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30話
しおりを挟む――その日から、世界が変わったように神帝国とヴァプール王国の間に亀裂が入った。……大地の亀裂だ。リアンはアリコーンの姿のまま眠り込んでしまった。わたくしの部屋ですやすやと眠るリアン。きっと、力を使い切ってしまったのだろう。
あの日から三ヶ月が経過した今でも、リアンは眠っている。
あの日、雷に打たれなかった人だけが、神帝国にワープされた。ヴァプール王国に残されたのは心が悪意に満ちた人だけとなり、風の噂では日々何かを奪い合うように争っているそうだ。
「イザベラ様、そろそろお時間です」
「――はい」
そして、お父様は本当に後継者だったらしく、わたくしはお父様の一人娘として、帝王学を学ぶことになった。リアンの看病……と言っても良いのか、少し迷うところだけど、リアンの看病もわたくしがしている。これはユニコーンの乙女であるわたくしにしか出来ないことだから。
「では、本日の授業はここまで。お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
「……ところで、アリコーン様はお元気ですか?」
「……まだ、眠ったままです」
帝王学を教えてくださる先生がそう尋ねてきたので、わたくしは曖昧に微笑んだ。すると、先生は「……そうですか」と少し残念そうに微笑む。眠ってからもリアンは人気者だ。子どもたちからもいつになったらリアンと遊べるのかと何度も聞かれた。
リアンが目覚めたら、一緒に遊ぼうねと声を掛けると、嬉しそうにうなずいた。
先生と別れて、わたくしはお父様のところへ向かった。お父様はわたくしに気付くと、おいでおいでと手招いた。
「お父様、杖はもうよろしいのですか?」
「ああ。面白いことにイザベラしか持てないようだ」
三ヶ月間、お父様はこの杖の研究をしていた。不思議なことに、この杖を持てるのはわたくしだけのようで、お父様やランシリル様が触ろうとしても、掴めないようだった。初代ユニコーンの乙女が使っていたという研究資料もあったようだ。
「それじゃあ、その杖を使ってみようか」
「――え?」
「ユニコーンの乙女として、初仕事だよ、イザベラ」
そう言ったお父様の表情はとても穏やかで……。わたくしはこくりとうなずいた。杖は軽く、持っていても疲れない。わたくしはお父様に案内されて、神殿の一番高いところへと向かう。
「お父様、ここは?」
「神帝国が見渡せる絶景の場所。ここに来るの、結構好きだったんだよね。さて、イザベラ。君はここから祝福をお願いするよ」
「祝福……、やってみます」
杖を構えて、目を閉じる。神帝国の人たち、ユニコーンたち、豊かな自然、この地に生きるものたち、ヴァプール王国から来た人たちすべてに――祝福を!
わたくしの中から、何かが外へと向かって行く。恐る恐る目を開けると、キラキラとした何かが神帝国に振っていた。お父様に視線を向けると、お父様は「――うん、綺麗だね」とわたくしに向かい微笑んだ。
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