オカルト研究部員の非日常な日常

秋月一花

文字の大きさ
67 / 70
3章:探求

『架瑠』 2話

しおりを挟む
 静かに『架瑠かける』が言い放つ。

 その言葉の重さに、架瑠が息をむと、伊吹はぶんぶんと首を横に振った。

「違う! るーくんのご両親は、るーくんのせいで死んだんじゃないっ!」

 伊吹いぶきは人間の姿のまま、猫耳と尻尾を見せ、ぶわりと尻尾を膨らませた。その尻尾は二本にわかれている。

 彼女の言葉と『架瑠』の言葉が耳に届き、架瑠は何度も深呼吸を繰り返した。

 むせかえるような鉄のような匂いを感じながら、架瑠はぐっと自分の拳を握りしめる。

 自身の手が、血で汚れる。その様子を見て、そっと目を閉じて唇を噛み締めた。

(――そうだ。本当は、知っていた)

 架瑠は自身の呼吸を整えて、ゆっくりと立ち上がる。『架瑠』が言っていることは、本当のことだと。

 受け止めるには、幼すぎた。

 心の奥にしまい込んで、思い出さないようにしていた。

 ――だって、それを認めてしまったら――……

 自分だけが生き残ったことが、つらすぎて。考えないようにしていた。だけど、もう自分の心をだますことなんてできない。

 この『架瑠』が言っていることはすべて、――架瑠がずっと心の奥でしまい込んでいた思いのだと気付いている。

『霊力が強いと、魔のモノを惹きつける。お前がいるから他の者も不幸になっていく』

 淡々とした口調で、『架瑠』は言葉を続ける。その言葉にも、伊吹は「そんなことないっ!」と否定していたが、架瑠はパシャン、パシャンと音を立てながら足元の血の海を歩き、伊吹の隣に立つ。

 血で汚れた自身の手に視線を落とし、一瞬耐えるように目を閉じてから、大きく深呼吸をして目の前の『架瑠』に向き合う。

「そうかもしれない。それでもおれは――みんなと一緒にいたい」

 心からの言葉だった。

 ずっと、心の奥にしまい込んでいた、もう一つのこと。

 ――許されるのなら、幸せになりたい。

 だけど、両親が自分のせいで死んだのに、そんなことを願ってはいけない。幼い頃にそう思い続けていた。

 ズキリ、と一層頭が痛み、「くっ」と表情を歪める架瑠に、伊吹が「るーくん……」と手を伸ばす。

 架瑠が自身の前髪をかき上げ、後頭部に撫でつけた。

 はっきりと見えるようになった、彼の瞳に、伊吹は息をむ。

(――ああ、るーくんは今、戦っているんだ……)

 両親の死について、架瑠はほとんど覚えていなかった。思い出せないようだった。

 だから、蓮也れんやと相談し、無理に思い出すことはさせないようにしようと決めた。

 高校二年生に進級してから、徐々に彼の記憶の蓋が緩み、怪異に巻き込まれる回数も増えてしまい、ハラハラとしていた自身の気持ちに伊吹はふっと表情を歪める。

 その日のことを思い出してしまったら、架瑠はどうなるのだろうとずっと不安だったのだ。

 だが今――伊吹の隣に立つ架瑠の瞳に、迷いは感じられない。

(強くなったね、るーくん)

 伊吹が心の中でそうつぶやくと、架瑠は『架瑠』を見据えたまま動かない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...