おのれほどの腕っ節が、どうしたっ」
「わ、わけが・・わからぬ・・いきなり、わっと来やがって・・あとは、白刃をふるうも、なにも・・滅茶苦茶・・」
息が細い。いくばくもなかった。
弓月が狼煙を上げた。
ゆるりと煙が昇ってゆく。
「直に、奥の院のものがこよう。あとは任せればよい」
ひとつ念仏を唱えて、一本松へ足を向けた。
ちらと春竹が振り返った。
「さても、その鐘ですか。いや、たいしたものです」
鈴々は苦笑い。
「ひるませたかったの。まさか、まんま落っこちるなんて」
いや、ようやったとみな口々に褒めたたえた。
才蔵はふうんと腕組み。
雲が流れ、風に草木がなびく。
辺りは薄暗くなり、ちらほらと星も瞬いていた。
一本松では、あれがうそのように収まっていた。まるっきり憑きものが落ちたように、あの坊主どもは控えている。
そこへ松明を持つものがばらばら戻ってきた。
そのものの二言、三言で、またも、荒げた声が響いた。
大瓦の眉がぐいと跳ねる。
「えい、まだ覚めておらぬのか、卯月房。寺でものどもが、殺めおうておるとな。ほれ、霧は消えておる。そら、円海も法山も素面となった」
ばつがわるそうに、痣やらたんこぶの二人がうなずく。
「ぶちれたのよ。さきほど弓月房より知らせがあった」
卯月と呼ばれた若い坊主は冷や汗をぬぐう。
「その霧が失せてのちなのです。ともあれ宝林を呼びに寺にゆけば、なんと薄暗い中で、刀をふるうもの、組みつくもの、がぶりと喰らうものも、これは、ただごとならぬと肝をつぶしました」
「にわかに、呑み込めぬ」
と、円海がはっとなった。
「大瓦房、あ、あれを」
向こうの森で、めらめらと炎が燃えあがっている。
「なに、寺かっ」
うわっとなった。
そこへ、しずまれ、しずまれ、と声がかかった。
「おびえてはならぬ、つけ込まれる」
「おっ、弓月房に、春竹房」
どやどやと、弓月をはじめ、春竹や豊春そして才蔵に鈴々がものどもと戻ってきた。
大瓦がねぎらう。
「よくやった。よくぞ、ぶちりをぶちれたの」
「なんの、それより」
弓月が森の炎をみやる。春竹が眉をひそめた。
「まさに。どんぶり山のぶちりが、現れたやも」
みな、うむとなった。
もう、四の五のはなかった。そろって松明を灯すと、寺へと向かってゆく。
才蔵がちらっと鈴々にささやいた。
「しんどくはないか」
「あら、気づかい」
鈴々は喜ぶ。
「なら、いいや」
照れ笑いがあった。
「さて、いよいよか。ぶちりの本家かもな。でも、あの類いなら、おいらひとりでひねってやる。これで、小粒金やら褒美やら、いい土産になるな」
ほくほくの才蔵。
その笑みが、かえって鈴々には胸騒になった。
浜からの小道を抜けて、森へ入った。
そこですでに、息を呑む。
もうもうと黒煙が上がり、木々は赤々と燃え盛る炎に包まれている。辺りの石段にはどこもかしこも、血塗れの骸が転がっていた。
「これは、いったい」
他に、もののいいようがない。
ふと、低いうめきがあった。
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「お・・大瓦」
「おのれほどの腕っ節が、どうしたっ」
「わ、わけが・・わからぬ・・いきなり、わっと来やがって・・あとは、白刃をふるうも、なにも・・滅茶苦茶・・」
息が細い。いくばくもなかった。
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