2 / 70
1章:始まり
加茂家の日常 2話
しおりを挟む
脱衣所で服を脱ぎ、シャワーを浴びる。熱いシャワーが汗を流していき、架瑠は小さく息を吐いた。髪と身体を洗い、すぐに上がる。乱雑にタオルで髪の水分を拭い、身体の水滴も拭う。
ドライヤーで髪を乾かしている最中、洗面台の鏡から視線をそらした。
どうしても、自分の容姿が好きになれない。
架瑠の髪色は漆黒。後ろはうなじが隠れるくらいの長さだ。だが、前髪は目が隠れるほど長い。
少し青みのあるような薄い紫色の瞳。――それが、架瑠のコンプレックスだった。
両親はどちらも日本人だったと聞いている。なのになぜ、こんな紫色の瞳の子どもが生まれたのか、と何度も耳に入れてしまったため、瞳を隠すように前髪を伸ばしている。
髪をしっかりと乾かしてから、制服に着替えた。
食卓までいくと、伊吹――腰まである長い真白の髪を一つにまとめ、空色の大きな猫目をらんらんと輝かせる女性――が、架瑠に元気よく声をかける。
「おっはよー、るーくん。今日は和食だよー」
テーブルに並んだのはほうれん草のお浸し、だし巻き卵、鮭の塩焼き、豆腐とわかめの味噌汁だった。伊吹は三角巾と割烹着を脱いで椅子に置き、じゃーんと両腕を広げる。きちんと三人分用意されていた。
「伊吹は料理上手だねぇ」
いつの間にきていたのか、蓮也は並んでいる朝食を眺めてから椅子に座り、まだ座っていない架瑠に視線をやった。すとんと架瑠が座ると、伊吹も座り三人で「いただきます」と手を合わせてから箸を取る。
架瑠は汁椀を手に取って、一口飲む。そこであれ、と目を瞬かせた。
「あ、るーくん気付いた? 気付いた?」
「味噌が違う?」
「正解っ! 今日は赤味噌にしてみたよ、どうかな?」
ワクワクと空色の瞳を輝かせる伊吹に、「美味しいです」と返すと、彼女は目元を細めてだし巻き卵をぱくりと口に入れた。
蓮也は鮭の身をほぐし、ご飯の上に乗せて一緒に食べている。
平和な朝食の時間だ。架瑠は味わうようにゆっくりと伊吹の作った朝食を口に運ぶ。
鮭の焼き加減もバッチリだった。ほうれん草のお浸しはポン酢で味付けされていてさっぱりとしていた。
だし巻き卵はほんのりと甘く、大根おろしに醤油を少しかけて一緒に食べると相性がよくて美味しい。食後に飲み頃になった緑茶を一気に飲んで、ほぅ、吐息を吐く。
「ごちそうさまでした」
架瑠は両手を合わせてそう言うと、食器を重ねてシンクに持っていく。
「あ、るーくん、置いといていいからね!」
「え、でも……」
「もー、毎日言っているじゃない! るーくんはまだ高校生! 休日に手伝ってくれるだけで充分だよ!」
「うちの家事は伊吹に任せているからね。彼女の言うことはちゃんと聞かないと」
蓮也はくすくすと笑い、架瑠に声をかけた。彼は少し悩んだように黙り込み、すぐに「じゃあ、また今度、手伝います」と頭を下げてから歯磨きに向かう。
その背中を眺めながら、蓮也と伊吹は視線を交わして両肩を上げた。
「――やっぱり、まだまだ遠慮がちだねぇ」
「ねぇー。もっと甘えてくれてもいいのにぃ」
むぅ、と頬を膨らませる伊吹に、蓮也は小さく笑みを浮かべる。
歯磨きを終えた架瑠が通学鞄を背負って居間に顔を出し、二人に「いってきます」と頭を下げてから、家を出た。
「いってらっしゃい」
二人の声を、背に受けながら。
ドライヤーで髪を乾かしている最中、洗面台の鏡から視線をそらした。
どうしても、自分の容姿が好きになれない。
架瑠の髪色は漆黒。後ろはうなじが隠れるくらいの長さだ。だが、前髪は目が隠れるほど長い。
少し青みのあるような薄い紫色の瞳。――それが、架瑠のコンプレックスだった。
両親はどちらも日本人だったと聞いている。なのになぜ、こんな紫色の瞳の子どもが生まれたのか、と何度も耳に入れてしまったため、瞳を隠すように前髪を伸ばしている。
髪をしっかりと乾かしてから、制服に着替えた。
食卓までいくと、伊吹――腰まである長い真白の髪を一つにまとめ、空色の大きな猫目をらんらんと輝かせる女性――が、架瑠に元気よく声をかける。
「おっはよー、るーくん。今日は和食だよー」
テーブルに並んだのはほうれん草のお浸し、だし巻き卵、鮭の塩焼き、豆腐とわかめの味噌汁だった。伊吹は三角巾と割烹着を脱いで椅子に置き、じゃーんと両腕を広げる。きちんと三人分用意されていた。
「伊吹は料理上手だねぇ」
いつの間にきていたのか、蓮也は並んでいる朝食を眺めてから椅子に座り、まだ座っていない架瑠に視線をやった。すとんと架瑠が座ると、伊吹も座り三人で「いただきます」と手を合わせてから箸を取る。
架瑠は汁椀を手に取って、一口飲む。そこであれ、と目を瞬かせた。
「あ、るーくん気付いた? 気付いた?」
「味噌が違う?」
「正解っ! 今日は赤味噌にしてみたよ、どうかな?」
ワクワクと空色の瞳を輝かせる伊吹に、「美味しいです」と返すと、彼女は目元を細めてだし巻き卵をぱくりと口に入れた。
蓮也は鮭の身をほぐし、ご飯の上に乗せて一緒に食べている。
平和な朝食の時間だ。架瑠は味わうようにゆっくりと伊吹の作った朝食を口に運ぶ。
鮭の焼き加減もバッチリだった。ほうれん草のお浸しはポン酢で味付けされていてさっぱりとしていた。
だし巻き卵はほんのりと甘く、大根おろしに醤油を少しかけて一緒に食べると相性がよくて美味しい。食後に飲み頃になった緑茶を一気に飲んで、ほぅ、吐息を吐く。
「ごちそうさまでした」
架瑠は両手を合わせてそう言うと、食器を重ねてシンクに持っていく。
「あ、るーくん、置いといていいからね!」
「え、でも……」
「もー、毎日言っているじゃない! るーくんはまだ高校生! 休日に手伝ってくれるだけで充分だよ!」
「うちの家事は伊吹に任せているからね。彼女の言うことはちゃんと聞かないと」
蓮也はくすくすと笑い、架瑠に声をかけた。彼は少し悩んだように黙り込み、すぐに「じゃあ、また今度、手伝います」と頭を下げてから歯磨きに向かう。
その背中を眺めながら、蓮也と伊吹は視線を交わして両肩を上げた。
「――やっぱり、まだまだ遠慮がちだねぇ」
「ねぇー。もっと甘えてくれてもいいのにぃ」
むぅ、と頬を膨らませる伊吹に、蓮也は小さく笑みを浮かべる。
歯磨きを終えた架瑠が通学鞄を背負って居間に顔を出し、二人に「いってきます」と頭を下げてから、家を出た。
「いってらっしゃい」
二人の声を、背に受けながら。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる