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34話
しおりを挟む「不思議だとは思わない? どの時代にもユニコーンの乙女はたった一人。……いやまぁ、そんなにうじゃうじゃ居ても怖いだろうけど」
……それは確かに。ユニコーンの乙女が人々にとって特別なのは、珍しいから……よね。リアンは天井を見上げるように顔を向けて、ゆっくりと息を吐いた。
「ボクが見た夢は、初代からイザベラまでの乙女たちが出てきてね、どのユニコーンも寄り添って生きていた」
「それでわたくしの夢を見たのね……」
リアンはわたくしに顔を向けると、そっと頬に触れてきた。
「……痩せちゃったね」
「……そう?」
「うん。ボクのことを心配してくれていたんだよね、ありがとう」
しゅんと肩を落とすリアンに、わたくしは緩やかに首を横に振った。リアンはちゃんと目覚めてくれたもの。そしてハッとした。
「……三ヶ月も意識がなかったのだけど……、身体の具合は大丈夫?」
「平気平気」
以前のリアンと顔つきも違うから……。リアンはそっとわたくしの手に自分の手を重ねて、それからその手を少し強く握った。リアンの視線が杖に注がれるのを見て、わたくしはリアンに杖を見せた。
「この杖はね、ユニコーンの角で出来ているみたい」
「え!?」
「とは言っても初代のじゃないよ。その前……初代の親が人間に殺された時の角」
「……殺された……?」
「うん。この国に伝えられているユニコーンの乙女の話……それが元になっているんだって。夢の中で初代が言っていた」
……人間に親を殺されたユニコーンが、人間から乙女を選んだ……? 憎くはなかったのかしら……どんな思いで、乙女に近付いたのだろう……?
「最初は形見を探しに言ったらしい。そこで、親の角を杖に変えて使っている人を見つけた。それが初代の乙女。神官だったみたい」
ユニコーンはその姿を見て、何を思ったのかしら。リアンはぽつぽつと見ていた夢のことを話してくれた。
親の形見と知り、乙女はユニコーンに泣きながら謝ったらしい。
『神に仕える身なのに、命を奪うなんて……!』
杖を贈呈したのはとある貴族で、この杖を贈呈することで自分の地位を高めようとしたみたい。そうすれば楽園に行けると信じて。司祭もまさかユニコーンを殺して得た杖だとは思わずに、受け取ってしまったらしい。ただ、そのユニコーンの子が神殿に現れたことで、その貴族がユニコーンの命を奪い取ったことが神殿内に知れ渡った。
「どんな理由であれ、命を奪うのは大罪って伝えられた時代だから、かなり責められたみたいでね、結局逃げるようにこの国から出ていっちゃった」
「今の時代だって命を奪うことは大罪では……?」
「んー、罪の重さが違うかなぁ……。自然死しか認められていなかった時代って言うか……流石のボクもその時代には居ないからなんとも言えないけど」
……自然死しか認められない時代って、かなり前よね……? そんなに前からユニコーンと乙女は存在していたんだ。そこにちょっと驚いてしまった。お父様が研究になるのもわかる気がする。ユニコーンと乙女のことを知るのは、歴史を知ることに似ているから。
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