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31話
しおりを挟む「祝福のやり方も恐らくイザベラに刻み込まれているのだろう。杖の効果かな? ……まぁ、それは置いといて、その力をアリコーン様に使ってごらん」
「リアンに……?」
「アリコーン様を目覚めさせられるのは、イザベラしか居ないだろうからね」
にこやかにそう言うお父様に、わたくしは小さくうなずいてこの場所からリアンの元へと向かった。
「――娘が綺麗になるのは親として嬉しいけれど、寂しくもあるなぁ……」
お父様のそんな言葉は、わたくしの耳には入ってこなかった。わたくしは神殿の中を走って、リアンの元に駆け付けた。走って来たわたくしに気付いたヒューバートたちが、「そんなに慌ててどうしたんですか?」と聞いて来たけれど、わたくしは曖昧に微笑んで部屋の中へと入った。
リアンは相変わらずすやすやと眠っている。わたくしはリアンの元にしゃがみ込み、そっと彼の頭を撫でた。
「――ねぇ、リアン。わたくし、あなたと話したいわ……」
三ヶ月間、何度もそう呼びかけた。それでも、リアンは目を覚ましてはくれなかった。わたくしの呼びかけが弱かったのか、リアンはずっと眠ったままだ。たまにリアンのお父様とお母様が見舞いに来てくれた。すりすりと頬を合わせて帰って行く。心配はしているのだろうけど、そこまで心配はしていないようにも見えた。ただただ、親が子を慈しんでいるような光景だった。
「……あなたに祝福を」
わたくしがそう呟くとキラキラとした何かがリアンの身体に降り注ぐ。……それでも、まだリアンは目覚めない。わたくしはそっと身を乗り出して、閉じている彼の瞼に唇を落とした。――光が、満ちる。あまりにも眩しくて、思わず目をぎゅっと強く閉じた。光が収まり、そうっと目を開けると、わたくしを見つめる優しい視線に気付いた。
――リアンの目が、開いていた。
「リアン……!」
涙腺が壊れたかのように涙が溢れて来た。リアンはパチパチと瞬きを繰り返す。そして、≪イザベラ……?≫とわたくしの名を呼んだ。
「リアン、リアン……!」
ぽろぽろと流れる涙を拭うこともせずにリアンに抱き着く。リアンは戸惑ったように身体を硬直させた。
≪ちょ、ちょっと離れて……っ≫
「やだっ……、リアン、三ヶ月も意識がなかったのよっ?」
≪え≫
どこか焦っているリアンの声に、わたくしは言葉を強めた。三ヶ月も意識がなかったとは思わなかったのか、リアンが驚いたような声を出す。ぎゅうぎゅうと抱きしめていると、リアンが困ったように翼を動かした。
≪ボク、そんなに眠っていたの?≫
「そうよ、初代ユニコーンの乙女たちと力を合わせて……」
……わたくしはそこで口を閉じた。……あれは、なんだったのだろう? なんて言えば良いのかがわからなくて……。
≪そっかぁ……。ごっそり力を持っていかれた感じがしたけど、それのせいかぁ……。ねえ、イザベラ、ちょっと離れて。人型にさせて≫
「人型に?」
≪だってこのままじゃイザベラを抱きしめられない≫
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