上 下
30 / 38

30話

しおりを挟む

 ――その日から、世界が変わったように神帝国とヴァプール王国の間に亀裂が入った。……大地の亀裂だ。リアンはアリコーンの姿のまま眠り込んでしまった。わたくしの部屋ですやすやと眠るリアン。きっと、力を使い切ってしまったのだろう。
 あの日から三ヶ月が経過した今でも、リアンは眠っている。
 あの日、雷に打たれなかった人だけが、神帝国にワープされた。ヴァプール王国に残されたのは心が悪意に満ちた人だけとなり、風の噂では日々何かを奪い合うように争っているそうだ。

「イザベラ様、そろそろお時間です」
「――はい」

 そして、お父様は本当に後継者だったらしく、わたくしはお父様の一人娘として、帝王学を学ぶことになった。リアンの看病……と言っても良いのか、少し迷うところだけど、リアンの看病もわたくしがしている。これはユニコーンの乙女であるわたくしにしか出来ないことだから。

「では、本日の授業はここまで。お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
「……ところで、アリコーン様はお元気ですか?」
「……まだ、眠ったままです」

 帝王学を教えてくださる先生がそう尋ねてきたので、わたくしは曖昧に微笑んだ。すると、先生は「……そうですか」と少し残念そうに微笑む。眠ってからもリアンは人気者だ。子どもたちからもいつになったらリアンと遊べるのかと何度も聞かれた。
 リアンが目覚めたら、一緒に遊ぼうねと声を掛けると、嬉しそうにうなずいた。
 先生と別れて、わたくしはお父様のところへ向かった。お父様はわたくしに気付くと、おいでおいでと手招いた。

「お父様、杖はもうよろしいのですか?」
「ああ。面白いことにイザベラしか持てないようだ」

 三ヶ月間、お父様はこの杖の研究をしていた。不思議なことに、この杖を持てるのはわたくしだけのようで、お父様やランシリル様が触ろうとしても、掴めないようだった。初代ユニコーンの乙女が使っていたという研究資料もあったようだ。

「それじゃあ、その杖を使ってみようか」
「――え?」
「ユニコーンの乙女として、初仕事だよ、イザベラ」

 そう言ったお父様の表情はとても穏やかで……。わたくしはこくりとうなずいた。杖は軽く、持っていても疲れない。わたくしはお父様に案内されて、神殿の一番高いところへと向かう。

「お父様、ここは?」
「神帝国が見渡せる絶景の場所。ここに来るの、結構好きだったんだよね。さて、イザベラ。君はここから祝福をお願いするよ」
「祝福……、やってみます」

 杖を構えて、目を閉じる。神帝国の人たち、ユニコーンたち、豊かな自然、この地に生きるものたち、ヴァプール王国から来た人たちすべてに――祝福を!
 わたくしの中から、何かが外へと向かって行く。恐る恐る目を開けると、キラキラとした何かが神帝国に振っていた。お父様に視線を向けると、お父様は「――うん、綺麗だね」とわたくしに向かい微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?

鶯埜 餡
恋愛
 バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。  今ですか?  めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?

完結 白皙の神聖巫女は私でしたので、さようなら。今更婚約したいとか知りません。

音爽(ネソウ)
恋愛
もっとも色白で魔力あるものが神聖の巫女であると言われている国があった。 アデリナはそんな理由から巫女候補に祀り上げらて王太子の婚約者として選ばれた。だが、より色白で魔力が高いと噂の女性が現れたことで「彼女こそが巫女に違いない」と王子は婚約をした。ところが神聖巫女を選ぶ儀式祈祷がされた時、白色に光輝いたのはアデリナであった……

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。 この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。 そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。 ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。 なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。 ※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。

氷狼陛下のお茶会と溺愛は比例しない!フェンリル様と会話できるようになったらオプションがついてました!

屋月 トム伽
恋愛
ディティーリア国の末王女のフィリ―ネは、社交なども出させてもらえず、王宮の離れで軟禁同様にひっそりと育っていた。そして、18歳になると大国フェンヴィルム国の陛下に嫁ぐことになった。 どこにいても変わらない。それどころかやっと外に出られるのだと思い、フェンヴィルム国の陛下フェリクスのもとへと行くと、彼はフィリ―ネを「よく来てくれた」と迎え入れてくれた。 そんなフィリ―ネに、フェリクスは毎日一緒にお茶をして欲しいと頼んでくる。 そんなある日フェリクスの幻獣フェンリルに出会う。話相手のいないフィリ―ネはフェンリルと話がしたくて「心を通わせたい」とフェンリルに願う。 望んだとおりフェンリルと言葉が通じるようになったが、フェンリルの幻獣士フェリクスにまで異変が起きてしまい……お互いの心の声が聞こえるようになってしまった。 心の声が聞こえるのは、フェンリル様だけで十分なのですが! ※あらすじは時々書き直します!

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...